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星を継ぐもの:Episode2-2
Episode2-2:先遣部隊との激突
夜の闇が濃厚に谷を覆う中、王国の偵察隊が静かに進入を開始していた。昼間は柔らかな陽光に照らされていた山岳地帯も、今は霧と闇が絡み合い、不気味な静寂があたりを支配している。
先日まで沿岸部を襲っていた魚型モデルの脅威を退けたものの、The Orderがどこで新たに姿を現すか分からない以上、王国は常に備えを怠れない。ここ北方の峠道「ハースト峠」付近では、複数回にわたって微弱な観測光の断続的な揺らぎが検知されている。今回はそれを突き止めるべく、円卓騎士団の一部が偵察を兼ねた出撃を行っていた。
編隊を率いるのは防御特化のガウェイン機。続いて、火力担当のモードレッド機、狙撃支援のトリスタン機、そして補助戦闘機数機が連なる。その後方やや高空を、観測光への干渉が可能な戦闘機「銀の小手(Silver Gauntlet)」が飛んでいる。
カインとアリスが搭乗する銀の小手は、マーリンら整備班の徹夜作業によって最低限の修理を終えたばかり。観測光を直接防ぐための干渉シールドや干渉波レーザーは稼働可能になったが、長時間の連続使用は厳禁という要注意状態だった。
「霧が濃いな……」
コックピットで操縦桿を握るカインが、ヘルメット越しに小声で呟く。視界には黒ずんだ山稜と淡い霧が映り込み、地形の起伏がはっきりと分からない。ときおり計器が警報音を発して高度修正を促す。
アリスのホログラムが淡く揺らめきながら応える。
「はい、レーダーも魔法式の観測陣も乱されています。おそらくこの地形と湿度の影響でしょう。……何か潜んでいても不思議ではありませんね」
「だよな。用心して進もう。……みんな、そっちはどう?」
カインは隊内通信にチャンネルを合わせる。すると、一際低い声のガウェインが返事をくれた。
『こちらガウェイン。霧がひどいが高度を少し落として谷の入口を確認する。もしこの先に廃墟があるなら、地表に沿って飛ぶしかなさそうだ』
「了解。銀の小手は少し後ろをついて行きます」
返事をしてスロットルを緩めると、視界前方にガウェイン機のシルエットが薄っすらと見え隠れする。赤と金を基調としたその機体は本来、堂々たる防御フィールドを展開できる設計だが、夜間・霧中の飛行はさすがに慎重を要するらしい。
『まったく、面倒なもんだぜ。視界が効かねえし、敵がどっから出てくるか分からねえ』
苛立った口調のモードレッドが言う。彼の機体は黒と赤を基調とした攻撃特化仕様で、強力な火力を誇るが、防御や感知能力は低め。こうした環境ではやはりストレスが溜まるのだろう。
『モードレッド、無理に突っ込むんじゃないぞ。ここは偵察が目的だ。まずは状況把握が最優先だ』
トリスタンの冷静な声が、やや後方上空から聞こえてくる。狙撃担当の彼は、できるだけ高空から周囲をスキャンしているらしいが、霧と闇に阻まれて思うようにいかないようだ。
そうして隊列を維持しながら、しばらく黙々と飛行を続けていると、やがて眼下に怪しげな光が見えた。闇に溶け込むように点滅しており、色は淡い紫。観測光の気配とも似ているが、はっきりとは分からない。
『何かあるぞ……皆、気を付けろ』
ガウェインが静かに警告を発する。機体から投下された小型魔法灯が地表を薄く照らすと、そこには崩れかけた石造りの遺跡が連なっていた。古代の建造物のように見えるが、ほとんどが半壊状態で、ところどころに尖塔や壁の一部が朽ちた姿をさらしている。
どうやらこれが噂の“廃墟”らしい。その周辺を覆う深い霧の中、紫色の光が脈動するように揺れている。この不気味な光が先日報告のあった“微弱な観測光”なのだろうか。
「アリス、何かわかる?」
カインが問うと、アリスは演算パネルに手を触れつつ目を閉じるようにして集中する。
「試してみます……干渉スキャンを微弱に発してみますね。観測光があれば、その振動を多少は感じ取れるはずです」
「了解。くれぐれも気を付けて。相手が気付くかもしれないし……」
しかし、次の瞬間。
アリスがスキャンを試みようとした矢先、廃墟の奥から強烈な閃光が迸(ほとばし)った。まるで身を隠していたヘビが威嚇射撃を放つかのように、紫色のビームが地上から上空へ放たれ、偵察隊の真ん中を横切る。
すぐさま警告音がコックピットを満たし、カインは咄嗟に操縦桿を引いて回避行動を取る。
「来た……観測光なのか!?」
『くっ、みんな散開しろ!』
ガウェインが叫ぶ。周囲は一瞬にして混乱に包まれ、トリスタンが通信越しに「敵性体反応あり、廃墟に複数の……!」と報告しようとするが、そこで通信がノイズにまみれる。
闇の中で何者かが複数の光線を乱射しているようだ。激しいビームが次々に撃ちあがり、隊列をバラけさせる形で突き崩していく。
カインはなんとかスロットルを最大にして急上昇を図るが、背後から追撃の光が迫るのを感じ取る。
アリスが即座に警告を発する。
「後ろから来ます……! 観測光と似た干渉レベル。シールドを展開しますね!」
「頼む!」
一瞬、銀の小手が白いオーラのような干渉シールドを展開し、背後からの光線を逸らす。金属が軋むような鋭いノイズが響き、カインは頭痛を感じるほどの衝撃に耐える。これが本物の観測光なら、一撃で消し飛ぶ可能性があったかもしれない。
しかし、攻撃は観測光よりも弱い印象を受ける。破壊力はそこまで大きくないが、複数同時に放たれているため対処が難しいのだ。
「みんな、大丈夫か?」
カインが通信で呼びかけると、モードレッドの苛立った声が返ってくる。
『ああ、ちまちま撃ちやがって! くそっ、やってやる!』
「待って、まだ相手の全貌が分かんない……!」
そう制止しようとしたが、モードレッド機は既に急降下して廃墟近くまで突っ込もうとしている。彼は火力で一気に相手を黙らせるつもりなのだろうが、場所も敵の数も把握できていないままでの突撃は危険すぎる。
ガウェインが焦りの混じった声で制止を試みる。
『モードレッド、突っ込むな! 敵が複数いる可能性がある。位置を掴んでから――』
『うるせえな、こんなビームは一網打尽にしてやるよ!』
通信が乱れるなか、モードレッドの機体が火力兵装を展開し、廃墟に向かって中距離ミサイルを連射する。激しい爆音とともに地面が揺れ、石造りの遺跡がさらに崩れ落ちる。しかし、そこで強烈な紫光が逆巻くように噴出し、モードレッド機を狙う。
連射されるビームのひとつがモードレッド機の右主翼をかすめ、黒煙が上がる。
『ぐあっ……!』
彼の悲鳴と共に、機体が横倒しのようにバランスを崩し、制御不能になりかける。あと少し当たり所が悪ければ一撃で落とされてもおかしくない状況だ。
カインは歯を食いしばって操縦桿を握り、急いで干渉シールドを展開すべくアリスに目配せをする。
「アリス、間に合うか!?」
「試してみます……!」
銀の小手の干渉フィールドを広げながら降下し、モードレッド機を追いかける。濃密な霧と闇が視界を奪い、さらに複数のビームが交差しているため、非常に危険な機動だ。
それでも、カインはアリスの演算サポートを頼りに精一杯の回避行動を続けながら、辛うじてモードレッド機を覆うようにシールドをかぶせることに成功。観測光に近いビームがあと数発、シールドに着弾するが、なんとか大破を免れる。
『ちっ……助かった……!』
息を乱すモードレッドが通信で唸り声をあげる。片翼を負傷した彼の機体は左右に揺れながら高度を維持している。
アリスが心配そうにカインへ言う。
「シールドに大きな負荷がかかりました。もし今の攻撃が本物の観測光の密度だったら、間に合わなかったかも……」
「とりあえず、モードレッドが落ちなくてよかった。……でも敵はどこだ?」
カインが目を凝らすと、破壊された遺跡の奥から無数の小さな影が湧き出るように姿を見せる。人型にも見えるが、よく見ると節足動物のように手足がいくつもあり、その先端部から紫色の光を発射しているようだ。
『あれは……The Orderの先遣兵?』
ガウェインの声が再び響く。彼も攻撃を受けつつ、なんとか防御陣を敷こうとしている。
どうやら大型の“魚型モデル”のような一体モノではなく、複数の小型形態が群れを成して迎撃してきているらしい。しかもその多くが紫の輝きを帯びており、観測光ほどの絶対破壊力は持たないにせよ、十分脅威となる射撃能力を持っている。
「先遣部隊ってわけか……!」
カインは操縦桿を動かしながら歯を食いしばる。多数の小型敵を相手にすると、いくら干渉シールドがあっても全方向からの射撃を防ぎ切るのは難しい。しかも観測光ではないため、銀の小手の干渉波レーザーがどこまで効くのかは不明だ。
アリスがマニュアルを素早く検索するようにパネルを操作し、提案を口にする。
「カイン、敵が“純粋な観測光”でないなら、普通の兵装でもある程度ダメージを与えられるはずです。銀の小手による干渉波はコア攻撃に温存したほうがいいかもしれません」
「つまり、こいつらを普通の弾薬で倒せるかもってことか? ……よし、やってみる!」
銀の小手は観測光への対抗だけでなく、古代文明の技術を活かした通常火器も搭載している。カインは機体下部のバルカン砲を起動し、一気に遺跡の小型敵群へ向けて射撃を始めた。
夜闇を貫く輝弾が連なり、紫色の甲殻を持つ敵を次々に吹き飛ばす。しかし敵も黙ってはいない。命中しなかった個体が散開し、別の角度からビームを撃ち返してくる。
「くっ……しぶといな!」
機体が何度も揺れ、警告音が断続的に鳴る。干渉シールドは観測光専用の対策なので、この紫ビームに対しては完璧に対応できない。
にもかかわらず、モードレッド機も反撃を開始し、ガウェイン機は盾役として少し前へ出る形を取り戻す。トリスタンは上空から狙撃しようとするが、霧と夜間、そして敵の素早い動きにより照準を定めることが難しく、苛立ちを見せているようだ。
銃撃戦がしばらく続くと、小型の敵群はいったん遺跡の奥へ退き、銃口を潜めるようにして射線を切ってきた。どうやら一気に決着をつけるには至らなかったらしい。
隊列を立て直すため、カインたちは一度遺跡の上空から距離を取る。全方位警戒を強めながら、ガウェインが指示を出す。
『どうやら奴らは一時的に退いたようだ。だが、おそらくまだ奥に潜んでいる。このまま夜間での空中戦を続けるのは不利だ。一度着陸し、遺跡の構造を確認しながら進む方が安全かもしれん』
「着陸して、徒歩で侵入するってことですか?」
カインが問うと、モードレッドが憤慨するように割って入る。
『おいおい勘弁しろよ、そんなの面倒すぎるだろ。機体で一気に焼き払えば済む話じゃねえのか?』
『だが、霧と夜で視界が効かないし、敵がバラけて地形に隠れたら我々の火力も不発に終わる可能性が高い。むしろ近接偵察を行い、敵がどこに集結しているか探るのが得策だ』
ガウェインの言葉に、トリスタンも同意を示す。
『俺も地形が気になる。観測光に類するエネルギーの残滓が遺跡内部に溜まっているようだ。もしそこが“中枢”に繋がる通路なら、空中から見ても分からない』
「なるほど……わかった。じゃあ着陸して潜入か」
カインは覚悟を決めるように操縦桿を握りしめる。荒れ果てた遺跡に夜間に降り立つのは自殺行為にも思えるが、敵がこちらを奇襲してくる可能性を考えれば、先手を打ったほうが安全かもしれない。
『で、カイン……お前たちが行くのか?』
モードレッドが苛立った声を漏らす。どうやら怪我を負った機体では近接戦が厳しいという自覚があるのかもしれない。また、観測光のような一撃必殺クラスの攻撃に対処できるのは銀の小手だけなので、カインたちの同行は不可欠だ。
「もちろん、俺たちも行くよ。干渉シールドがあれば、万一観測光が出てきても対応できる。……頼りにならないかもしれないが、少なくとも何もないよりはマシだろ?」
『はっ、まあいい。俺は頭に血が上ってミスしちまったからな。少し下がって援護射撃に回るさ』
モードレッドの不機嫌そうな声にも、どこか諦め混じりの安堵が感じ取れる。自分が前衛に立つより、干渉ができるカインが前に出た方が生存率が上がるという認識があるのだろう。
こうしてガウェイン、カイン、そして補助戦闘機のパイロット数名が遺跡近くへ着陸して徒歩偵察を行い、モードレッド機とトリスタン機は上空待機で援護する作戦が固まった。
黒々とした夜空を背に、ガウェイン機が第一着陸を行う。航空機ながら一部VTOL(垂直離着陸)技術を備えているため、狭いスペースにも慎重に降り立つことが可能だ。
続いてカインの銀の小手が着陸し、補助戦闘機のうち小型の2機も近場に降りる。コンクリのような石畳が割れ、瓦礫が転がる廃墟跡地に数基のランプが照らされ、その薄闇の中で機体のシルエットが浮かび上がる。
機体のコックピットを開けると、ひんやりした夜気が肌を刺すように入り込んでくる。カインはヘルメットを被ったまま外の様子を見回し、背後のキャノピーからアリスのホログラムを小さく展開させる。人型の状態で歩けるわけではないが、アリスは機体内のシステムを通じて周囲の状況を解析し続ける。
「思ったより静かだな……敵が引いてるなら好都合だけど、怪しすぎる」
カインがつぶやくと、ガウェインが機体のスピーカーを介して応える。
『ああ。気を引き締めろ。ここは観測光の揺らぎが検知されていた場所だ。奴らはいつ攻撃を再開してくるか分からん』
補助戦闘機のパイロットたちが散開し、周囲の警戒にあたる。彼らは銃火器を携行し、人型機動の際にも最低限の戦闘力を発揮できるように調整されている。小型ドローンも放出され、瓦礫の奥を探査しているが、いまのところ大きな反応はない。
廃墟は思った以上に広大だった。石造りの高い壁が倒壊し、尖塔や回廊が崩れ落ちている。かつては宗教施設かあるいは古代の研究所だったのか、定かでない。所々に不思議な紋章が刻まれた碑が転がっているが、読み取れる文字は少ない。
「アリス、何か分かる?」
「すみません……私も演算を行っていますが、この遺跡の構造や文字は古くて、今のデータでは再現が困難です。……ただ、微弱なエネルギーの流れを感じます。さらに奥があるのかもしれません」
「奥……地下とか?」
「ええ、地下に部屋があるか、洞窟がつながっている可能性が高いです。敵の先遣部隊はそこに潜んでいるのかもしれません」
カインは機体の外で歩行形態の移動モードに切り替えようか迷うが、すぐ近くにはガウェイン機がいるため、とりあえず連携して探索を進めることにする。
すると、その時、遠方から銃声と爆発音が響いた。どうやら補助戦闘機の隊が敵の小型ユニットと接触したらしい。通信が立ち上がり、緊迫した声が飛び込んでくる。
『敵を発見! 廃墟北側の通路で小型ユニットが待ち構えていた! 紫色のビームを連射――ぐあっ!』
悲鳴と共に通信が途切れる。さっそく仲間が被弾したようだ。
カインが息を呑み、「行くぞ、アリス!」と叫んで機体のエンジンを再起動する。干渉シールドを展開するため、ある程度上空に浮かびたいが、上は霧が濃く、かつ敵のビーム射角が分からない不安要素がある。それでも仲間を助けるためには急がなければならない。
『俺も行く!』
ガウェイン機もすぐさまブースターを噴射し、遺跡の北側へ向かう。廃墟の壁が倒壊して生まれた迷路のような空間をかき分けるように機体を移動させると、そこには点々と倒れた味方機や、紫色の光を放つ敵ユニットが散在している光景が広がっていた。
敵ユニットは先ほど空中で撃ちかけてきたものと同系統で、小柄な節足動物のような形をしており、地面を這うように動いては前肢からビームを放っている。
「くそっ……もう遠慮はしない!」
カインが操縦桿を押し込み、銀の小手を低空飛行させたまま、残敵へ向けて機体腹部のバルカン砲を掃射する。先ほどの空中戦と同様、弾丸はある程度の威力を示し、小型ユニットを次々に撃破していく。
だが敵の数が多い。倒しても倒しても瓦礫の奥から湧き出してくるように新たな個体が姿を見せる。まるで蟻塚を刺激したかのごとき執拗な攻勢だった。
『ガウェイン、こっちは弾がもたねえぞ……!』
モードレッドが上空から射撃支援をしようとするが、遺跡の壁や霧で遮られ、思うように狙いが定まらないらしい。トリスタンも同様に、建物の陰に隠れる敵を捉えきれない。
一方、地上では負傷した補助戦闘機のパイロットが救助を待っている状態だ。完全に袋小路と化した廃墟の一角で、双方の損耗が激しくなり始めていた。
(このまま弾の撃ち合いをしていたら、じり貧になる……どうにか先に敵の“指揮系統”らしきものを叩かないと!)
カインは咄嗟にそう判断し、アリスへ声をかける。
「アリス、奴らをまとめて操ってるコアとか、制御装置みたいなのは感じ取れない? 干渉で探れないか?」
アリスは一瞬だけ戸惑うように沈黙し、パネルを操作する。微弱な干渉スキャンを行い、遺跡のさらに奥……地下のほうへ感覚を伸ばす作業だ。
「……地下に強いエネルギー反応がある気配がします。そこが先遣部隊をコントロールしている中枢かもしれません」
「やっぱりか。よし、ガウェインに伝えよう」
カインは通信でガウェインに状況を報告し、地下へ突入するためのルートを模索する。するとガウェイン機もすぐに賛同する形で応答する。
『こちらも一部補助パイロットから地下への入口らしき通路を発見したと聞いている。奴らの本拠地がそこだろう。……カイン、行けるか?』
「行くしかない。干渉シールドで上手く近づいて、コアを叩ければ、こいつらの攻勢を弱められるはずだ」
そう決意した矢先、再び激しいビームの雨が銀の小手に集中してきた。どうやら敵もこちらの意図を察知したのかもしれない。カインはアリスのサポートを受けてシールドを部分的に展開しながら、一気に高度を落として遺跡内の広い回廊へ潜り込む。
回廊は崩れかけの石柱が並び、足元には瓦礫やひび割れたタイルが広がっている。航空機サイズの銀の小手で通り抜けるにはギリギリのスペースだが、部分的に翼を折り畳む仕組みを使って無理やり進む。
壁には古い碑文が刻まれており、紫色の苔のようなものが発光している箇所がある。敵の小型ユニットが通り過ぎた痕跡なのか、それとも古来よりこうだったのかは判然としない。
その奥に、階段のように地面が陥没した場所があり、まるで地下空洞がぽっかりと口を開いているのが見えた。
「ここが入口か……アリス、どう?」
「はい、下から強いエネルギーが感じられます。気を付けてください」
カインが慎重に機体を浮遊させながら地下へ降りていくと、そこは洞窟のような空間になっていた。天井は高く、不規則な形の岩壁に奇妙な紋様が走っている。紫の光が脈動しており、まるで生き物の体内を連想させるほど気味が悪い。
さらに進むと、一際大きな空洞に出た。そこには床一面に先ほどの節足動物型ユニットがひしめき合っており、中央には球体のような大きな結晶体が浮遊している。その結晶から、薄い紫色の光線が何本も伸び、周囲のユニットへ接続しているかのように見える。
「これが中枢……!」
カインは思わず息を呑む。敵の先遣部隊はすべて、この結晶体を通じて指示を受け、動いているのだろう。
結晶体はまるで観測光を弱めに薄めたような振動を放っており、それによって小型ユニットに射撃や移動の指令を与えているのかもしれない。もしここを破壊できれば、全体が機能を失う可能性が高い。
「アリス、干渉波レーザーであれを狙える?」
「ええ、でも周囲に敵が多すぎます。先にある程度、牽制してもらわないと照準がずれそうです」
「わかった。なるべく気を引くから、チャージしてくれ」
カインはメインスラスターを吹かし、洞窟内でホバリングしながらバルカン砲とミサイルを連射する。敵の節足ユニットが一斉にビームを返してくるが、狭い空間だけに動きが限定されているのか、命中率はそこまで高くない。
とはいえ、被弾も避けられない。警告音がコックピットに響き、機体表面のアーマー値が徐々に削られていく。
「ぐっ……あちこち当たってるな……耐えろ、銀の小手……!」
カインが苦しそうに唸ると、アリスが冷静に演算を加えながら返答する。
「もう少し……干渉波レーザーのチャージにあと10秒ほど必要です。……ごめんなさい、負荷をかけますが耐えてください!」
「うん、時間を稼ぐ……」
機体を左右に旋回させ、敵のビームを極力避ける。同時にバルカン砲と小型ミサイルで数を減らそうとするが、敵が絶え間なく補充されるかのようにわいてくる。まるで蜂の巣をつついたような状態だ。
それでも、あと一撃さえ当てれば結晶体を破壊できる――その思いがカインを奮い立たせる。身体中に冷や汗がにじむが、諦めるわけにはいかない。
「チャージ完了……カイン、今です!」
アリスの声がヘルメットに響く。干渉波レーザーを撃つにはある程度の静止が必要なため、この狭い洞窟空間での発射はリスクが高いが、今しかチャンスはない。
カインは操縦桿を一気に引き込み、ホバリングを安定させながら、照準を結晶体へ固定する。
「狙いを定めて……発射――!」
機体腹部の発射口が眩い白光を帯び、次元干渉を伴うレーザーが一条の閃光となって結晶体を貫こうとする。狭い空間が一瞬白く染まり、衝撃波が周囲の節足ユニットを吹き飛ばす。
しかし――結晶体の表面が薄膜のように紫色に反発して、レーザーの進行を食い止めようと震えている。
「くっ……弾かれてる?」
「いえ、まだ干渉波が上回ってます……貫けるはずです!」
まるでレーザーと結晶体のエネルギーが拮抗し、火花を散らしているかのような状況だ。銀の小手の機体には膨大な負荷がかかり、警告音がさらに高鳴る。
カインが歯を食いしばり、必死に操縦を維持する。すると一瞬、結晶の防壁が揺らぐように光が弱まり、レーザーが突破口を作り出した。
「貫け……っ!」
最後の力を振り絞るように干渉波が結晶内部へ侵入し、紫の輝きが大きく歪む。すると結晶が砕けるように爆散し、洞窟内に爆音が響き渡った。
同時に周囲の節足ユニットが悲鳴のようなノイズを発し、統制を失ってバラバラに踊り狂うように暴走を始める。方向感覚を失い、壁や地面に衝突して自壊する個体もあれば、そのまま停止して光を失うものもある。
「やった……! コア破壊成功……か!?」
カインが息を切らしながらモニターを見回す。明らかに敵の攻撃が激減し、残存するユニットも統制が解けたかのように動きがめちゃくちゃだ。やがて、ほとんどが動かなくなり、洞窟は死の静寂に包まれる。
アリスが安堵の声を漏らす。
「何とか……勝ちましたね。……カイン、大丈夫ですか? 機体がかなり傷んでます……」
「俺は大丈夫……そっちは?」
「私も、少し頭がクラクラしますけど……大丈夫です。干渉波レーザーの負荷が思ったより大きかっただけで……」
アリスはかすかに微笑むように見える。彼女も相当疲労が溜まっているはずだが、干渉成功によって敵を封じ込めたことに安堵しているのだろう。
やがて、通信が復旧し、上空待機していたモードレッドとトリスタンの声が入り始める。
『おい……どうなった? 地下でデカい爆発があったみたいだが、そっちは無事なのか?』
「大丈夫、結晶体を破壊して……ほぼ収束した。敵のユニットが沈黙してる」
カインの報告に、モードレッドは「チッ、見せ場を取られちまったな」と毒づきながらも、どこか安堵している様子が伝わる。トリスタンは冷静に「残敵掃討を行い、上空の安全を確保する」と述べ、すぐに行動を開始したようだ。
洞窟から地上へ戻ると、ガウェイン機と補助部隊が残敵を掃討している最中だった。先遣部隊のほとんどが結晶体と連動していたらしく、多くは制御を失って停止している。もう脅威にはならないだろう。
夜はまだ深いが、ようやく一帯に平穏が取り戻されつつある。機体の損傷を確認し、負傷者の救護を行っていると、アリスが再びメインパネルを見つめて不思議そうな表情を作る。
「カイン、奇妙なエネルギー反応がまた微かに感じられます。地下のさらに奥……さっきの洞窟の先かもしれません」
「え、まだ何かあんのか……勘弁してくれよ。でも、行くしかないかな」
そう呟くカインに、ガウェイン機が通信で呼びかける。
『カイン、そっちの洞窟で何か見つけたのか?』
「はい。アリスがまた反応をキャッチしてるらしくて……もしかしたら、この先遣部隊とは別のものがあるかもしれない」
『ふむ……この先遣部隊を率いるコアを潰したのに、まだ何かあるとしたら油断できんな。よし、こちらで周囲を固めるから、お前たちはもう一度確認に行くか?』
「了解……」
カインは少し疲労気味の声で応じる。アリスも演算に消耗しているが、何か大切な手がかりがあるかもしれない以上、放置はできない。
機体の軽いメンテを済ませ、燃料と弾薬を最低限補給して再度地下へ向かう。今度は補助戦闘機の1機が一緒についてきて、万一のときは援護してくれる手筈だ。
再度洞窟に潜り、先ほどの結晶体を破壊した空洞を通り過ぎた先に、狭い通路が続いているのを発見する。そこは人が一人通れるほどの幅しかなく、航空機をそのまま移動させるのは不可能だ。
カインは銀の小手を狭い空間での動作形態(収納モード)に切り替え、基本的には歩兵サイズのロボット形態……といっても実際は航空機だが、一部変形して“地上移動モード”を取る。補助戦闘機のパイロットも同様の携行形態を使い、数名で奥へ進むことになった。
(ロボットではなく“戦闘機”の変形機能、として扱う)
ヘルメットのライトを頼りに狭い通路を進むと、そこには古代の石柱や彫刻が並ぶ小部屋が連続している。かつては何らかの祭壇や実験施設だった可能性があるが、詳細は分からない。壁面には不可思議な文字列が走っており、アリスは見つめるだけで頭痛を覚えるような違和感を感じているらしい。
「……ここ、なんかゾッとするな。観測光を研究してたのか、或いは……」
カインが呟くと、アリスが声を震わせながら返事をする。
「はい……私も、胸がざわつきます。古代の時代に、何か大規模な実験か儀式があったのかもしれません。……すみません、うまく説明できなくて」
「いや、大丈夫。俺も嫌な感じがするよ。早く見て回って、引き上げよう」
石柱や祭壇をいくつか見て回るが、これといって明確な手がかりはない。ただ、床や壁に刻まれた文様からは、観測光あるいは次元干渉に関わる象形らしき図がしきりに登場しているのが分かる程度だ。
アリスがそれを目にするたび、頭痛とも吐き気ともつかない不快感に苛まれ、カインが何度も「無理するな」と声をかける。彼女は自分でも理由が分からないまま、「ここには私の知らない“古代”の真実が残っている気がする……」と呟く。
実際、アリスの正体は“AI”ではなく、古代に生きた人間だ。しかし、その記憶が封印されている現在、この遺跡の意味を完全には読み解けずにいる。ただ、彼女の潜在意識が強く反応していることは確かだった。
補助戦闘機のパイロットが控えめに声をかける。
「そろそろ戻りましょうか? 一応奥まで確認しましたが、敵の姿はありませんでした。先遣部隊の本命はあの結晶体だったんでしょう」
「うん……そうだな。もう十分……」
カインが返事をしようとした瞬間、アリスが床の隙間に目を留める。そこには金属製の小さな装置がはまり込んでおり、微かな光を放っていた。
「これは……何かの制御端末でしょうか?」
彼女がそっと手を伸ばし、取り外そうとするが、古い錆と瓦礫で固く固定されている。パイロットの一人が工具を使って少しずつこじ開け、なんとか引き抜くことに成功する。
装置は手のひらサイズの円盤形で、部分的に文字や刻印が残っているが読み取れない。しかし、アリスがかすかに触れると、それが反応するかのように淡い青い光を放った。
「……この装置、まだ生きてます。ごく微弱なエネルギーですが、何かを記録しているみたい」
「記録……なんだろう?」
カインが覗き込むと、アリスは眉をひそめて渋い顔をする。
「すみません、今はデータが壊れていて解析できないようです。でも、後でマーリンに見せれば、何かわかるかもしれません」
「そうか。……とりあえず持ち帰ろう。ここでやれることはもうないし、敵も先遣部隊は崩壊した。何かの手掛かりになるかも」
そう決めて一同は遺跡を後にする。地上に戻れば、夜はさらに更け、霧も少し晴れ始めていた。モードレッドやトリスタンが警戒を続けてくれているおかげで、先遣部隊の残滓による奇襲はほぼ封じられたようだった。
ガウェイン機が通信で「そっちはどうだった?」と問うと、カインは「装置らしきものを回収したが、詳細は不明。これで一旦帰還しよう」と応じる。皆の疲労も限界に近い。
そうして、偵察隊は遺跡の掃討と地下中枢の破壊を終え、帰還の途についた。観測光の本格的な侵略は避けられたようだが、この先遣部隊が何を目的にここを拠点にしていたのか、疑問は残る。
夜明け前の空をゆっくりと飛行しながら、カインはコックピットでアリスと会話を交わす。
「……結局、あれは何だったのかな。魚型モデルみたいに明確に一体を率いる“ボス”がいるわけじゃなく、あの結晶体が指揮官の代わりだったのか?」
「恐らくそうでしょう。The Orderは必ずしも一体の巨大存在だけではなく、こういう群体制御でも動けるのかもしれません。あの遺跡が古代文明の何かと関係していた可能性は高いですね」
「そうだよな。マーリンがあの円盤型の装置を解析してくれれば、何かわかるかもしれない。……アリスは大丈夫か? さっきから疲れてそうだけど」
カインが心配げに問うと、アリスは微笑みを作ろうとするが、やや力が入っていないように見える。
「少し頭がボーっとしますが、平気です。干渉波レーザーを2回使ったのが大きかったのかも……でも、大丈夫。あなたが私を支えてくれたから、ここまでやれました」
「そっか……無理しないでくれ。帰ったらゆっくり休もう」
小さな励まし合いの言葉を交わすうち、遠方の空が白んでくる。やがて王都の姿が見え始めるころ、通信が入り、モードレッドやトリスタンが「異状なし」を報告してくる。ガウェインも安堵の息をつくように声を落とす。
夜が明ければ再び忙しくなるだろう。王都へ帰還し、負傷者や損傷機体の整備、そしてアリスたちの干渉データ分析……やることは山積みだ。それでも、ひとまず先遣部隊との激突を制し、新たな手がかりを得たことは大きな成果と言えるかもしれない。
王都の滑走路に降り立つと、すでにエリザベスや整備班が待ち構えていた。夜通しの出撃だったため、皆が疲れ果てているのを見て、エリザベスは労いの言葉をかける。
「皆さん、本当にお疲れさま。何とか先遣部隊を退けたのね。……けど、観測光の本体が別にあるのなら、今回もまた序章かもしれないわね」
カインは整備員の手を借りてコックピットから降り、アリスのホログラムをタブレット端末上に移す。
「ええ、先遣部隊は群体で動いてましたが、そこまでの大火力はなかった。でも、まだ何か裏がありそうだ。とりあえず、これをマーリンに解析してもらっていいかな?」
そう言ってアリスが拾った円盤状の装置を差し出す。エリザベスは珍しそうにそれを眺め、護衛の兵士に預けるよう指示する。
「ええ、マーリンに見せて分析を進めてもらうわ。もしかしたら、The Orderや古代文明について手掛かりが得られるかもしれないわね。ありがとう、よく頑張ってくれたわ」
エリザベスの言葉にカインは半ば意識が飛びそうになりながら笑みを返す。周囲ではモードレッド機やトリスタン機、ガウェイン機も順次着陸しており、それぞれが整備員や医療班に囲まれている。
今回の戦いで大破した機体こそないが、小破や弾薬の消耗、パイロットの疲労はかなりのものだ。アリスも何度も干渉を使ったことで演算システムが熱を帯び、回復には時間がかかりそうだ。
(それでも、何とか切り抜けた……)
カインは深いため息をついて夜明けの空を見上げる。東の空が薄青く染まり、朝日に近い輝きが水平線に現れつつある。美しい風景だが、同時にどこかせわしなく感じられる。人々がまた一日を始める中、観測光の脅威は常に背後に潜む。
「カイン……すみません、私、少し休ませてください。干渉システムが限界に近くて……」
「もちろん。ゆっくり休んで。……俺も限界だ。長い夜だったな」
アリスのホログラムが薄れ、機体のシステムがスリープモードへ移行する。それを見守っていたカインは、整備班に銀の小手を預けると、その場で膝に力が入らなくなりそうなのを何とか堪えて立ち尽くす。
しかし、その姿を見つめる何人かの市民や兵士たちの目には、称賛や感謝のまなざしが向けられていた。観測光に抗える唯一の存在として、銀の小手とカイン、そしてアリスが王都を守っているのだという期待を、みんなが抱いているのだろう。
それが新たな重圧となるのか、あるいは励みとなるのか――カイン自身、答えは出せずにいた。
そこへアーサーが歩み寄り、小さく微笑む。
「大変だったな、カイン。君たちが先遣部隊を制してくれたおかげで、王都への被害は免れた。……でも、これはまだ一部にすぎない。僕たちはこれからも、奴らの新たな動きに備えなきゃいけないんだ」
「……ええ、わかってます。いつまた巨大なモデルが来るかわからない。魚型より厄介な奴かもしれないし、今回みたいに複数の群れかもしれない」
「そうだね。だが、銀の小手とアリス、それに君の勇気があれば、きっと道は開ける。焦らず、でも止まらず……前に進もう。次の戦いはもうすぐかもしれないが、僕たちは一緒に乗り越えるんだ」
アーサーの優しい言葉に、カインは小さく笑い返す。夜明けの光が城壁を照らし、霧の残る街並みに朝の活気が戻り始める。
傷ついた街や人々を守るため、彼らは再び立ち上がらねばならない。やがて幕を開ける“さらに大きな戦い”の前に、休む時間はさほどないだろう。
しかし、今はほんの束の間だけでも安らぎを感じていた。先遣部隊との激突を乗り越え、新たな謎を解くヒントも得た。小さな前進だが、確かに前に進んでいる――そう信じたいから。
整備班がせわしなく行き交う滑走路に、かすかな日差しが差し込み始める。カインは立ち尽くしたまま、コックピットに眠るアリスのホログラムを見下ろし、ふと小声でつぶやくように言った。
「……アリス。俺、こんなに世界が混沌としてるのに、不思議と絶望してないよ。たぶん、お前がいるからだと思う。銀の小手とお前が、観測光に抗う力をくれるから……きっと、俺は歩き続けられるんだ」
もちろん眠りについたアリスにその言葉は届かないかもしれない。しかし、彼女はカインの心に寄り添う形で“AI”の壁を超えた何かを与えてくれているのは確かだ。
そこへマーリンが点検道具を抱えて足早に近づき、疲労の色を見せながらもいつもの飄々とした口調で話しかける。
「やあカイン、無事でよかったよ。さっそく機体をばらして整備を進めるけど……また大変そうだね。何せ敵が先遣部隊を出してきたってことは、もっと大きな計画があるかもしれないから」
「その可能性はあるよな。……ああ、これ、アリスが拾った装置なんだ。エリザベスが預けておくから、後で君に解析してほしいってさ」
カインは手渡された円盤型の端末をマーリンに見せる。マーリンは一瞥して目を輝かせ、コーヒーの紙コップをそこにこぼしそうになるほど興奮している。
「おお……これは貴重なデータかもしれない! 解析が進めば、The Orderのネットワークとか、古代文明の干渉技術の片鱗が分かるかもしれないよ。……ありがとう、カイン!」
「俺じゃ何も分からないからさ。任せたよ……頼む、マーリン」
そう言い終わると、カインは力が抜けたように笑みをこぼし、改めて夜明けの王都を一望する。空の色が夜から朝へ変化する様は、美しくもはかない。だが、その先にはきっともっと苛烈な戦いが待つ――。
カインはそんな予感を抱きつつ、アリスを乗せた銀の小手にそっと触れ、静かに目を閉じる。やるべきことは山積みだ。自分たちにしかできない干渉の力を、もっと上手く使いこなさなければならない。観測光の脅威は、まだほんの一部を覗いただけにすぎないのだから。
その時、アーサーがスピーカー越しに呼びかけてきた。
『カイン、少ししたらブリーフィングを行う。これからの王都防衛方針と、沿岸、そして北方の情勢整理があるから、参加してくれ。……休む時間が少なくて悪いが、頼むよ』
「わかりました。すぐ行きます……」
カインはまぶたを一瞬だけ閉じ、深呼吸をして気持ちを切り替える。腕や足の疲労、頭の奥にじんわり残る痛みを堪えながら、もう一度立ち上がるのだ。アリスと共に、この世界を守るために。
霧が晴れゆく王都の空に、一筋の朝日が差し込む。夜を駆け抜けた彼らの戦いは終わり、また新しい幕が上がる。先遣部隊との激突は、あくまで序章。銀の小手とアリスが切り開く運命の先には、まださらなる試練と、彼女の秘めた正体の謎が待ち受けている――。