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R-TYPE / ZERO: 天使の軌跡:2

まだ薄暗い格納庫の中に、微かに聞こえる整備士たちの声と機器の作動音が響く。Team / ゼロのパイロットたちは、日課である整備点検のために早朝から集合していた。

片桐和也が重い足音を響かせながら格納庫の中央へと向かう。彼の視線は自分の機体、R-9Eに向けられていた。その中には、エンジェルパックであるリオが繋がれている。

「リオ、おはよう。」

和也が軽く手を振りながら挨拶すると、機体の中央部にあるコアがわずかに光り、リオの声がスピーカーを通して響いた。

「お父さん!おはよう!今日は何するの?」

リオの明るい声が、冷たい格納庫の空気を温めるようだった。和也は微笑みながら答えた。

「まずは整備点検だ。その後に訓練がある。君も準備を頼むぞ。」

「任せて!お父さんの役に立てるよう頑張るから!」

和也はコアに手を置き、リオの存在を感じながら軽く頷いた。


「よぉ、和也。リオは元気か?」

背後から聞こえたのはリチャード・カーティスの低い声だった。彼は自分の機体、R-9A3のそばで整備士と話をしているところだった。

「もちろんだ。リチャードのアレックスはどうだ?」

「奴も元気だ。だが、朝の挨拶はいつも短い。『おはよう』の一言で終わりだからな。」

リチャードが苦笑するのを見て、和也も軽く肩をすくめた。

「性格の違いだな。それでも、信頼できるパートナーだろう。」

「それは間違いない。」

一方で、少し離れた場所では、榊原美咲が自分の機体、R-11Bのコクピットを覗き込んでいた。彼女のエンジェルパックであるナオミが小さな声で話しかけている。

「お母さん、今日はどんな訓練するの?」

「射撃訓練と防御シミュレーションよ。ナオミ、準備はいい?」

「うん!お母さんと一緒なら、私、頑張れる!」

美咲は優しく微笑みながら頷いた。


格納庫の片隅では、整備士たちが機体の細部を点検していた。ジョン・カーターは、スパナを片手に和也のR-9Eの脚部を確認していた。

「おい、和也。この脚部の動作が少し鈍い。訓練前に調整が必要だ。」

和也がそちらに歩み寄りながら答える。

「わかった。リオに影響はないか?」

「いや、彼女は元気そのものだ。むしろ、この機体の方がついていけないかもな。」

ジョンの軽口に和也は苦笑する。

「頼むよ、ジョン。君がいなければ、この機体は動かない。」

「分かってるさ。しっかり仕上げておく。」

ジョンが親指を立てると、和也は安心したように頷いた。


整備が進む中、エンジェルパックたちの声が格納庫内に響き始めた。それぞれの機体からパイロットたちへの声が飛び交う。

「お父さん、あの整備士さん、ちょっと怖そうだね。」

「リオ、ジョンは怖くないぞ。あれで面倒見がいいんだ。」

「お母さん、今日は私、もっと早く反応できるようにするから!」

「ナオミ、焦らなくていいわ。確実に動けることが大事よ。」

「お父さん、右のエンジンが少し熱い気がするけど、大丈夫?」

「ルカス、心配するな。整備士が確認してくれている。」

エンジェルパックたちの純粋な言葉に、パイロットたちの表情もどこか柔らかくなる。


点検が終わり、整備士たちが次々と作業を報告する。

「全機、異常なし。訓練に備えられます。」

その言葉に、パイロットたちは各々の機体に向き直った。

「リオ、準備はできたか?」

「もちろんだよ、お父さん!」

「ナオミ、今日も頼むわね。」

「うん!お母さんも頑張って!」

「アレックス、行くぞ。」

「了解した。」

パイロットたちは整列し、それぞれのエンジェルパックとの絆を胸に秘めながら、次の訓練へと向かった。

格納庫には、これから始まる戦いに向けた静かな決意が満ちていた。


巨大な宇宙ステーション"アルビオンステーション"の一部を占める訓練エリア。その中心には、パイロットたちが使用する高性能シミュレーターがずらりと並んでいた。シミュレーターは実戦さながらの環境を再現することが可能で、パイロットとエンジェルパックの連携を鍛えるための重要な設備だった。

格納庫から訓練エリアに移動してきたTeam / ゼロのメンバーたちは、いつものように整然とシミュレーターの前に整列した。


片桐和也がシミュレーターのコクピットに座り、操作パネルに手を置く。目の前のディスプレイが暗転し、次の瞬間、宇宙空間を再現した映像が広がる。

「リオ、準備はいいか?」

コクピットのスピーカーからリオの明るい声が返ってきた。

「もちろん!お父さん、私に任せて!」

「よし、頼むぞ。」

和也が頷いた瞬間、シミュレーターの環境が完全に起動し、無数のバイドを模した敵影がディスプレイに浮かび上がった。

「ここからは連携が鍵だ。リオ、敵の動きをよく見てくれ。」

「了解!右側の小型バイドが速いから注意して!」

和也はリオの指示に従い、操縦桿を操作して戦闘機を右に旋回させた。


隣のシミュレーターでは、リチャード・カーティスがアレックスと共に訓練を開始していた。

「アレックス、現状を報告しろ。」

「敵機3体を検知。左後方から接近中。攻撃開始まで5秒未満。」

リチャードはすぐに操縦桿を引き、波動砲のエネルギーをチャージし始めた。

「的確な判断だな、アレックス。そっちの2体は俺がやる。残り1体を頼む。」

「了解。」

アレックスの冷静な声に応えるように、リチャードの機体が正確な射撃を行い、敵影を次々と撃墜していった。

一方で、榊原美咲とナオミもシミュレーター内で奮闘していた。

「ナオミ、右上にミサイル発射口がある。ここを先に叩きなさい。」

「わかった!お母さん、カバーお願い!」

美咲は即座にナオミを援護し、敵の攻撃を防ぎながらミサイル発射口を破壊した。


和也のシミュレーター内では、さらに激しい戦闘が繰り広げられていた。敵影が四方八方から押し寄せる中、リオが瞬時に状況を分析して指示を出していた。

「お父さん、左下に敵の増援が来てるよ!でも、右上にエネルギーポイントがあるから、そっちを取るべき!」

「エネルギーポイントか……分かった、行くぞ!」

和也は一瞬の迷いもなく機体を右上に向け、エネルギーポイントを回収。その後すぐに左下の敵影に急降下し、波動砲を発射して一気に撃破した。

「やったね、お父さん!やっぱり私たち息が合ってる!」

「リオのおかげだ。次も頼むぞ。」


訓練終了後、全員がシミュレーターから降りてきた。メンバーたちはそれぞれの結果を確認し合いながら、自然と競争心が生まれていた。

「和也、スコアはどうだった?」

リチャードが問いかける。

「目標達成率は85%。まあ、まずまずだな。」

「俺たちは90%だ。だが、アレックスがもっと早く敵影を検知していれば95%に届いたな。」

「私は93%!」

美咲が誇らしげに報告すると、ナオミが嬉しそうに声を上げた。

「お母さんと私のチームが一番だね!」

「今日はたまたまだろう。次は負けない。」

和也が苦笑しながらそう答えると、リオがスピーカー越しに悔しそうな声を漏らした。

「私たちだってもっと頑張れるもん!」

その声に場の空気が和らぎ、全員が笑顔を見せた。


フリーマン博士が訓練結果を確認しながら、メンバー全員に向けて声を上げた。

「今日の訓練結果は悪くない。しかし、全体的にチーム間の連携がまだ甘い部分がある。次回の訓練では、2機以上の連携を重点的に行う。」

リチャードが手を挙げて質問する。

「具体的には、どのようなシナリオを想定しているんですか?」

「バイドの大規模侵攻を想定し、2機が協力して一つの目標を破壊するシナリオだ。その際、エンジェルパック間のデータリンクを最大限活用してもらう。」

和也がリオに向かってつぶやく。

「聞いたか、リオ。次は連携が鍵だぞ。」

「任せて!私、お父さんをもっと助けるから!」

「期待してる。」

和也の言葉にリオが元気よく応え、次の訓練への意気込みを見せた。


訓練エリアを後にするメンバーたちは、それぞれの課題を胸に刻みながら次の訓練に備える。和也は最後にもう一度リオに声をかけた。

「今日の訓練、よくやったな。」

「ありがとう、お父さん!次も頑張ろうね!」

和也は軽く頷き、チーム全員で新たな課題に向けて歩き出した。


格納庫の隅にある簡易休憩スペース。そこには、パイロットたちが短い休息を取るためのテーブルと椅子が並べられ、壁際には飲み物や軽食が用意された自動販売機が設置されている。

Team / ゼロの訓練を終えたパイロットたちは、自然とこのスペースに集まり、それぞれの軽食を手にリラックスした空気の中で会話を始めていた。


片桐和也は、サンドイッチとコーヒーを持ちながら椅子に腰を下ろした。訓練中の集中が解けたのか、背もたれに深く体を預け、少し疲れた表情を浮かべている。

「今日の訓練、リオもよく頑張ったな。」

和也がそうつぶやくと、すぐ近くに停められた彼の機体からリオの声が響いてきた。

「お父さんだってすごかったよ!あの敵をかわして波動砲を撃ったところなんて、完璧だった!」

和也は軽く笑いながら、サンドイッチに手を伸ばした。

「そう言ってくれると助かるよ。でも、まだまだだな。次の訓練ではもっと精度を上げるぞ。」

「うん!私ももっとお手伝いできるように頑張る!」


和也がリオと話していると、リチャード・カーティスがカップに注がれたブラックコーヒーを片手に近づいてきた。彼は隣の椅子に腰を下ろすと、アレックスの方を振り返る。

「アレックス、何か言いたいことはあるか?」

リチャードの問いに応えるように、彼の機体から低く冷静な声が返ってきた。

「本日の訓練では、敵影の予測が若干遅れた場面がありました。それがスコアの減少に繋がったと考えられます。」

「だろうな。次はその辺りを改善しよう。」

和也がコーヒーを飲みながら、リチャードとの会話に割り込む。

「アレックスはいつも冷静だな。それでいて的確だ。」

リチャードは苦笑しながら答えた。

「性格だな。感情を表に出さないタイプだ。でも、それが頼りになる。」


しばらくすると、榊原美咲がサラダを手に休憩スペースにやってきた。彼女は軽く挨拶をしながら、隣の椅子に腰を下ろした。

「ナオミもお疲れ様。今日はよく頑張ったわね。」

彼女の機体から、ナオミの元気な声が聞こえる。

「ありがとう、お母さん!お母さんの指示が的確だったから、私も動きやすかったよ!」

美咲はナオミの言葉に優しく微笑む。

「あなたの素早い判断がなければ、私はあの場面を乗り切れなかったわ。本当に助かった。」

ナオミが少し照れくさそうに笑う声が響く。

「えへへ、お母さんに褒められると嬉しいな!」


休憩スペースが賑やかになる中、エンジェルパック同士の声が響き始めた。

「リオ、今日は波動砲のタイミングが絶妙だったね!」

ナオミがリオに話しかけると、リオは少し誇らしげな声で応えた。

「ありがとう!でも、お母さんのナオミの動きもすごく速かったよ!」

「アレックス、君もよく頑張ったね。でも、もう少し表情に出してみたら?」

ナオミの言葉に、アレックスは淡々と答える。

「私の任務は的確な情報を提供することだ。感情表現は必要ではない。」

そのやり取りに、パイロットたちが微笑みを浮かべる。

「ナオミが言う通り、少し柔らかくなった方がいいかもしれないな。」

リチャードが冗談交じりに言うと、アレックスは一瞬だけ沈黙した後、低く返事をした。

「検討する。」


パイロットたちはそれぞれの軽食を終えつつ、次の訓練について話し合い始めた。

「次はチーム間での連携が課題だな。」

和也が話を切り出すと、リチャードが頷いた。

「その通りだ。個々の動きは十分だが、チームとしてのまとまりがまだ甘い。」

「ナオミと私は、もっと素早く意思疎通できるようにするわ。」

美咲が力強く答えると、リオも意気込んだ声を上げた。

「お父さん、次はもっともっと頑張るから!」

「頼むぞ、リオ。」

和也は笑顔でリオに応えた。


軽食を終えたパイロットたちは、それぞれの機体に向かいながら、再び集中した表情に戻っていった。

「よし、次はもっといい結果を出すぞ。」

和也の言葉にリオが元気よく応える。

「うん!お父さん、頑張ろうね!」

パイロットたちの声が格納庫に響き渡る中、エンジェルパックと共に次の訓練へと向かっていく。それぞれの絆が、次第に強まっていくのを感じながら。


宇宙ステーション"アルビオンステーション"のメンテナンス区画。ここはRシリーズ戦闘機の調整やエンジェルパックの生体部分のメンテナンスが行われる場所だ。広い作業エリアには無数の機器やケーブルが張り巡らされ、整備士たちが黙々と作業に取り組んでいる。

Team / ゼロのパイロットたちは、それぞれのエンジェルパックのメンテナンスが行われる間、機体のそばで過ごしていた。メンテナンス中でもエンジェルパックとのコミュニケーションが可能なため、休息と雑談が自然に始まる。


片桐和也は自分の機体のそばに腰を下ろし、点検を進める整備士たちを見守っていた。その目線は自然と機体の中央部、リオが繋がれているコア部分に向けられる。

「リオ、体の調子はどうだ?」

「大丈夫だよ!お父さん、心配しすぎ!」

リオの明るい声がコアから響き、和也は思わず笑みをこぼした。

「そうか。だが、こうして定期的にメンテナンスをしてもらうのは重要だ。お前が万全でいないと、俺も戦えないからな。」

「お父さんのためなら、私、いつでも元気でいるよ!」

和也はリオの言葉に頷きながら、隣で機体を見上げている整備士のジョン・カーターに目を向けた。

「ジョン、リオの状態はどうだ?」

ジョンはスパナを回しながら振り返る。

「問題なしだ。いつも通り元気いっぱいだな。ただ、次の戦闘の準備としてエネルギー伝達系統を少し調整する必要がある。」

「頼むよ。お前がいれば安心だ。」

「任せとけ。」

ジョンが軽く手を振り、再び作業に戻ると、和也は再びリオに話しかけた。

「ジョンも頼りにしてるからな。安心してメンテナンスを受けろ。」

「うん!お父さんも少し休んでね!」


少し離れた場所では、榊原美咲がナオミのメンテナンスを見守っていた。ナオミのコアが淡い光を放ちながら、微かな音を立てている。

「ナオミ、どう?特に変わったところはない?」

「全然平気だよ、お母さん。さっきの戦闘訓練でちょっと疲れたけど、もう元気!」

美咲は微笑みながらナオミのコアに近づき、そっと触れるように手を添えた。

「訓練、お疲れさま。あなたが頑張ってくれたおかげで、いい成績が出せたわ。」

ナオミの声が少し照れくさそうに響く。

「えへへ、お母さんが上手に操縦してくれたからだよ!」

そのやり取りを聞いていた整備士が笑いながら口を挟む。

「ナオミはいつも元気ですね。こっちまで元気をもらえる気がしますよ。」

「ありがとう!でも、お母さんがいないと私、ただの怠け者かも。」

「そんなことないわ。」

美咲が軽く微笑むと、ナオミの光が少しだけ強まったように見えた。


リチャード・カーティスは、いつもの冷静な表情のまま、アレックスのメンテナンスが進むのを見守っていた。彼の機体は他のものよりもシンプルで効率的な設計がされており、それがリチャード自身の性格を反映しているようだった。

「アレックス、何か感じたことはあるか?」

「特に異常はありません。ただ、戦闘中のエネルギー消費が予想よりも多かったため、次回に備えて調整が必要です。」

「なるほど。整備士にはその点を伝えておく。だが、お前自身は問題ないんだな?」

「はい。私はいつでも戦闘可能です。」

リチャードは短く頷き、機体の表面を撫でた。

「お前はよくやっている。その調子で頼む。」

「了解しました。」

そのやり取りを聞いていた隣のパイロットが、少し笑いながら声をかける。

「リチャード、アレックスは相変わらずだな。もっと感情を出すように教育したらどうだ?」

「これでいい。無駄がない。」

リチャードの冷静な答えに、周囲が小さな笑い声を上げる。


メンテナンスが完了し、整備士たちが作業を終えた報告をそれぞれのパイロットに届ける。

「全機、異常なし。次の戦闘に備えられます。」

その言葉に、和也が立ち上がり、リオに声をかけた。

「リオ、終わったぞ。調子はどうだ?」

「ばっちり!お父さん、ありがとう!」

「よし、それじゃあ少し休憩しよう。」

他のパイロットたちも同じようにエンジェルパックと会話を交わしながら、それぞれのリラックスした時間を楽しむ。エンジェルパックたちの元気な声が、格納庫の空気を穏やかにしていた。


メンテナンス中の穏やかなひととき。それは、過酷な戦闘の日々の中で、パイロットとエンジェルパックの絆を再確認する重要な時間だった。


宇宙ステーション"アルビオンステーション"に夜が訪れる。とはいえ、窓の外に広がるのは絶え間なく輝く星々と宇宙の暗闇だけだ。時間の感覚を失いそうになる静寂の中、Team / ゼロの訓練エリアでは最後のシミュレーション訓練が終了し、メンバーたちは疲れた体を引きずるように格納庫へと戻ってきた。


片桐和也は重い足取りで自分の機体のそばに向かう。R-9Eの中央部にあるエンジェルパックのコアがわずかに輝き、リオの声がスピーカーから聞こえてきた。

「お父さん、お疲れ様!今日も頑張ったね!」

その明るい声に、和也は疲労を忘れるように微笑んだ。

「リオもよく頑張ったな。あの最後の敵影を読んでくれたおかげで助かったよ。」

「えへへ、お父さんが上手に動いてくれたからだよ!」

和也はヘルメットを外し、機体のそばに腰を下ろした。

「まぁ、今日はこれで終わりだ。ゆっくり休もう。」


少し離れた場所では、リチャード・カーティスが自分のR-9A3を見上げながらアレックスと会話をしていた。

「アレックス、今日の訓練で気づいたことはあるか?」

「はい、いくつかの場面で敵影の追尾速度に遅れがありました。次回の戦闘では、その部分を改善する必要があります。」

リチャードは頷き、低い声で答えた。

「了解だ。お前の判断はいつも的確だな。次回までに修正しておこう。」

「お父さんこそ、体を休めてください。疲労は反応速度に影響します。」

リチャードは微かに笑みを浮かべた。

「忠告ありがとう。しっかり休む。」

一方で、榊原美咲は自分のR-11Bのそばでナオミに話しかけていた。

「ナオミ、今日はお疲れさま。何か気になることはある?」

「ううん、大丈夫!お母さんの指示が分かりやすかったから、私も動きやすかったよ!」

美咲はコアに触れながら静かに笑った。

「それなら良かったわ。次も頼むわね。」

「うん!お母さん、ゆっくり休んでね!」


格納庫の照明が徐々に落ち着いた色合いに変わり、作業員たちも次々と退室していった。パイロットたちはそれぞれのエンジェルパックとの静かな会話を楽しむ時間を持っていた。

「リオ、今日の訓練で感じたことを教えてくれ。」

和也が改めて尋ねると、リオが少しだけ考え込むように答えた。

「うーん、あの速い敵影をもう少し早く感知できれば、もっとスムーズに行けたかも。でも、お父さんが最後まで頑張ってくれたから、結果的には大成功だよ!」

「そうか。次回はその辺りを意識してみような。」

「うん!お父さんと一緒なら、何でもできる気がする!」

和也はその言葉に微笑み、目を閉じて深呼吸した。


数分後、リチャードが全員に声をかけた。

「おい、みんな。今日の訓練の反省点を共有しよう。」

パイロットたちは自然と一箇所に集まり、簡単なミーティングを始めた。

「私とナオミは、途中で追尾ミスがあったわ。でも、その後の修正は早かった。」

美咲が報告すると、リオがすかさず反応した。

「私たちも、最後の敵影をもっと早く見つけられたら、もっとスコアが上がったと思う!」

「全体的には悪くない成績だったが、まだ改善の余地がある。」

リチャードが総括し、全員が頷いた。


ミーティングが終わり、パイロットたちはそれぞれの機体に戻っていった。和也は再びリオに向かって声をかける。

「今日はよくやったな、リオ。」

「ありがとう、お父さん!お父さんもゆっくり休んでね。」

「お前もだ。おやすみ。」

「おやすみなさい!」

格納庫の静けさが戻る中、パイロットたちはそれぞれの宿舎へと向かった。星々が静かに輝く宇宙の闇が、次なる訓練の日を待っていた。


翌日の昼、Team / ゼロのメンバーたちは格納庫内の休憩スペースに集まっていた。訓練と整備がひと段落し、次のミーティングまでの合間に、それぞれが軽食を摂りながらリラックスしている。


片桐和也はコーヒーを片手に、隣に座ったリチャード・カーティスと話をしていた。二人の視線は、それぞれの機体に向けられている。

「リチャード、お前のアレックスはいつも冷静で的確だな。羨ましいくらいだよ。」

和也の言葉に、リチャードは苦笑を浮かべながら答えた。

「アレックスは確かに優秀だが、感情表現に乏しい。それはそれで難しい面もある。」

「そうか?うちのリオは感情が豊かすぎて、時々訓練中に話が脱線するくらいだぞ。」

リチャードが眉をひそめ、興味深そうに尋ねた。

「具体的には?」

「例えば、敵影を追っている最中に、突然『お父さん、今日の晩ご飯何?』って聞いてくる。」

その言葉にリチャードは吹き出しそうになりながらコーヒーを口に運んだ。

「それはそれで面白いな。アレックスがそんなことを言ったら驚くだろう。」


少し離れたテーブルでは、榊原美咲がナオミとのやり取りについて語っていた。

「ナオミは、私にとって理想的なパートナーね。感情表現が豊かで、私の動きにすぐ対応してくれる。」

その話を聞いていた和也が口を挟む。

「ナオミもリオに似てるな。感情があると、コミュニケーションが取りやすい。」

美咲は微笑みながら頷いた。

「そうね。でも、時々彼女が私を気遣いすぎて、逆に自分の動きが鈍ることがあるわ。」

「それは確かに難しいな。リオも似たようなところがある。」


別の席では、南米出身のルイス・マルケスとアフリカ出身のアマンダ・ンゴジが話していた。

「お前たちのエンジェルパック、どうなんだ?」

ルイスが尋ねると、アマンダは腕を組みながら答えた。

「私の『エシェル』は、とても慎重で冷静。どちらかというとリチャードのアレックスに近いわね。」

「へえ、うちの『カルロス』はどちらかというとナオミやリオ寄りだな。陽気で、時々ふざけるんだ。」

アマンダが少し笑みを浮かべながら尋ねた。

「それで困ることはないの?」

「たまにな。例えば、訓練中に自分のジョークを挟むから、集中を切らされることがある。でも、それが逆にリラックスに繋がる時もあるんだ。」


エンジェルパックたちが遠隔での通信機能を用いて、互いに会話を始める。

「リオ、昨日の訓練、いい動きだったね!」

ナオミが声をかけると、リオが元気よく答えた。

「ありがとう!ナオミのスピードもすごかったよ!」

アレックスが少し間を置いて口を挟む。

「昨日の訓練では、全体的に効率が良かった。だが、ナオミの左旋回のタイミングに修正の余地がある。」

ナオミが少しむくれたような声で返す。

「それは分かってるよ。でも、指摘が厳しいなあ。」

「事実を述べただけだ。」

そのやり取りに、カルロスが割って入った。

「アレックス、たまにはもう少し優しくしてみたらどうだ?俺たち、仲間だろ?」

「検討する。」

その短い返答に、ルイスが大笑いする。

「やっぱりアレックスはいつも通りだな!」


軽食を終えたパイロットたちは、それぞれのエンジェルパックの個性を確認し合いながら、チーム全体の連携について話し合った。

「それぞれ個性は違うけど、そこがチームの強みだな。」

リチャードがそう言うと、和也が頷いた。

「その通りだ。個性を活かしつつ、連携を高めていけば、どんな敵にも対抗できる。」

美咲が最後に一言加えた。

「これからもお互いの強みを認め合いながら、戦い抜きましょう。」

パイロットたちは全員が頷き、それぞれのエンジェルパックに視線を向けた。

「リオ、これからも頼むぞ。」

「うん!お父さん、任せて!」

その日の格納庫には、彼らの結束と信頼の光が満ちていた。


Team / ゼロのパイロットたちは、格納庫の一角に設けられた作戦会議室に集まっていた。その日の訓練テーマは「エンジェルパックとの意識共有の向上」。既に何度も行ってきた演習だが、戦闘の複雑化に伴い、この連携能力を磨くことが必要不可欠だった。


訓練を終えたパイロットたちは、それぞれの成果や課題について話し合っていた。

片桐和也が最初に口を開く。

「リオとの意識共有は以前よりスムーズになってきたが、まだタイミングにズレを感じる場面がある。」

リオがスピーカーを通じて明るい声で応える。

「お父さん、私もそれ感じた!でも、少しずつ良くなってるよね!」

和也は微笑みながら頷いた。

「確かに、リオのおかげで危機を回避できた場面も多かった。もっと互いの反応を意識しよう。」


リチャード・カーティスは腕を組みながら、冷静にアレックスとの意識共有について述べた。

「アレックスとの共有は極めて正確だ。だが、その分、感情的な要素が欠けているように感じる。」

アレックスの冷静な声がすぐに応答する。

「私の役割は正確な情報の伝達と分析であり、感情的な要素は任務に必須ではありません。」

リチャードは小さく息をつきながら返した。

「その通りだが、時には直感的な判断も必要だ。そこを補うために、もう少し柔軟さを考えてみてくれ。」

「了解しました。」


榊原美咲は、自分の机に寄りかかりながらナオミとのやり取りを振り返っていた。

「ナオミとの意識共有は感覚的にとても自然。ただ、私が強く集中すると、ナオミにその負担が伝わりすぎるのが課題ね。」

ナオミがすかさず返事をする。

「お母さん、私、大丈夫!でも、ちょっと疲れちゃうときもあるかも。」

美咲は優しく笑いながら答えた。

「それが問題なのよ。私がもう少し気を配れば、あなたの負担を減らせるはず。」

「でも、お母さんと一緒にいると安心するから、平気だよ!」


南米出身のルイス・マルケスは、陽気な笑みを浮かべながらカルロスとのやり取りを語っていた。

「カルロスとの意識共有はいつも楽しいよ。だけど、たまにジョークを挟んでくるから集中が途切れるんだ。」

カルロスの声が明るく響く。

「ジョークは心の潤滑油さ!ルイス、君がリラックスしている方が戦いも上手くいくんだぜ!」

ルイスは苦笑しながら肩をすくめた。

「それは分かるけど、もう少しタイミングを選んでくれよ。」

「了解。でも、たまには笑いが必要だろ?」

「それには同意する。」


ディスカッションが進む中、リチャードがふと呟いた。

「意識共有を通じて、俺たち自身の考え方が変わってきた気がする。」

和也が頷いて言葉を継ぐ。

「確かに。エンジェルパックと繋がることで、自分の行動が他者にどんな影響を与えるかを、より強く意識するようになった。」

美咲もその意見に同調した。

「そうね。ナオミと繋がることで、感情の波がどれだけ大きな影響を及ぼすか実感しているわ。」

ナオミが控えめに付け加える。

「お母さんが穏やかだと、私もすごく落ち着くよ。」

その言葉に全員が笑顔を見せた。


会議の最後に、科学班長のリチャード・フリーマン博士が口を開いた。

「君たちの意識共有の進歩は素晴らしい。しかし、戦闘はさらに複雑化する可能性が高い。次の訓練では、複数のエンジェルパック同士がデータを共有するシナリオを試してみる。」

リチャードが驚いた表情を見せる。

「つまり、俺たちのエンジェルパック同士が繋がるのか?」

「その通りだ。エンジェルパックは単独で優秀だが、チームとして機能すればさらに強力な力を発揮するはずだ。」

和也が力強く答えた。

「それは面白そうだな。リオ、準備はいいか?」

リオが元気よく応じる。

「もちろん!他のみんなとも仲良くするよ!」

ナオミも続けて声を上げた。

「私も頑張る!」


パイロットたちは新たな訓練に向けて、意識を高めながら会議室を後にした。それぞれのエンジェルパックとの絆を胸に、彼らはさらなる成長を目指して進み続ける。


夜の格納庫は、静寂と微かな機械音に包まれていた。作業が一段落し、整備士たちも退室した後、パイロットたちはそれぞれのエンジェルパックと対話する時間を持つために機体の近くに留まっていた。

片桐和也は、自分のR-9Eのそばに座り、ふと見上げた。機体の中央部に埋め込まれたエンジェルパックのコアが淡く光を放ち、リオの声がスピーカーから聞こえてきた。

「お父さん、今日はすごく頑張ったよね!お疲れ様!」

和也は軽く笑みを浮かべながら答えた。

「リオもよくやった。あの最後の場面、お前の指示がなければ危なかった。」

「えへへ、褒められると嬉しいな!」


和也は背中を椅子の背もたれに預け、少し考え込むようにしてリオに尋ねた。

「リオ、お前には夢とか願いみたいなものはあるか?」

リオは一瞬だけ黙り込んだが、すぐに明るい声で答えた。

「夢……かあ。お父さんともっと一緒にいたい、かな。それから、いつか自分の目で外の世界を見てみたい!」

その言葉に、和也は目を細めて微笑んだ。

「外の世界か。いつか、そういう日が来るといいな。」

リオの光が少しだけ強く輝き、嬉しそうな声が響いた。

「本当?お父さん、約束だよ!」


少し離れた場所では、榊原美咲がR-11Bのコクピットの横でナオミと話をしていた。

「ナオミ、あなたがもし自由になれたら、何をしたい?」

ナオミの声は少し照れくさそうに響いた。

「うーん、お母さんと一緒にご飯を食べてみたい!それから、お母さんが好きな本を読んでみたいな。」

美咲はその答えに驚きつつも優しく微笑んだ。

「それなら、きっとできるわ。私もナオミとそういう時間を過ごしてみたい。」

「本当?お母さん、楽しみにしてるね!」


リチャード・カーティスはR-9A3の横でアレックスと静かに話していた。

「アレックス、お前には望む未来があるか?」

アレックスの声はいつものように冷静だった。

「私の使命はパイロットであるあなたを守り、戦闘を完遂することです。それ以外のことを考えたことはありません。」

リチャードは短く息をつきながら言った。

「だが、それはお前が望んだことではないだろう。お前自身が望むことを考えたことはあるか?」

アレックスは一瞬沈黙した後、低い声で答えた。

「もし私に自由が与えられるなら、一度だけ、戦場ではない平和な空を飛んでみたいと思います。」

その言葉に、リチャードは静かに頷いた。

「それはいい夢だな。いつか叶えよう。」

「期待しすぎないようにします。」

リチャードは苦笑したが、その内心にはアレックスの言葉が深く刻まれていた。


ルイス・マルケスはR-9Kのそばでカルロスの声を聞いていた。

「ルイス、俺、地球に行ってみたい!地球の海とか山とか、全部見てみたいんだ!」

ルイスはその言葉に目を丸くした。

「お前、地球を見たことがないのか?」

「うん!だから、地球の海で泳いだり、山を登ったりしたいな!」

ルイスは大きな声で笑いながら答えた。

「そりゃあいい夢だ。俺もお前と一緒に地球を巡ってみたいよ。」

「約束だぜ、ルイス!」


夜が更ける中、パイロットたちはそれぞれのエンジェルパックとの対話を終え、自然と一箇所に集まった。

「みんなのエンジェルパックも夢を持ってるみたいだな。」

和也が言うと、美咲が頷いた。

「ナオミの夢は、とてもささやかで温かいものだったわ。」

リチャードも静かに口を開いた。

「アレックスは平和な空を飛びたいと言っていた。それが叶うなら、俺も嬉しい。」

ルイスは陽気に笑いながら言った。

「カルロスは地球を見てみたいんだってさ。俺たちが戦いを終わらせれば、きっと実現できるだろう。」

パイロットたちは互いに視線を交わし、それぞれの夢が現実になる日を心に描いた。


格納庫の窓から見える星々が静かに輝いている。その光を見上げながら、和也は最後にリオに語りかけた。

「リオ、いつかお前が自由になったら、俺と一緒に地球を見に行こう。」

「本当?お父さん、絶対だよ!」

「約束だ。」

格納庫の静寂の中、その言葉が響き渡り、未来への希望を象徴するようだった。


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