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1.5-40 トロンの子
真っ赤な光球が引き延ばされ線となり、ゼクセル達の背後から突き刺さらんと射出された。
ゼクセルは、リックの肩へと回していた手を解き、柄だけの剣を振るう。
柄からは、碧色の刀身が形成され、真っ赤な光球を切り飛ばした。
「なんだよ。無礼だぞ」
「どちらがよ。人のテリトリーで、いちゃいちゃ、いちゃいちゃと。むかつくわね」
ゼクセルが振り返ると、そこには真っ赤なドレスを着たトロンがいた。
「何?その髪の毛。イメチェンでもしたのか?」
いつもは、ストレートな彼女のミディアムボブの髪型。
それが、今日は、緩いウェーブがかかった様な型だった。
ちょうど、デイジーの髪型の癖をトロンのストレートで薄めたら、こんな感じになるのでは。と想像出来る様な型。
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「知っているのに、その口振り。益々、むかつくわね」
そう言って、無数の光球を自身の周りに浮かべる。
その背後には、光の帯が幾重にも結び目を結び浮かんでいた。
「むかつく、か。上位者を取り込んだのに、まだ、感情的なんだね。少しは、悟ったのかと思ったけど違うみたいだね」
揶揄う様な口振りで、言葉を紡ぐリック。
「上位者、ね。あんなのただのリソースの塊よ!わたし達の方がよっぽど純粋なのだから!」
そう言って、胸に手を当てるトロンによく似た娘。
そこには、赤い形の良いコアが光っていた。
「なるほど。あなたが、表の人格として出ることになったと」
そう、リックがコアを指差し指摘する。
「ちがうわ」
「?」
「わたしは、デイジー母さんでも、トロン母さんでもない。2人の子供よ」
「上位者を元に子作りとは。恐れ入ったよ」
「で、その君の名前は、なんだね?」
「あなた達に、それを教える意味があるかしら?もう直ぐ、わたしが消しとばすと言うのに」
そう言うや、彼女の周りに浮いていた光球が引き延ばされ消える。
消えた光球が、リック達の足元から湧き上がる。
ノンタイムで襲いかかる攻撃に、ゼクセルは先手を打っていた。
地面に突き立てられた、碧色の刃。
そこから、碧色の光のカーテンが生じており、湧き上がった光球は、その都度、分解されていく。
光球を分解した後、ゼクセルは、剣を振るう。
振るった軌跡は、3つの光の線を同時に描きトロンの様な何かの前の空間を切り裂いた。
裂かれた空間からは、白い絹糸の様なものがはらりと落ちた。
「これで、くだらない手品は使えないぞ」
「くっ」
「さて」
そう言って、リックが前に出る。
「さっき、意味はないと言ったよね」
「あるよ、ある。大アリだよ」
「何せ、これから僕らが上位者の代わりに神罰を代行する相手だからね」
「きちんと聞いておかないと、報告書を書けないじゃーないか」
両手をヒラヒラとして、そんな事もわからないのかい?と言い始めるリック。
「なっ!!」
言葉と共に険しい顔で怒りを露わにするトロンとデイジーの子。
それは、彼女にとって許し難いことだった。
彼女を生み出した両親の意思
どれほどの道筋の果てに自身が生まれたのか記憶を引き継いでいる彼女
それを事も無げに無にすると言ったのだ。
目の前の男は
そして、それは、目の前の男にとって上司に提出する報告書より軽いと言うことだった。
自分の全存在を否定した上で、名前を尋ねる彼をトロン達の子は、許せなかった。
「アイラトリックス。母さん達は、消える前にアイラと呼んだわ。わたしの名において、あなた達。特に、そこのふざけた男は、許さない」
そう言うと、アイラは、両手を下ろし
掌を背後に向け、次の瞬間、ぎゅっと握りしめた。
背後にあった光の結び目は、アイラの手に収まると斬馬刀の様に大きな刃を形成し、柄の部分が伸びた。
それは、包丁の刃の様に大きな刀身を持つ
しかし、その長さから槍を連想させる見た目をしていた。
「いくわよ」
そう宣言すると、彼女は、背中に紋様を描き、それを羽とし、天へと滑走した。