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星を継ぐもの:Episode7-2
Episode7-2:総攻撃の開始
灰色の雲が低く垂れこめる王都の空を、朝日がほんのわずかに染めていた。だが、そのわずかな光も濃霧にかすまされ、城壁の輪郭がぼんやりとしか見えない。すでに多くの人々が準備に駆け回り、熱と興奮が入り混じった空気が街中を包み込んでいる。それはただならぬ“総攻撃”の始まりを予感させる熱気だった。
円卓騎士団が再び一つになり、ギネヴィアウイルスの混乱を乗り越えようとしてからわずかな日数しか経っていない。しかし、敵の動きはそれを待ってくれるほど甘くなかった――先日、巨大戦艦を撃ち落としたが、あれはまだ始まりにすぎなかったのだ。いよいよ、The Orderが本格的な総攻撃を仕掛けてくるらしいという情報が王都を震撼させている。
夜明け直後、王都の飛行甲板には、これまでにない数の兵や騎士たちが集結していた。騎士団の主力はもちろん、先日まで離脱していた者や、新たに病を克服して復帰した兵士らも加わり、大勢が整列を試みている。しかし、整備士や補給係、神官、そして騎士たちが入り乱れていて、場は忙殺の度合いが増すばかりだ。
「そこの部隊はもう少し左へ寄れ! 補助戦闘機に弾薬を積んだら直ちに待機地点へ移動だ!」 怒号が飛び交い、整列の混乱がなお続いている。だが、この光景は、かつて分裂しかけた騎士団が再結成へ向かう兆しをさらに実感できるものでもあった。バラバラだった隊や、恐怖に駆られて閉じこもっていた者が、同じ甲板に並んでいる。誤射のリスクを干渉治療で下げられるという安心感が、皆をもう一度まとめ上げつつあったのだ。
アーサーとエリザベスが指揮を執るため、甲板の端に立って全体の動きを把握している。二人の横にはカインやガウェイン、モードレッド、トリスタンなど、主要な騎士たちが控え、さらに神官を代表してセリナとリリィ、技術顧問のマーリン、神官長マグナスも集まっていた。
「皆、よくここまで結束してくれたわ。いよいよ総攻撃が始まるけれど、決して恐れないで。私たちは干渉治療で誤射や暴走を防ぐし、きっと敵の攻撃にも対抗できるはずよ」 エリザベスが穏やかに、しかし気迫をこめて声を張り、周囲を見回す。頷く者が増え、静かな士気が高まっているのが感じられた。
「The Orderの艦隊が大挙して押し寄せるとの報告が入っている。先日の巨大戦艦とは比較にならない数で、どうやら空からだけでなく地上でも大規模な形態が多数確認されている。まさに“総攻撃”と呼ぶにふさわしい規模だ」 アーサーが厳粛に言葉を継ぐ。かつてギネヴィアウイルスに蝕まれていた頃の騎士団ならば、もう内部崩壊を起こしていたかもしれない。だが今は違う。干渉治療が多くの兵を救い、仲間を信じるための足がかりを取り戻している。
カインは胸の奥で意気を燃やしながら、かつての崩壊を思い返す。仲間を撃ち合い、離脱し合っていたあの姿とはもはや違う。今は皆が、「誤射はしない」「互いを守る」と誓い合い、再結成の形を固めつつある。その力を最大限に発揮するのが、この総攻撃との激突の場なのだ。
戦いに備える騎士たちの隙間を縫って、神官のリリィとセリナが駆け回っていた。彼女たちは干渉治療のプロトコルを皆に簡単に説明しながら、「もし高熱や幻覚を感じたり、仲間の動きが危険に見えたら、すぐに報告して! 私たちが干渉を当てるから!」と繰り返す。
「分かった、神官さんを信じるよ!」 「これがあるなら、俺は仲間を撃たずに済む……ありがとう」 そんな声があちこちで聞こえ、その度にリリィは笑顔で返す。まだ不安を完全に拭えない人もいるが、少なくとも「発作を起こせば干渉治療で抑えられる」という安心感が、皆を前へと進ませていた。
セリナは整備士たちにも声をかけている。「戦闘中に発作が起きたら、直ちに無線で報告して。私が観測術で特定して干渉治療を指示するわ。あとは誤射や暴走を最小限にできるよう、周りが固めてね」 整備士らも「もちろん、分かってる」と力強く答えながら、弾薬を積み込む手を止めない。かつて余所余所しかった者たちが、今は熱意を取り戻している。
だが、それでも不安は残る。相手は未知数の大艦隊だ。干渉治療に負担が大きいように、戦闘が長引けばリリィやセリナが先に魔力切れを起こすかもしれない。そうなれば再び誤射の恐れが出るが、今この場では誰も弱音を吐かない。皆が最後まで粘り切ると信じている。
そして、最初の衝撃が夜明けから間もなく訪れる。北方の空に巨大な黒い列が現れ、それがいくつもの白銀装甲艦を備えた艦隊であることが観測された。さらに地上にも同時展開で多脚型や獣型のOrderが見え、まさに上下から挟み撃ちを狙う形だ。
「……来るぞ。奴ら、本気みたいだな……」
モードレッドが低く唸りながら機体に乗り込み、ガウェインが隊へ声を飛ばす。「防御フィールドを広範囲に張れるよう調整しろ! 干渉治療で誤射を防ぎながら短期決戦を狙う!」
トリスタンは狙撃支度を急ぎ、カインは銀の小手に位相干渉弾の装填を指示している。今や数多くの兵が動揺を抱えながらも、逃げずに陣形を作ろうとしていた。
上空から見れば、まさに“総攻撃”に相応しい規模だ。The Orderは艦隊を横一列に展開させ、一斉に弾幕を敷く準備をしているらしい。空気がじりじりと焼けるような重圧を孕み、地平の向こうには数え切れぬほどの白銀装甲と歪みの渦が立ち上がる。
「落ち着くんだ……俺たちは干渉治療を手に入れた。誤射も病も恐れることはない。隊形を維持して、奴らの正面に出る!」
カインが叫び、騎士たちは力強く「了解!」と返事をする。ここから先は疑心暗鬼ではなく、仲間への信頼だけが武器になる。
一斉攻撃の合図とともに、王都の部隊が空へ飛び立つ。先頭はガウェインやモードレッド、カイン、トリスタンなどが率いる主力戦闘機群、後方には輸送機に乗る神官チームが続く。地上でも一部の歩兵が防衛体制を敷き、観測と支援に回る形だ。
北方の空へ近づけば近づくほど、巨大な艦影がいくつも浮かび、漆黒と白銀のコントラストが視界を埋める。まるで空を覆う大陸が押し寄せるように見える光景だ。
「うわ……これは予想以上だ。あれ全部、敵の艦……?」
若い兵が青ざめる声が通信に乗るが、モードレッドが「ビビるな! かかってこいって言ってやるんだよ!」と荒々しい調子で返す。
トリスタンは静かに狙撃の準備を整えつつ、「艦の下部に歪みの粒子が集中している。たぶん防御力が高いから、一撃必殺を狙うのは難しい」と分析する。マーリンの声が続いて入り、「だからこそ連携が必要なんだ。神官が観測光を遮断し、干渉治療で誤射を防ぎながら、皆が火力を重ねて攻めるんだよ」と淡々と言い切る。
カインは銀の小手を滑走させ、視界に飛び込んできた一隻の戦艦へ位相干渉弾を撃ち込むタイミングを計る。しかし、複数の砲塔がこちらを狙い撃ちにしてきた。ビームの雨が空気を灼き、衝撃波が周囲を弾き飛ばす。
「くそっ……防御フィールドに限界があるぞ! ガウェイン、頼む!」
「やってる! お前は早く撃ち抜け!」
ガウェインの防御フィールドが青い光を広げ、何発かのビームを受け止めるが、全部を抑えきるのは難しい。補助機が回避行動を取る中、ある兵が目の前の光景に恐怖を感じて引き金を引きそうになるが、直後に「観測術展開!」というリリィの鋭い声が通信を震わせる。兵の誤射を察して干渉治療が即座にかけられ、誤射を起こす前に抑え込まれる。
「た、助かった……!」
兵が息をつき、隊形を崩さず再度突撃を仕掛ける。まさに干渉治療による誤射防止が本領を発揮し、仲間を撃つ悲劇を回避し続けているのだ。
カインはその隙を見極め、「いまなら……!」と位相干渉弾の照準を合わせ、艦の砲塔を集中的に狙う。一発、二発と命中して火炎が吹き上がり、艦の側面を大きく抉るが、それでも次々と他の艦が弾幕を張って支援し合う。
「ぐっ……多い……数が多すぎる!」
モードレッドが火力で応戦しながら舌打ちを鳴らす。歪みを伴う艦が相互に修復を施しているように見え、潰したと思った砲塔がまた復活するケースさえあった。
さらに敵は地上にもユニットをばら撒き始めたという報告が入り、王都の防衛ラインがきしむ。上空での戦いに参加していない歩兵や神官たちが地表で迎撃するが、大型の白銀装甲がいくつも出現しているようだ。
「やっぱり上下からの挟撃か……総攻撃ってのはこういうことかよ。落ち着いて動けっての!」
地上の隊長が怒号を飛ばし、歩兵が集結して応戦を図る。誤射が起きる恐れがあったが、ここでも神官たちが速やかに干渉治療を準備している。
「干渉準備完了! もし誰か発作や幻覚が出たらすぐ報告して!」
若い神官の声がこだまし、歩兵らは「了解!」と気合を入れる。このシステムが確立していることが、王都が一枚岩になるための鍵となっていた。お互いに撃ち合わない、仲間を信じる――それがギネヴィアウイルスの脅威を上回るための最終手段なのだ。
戦闘が激化し、カインやガウェイン、モードレッド、トリスタンは少数精鋭で艦の中枢を狙いに行く作戦に移行した。高高度で耐久戦をするより、コアを一撃で仕留める方が効率的だからだ。だが、それには艦の装甲の合間を縫って突入する必要がある。
「いけるか……? 誤射のリスクはもちろん、狭い通路で火力を振るえば味方を巻き込む危険もある」
トリスタンが躊躇を口にする。モードレッドは「だから、干渉治療があるんだろ! 誤射しそうになったら助けてもらうんだ!」と意地を見せる。ガウェインはうなずいて「まあ、今の俺たちならそれが可能だ。疑うより信じた方が早い」と応じる。
カインも覚悟を決め、銀の小手を急降下させる。艦の側面に近づけば、歪みが渦を巻いて装甲が揺らぐのが見える。そこにガウェインが防御フィールドを展開し、モードレッドが爆裂弾を叩き込んで穴をこじ開ける。
「行くぞ……侵入だ!」
裂け目から風切り音を上げながら機体を差し込み、輸送機が後方から続く。リリィたちは火の粉が飛び交う間に、観測術と治療の準備を万全にして、万一誤射が出ても数秒で干渉をかけられる体勢を取っている。部隊員たちも「神官がいるなら俺たちは撃たない!」と声を張り上げる。
艦内部は摩訶不思議な構造で、白銀の装甲と黒い筋が幾何学模様を成し、ところどころで歪みが空間を歪ませている。通常兵器では通用しない部分も多いが、位相干渉弾ならここでも有効だ。
「コアを探すぞ……。一気に叩けば艦全体が止まるはずだ」
カインが声を上げると、マーリンの通信が入り、「観測術のデータから艦中央部に強力な歪み反応がある。そこがコア部だ!」と案内を送る。トリスタンが「了解、先導する」と機体を滑らせ、部隊をリードしていく。
艦内部を奥へ進むたびに、歪みを伴う防衛ユニットが攻撃を仕掛けてくる。半液状の白銀装甲が壁から飛び出すように形成され、ビームや衝撃波を放つ。誤射のリスクが高まる場面だが、今や皆が神官のサポートを信じている。
「落ち着け、焦って撃てば仲間に当たる!」
ガウェインが警告するが、それでも新兵や発熱者が一瞬パニックに陥りかける。しかし、そのたびにリリィとセリナが干渉治療を施し、誤射を起こす前に抑えることに成功している。
「大丈夫、あなたは撃たないし、撃たれない……一緒に敵を倒すのよ!」
リリィが必死に励まし、セリナが唇を噛みながら魔力を注ぎ込む。焦燥の光が兵の瞳から消えていき、代わりに仲間への信頼が戻ると、すぐにユニットへの攻撃に意識を切り替えられる。
位相干渉弾や爆裂弾が壁を蹴散らし、ガウェインが防御フィールドを張り、カインやモードレッドが突撃をかけ、トリスタンが後方支援を行う。このかみ合わせが完璧に噛み合い、艦内部が瓦解していくのが見えるほどだ。
艦の中枢部へ近づくにつれて、粘液状の白銀塊や巨大触手が襲いかかってくるが、皆が誤射を恐れずに集中攻撃できることで、従来の力を遥かに上回る連携を実現している。
「すげえ……。誤射の恐怖がないと、こうも違うのか」
モードレッドが砲撃を叩き込みながら声を張り、ガウェインが続ける。「ああ、仲間を背中で感じる安心感は何よりも力になる。これが俺たちの本当の強さだ!」
ついに艦中央の大空間へ踏み込むと、そこには黒く歪む塊が回転しているのが見えた。まるで巨大な心臓のように、ズン、ズン、と脈動を放っている。それがコア部であり、艦の制御を握る存在なのだろう。
ここへ到達するには激しい迎撃が予想されたが、予想に違わず触手めいた白銀装甲が幾重にも重なって攻撃を繰り返す。しかし、隊員は誤射を気にする必要が大幅に下がっている。干渉治療による暴走抑止があることで、全員が自由に武器を扱えるのだ。
「……ここが心臓だな。叩くぞ!」
カインが銀の小手で上空に躍り、コアに向かって位相干渉弾を装填する。しかし、触手が邪魔をして構えを妨害しようとする。するとガウェインが防御フィールドを展開し、モードレッドが火力で触手の付け根をねじ伏せ、トリスタンが援護射撃でそれをかき乱す。
「今だ、撃てカイン!」
複数の隊員が一斉に援護し、カインは迷わず引き金を引く。干渉弾が青い閃光を描いて飛び込み、コア部に衝撃波を叩き込む。白銀の膜がいくつも裂け、黒い液体のようなものが噴き出す。
「もう一発……!」
カインは連射モードを起動し、二連の追撃を行う。爆音が轟き、歪みがギシギシときしむように振動して空間を歪める。たまらず艦内部が揺れ、天井から落下物が降ってくるが、仲間たちが声を掛け合いながら回避行動と防御を連携させる。
「うおおおっ……!」
モードレッドの咆哮に重なるように、ガウェインが「もう少し……!」と叫ぶと、トリスタンがコアへ最後の狙撃を撃ち込んでとどめを刺す。黒い核が断末魔のようにひしゃげ、装甲壁が崩壊を始めた。
振動が収まらないまま、コアが崩壊した艦は急速に歪みを失い、内部の構造が自己崩壊を始める。隊員は「急いで撤退だ!」と声を掛け合い、一斉に入口方面へ引き返す。途中、まだ動く触手や防衛ユニットが最後の抵抗を試みるが、集団が誤射を恐れず連携して攻めるため、瞬く間に撃破されていく。
外へ出ると、艦の上部が黒く引き裂かれて柱のような部位が折れ、爆音とともに巨大な装甲が崩れ落ちる姿が見えた。艦底部では他の小型艦やユニットが逃げようとするが、地上の歩兵が集中砲火で迎え撃っているらしい。地上と空での挟撃で、The Orderの艦隊が次々と沈みゆく光景だ。
「すげえ……! 総攻撃に乗じて、こっちも一斉に敵を叩き潰すかのようだな」
モードレッドが驚嘆の口調で言う。ガウェインは「皆が一つにまとまっている証拠だ。もうギネヴィアウイルスのせいでバラバラにはならん!」と喜ぶ。
隊員らも互いを見やり、安堵の笑みを浮かべる。かつては誤射の恐怖で仲間に銃を向けそうになった者も、今は干渉治療と連携のおかげで大規模な艦隊を撃破する力になれているのだ。
「俺たち……本当に再結成したんだな……」
若い兵が震える声で呟き、それに「そうだよ、分裂はもう過去の話だ」と隣の兵が肩を叩く。セリナとリリィがホッと息を吐き、「無事で何よりです……」と応じる姿は、まさに再生を象徴するかのようだ。
艦内での中枢破壊が成功し、外部でも歩兵や神官が連携して地上ユニットを掃討した結果、まさにThe Orderの総攻撃が一手に崩れ去る形となった。遠くから見れば、白銀と黒い灰が混ざった残骸が、空と地に散らばる惨状だが、肝心のコア部が破壊されたことで修復を続ける個体も急激に活動を停止している。
「……これで、王都への最大の脅威は退けられたか」
カインが銀の小手を旋回させながら上空を見渡す。確かにまだ幾つかの艦片が残っているが、もはや大勢に影響はない。部隊は効率よく残党を掃討し始め、干渉治療も準備万端だ。
「皆、最後まで誤射ゼロでやり切ったんだな……!」
ガウェインが感激の声を上げ、モードレッドが「バカやろう、当たり前だろ。誰が仲間なんか撃つかよ」と小声で照れ混じりに言い放つ。トリスタンは静かに微笑み、「見事な連携だった」と頷く。
地上でも同じように大きな歓声が上がり、隊員同士が「仲間を信じてよかった!」と抱き合ったり、干渉治療を支えた神官にお礼を述べる姿が見受けられる。誤射への恐怖で消え入りそうだった円卓騎士団が、ここにきて最大の総攻撃を乗り越えるとは、まさに奇跡に近い。
リリィが涙をこぼしながら「よかった……大惨事にならなくて」とセリナに笑いかける。セリナも「ええ、私たちだけでなく、みんなが頑張ってくれたから」と微笑み返す。彼女たちが奮闘した干渉治療が、苦しみや恐怖の連鎖を抑え込んだことは疑いようがない。
部隊が次々に王都へ帰還すると、甲板や城下町の広場には多くの人々が集まっていた。中には病から回復した者、かつて離脱していた者、そして今まで大きな不安を抱えていた市民たちまで、あふれんばかりに詰めかけ、拍手や歓呼の声で出迎える。
「誤射がなかったって本当か?」「干渉治療がうまくいったらしいぞ!」「ギネヴィアウイルスに負けないんだ!」と口々に喜び合う光景が広がり、隊員らは降り立つたびに「ただいま」「皆、無事だよ」と笑顔を返す。そこにはつい先日までの暗い雰囲気は感じられない。
カインは銀の小手から降り、モードレッドやガウェイン、トリスタンと健闘を称え合う。「いい連携だったな……誤射や病を恐れてた頃が嘘みたいだ」とモードレッドが呟き、ガウェインは「本来の俺たちに戻っただけさ」と力強く答える。トリスタンは静かに微笑み、「神官がいてこそ、だがな」と言葉を添える。
神官のリリィとセリナも輸送機から降り、周囲の兵たちに囲まれている。「ありがとう、あなたたちがいたから、俺は撃たずに済んだ」「干渉治療を信じてよかった!」と涙ながらに伝える者も多く、リリィは自身も泣きそうな顔で「いえ、皆さんのおかげです……」と返す。セリナも柔らかい表情で「これからも、一緒に戦いましょう」と声をかける。
やがてアーサーとエリザベスが姿を現し、広間へ隊を招き入れる。薄暗い照明のもと、アーサーは金属音を響かせながら立ち上がり、皆に向けて声を張る。
「皆、総攻撃を見事に退けてくれてありがとう。あの巨大戦艦だけでなく、多数の敵艦を葬ったのは、干渉治療によって誤射を防ぎ、仲間を信じあえたからこそだ。誇りに思うぞ」
一斉に湧き上がる拍手と声援。かつては誤射と病で崩壊寸前だった空気が、一夜でここまで変わるとは誰も想像しなかったことだろう。
エリザベスも微笑を浮かべて「この国はもう一度、皆の結束を取り戻したわ。ギネヴィアウイルスを完全に克服するまで油断はできないけれど、今なら絶対に乗り越えられるはずよ」と語りかける。
輪の外でセリナがリリィに顔を向け、「本当に、よかった……こんな大規模戦闘で誤射ゼロなんて。私、まだ信じられない」と囁く。リリィは目を潤ませ、「うん……皆がそれぞれ怖かったろうけど、干渉治療と信頼関係で頑張ってくれたんだね。再結成って、こういうものなんだろうね……」と感慨に浸る。
マーリンとマグナス神官長も隣で「今後さらにこのシステムを普及すれば、病と誤射は抑え込める。大変だけど、間違いなく道は開けた」とうなずき合う。
アーサーが宣言する。「まだ敵は滅んだわけではない。だが、我々がこんなに大規模な攻撃を撃退できたのは、円卓騎士団が再び一つになった証拠にほかならない。これこそ、我々が誇るべき“総攻撃への勝利”だ!」
その夜、カインは医療区画の奥へ足を運んだ。戦いが終わり、新たな負傷者が出ていないか確認するためだが、幸い大きな被害者は出ていないらしい。ギネヴィアウイルスによる重度の発作があった者も干渉治療で抑えられ、今は落ち着いて眠っている。
「みんな、誰も撃たなかった……本当によかった……」
カインは安堵の息をつき、先日までの惨状が嘘のようだと胸をなで下ろす。すぐ隣には相変わらずアリスが眠る病室があった。そっと足を向けてドアを開く。
相転移干渉で倒れたままのアリスは、動かぬ瞼と静かな呼吸でベッドに横たわる。心拍を示すモニターは安定しているが、意識回復の兆しはまだ薄い。
カインはベッド脇に立ち、「アリス、総攻撃に勝ったよ。皆が分裂を乗り越えて、もう誤射もないんだ。まだまだ病は残ってるけど、一歩ずつ乗り越えてる。君が目覚めたとき、騎士団はきっと、以前より強くなってる……」と囁く。
すると、気のせいかもしれないが、アリスの長いまつげが微かに震えたように見えた。言葉が届いたのか、あるいはカインの錯覚か――それは誰にも分からない。だが、小さな兆しにカインは希望を感じ取り、「待っててくれ。俺たちがもっと王都を強くするから」と微笑む。
王都が再び夜を迎えるころ、空には星がぽつりぽつりと見えていた。ここ数日の曇天が一時的に晴れ、雲の裂け目から冷たい月光が街角を照らしている。
モードレッドは城下で剣を磨きながら、「まったく、総攻撃ってのは派手だったが、仲間を撃たずに済むなんて最高だ」と唸り、ガウェインは「まあ、俺たちはもう誤射の恐怖から解放されたわけじゃないが、神官がいる限り絶望することはない」と慎重な姿勢を示す。二人のやりとりはどこか穏やかで、かつての血走った空気は感じられない。
トリスタンが静かに窓外を見つめ、「分裂の危機を越え、最大の艦隊をしのいだ。今度は敵も簡単には出て来れまい。俺たちが立ち直った姿を見せつけたんだ……」とつぶやくと、モードレッドは満足げに微笑む。「確かにな。奴らが総攻撃を仕掛けて失敗したんだ。これで少しは王都の方が有利になるってもんだろ」
カインはそんなやり取りを傍らで聞きながら、改めて感じる。総攻撃を退けた事実が、かつての円卓の絆をよみがえらせる原動力になっている。もちろん、ギネヴィアウイルスは依然として潜んでおり、次の発作がいつ起きるかは未知数だ。けれど、干渉治療と互いを信じる心があれば、誤射の悲劇を繰り返さずに済むと、皆が確信を強めているのだ。
その晩、エリザベスの呼びかけで小さなセレモニーが行われた。王城の広いバルコニーにて、騎士団の代表と神官たちが集まり、沈黙の中で空を見上げる。総攻撃を退けたという誇りを胸に、これからも誤射や病を防いで一丸となる決意を新たにするための、言わば“再結成の儀式”のようなものだ。
アーサーが剣を掲げ、薄暗い月明かりにそれが照らし出される。
「我々はもう一度、手を取り合い、王都を守る。そのために剣を抜き、魔力を振るい、観測術を操る。誤射や暴走は干渉治療で封じ、仲間を裏切らない。ギネヴィアウイルスを克服し、The Orderの脅威を断ち切ろう」
皆が剣や杖をかざし、「誓います!」と声を合わせる。その響きは夜の王都を貫き、街で耳を澄ます人々にも届いた。病を克服して戻った者たちが泣き笑いの表情で互いの手を握り、「俺たち、もう大丈夫だな」「ああ、誤射なんてしないさ」と誓い合う。
そして夜が明けるころ、王都にかすかな朝日の筋が落ちてくる。巨大戦艦との激戦で傷ついた街も、誤射や離脱で散々だった騎士団も、今や一つの光に照らされているようだ。神官と騎士が肩を並べて見上げる空は、まだ灰色に包まれているが、その先に確かな青が感じられる。
「さあ、ここからが本当の戦いだ。奴らが再び大規模攻勢を仕掛けてくるかもしれないし、病が完全に消えたわけでもない。でも、俺たちは……もう負けないよね」
リリィが笑顔でセリナを見つめ、セリナは「ええ、私たちが何度でも干渉治療で支える。誤射ゼロを実現して、戦い抜きましょう」と力強く返す。
近くで聞いていたカインやモードレッド、ガウェインたちも笑みを浮かべ、「ああ、皆がいれば、どんな総攻撃だって怖くない」と相槌を打つ。その結束こそが、まさに再結成を果たした円卓騎士団の象徴なのだ。
こうして、The Orderの総攻撃は王都の大規模な防衛と奇跡の連携によって阻止された。干渉治療という新たな力が、ギネヴィアウイルスによる誤射や暴走を抑え込み、かつて離脱していた者までも再び同じ旗のもとに集わせた。この現実が示すのは、もはや分裂の危機を大きく乗り越えつつあるという事実である。
もちろん、敵が完全に滅んだわけではない。どこかでまた進化し、新たな形態をもって攻めてくるかもしれない。病の根絶も容易ではなく、アリスが目覚めぬ今、干渉治療の負担はセリナやリリィ、マグナス、マーリンらに重くのしかかるままだ。だが、それでも王都には笑顔が戻り始めた。再結成を果たした騎士団が、誤射ゼロで総攻撃を防げたという勝利の記憶は、皆の心を繋ぎ止める力をもたらしている。
夜が明け、灰色から白々と明るむ空の下、街角に集まる人々が互いを励まし合い、円卓騎士団を讃える声が聞こえてくる。「誤射なんて、もう誰もしないさ」「干渉治療のおかげで、病も怖くない」「俺たちも王都に残って一緒に頑張ろう」。かつて離脱を考えていた市民や兵も、今は戻ってきて笑顔を分かち合っていた。
深い疲れを抱えながらもカインは空を見上げ、「いつかアリスが目覚めたら、この光景を見て驚くだろうな。俺たち、ちゃんと勝ったよって」と胸の中でつぶやく。横でモードレッドがあくびをしつつ、「お前も少しは休めよ。そろそろ身体が持たなくなるぞ」と声をかけ、ガウェインは「……まあ、それだけ働いたってことさ」と苦笑する。トリスタンは無言で頷き、セリナとリリィが微笑みながら「今度は私たち神官も休みます。次の攻撃に備えてね」と言う。
こうして、王都は一度の大きな試練――The Orderの総攻撃――に打ち勝った。再結成された騎士団と神官たちの一致団結が、以前の分裂を乗り越え、さらに強固になろうとしている。このままギネヴィアウイルスの脅威も乗り越えられれば、王都に平穏が訪れるかもしれない。
遠く空では雲が捲れてわずかに青空が見え始め、陽の光が街へ射し込みつつある。誰もがその光を顔に浴び、次なる戦いへ心を整える。今はとりあえず、「誤射なしで総攻撃に勝った」という偉業を胸に深く刻み、改めて仲間との絆を感じながら、ひとときの安息を受け止めるのだった。