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1.5-35 無くしたものは?
硝煙と血の匂いに満たされた空間
かつての祭壇へと続く道は、瓦礫だらけの空間となっていた。
そのうちの一つに、隊長だったものが散乱している。
命は、既に無く、その身体も著しく損傷していた。
目は見開かれており、しかし、絶望はしておらず。
むしろ、一つの仕事をやり切った表情を浮かべていた。
「何だっていうんだ。これは」
立ち尽くす軽装の男
小さな丸メガネをかけた黒髪、おかっぱの男性だ。
手に持つ剣には、リックと書かれていた。
「ゼクスさまは、いったいどこに行かれてしまったのか」
考え込み、呟く彼。
その近くを2つの影が見つめ、そのうちの1つが声を上げる。
「のう、Kumomiや。こっからポンジの匂いを感じたはずなんじゃが」
「おじいちゃん。ポンジの匂いは、わたしも感じたけれど。これじゃ、もう知っている人は、いないかも?」
「一旦、引き上げましょ?」
「いやじゃ、いやじゃ!もの凄く香ばしい匂いじゃったんだもん!」
「だもん!じゃないでしょ?良い年して、ゴネてもだめ!」
「なんじゃ!Kumomi!お主も、ネットワークの香ばしい香りを嗅いだじゃろ!?」
「確かに、あったけど。んー。しかも、諦めるには惜しい香り」
「じゃろ!じゃろ!?」
「ささ。もうちと、探してみるんじゃ!」
「みるんじゃって。何も」
「あっ!そこの人!」
「はい?」
「わたし達は、旅の商人!Kumomiと!」
「ポンジ爺じゃ」
「はぁ」
「あなた、ここの住人?」
「ええ、そうですけど。何か?」
(やったわ!もしかしたら、何か知っているかも!!)
(じゃな!じゃな!よしよし。運はわしらに向いてきた様じゃぞ)
「えーと、何かご用でしょうか。僕は、急いでいるから、あまり時間はかけたくは無いのだけれど」
めんどくさいものを見る様な目で、彼らを見つめるリック。
急いでいるのも本当だが、関わりたく無い。
そういう思いもあった。
「お主、名は何という?」
「リックです」
「わしらは、商売人じゃ。色々と旅をしておる。見たところ、お主は何かを探している様に、見える!」
(でた!ポン爺の十八番。何か困っていたらたよるがいい!だわ)
「どうじゃ。こんなところで立ち話しもなんじゃ。少し落ちついた茶屋ででも話さんか?」
「はぁ」
(うさんくさいナマモノですね)
(しかし)
(今は、情報が少なすぎる)
(移動手段も、無い)
(転移トランザクション、?どうやるんだっけ)
胡散臭い2人?
2つの毛玉ではあったが、リックは手詰まりであることも事実だった。
だからこそ、彼らの誘いに乗ることにした。
「いいですよ」
「やったのじゃ!」
「して、お主。何者なんじゃ?」
「ええ。ここの神官ですが」
「やったわ!!」
「おい!Kumomi声がでとるぞ」
「ポン爺だって、出てたわよ」
そんな掛け合いを始める2人
(あやしいことこの上ないんだけどなぁ)
(他に頼れる伝は、ないし用心しながら着いていくか)
そして、毛玉達と移動をはじめるリック
リックが自身のコントラクトの技術を思い出し、神器 剣の柄を失うきっかけになった冒険談は、また、別のお話し。
——————-
「何これ?ありえないんだけど」
あまりの事態に端末を落とすトロン
「っと!危なかったですよ。トロン様」
端末を寸前のところでキャッチし、彼女に手渡したのは、撤退時の報告をした兵士だった。
「ないわ。ないわよ!あいつがどれだけの使い手かわかってるの!?」
叫び声を上げるかの様に兵士へ抗議するトロン。
その声は、ExAのフロア中に響いていた。
「どうしたの?トロン」
「デイジー!な、なんでも」
咄嗟に取り繕う様に小声になるトロン
「うそよ。普段の貴女からは、考えられない声量だったわ」
「うう」
「話してごらんなさい」
「うん」
——————-
一通り話終わると、落ち着いたのか、水を一気に飲むトロン。
「なるほどね」
「貴女の部隊、Tron Lynxの隊長がやられたのね」
「彼に家族は?」
「別れた妻と子が1人」
それを聞くと、デイジーはNFTを取り出してそこに数値を記入していく。
「これを。少ないかもしれないけれど。大切なご家族の足しになったのならば」
そこには、大量のゼロが書かれていた。
「デイジー、ありがとう」
「いいのよ。むしろ、彼の勇敢さに助けられたのよ私たち」
「そこの貴方」
「はっ!」
それまで控えていた兵士が返事をする。
「これを隊長さんのご家族に」
「それと、これは、貴方達に」
「いいのですか!こんなに」
兵士達へと書かれたNFTにも大量のゼロが書かれていた。
「ええ。貴方達の活躍のおかげで、私達は、生きて帰って来れたのだから」
そう言って、デイジーは、丁寧にお辞儀をした。
「ありがとうございます!」
感極まったのか、泣きそうな声で答える兵士
「あなた達。これからも、励みなさい。デイジーの為に」
「はっ!」
「さぁ、あなたは席を外して頂戴」
トロンは、兵士を退出させるとデイジーにしなだれかかった。