再観測:星を継ぐもの:Episode11-2
Episode11-2:最後の交戦
薄青い靄が宙を漂い、崩壊しかけた空間をかろうじて安定に導いたアリスの干渉によって、周囲には一応の落ち着きが戻りつつあった。つい先刻まで発生していた亀裂や波紋もかなり収まり、白い亀裂は紙一重で再封印されている。とはいえ、円卓騎士団のメンバーは満身創痍であり、いつ崩れ落ちてもおかしくない宙域を後にしたい気持ちで一杯だ。
だが、そんな願いとは裏腹に、この領域にはまだ「最後の戦い」が残っていた。まるで「死の前の一息」とも言える静寂のなか、全員がわずかな休息をとっていたが、突如として警戒音が甲高く鳴り響いた。
「警戒態勢! 宙に新たな反応あり! ドローンかもしれないけれど、数がやけに多いわ!」
神官隊のオペレーターが切羽詰まった声を上げる。大艦隊がすでに満身創痍なうえ、アリスの干渉力も大幅に落ちている状態で、これ以上の戦闘が起きれば命運が尽きるかもしれない。
アリスは医務室のベッドで半ば横になっていたが、その報せを聞いて直感的に「私が行かなきゃ……」と身体を起こそうとする。カインが慌てて腕を押さえ、「無理するな! さっきまで瀕死だったんだぞ!」と声を上げるが、アリスは首を振った。
「ううん、皆がもう限界だから、干渉力を私が少しでも……。カイン、お願い、手を貸して」
その瞳には、もう恐怖ではなく固い決意が光っている。カインは一瞬だけ躊躇したが、結局、苦渋の笑みとともに彼女の手を握り、「わかった、一緒に行こう」と答えた。
艦内ではアーサー、ガウェイン、トリスタンがなんとか出撃準備を整えていた。とはいえ、どの機体も大破寸前だ。フォール・ノート(Tristan機)は弾薬をほぼ使い果たし、ガウェインは盾を喪失し、エクスカリバー(Arthur機)は右腕がなくなったまま修理も不十分だ。
カインとアリスが乗る銀の小手も、機体の損傷は深刻だが、辛うじて飛行と干渉が可能な段階まで応急措置が済んでいる。医療班や技術班は、彼らの止むに止まれぬ出撃を言葉少なに見送る。もう誰一人止める余力もないのだ。
「また……戦うのか」
ガウェインが盾の代わりに装着した即席プレートを叩き、「仕方ねぇな……とことん付き合うしかねぇ」と息をつく。トリスタンは静かにレーダーを確認し、「敵影は急激に増してる。方角は……やはり先ほどの崩壊域の残響に集まってるようだ」と報告する。
アーサーは剣ビームを携え、「最後の交戦になるかもしれん。皆、覚悟はいいか。地上のためにも、ここで敗れれば、もう何も救えん」と厳粛な声で呼びかけた。誰もが顔を歪めながら頷く。
カインはコクピットでアリスを覗き込み、「平気か?」と問う。アリスは少し青ざめてはいるが、「うん、たぶん。まだ干渉力はわずかに残ってる。地上を危険に晒すくらいなら、私は最後まで戦う……」と微笑む。
「わかった。けど、無茶だけはするな。もしヤバいなら、すぐ引くんだ」
「うん……ありがとう、カイン」
円卓騎士団が宙へ飛び立ち、先ほどの戦闘域とは別方面へ移動すると、そこには無数のドローンが大集結しているのが見えた。だが、見覚えのある形状ではない。以前の弓ドローンや戦艦系とも違い、やや小型化したが整然と密集した大量の機体だ。
「こいつら……見たことないタイプだな」とガウェインが困惑する。トリスタンはスコープを覗き、「もしかすると、The Orderが最期の手段として隠していた残党かもしれない。みんな、気をつけろ。数だけは膨大だぞ」と背筋を伸ばす。
アーサーが剣ビームを起動しながら通信を開く。「皆、隊形を組んで迎撃する。撃ち漏らせば艦隊や地上に向かう危険もある。決着をつけよう。アリスの力に頼るのは最小限にして、我々が主力で押し返すしかない」
アリスは申し訳なさそうに目を伏せ、「ごめん……大きな干渉はもうできないかも。でも、狙撃支援とか一部なら……」と言う。カインが「分かった、そっちに注力してくれ。オレらでやれる範囲で殲滅するんだ」とハンドルを握りしめた。
ドローン群は既にこちらを認識したのか、整列を乱すことなく一糸乱れぬ隊形で襲撃を始める。一斉に放たれる観測光ビームの集中砲火が、ほとんど切り裂くように宙を白く染める。
「くっ……数が多すぎるだろ!」ガウェインが盾なしの機体をギリギリ動かしながら回避を試みる。破損した装甲が軋む音が通信に乗り、見ていて痛々しい。トリスタンは狙撃モードを切り替えながら、「とにかく少しずつ崩すしかない。今は動きの隙間を狙え!」と冷静に声を上げる。
カインの銀の小手がスラスターを全開にし、ミサイルとバルカンを乱射して突っ込む。何機かのドローンが爆発して崩れ散るが、弾薬も限界が近く、すぐに火力が落ち込む。
「やばい……もうミサイルがほとんどない!」カインが悪態をつきつつ機体を翻す。
アリスはわずかな干渉でビームの軌道を狂わせようとするが、さすがに広範囲には及ばない。いくつかの敵弾を軽減する程度しかできない。それでも仲間機が集中砲火を食らう瞬間を阻止するには十分だ。
「ありがとう、アリス! そのままサポート頼む!」ガウェインが熱い声を返し、盾なしで必死の砲撃を続ける。
対するドローン群は、まるで上位司令がいるかのような統率ぶりで、斉射・陣形変化を繰り返す。いったん崩されても即座に再結集する動きは、並のAIを遥かに超える。明らかにThe Order本体の技術が残っているか、あるいは別の意志が命令しているようだ。
アーサーのエクスカリバーは既に片腕がもげており、剣ビームを維持するのも困難な状態。だが、「最後の交戦」となれば王として退くわけにいかない。
「うおおっ!」と雄叫びとともに斬り込み、ドローンを何機も切り裂く。だが、その度に猛烈な被弾を浴び、機体がさらに損傷し火花を散らす。アーサーの悲鳴が通信に乗るが、彼は下がろうとしない。
「アーサー卿、下がってください! 機体が保たない!」アリスが悲痛な声で呼びかけても、アーサーは動じず、「すまない、アリス……まだ動けるうちは行くんだ。王都、妹……地上を救わずに死ねるか……!」と気迫で応える。
ガウェインが焦って回り込み、「俺が前に出る! お前は王だろ!? こんなとこで死んだら意味ねえ!」と割り込むが、彼も盾がなく満身創痍で、2機そろって弾幕をまともに浴びかねない危険を孕んでいる。
カインは必死に両者をカバーするようにミサイルを撃ちまくるが、もう弾薬もほぼ底をつきつつあり、一気に突破する火力が足りない。青い宙が眩しく閃き、何度も爆発が連鎖する。ドローンが巻き添えで破壊されても、その数はまだ絶望的に多い。
「どうする……あまり削れてないぞ!」トリスタンが苛立ちを隠せない声を出す。アリスは干渉で味方を護りながら、「私がもっと干渉を大きく……」と動こうとするが、カインが制止する。
「だめだ、そんなに出力を上げたら、さっきみたいに危険だ……」
「でも、このままじゃ皆が死んじゃう……! 私がやるしかない……!」
光弾が銀の小手をかすめ、火花が散る。カインの背筋に冷たい汗が流れる。味方3機も綱渡りの防戦だ。地上救済を目前にして、ここで沈むわけにはいかない。だが現状、火力も干渉も限界ぎりぎり——まるで詰みのように見える。
「くそ……!」カインが絶望的に息を吐いた瞬間、アリスが「……少しだけ……」と震える声を出す。「さっきほど大規模にはできないけど、私……もう一回、干渉を高める。これが限界……」
先ほど崩壊の波紋を抑えたばかりで、アリスの身体も精神もボロボロだ。それでも、最後の一歩を踏み出そうとする瞳からは揺るぎない意思が透けて見える。カインは強く唇を噛んでいたが、その決意を尊重するほかなかった。
「……分かった。俺らがサポートする」
ドローン群がさらに陣形を圧縮し、集中射撃で止めを刺そうとしてくる。そこへアリスの干渉力が再び青い稲妻となって放たれた。ぎりぎりまで抑えていたが、それでも波紋のように広がる力は巨大で、敵弾の軌道を大きく逸らす。
「今だ、攻め込め!」ガウェインが激情を爆発させ、前に出る。トリスタンは弾切れのため、レーザーを小刻みに撃ちながら隙を作り、アーサーが片腕の剣ビームを振りかざして複数のドローンを薙ぎ倒す。カインはミサイルの残弾をまとめて発射し、集中爆破でドローンの中央を切り裂いた。
敵の隊形が乱れ、火球と残骸が宙を舞う。アリスの干渉は微弱ながらも要所で相手の動きを止め、4機が一斉に突撃する。その瞬間の連携は、長き死闘を潜り抜けてきた円卓騎士団だからこその芸当だった。
「やった……崩れたぞ!」トリスタンが叫び、ガウェインが一気に突き崩していく。カインとアリスが残りのドローンを追撃して破壊し、アーサーの剣ビームが止めを刺すかのように隊列を両断。見る間にドローンの群れが灰色の破片へと散り散りになった。
信じられないことに、膨大なドローンの群れがわずかの時間で壊滅に近い状態へ追い込まれた。もちろん、その切り札となったのはアリスの干渉だが、ここまで大量の敵を制圧できたのは円卓騎士団の連携が完璧に噛み合ったからこそだ。
「はぁ……はぁ……。終わった、のか……?」ガウェインが息も絶え絶えに尋ねる。ドローンの破片が粉雪のように広がり、観測光の火花が宙を舞うが、新たな増援は見えない。
「これでもう……大丈夫だろう。The Orderの残党か何か知らないが、倒せたんだ……」トリスタンは腕から力を抜きながら苦笑する。
アーサーは半ば放心状態で機体を動かし、「本当に……これが最後の交戦なのかもしれないな」と呟く。
カインも銀の小手を揺らがせつつ、アリスの姿を探る。アリスは座席で気を失いかけている。干渉を限界まで引き出した反動は大きいが、そこに安堵の表情が見て取れた。
「アリス……大丈夫だ、もう敵は……いない」カインがそっと呼びかけると、アリスは微かに瞼を開き、「よかった……これで……」と声を細らせる。
「よし、もう出よう。地上がどうなってるか、一刻も早く帰らないと」とガウェインが息をつく。トリスタンもうなずき、「今回こそ、本当に最後だね。もう敵がいないなら……」
アーサーは機体のスキャンを重ね、「……どうやら空間の崩壊跡も安定してきている。ドローン軍も消滅……。今こそ、帰還のチャンスだ」と確認する。
カインは深い呼吸をしてアリスを気遣う。「アリス、もう戦いは終わった。戻ろう……地上のみんなに伝えよう。The Orderは消え、崩壊の波紋は止まった。きっと復興できるはずだ……」
アリスは半ば意識が飛んでいるが、かすかに口元を動かし、「ありがとう……うん、帰ろう……。地上……助かるよね……」と囁く。カインが「間に合うさ、絶対にな」と優しく答える。
ところが、円卓騎士団が帰還態勢を取ろうとした瞬間、通信モニターに不穏な警告が出る。シューッというノイズ混じりの音声が飛び込んできた。
「——警戒! 観測光急上昇……? 残骸群が再集束している……?」
オペレーターが混乱しつつ声を上げる。なんと、ドローンの破片や観測光がかすかに集まり始めたのだ。まるで最後の悪あがきか、空間を乱す負のエネルギーが再結集を試みているらしい。
「なっ……まさかまだ終わりじゃないってのかよ!」ガウェインが怒声を上げる。
アーサーは操縦桿を握りながら、エクスカリバーを起動させた。
「もうそんな力残っていないはず……だが、見ろ!」と白く点滅する塵のようなものを示す。
確かに、破片の一部が微かな光を発し、何かの形を取ろうとしている。アリスの干渉で散ったはずの残響が、寄せ集まって最後の一撃を狙うのかもしれない。トリスタンは息を詰め、「これを止めなきゃ、艦隊や地上に撃ち込まれるかも……!」
カインは絶句する。もはや弾薬はほぼ尽き、みんなも瀕死。アリスも完全に立ち上がれる状態ではない。どう戦えというのか?
「……私……行く……」不意に、アリスが目を開きかけ、途切れ途切れの声を出す。
「やめろアリス!」カインが制止する。「そんな、もうあの大干渉も使えないだろ! お前が壊れちまう……!」
しかしアリスは微笑み、コクピットにうつ伏せになったまま「この……最後の交戦……私が……止める。もう……誰も失いたくないから……」と呟く。
アーサーが痛む声で「だが……無理だ、君はもう限界だろう。覚醒をコントロールできないかもしれない……」と苦悩に駆られた言葉をぶつける。
アリスはそれでも首を振り、「大丈夫、ほんの……ちょっとだけ、最後の力を……みんな、私に合わせて、一斉攻撃をして……」と笑みを浮かべた。カインは瞳に迷いを宿しつつ、「……分かったよ、また信じる。お前が無茶しても、絶対に守ってやるから……」と腹を括る。
粉雪のような破片がひとかたまりになり、黒い雲に似た集合体へ変化していた。そこから殺気を宿した観測光がちらつき、今にも最終弾を撃ち込もうとしているのがわかる。円卓騎士団は立て直しの時間もなく、一斉にそこへ向かった。
「ガウェイン、トリスタン、まともな武器はあるのか?」アーサーが通信で尋ねる。トリスタンは「レーザーなら数発残ってる。ガウェインは砲が少し……」と答える。
「十分だ。アリスとカインを軸に、最後の一斉突撃で仕留める!」アーサーが命令し、機体の剣ビームをギリギリまで充填する。ガウェインはボロボロの砲を再起動させ、トリスタンはレーザーに狙いを定める。
銀の小手のコクピットでアリスが薄目を開き、「カイン……たぶん、干渉を合わせて撃てば、一瞬だけ……相手を崩せると思う。みんながそこを叩けば……」と声を震わせる。
「わかった、合図頼む……あとは任せろ!」カインが握りしめた操縦桿に全集中を注ぐ。アリスは限界の身体をこらえて、心に呼びかける。(お願い……もう一度だけ、力を貸して……壊さずに、守り抜きたい……)
闇の集合体が光弾を凝縮し、まさに撃ち出そうとした瞬間、アリスが干渉波をビリビリと走らせる。青い稲妻が銀の小手の外装を包み込み、カインはミサイルボタンを押し込む。「撃てえっ!」
ドドドッという激しい爆音が重なり、ガウェインとトリスタンが被せるように火力をぶち込む。アーサーの剣ビームが最後の閃光を走らせ、闇の集合体の核を大きく抉り取った。そこへアリスの干渉波がぶつかり、黒い雲を内部から粉砕する。
「ぐわあああっ……!」とでも聞こえそうな衝撃波が響き渡り、宙全体が青白く閃光に染まった。闇の集合体は一瞬で膨張し、黒い破片を散らして崩壊を始める。
「やった……ッ!」ガウェインが絶叫に近い声で歓喜し、トリスタンが「崩れた、今度こそ……!」と息を吐く。カインはアリスを抱きとめ、「アリス、もういい、もう撃たなくていい、敵は消えた……!」と安堵の言葉を投げる。
爆発の残響が静まり、闇の集合体はかき消えるように消滅した。小さな破片は宙をさまよい、やがて光の塵となって消える。観測光も散り散りに拡散していく。もはや戦うべき敵はそこにいない。
トリスタンがスコープを動かし、「……敵影、ゼロ。反応なし。もう終わったんだ……」と宣言する。アーサーは剣ビームを収めながら機体を揺らし、「これで……本当の最後だな」と呟く。
銀の小手のコクピットでは、アリスが完全に力を使い果たしたようにぐったりと倒れ込んでいる。カインは心配して口を開くが、彼女の呼吸は落ち着いている。静かな眠りに入っただけなのだろう。
「よくやった……ありがとう、アリス……。これで……世界も、地上も、本当に救われる……」
四機が合流して並ぶ。その姿はボロボロそのものだが、全員の胸中に安堵が広がっていた。ガウェインは盾なしの機体で小刻みに揺れながら、「はは……もう笑うしかねえな。最初から最後まで死線ばっかりで、体も壊れそうだ」と苦笑する。
トリスタンは機体の動力系が限界を迎え、機動ができない。「誰か押してくれ……俺は飛べそうにない」と弱音を吐く。アーサーは剣を携えながら、「整備班が迎えに来るだろう。そこまで持てばいい」と傷を見下ろす。
カインは操縦桿を緩め、「俺ら……本当に、やったんだな……」としみじみ言葉を漏らす。画面越しに外の宙を見れば、一面の青い空域が穏やかに広がっている。先ほどまでの崩壊の波紋は完全に消え去り、残骸のかけらがちらほら散るのみ。
「最後の交戦と呼ぶにふさわしかったな……」とアーサーが呟く。かつて要塞や巨大戦艦との死闘を経てもなお、この戦いが“最も過酷”だったと感じるほどだ。
「さて、あとは早く地上に戻るだけだ。王都がどうなったか……まだ連絡が取れないが、俺たちが動けるようになり次第、向かおう」アーサーが艦隊へ連絡を入れる。
艦隊側はもう後方で最低限の修理・補給を準備している。大規模輸送艦を用いて地上に帰還する手はずも整えつつある。ガウェインも「オレはもう寝たい。地上へ行って爆睡しちまう」とぼやき、トリスタンは「いや、まだ地上の危機対応が残ってるだろう。それが終わってから、だね」と苦い笑いを浮かべる。
カインは、うつむいたまま眠るアリスの頭をそっと撫で、「地上へ戻ったら……お前を病院でちゃんと休ませて、それから復興を見に行こう。きっと、アリスの力が必要とされる日が来る。だけど、今は少し休めばいいんだ……」と呟いた。
彼女はうっすらと目を開け、微笑んでから静かにまた眠りに落ちる。もう、覚醒で世界が崩壊するような危険な眠りではない。安心して身を任せられる睡眠だ。
ガウェインが通信で「アリスは寝ちまったか? そりゃ仕方ねえな。お疲れさんって伝えておいてくれ、起きたら」と言うと、カインは笑って「言わなくても伝わってるよ」と返す。トリスタンは「そうだね、彼女の決意と頑張りには頭が下がるばかりさ」と静かに付け加える。
アーサーはふと遠くの宙を見渡すようにして、「まさか、これほどの激闘を潜り抜けるとは思わなかった……だが最悪のシナリオは回避できた。あとは地上へ立ち戻って、王都を復活させる。――妹も生きているといいが」と苦しげに目を伏せる。
こうして、交戦の決着は着いた。
The Orderの残党とも言うべき新型ドローンの大軍を、円卓騎士団はボロボロの状態で再び迎え撃ち、アリスが微かな干渉で仲間たちを助け、連携攻撃で制圧した。
崩壊の波紋を封じた直後に、更なる激突が襲いかかるという壮絶な戦い。だが、彼らは最後の一撃を振り絞り、ついに空域の完全平定に成功する。アリスは力を使い果たしたが、世界を壊さずに“部分覚醒”を維持しており、今は穏やかな眠りに落ちている。
残骸だらけの宙は、やがて輸送艦や支援艇が到着して片付けが進められるだろう。円卓騎士団もまた、地上へ帰還するために順次艦へ回収されていく。
カインは銀の小手を操作しながら、深く吸い込むように空気ならぬ宙の雰囲気を味わう。「……これで、本当に最後だ。もう新しい敵はない。あとは人間同士の絆で世界を再生するだけ……」
アーサーが機体越しに通信で「地上へ降りれば、俺たちの役割は増える一方だ。アリスを支え、王都を建て直し、連合とも協力し……大変な道のりになる」と呟きながら、どこか開放感も滲ませる。
ガウェインは低く笑い、「平和な世界で、オレの盾を作り直す作業くらい大したことねえさ。トリスタン、オメーだって新しいライフルが欲しいだろ?」とからかうと、トリスタンは肩をすくめつつ笑う。「ああ、今度こそは“弾数無限”の装備が欲しいところだね」と冗談で返す。
医務室へと移されたアリスは、再び深い眠りに落ちていたが、その表情は苦しさを感じさせない。安堵の寝顔からは微かな微笑が伝わり、頬にうっすら色が宿っている。
カインが傍らでその顔を覗き込み、「結局、世界も壊さず、お前も死なずに済んだ……。ありがとう、本当に……」と低く囁く。声に出したところでアリスは眠っているが、きっと伝わっていると彼は信じている。
外の整備士が呼ぶ声が聞こえる。「カインさーん! 銀の小手を下ろしたいんで、移動頼みますー!」
「はーい!」カインは慌ただしく応じて、アリスの手を最後にそっと握り、「ちょっと行ってくるから、ゆっくり眠っててくれよ」と残してドアを出る。医療スタッフが微笑ましい目で見守っていた。
こうして、円卓騎士団は想像を超える修羅場を再度乗り越えた。
最後の交戦は、荒れ果てた体勢でなお挑まざるを得なかったが、アリスの“もう一度だけ”の干渉力により勝利を掴んだ。そして彼女は今、穏やかな眠りの中にいる。
The Orderの影響は本当に途絶え、崩壊の波紋も沈静化した。もう地上を脅かす大規模侵攻は存在しない。だが、地上は未だ混乱の渦中にあるだろう。王都がどうなったか、妹エリザベスが無事か、他都市が連携を保っているのか……課題は山積みだ。
しかしカインたちは、アリスが再び“目覚め”をコントロールする道を開いたことで、希望を見出している。人間が絆をもって協力すれば、いくらでも復興できるはずだと信じているのだ。
青く静まった宙には、もう敵の気配がない。破片がゆるやかに降り注ぎ、光の埃がキラキラ舞う。遠くで艦隊が一部回収作業を始め、円卓騎士団を地上へ送り届ける準備を進めている。その姿はまるで夜明け前の景色——長い戦いが明けて、次の一歩を踏み出そうとしているかのようだ。
アリスが眠る間、カインは窓の外を見て静かに決意する。“地上へ戻ったら、この戦いの痛みも乗り越えて、新しい未来を築こう。アリスがくれた奇跡を無駄にしないよう……”。
「これが本当に最後の戦いだったんだ。あとは……復興と、世界の再生だな」カインはそう呟き、アーサーやガウェイン、トリスタンも次々に整備係と話しながら、地上への帰還準備を始めていく。誰もが、「今度こそ、最期の交戦を終えたんだ」と胸をなで下ろしていた。
そっとアリスの眠るベッドに戻ってきたカインは、小声で語りかける。「なあ、アリス……ほんとに終わったよ。お前がいなきゃ、やっぱり無理だったさ。ありがとう。地上で、また目が覚めたら一緒に歩こう」
アリスは返事しないが、唇がうっすら笑みに歪む。「……ん、……うん……」という微かな寝言が聞こえ、カインは優しく微笑んだ。
崩壊と干渉を巡る壮絶な戦争は、いま完全に終わりを迎えた。
決戦を制した円卓騎士団
新たな空へ、地上へ向かう。
そしてアリスは“眠り”と“覚醒”の両方を受け入れつつ、世界を守り続ける女神にも似た存在として、次の未来を切り拓くだろう。
夜明け前の静寂に包まれた艦内には、彼女の寝息と、仲間たちの安堵の息が混ざり合い、長い長い戦いの終わりを示していた。あとは王都や連合を救い、復興を手助けするのみ。円卓騎士団の物語はまだ続くが、この“最後の交戦”は真の終局となり、彼らに未来を取り戻す力を与えたのだった。