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FFT_律する者たちの剣_EP:8-3

EP8-3:ゾディアーク召喚阻止

イヴァリースの夜が、刻一刻と明るみを帯び始める頃。
教会本部の大聖堂――そこは先ほどの激戦を経て、内部が破壊された儀式陣や瓦礫の山、倒れ込んだ修道士たちの姿で混沌を極めていた。天井や壁には裂け目が走り、ステンドグラスの破片が床に散乱している。微妙に差し込む朝の薄光が、その破片に奇妙な色彩を反射させ、どこか幻想的かつ破滅的な光景を作り出している。
ミルウーダ、ラムザ、そしてアグリアスの3人は、依然として警戒を解いていない。戦闘自体はひとまず落ち着いたとはいえ、いつ再びルカヴィや神殿騎士が襲ってくるか分からない。彼らは大聖堂の広間中央で荒い呼吸を整え、状況を確認しあう。


「何とか儀式を妨害できたわね……でも、完全に止めたわけじゃない。あのアジョラの影……あれは何だったんだろう……?」

「わからない。ゾディアークの力が不完全に呼び出されて、アジョラの影も一瞬だけ姿を見せた……。完全な復活は阻止したけど、まだ決着には程遠いってことか……」

アグリアスは聖騎士の剣を床について支えにし、落ち着いた声で告げる。

「深呼吸して、周囲を確認しましょう。どこかでゾディアークの力が残っているのを感じる……。このまま放置すれば、再び暴走するかもしれません。私たちで浄化できないのかしら?」

アグリアスの指摘通り、崩れた魔法陣のあちこちに、不気味に渦巻く闇の靄が漂っている。まるで、ルカヴィの残留エネルギーが形を保っているかのようだ。


床の中央には、血文字や呪符が貼り付いた円環が割れた状態で残っている。そこの裂け目から、漆黒の気体がシューッという音とともに湧き出し、周囲の倒れ込んだ修道士や神殿騎士の身体をかすめていく。彼らの中には意識不明の者も多く、下手をすればその闇に取り込まれかねない。
ラムザは近づこうとして躊躇う。「あれ……なんだろう。触れたら呑み込まれそうな感じがする……」
すると、ウィーグラフAIの通信が入り、イヤーピース越しに低い声が響く。

「気をつけろ。そいつはゾディアークの力の断片かもしれん。ルカヴィや聖石を介して、世界を侵食する負のエネルギーだ。もし放置すれば、新たな暴走を呼ぶかも……。」

ミルウーダは魔銃を握りしめ、「これは……もう一度封印するしかないね。でも、どうやって? チャフやスタングレネードで霧を消すわけにもいかないし……」と焦りを滲ませる。
アグリアスが剣を構えて一歩前へ。「私が一撃で断ち切れるかもしれないわ。けど……あれは純粋な負の魔力。下手をすれば剣を通じて私自身が呑まれる……。何か方法はないの?」


ここで、ラムザは自分の手にある**“アルテマ試作剣”**を思い出す。以前の制御訓練では、波形を破壊から守護に反転させることに成功しかけた。もしアルテマが“世界を律する力”として完成に近づいているなら、ゾディアークの負のエネルギーを浄化する道があるのではないか。
彼は顔を上げ、「もしかして……僕の剣であの力を封じ込めるかもしれない」と口にする。

「まだ完成ではないけど……これで、神に一矢報いる力は手に入る。それが本当なら、ゾディアークの残滓を抑え込めるかも。」

「でも、あなたの剣……さっきの戦闘でダメージを受けたし、魔力制御も万全じゃないでしょう? 危険じゃない?」

ラムザは歯を食いしばりながらもうなずく。「わかってる。それでも、このままじゃまたルカヴィが集まって儀式を再開するかもしれない。少しでもゾディアークの力を削ぐために……僕がやってみるよ。」


セラフィーナからの通信が入り、彼女が古代の遺跡から得たデータを根拠に、**“アルテマの剣でゾディアークの負エネルギーを浄化しつつ力を充填する”**という仮説を説明する。

「アルテマは、破壊と守護の波長を逆転させる仕組みを持っています。もし、ゾディアークの負エネルギーを取り込めば、剣に新たな力を充填できるかもしれません。ただし、危険な行為です。暴走する可能性も……」

ラムザの瞳が揺れる。危険を承知しながらも、彼はうなずく。

「僕がやらなきゃ……。今ならまだ、ゾディアークの力は完璧に顕現していない。少しでも削げば、アジョラの復活も遠のくはず……」

アグリアスが静かに彼の肩に手を置き、「私が傍にいるわ。何があってもあなたを守るから。」と力強く言う。

ミルウーダも「その場を私がカバーするわ。兄さんの遠隔支援もあるし、やれるわよ。」と微笑む。


3人は広間の中心部、破壊された魔法陣の前へと移動。黒い霧が渦を巻き、一部が小さな触手のようにうねっている。その濃密な闇を見て、アグリアスが後ろに構えて支援準備。
ラムザは剣を構え、深く息を吐く。先刻の戦闘で何度も軋んだアルテマ試作剣だが、今は青白い輝きを宿し、わずかに震えているようだ。まるで剣自体が意志を持つかのように、ゾディアークの闇を感じ取っているのかもしれない。

剣を地面へ突き立てるように下段に構え、目を閉じる。内側から湧き上がる魔力と、剣に宿るアルテマの波形を同期させようとしている。

青白い光が剣の周囲に生まれ、徐々に床に満ちた闇の波動を引き寄せる形で震動が走る。

まるで生き物のように、漆黒の触手がラムザを取り囲み、絡め取ろうとする。闇が肌を刺すように冷たく、ラムザは唇を噛んで耐える。「くっ……!」

アグリアスが咄嗟に剣で斬り払おうとするが、その闇は物理的に切り払うだけでは消えず、煙のように形を変えて再びラムザを襲う。

ラムザが「ここだ……!」と意を決し、アルテマの波形を逆転させる。

剣から青い光が螺旋状に放出され、闇を吸引するかのように周囲を巻き込む。

黒い霧がバチバチと火花を散らし、紅いノイズが一瞬走るが、ラムザは集中を切らさず“守る意志”を剣に乗せていく。

すると剣が一際明るい白光を放ち、まるで闇を飲み込むかのように吸収していく――**“ゾディアークの一部を浄化”**する瞬間だ。

ここで周囲に強烈な衝撃波が走り、床に亀裂が走る。ミルウーダが慌ててバランスを取る。アグリアスはラムザの背を庇うように盾を構え、崩れ落ちてくる天井の破片を剣で叩き落とす。

何度か闇が反発してラムザの身体を硬直させそうになるが、彼は歯を食いしばり、「くそっ……僕は……守りたいんだ……この世界を……皆を……!」と叫ぶ。波形がさらに青白い光を増し、一気に闇を押し返す。


闇が収束を始め、ラムザの剣に吸い込まれていく。剣の青い輝きがどんどん強くなり、剣身から溢れた閃光がラボ全体を照らし上げる。激しい風圧により周囲の残骸が吹き飛ばされ、ミルウーダは魔銃を抱えて身を伏せながらも、「頑張って……!」と心の中で叫ぶ。

数秒後、轟音とともに黒い霧がスッと消え、破壊された魔法陣の上に静寂が訪れる。床に落ちているのは微かな煤だけ。ラムザは膝をつき、荒い呼吸を整えながら剣を握る手が震えている。けれど、剣は砕けていない――むしろ以前よりも光沢を帯び、堅牢な気配を放っている。

「ラムザ、大丈夫!? すごい衝撃だったけど……」

「な、なんとか……。剣が……闇を取り込んで……一部を浄化したみたいだ……。でも、まだ完成ではない。だけど、これで……神に一矢報いる力は手に入る……!」

その言葉にアグリアスが微笑み、「ええ、そうね。あなたならできると思っていたわ」と優しく声をかける。ラボの空気がようやく落ち着き、ミルウーダもホッと安堵の息をつく。


剣が浄化に成功した一方で、周囲には依然として禍々しい気配が残っている。あのアジョラの影が一瞬見えたことや、ゾディアークの本体が未だ完全に消滅していない事実もある。

セラフィーナが通信で警告を発する。

「今の現場状況をスキャンしましたが、アジョラ降臨の可能性はまだ完全に残っています。儀式自体は不発でしたが、複数のルカヴィが既に別の拠点へ移動を始めているようです。おそらく、ヴォルマルフという教会上層が次なるステージを用意しているのでは……」

ミルウーダは思わず拳を握り、「やっぱり……まだ終わらないんだね。ゴルターナ公=キュクレインに加えて、ヴォルマルフが複数ルカヴィを動かしてるなら……ここだけ壊しても本命は別にあるかもしれない。」と悔しさを噛みしめる。

ラムザも剣を覗き込みながら、「僕のアルテマは、まだ完成とは言えない。さらに力を高めないとゾディアークを倒せないはず……。時間がないのに……どうすれば……」と焦燥感を滲ませる。


しかし、得たものも大きい。アルテマの剣は今までよりも安定感を増し、試作段階から一歩進んだと感じられるのだ。ラムザは朧げにではあるが、自分が本当に**“神を討つ”**力を身につつあることを実感し、口を結びながら光を放つ刃を見つめる。

「まだ完成ではないが……これで、神に一矢報いる力は手に入る。ルカヴィがどれほど集まろうと、ゾディアークが降臨しようと、僕は……僕たちは……この剣で戦えるかもしれない……」

その言葉には、恐怖と同時に強い決意が込められている。神をも倒す剣を人の手で作るなんて、考えもしなかったが、ここに至ってはそれがイヴァリースを救う唯一の道なのだ。

アグリアスも、その言葉に微笑みながら鎧を鳴らし、「あなたがそう言うなら、私も命を懸けるわ。次はきっと、ゾディアークを完全に封じられるわね。」と力を込める。

ミルウーダは少しだけ険しい顔で、「ええ。でも、その前にゴルターナ公のキュクレイン化も止めなきゃ……ヴォルマルフが複数の計画を同時進行しているなんて厄介すぎるわ。」と吐き捨てるように言う。


混乱が収まった広間には、まだ意識を失って倒れている修道士や兵士が散見される。3人は殺さずに制圧することを選んでいるため、多くは大怪我を負いながらも命までは奪われていない。

アグリアスやミルウーダはさっと動き、動けそうな者を一箇所へ集め、「手当てを受けたければ、教会の外へ逃げなさい。私たちはゾディアークの召喚を許せないから、これ以上の戦闘は避けられない……」と告げる。

神殿騎士の中には、自分が仕えていた教会の計画が“破滅”に繋がると知って動揺する者も現れ、複雑な空気が漂う。これも“情報を伝えて革命を進める”ミルウーダの理念が少しずつ効果を発揮している証かもしれない。

そうした作業を進めながら、ラムザはアルテマ剣の光を使って微量の闇エネルギーをさらに封じていく。まるで、小さな残留思念が魔銃で封印されるように、剣が吸収して浄化を施し、魔力を安定させていく。


休息の合間、ラムザがふと広間の片隅を見やると、そこにうっすらと揺らぐ闇の影が小さく残っているのを発見する。先ほどの残滓が全部吸収されなかったのか。

彼は慎重に近づくが、その影は突如フッと形をとり、**“アジョラ”という名をかすかに呟くかのような声を発する。まるで幻聴のように聞こえる断片的なフレーズ――「神の降臨……人の欲……偽りの救済……」**などと途切れ途切れに脳裏に響く。

ラムザが剣を向けようとした瞬間、その影はスッと消え去る。残された床にはただ冷たい空気だけ。

ミルウーダが「どうしたの? 今、誰かいたの?」と駆け寄るが、ラムザは苦い顔で首を振る。「わからない……でも、アジョラが何かを言おうとしていた……。もしかすると、教会上層で本格的な復活の準備が……」と落ち着かない様子。

アグリアスが剣を握り直し、「そうね。ここに留まっても仕方ないわ。外へ出るか、次の拠点を探すか……。ウィーグラフAIの情報が必要ね。」と冷静に言う。


こうして、ゾディアークの力の一部を浄化する形で教会本部の儀式は崩壊し、不完全な召喚に終わった。だが、この場所が本命ではなかった可能性が高い。どこか別の地下奈落などで、真の計画が進んでいるのかもしれない。
ともあれ、アルテマの剣は明確な力を得る段階に入り、ラムザ本人も「まだ完成ではないが……これで、神に一矢報いる力は手に入る。」と口にできるほどの確信を得た。

ミルウーダは床に散らばる瓦礫を踏みしめながら、もう一度魔銃を確認。「私たちが暴走を止められなければ、アジョラ復活が加速するかも。けど、アルテマがここまで来たなら、きっとゾディアークに対抗できる……!」と大きく息を整える。

アグリアスは心強く微笑み、「ええ、今の剣なら。ただ、油断は禁物。ゴルターナ公=キュクレインや教会上層がまとめて動く可能性もあるわ。」と声音を引き締める。

こうして、3人はさらなる決戦に向かって歩みを進める。 大聖堂から外へ出るために廊下を戻りつつ、外には既に新たな騒動の気配が漂っているかもしれない。ルカヴィと教会の連合がいつ再編成されるか、アジョラの影がいつ本体として現れるか――全てが不確定だが、一つの希望は確かに手に入った。


儀式失敗、ゾディアークの力の一部を浄化――それは大きな前進だが、物語の根源的な危機はまだ解決していない。

「アジョラ降臨の可能性は残る」――ウィーグラフAIとセラフィーナの解析でも複数の拠点が示唆され、教会は早急に次の手を打つと予想される。

一方、ラムザのアルテマの剣はこれまでとは違う“確信”を放ち始め、たとえ神を相手にしても一矢報いることができる――そう感じさせるほどの力を得つつある。完成まであと僅か、最後のパーツはどこで、どんな形で手に入るのだろうか。

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