
FFT_律する者たちの剣_EP:6-1
EP6-1:聖石とルカヴィ
イヴァリースの内乱は、ゴルターナ派とラーグ派の覇権争いが激化するにつれ、さらに混迷を深めていた。
その中でも、山脈の麓に位置するゴルターナ公の領地周辺には、不穏な噂が絶えない。――「ゴルターナ公が、聖石による怪物化の力を得ているらしい」と。しかも、それがルカヴィの暗黒に通じる危険な術だというのだ。
「ゴルターナ公が聖石により怪物化しつつあるらしい。近ごろ、彼の居城からは人の悲鳴が聞こえ、城の一部が異様な魔力によって歪み始めている……」
そんな話が、イヴァリース全土を駆け巡り始めた。
元々、ゴルターナ公は勇猛な指揮官として知られ、政治的にも有能だったはずだが、今は覇権への欲望が深くなり、その果てに「聖石」を手に入れた……というのが真相らしい。
この噂を耳にした各勢力は動揺し、教会の暗部や貴族の思惑が渦巻く中、ミルウーダたちはその事件にどう関わるべきかを悩んでいた。
かつて古代技術の眠る“遺跡”だった場所――今やミルウーダとウィーグラフAI(モーグリ型ロボット)、さらにメイド型AIセラフィーナが拠点として活用している。
ここには遠隔通信機能や魔銃のメンテナンス装置などが揃い、革命を再構築する上で都合がよい。何より、ウィーグラフがAIの頭脳として戦術解析を行うためのシステムが充実している。
その日、ミルウーダは天井に埋め込まれたスクリーンパネルを眺めながら、険しい表情を浮かべていた。スクリーンにはゴルターナ派の勢力図や報告書らしき文字がずらりと並んでいる。
そして、モーグリ型ロボット――ウィーグラフAIが傍らで端末を操作し、先日得た新たな情報を解析している。
「兄さん、いまさらだけど……ゴルターナ公が怪物化しているって、どれくらい信憑性あるのかな? まさか本当にルカヴィの力を手に……」
ミルウーダが声を掛けると、ウィーグラフAIは小さな耳をピコッと立て、金属的なサーボ音をきしませながら画面を見やる。
「確度は高いな。ここにある教会内部の密書や、貴族間の通信ログを見ると、ゴルターナ公が“聖石”を使い始めた形跡が濃厚だ。しかも、キュクレインとかいうルカヴィの名が記されている……」
モーグリロボの声には低いノイズが混じるが、その口調はかつてのウィーグラフそのもの。
ルカヴィとは、かつて兄自身がルカヴィ化してしまった経緯もある。――「あんな恐ろしい力をゴルターナ公が得ようとしている」と想像すれば、ミルウーダの胸がざわつくのも当然だ。
「……私、見過ごすわけにはいかないよ。ルカヴィの力は、結局は破壊と混乱しかもたらさない。兄さんがあのとき……あんな目に遭ったからこそ、放置しちゃいけない。」
そう言うミルウーダの瞳には強い意志が宿る。彼女はかつてウィーグラフがルカヴィ化し、自ら手を下すしかなかった悲劇を思い出している。今度こそ、同じ過ちを誰にも起こさせないようにしたい――その思いが彼女を突き動かす。
モーグリロボは軽く尻尾を揺らし、「ああ」と低く答える。
「……そうだな。俺も二度とルカヴィの力を見過ごす気はない。あんな暗黒を放置すれば、イヴァリースはさらなる地獄を見る。……昔の俺と同じ轍を、ゴルターナ公が踏みつつあるなら、止めなければならない。」
すると、遺跡の扉が開き、1人の男が急ぎ足で入ってきた。白い外套をまとい、やつれた表情の中年男性。その背には小さな荷物を背負っている。彼こそが今回の情報提供者の一人であり、ゴルターナ派の内情に通じた元兵士だという。
彼は深く息をつき、ミルウーダに向けて緊迫した調子で話し始める。
「ミルウーダ殿……申し上げたいことが。ゴルターナ公が、聖石により怪物化しつつあるらしい。もう城の中は異様な空気に包まれ、彼に逆らう者は“餌”にされているとか……。これ以上放置すれば、あの領地の人々が……!」
ミルウーダは聖石によるルカヴィ化の恐怖を知っているからこそ、その言葉に思わず顔を青ざめる。「餌になるなんて……ルカヴィが栄養源として人間を取り込む噂は……まさか本当に……」と動揺が走る。
傍らのウィーグラフAIは、モーグリの口パーツを震わせ、小声で舌打ち。自分自身がかつてのルカヴィ化の時に血肉を欲した感覚を微かに覚えており、ゾッとするのを感じていた。
「……ゴルターナ公を放置するわけにはいかない……。だが、ただ討つだけでは、また血の連鎖になるかもしれない。」
ミルウーダが悩んでいると、情報提供者は焦燥感を露わにする。
「しかし、このままでは領民が逃げられません。公は城に引きこもって怪物化の力を高め、手下の騎士団を配置しているとか……。教会の一部は“ゴルターナを討伐すべき”と動き始めているようですが、裏で何を企んでいるのか……」
確かに、教会が絡むと聖石の秘密を利用する可能性も高い。ミルウーダにとっては、教会が新たなルカヴィ召喚を目論んでいるリスクすら考えられる。
ウィーグラフAIが通信端末を操作し、画面に地図と軍勢配置の推定を表示する。機械的ながら熱のこもった声で、討伐作戦の要点を語り始める。
「この地点にゴルターナ公の居城がある。周囲を騎士団が取り囲み、防備は堅いはず。しかし、その内部では彼がルカヴィ化で城を支配し始めたらしい。教会も手を出しあぐねている状況だ。俺たちにできることは……」
ミルウーダは唇を噛み、「兄さん、私も参加する」と真っ直ぐロボットを見つめる。ウィーグラフAIはその意志の強さを感じ取り、ピクリと尻尾を動かした。
「わかった。なら、俺も全力でサポートする。……血を流さずに済むかどうかは微妙だが、せめてルカヴィ化の悲劇を止めるために動かねばならない。今度こそ、破壊ではなく救済のための討伐だと信じたい……」
情報提供者は、さらにミルウーダに耳打ちする形で重要な事実を打ち明ける。
「実は……今回の討伐作戦には、ベオルブの生き残り――あのラムザも参加するらしいのです。彼は“ルカヴィ討伐”に通じる鍵を握っているとか……」
思わぬ名前の登場に、ミルウーダの表情が強張る。かつて刃を交えたこともある存在だが、今は同じく“イヴァリースを救おう”とする同志かもしれない。
ウィーグラフAIも、ラムザの名を聞いて短く息を飲む(機械の身体なので本当に呼吸しているわけではないが、そんな仕草を見せる)。生前は対立もしたが、最後に命を落とす前後の記憶を辿れば、ラムザが同じくルカヴィに立ち向かう姿勢を持っていたことを知っている。
「そうか……ラムザも動くのか。奴は貴族の家柄を捨てて、ルカヴィと戦う道を選んだと聞く。あの時、俺が正しく判断していれば、もっと早く手を組めたかもしれないが……今さら言っても仕方ないな。」
モーグリロボが苦い口調で呟く。
しかし、ミルウーダは目を輝かせ、「今度会えるなら、きちんと話してみたい」と意欲を示す。もはや彼女は昔のように貴族への恨みに支配されず、新たな革命への道を歩もうとしているのだ。もしラムザが同じくルカヴィ化の悲劇を止めたいなら、協力の余地が大いにある。
「うん。私だって、敵だった頃のことを忘れたわけじゃないけど……今はそんなこと言ってる場合じゃないよね。ゴルターナ公の暴走を止めるためにも、ラムザと共に力を合わせるべきかもしれない……」
ウィーグラフAIはそんな妹を見やり、フンと一言鼻を鳴らすように耳を揺らす。
「どうでもいいが、俺も奴に“もう死んだはずのお前がなぜそこにいる”なんて言われるだろうな……この姿で出ていくのは……あまりにも滑稽だろうが……」
ミルウーダは苦笑し、「大丈夫、兄さんは兄さん。私が紹介するから」と肩を叩いて励ます。こうして、彼らはキュクレイン(ゴルターナ公)の討伐作戦に参加する大まかな方針を定めた。
遺跡のラボに戻り、セラフィーナが収集した聖石データを解析している。画面には複数の石のシンボルと、それに対応するルカヴィの名称が並んでいる。
“キュクレイン”――貪欲と飽食の化身。
“ヴェリアス”――誇りの化身(かつてのウィーグラフのルカヴィ)。
“アジョラ”――神を僭称する大いなる存在。
これらは教会が管理しているはずだったが、裏で貴族や権力者に流れている可能性が示唆されていた。
「ゴルターナ公が手にした聖石は、キュクレインと呼ばれるルカヴィを封印していたものと思われます。封印が解けつつある今、やがて彼の肉体はルカヴィに蝕まれ、完全に怪物化するでしょう。」
セラフィーナが冷静な声でそう語る。
ウィーグラフAIは短い手足を組み、「俺と同じ運命……いや、もっと強い権力を持つ分、被害が桁違いになるだろうな」と嘆息する。彼自身、ルカヴィ化した末路をよく知るだけに、その恐怖が身にしみる。
「……放っておけば、教会が介入しようとしたところで、第二第三のルカヴィが呼び覚まされるかもしれない。聖石の秘密が深まるほど、イヴァリースの闇も深まるのか……」
ミルウーダは背筋を震わせる。この世に蔓延する聖石とルカヴィの謎は、決して小さな問題ではない。彼女自身が知っている限り、世界には複数の聖石が存在し、それぞれにルカヴィが封じられている可能性があるのだ。
そのうちの一つがキュクレイン――そして今、ゴルターナ公がそれを手にし、封印を破ろうとしている。イヴァリースがさらなる戦乱に巻き込まれるのは時間の問題だった。
「……やるしかないよ。兄さん、セラフィーナ、私たちでゴルターナ公を……いや、キュクレインを止めなきゃ。」
決意を述べるミルウーダに、モーグリロボのウィーグラフAIが落ち着いた口調で返す。
「わかっている。ただし、力ずくで首を刎ねるだけじゃだめだ。ゴルターナ派の兵士だって事情がある。人間相手ではなく、ルカヴィそのものを封印・排除する手立てを考えるべきだ……」
そこにセラフィーナが加え、「封印の術式は古代遺跡に記録があるかもしれません。あるいは、同じくルカヴィと戦ったラムザ・ベオルブから情報を得るのも有効でしょう」とアドバイスをくれる。
こうして三者が知恵を出し合い、討伐作戦の大枠を固め始める。血を流さぬよう、かつルカヴィを鎮める――難易度は極めて高いが、彼らにはAIの解析や遺跡の技術がある。
実際にゴルターナ公の城へ向かう前に、彼の派遣する偵察小隊が近隣地域を徘徊しているという情報が入る。ここでミルウーダたちはまた一度“小競り合い”を余儀なくされる――いわば前哨戦だ。
彼らはルカヴィの力を手に入れたゴルターナ公の動向を探るため、各所で村人への聞き込みや物資の徴発を行い、場合によっては暴力も辞さないという。
陽動:
ミルウーダはウィーグラフAIの戦術指示を受け、村外れに潜むゴルターナ派の偵察兵を陽動する。あえて姿をチラ見せして撤退を装い、敵を森の中へ誘い込む。チャフグレネード再び:
敵が単独で追ってくるタイミングに、チャフグレネードを投げ、銃や魔法兵器を無力化。スタングレネードとの併用で短時間に敵の視界を奪う。魔銃による一点突破:
防御が整わないうちに魔銃の光弾を精密に撃ち、相手の武器を叩き落とす。大怪我を負わせず制圧する形を狙う。
結果的に、偵察兵は混乱し、情報をすべて奪われた状態で撤退または捕縛。
ウィーグラフAIはラボにいて遠隔で状況をモニタリングしながら、「そこだ、後ろから二人来る、チャフをもう一発……よし、そいつは気絶させるだけにしろ……」とリアルタイムでアドバイスを飛ばす。
ミルウーダはその指示に従い、最小限の武力行使で制圧を終える。まさに“知”を活かした革命的な戦い方だ。
偵察部隊を制圧したミルウーダが再び遺跡へ戻ると、ウィーグラフAIが分析した敵の持っていた資料をテーブルに並べている。そこにはゴルターナ公の城内の一部地図があり、ルカヴィ化に関連する不可解な文字列も記されている。
またしても聖石にまつわる暗い気配が漂い、二人の心を重くする。ミルウーダは深い息をつきながら、魔銃を床に置き、静かに兄に語りかける。
「聖石は本来、神聖なものだと思われてきたのに……こんなに闇が深いなんて。昔、兄さんも……私も……知らなかったよね。」
モーグリロボが身を乗り出し、「ああ、教会が秘匿してたわけだからな。……だが、もう隠していられない。イヴァリースに散らばる聖石すべてが、いつかルカヴィを呼び起こす危険を孕んでいる。」と応じる。
そこにセラフィーナが近づき、AI特有のメイド服を揺らしながら端末を操作。
「私が知る限り、古代ではこれら聖石を逆に『封印の器』として扱っていた記録があるようです。しかし、中世以降、教会はそれを“神聖なる宝玉”と祀る形に変えてしまいました。結果として、多くのルカヴィが解放へ向かいつつある……という見方もできます。」
三者は顔を見合わせる。封印を解かれたルカヴィが一度暴走すれば、想像を絶する被害が出ることは火を見るより明らか。ウィーグラフAIは舌打ちするようなノイズを発し、金属製の指先をカチカチ鳴らす。
「……まったく、ルカヴィ化して痛い目を見た俺から言わせれば、ただの地獄が訪れるだけだ。貴族が望むにしろ、教会が絡むにしろ、得をするのは闇の化物だけだ。」
情報は固まった。キュクレイン化しつつあるゴルターナ公を止めねばならない――それが眼下の課題。しかも、ルカヴィの力を得た公に正面から挑むのは非常に危険だが、放置すれば領内の民が苦しむ。
一方で、教会や他の貴族が事態に介入すれば、聖石を巡る覇権争いが激化して、さらに多くの血が流れるかもしれない。ミルウーダたちはどう動くか、決断を迫られている。
そこで、ウィーグラフAIはラボの端末で一枚の地図を広げ、指示を出す。
「ここだ……ゴルターナ公の城へ向かう途中にある関所を抑えれば、公の兵士が外に出るのを制限できる。城を孤立させる形で、公自身を封じるか、あるいはその間にラムザと合流するか……。どちらにせよ、一度直接交渉なり、阻止なりが必要になるだろう。」
ミルウーダは端末の地図を見つめ、眉をひそめる。たとえ孤立させたところで、ルカヴィの力を持つ公が城内の者を犠牲にしかねない。早急に“封印”もしくは“正気に戻す”手立てを講じなければ大惨事だ。
しかし、封印の術やルカヴィ対策は、ラムザも同じ道を歩んできたはず――そこで彼との再会が重要になる。
「だからこそ、ラムザと接触する必要があるんだよね。あの人はルカヴィを倒してきた実績があるし、教会の闇も知っているはず……」
そのつぶやきに、ウィーグラフAIは一瞬沈黙する。生前はラムザに対して複雑な感情を持っていたが、今はAIとして落ち着いて客観的に考えられる。
“自分がルカヴィに溺れた際、ラムザは救うために手を尽くそうとしたはずだ”――ぼんやりとそんな記憶が蘇る。
「……そうだな。会うしかない。アイツの助力を得るしか……ルカヴィへの対抗手段は限られている。もう、昔みたいに意地を張る気はない……。」
妹に向かってそう言いながら、モーグリの尻尾がわずかに揺れた。誇りを捨てたわけではないが、贖罪のためにも頭を下げる覚悟を持っている。
ミルウーダはそれを感じ取り、ほっとした表情で微笑み、「兄さんならきっと、ラムザも私たちを受け入れてくれるよ」と励ます。
作戦準備を進めていると、ミルウーダが不意に動きを止め、思い返すように瞳を伏せる。聖石はかつて兄の命を奪い、ルカヴィ化という地獄を見せた悪夢の象徴。今、ゴルターナ公が同じ道を歩むかもしれない――それに対する恐怖や怒りが混ざり合っているのだ。
「……兄さん、思い出すと胸が苦しい。あの時、聖石に取り込まれたあなたを止められなかった……。それで……私が自分の手であなたを――」
言葉が詰まり、涙が浮かびそうになる。ウィーグラフAIはメタリックな手足をぎこちなく動かし、かすれた声を出す。
「もういい……俺が過ちを犯したのは事実だし、お前はそれでも俺を救おうとしてくれた。今度は俺たちが、ゴルターナ公を……いや、ルカヴィの魔手から……一人でも多く救わねばならない。俺がそう決意したのだから、お前も堂々と胸を張れ。」
その言葉に、ミルウーダは目元をぬぐい、はっきりと頷く。
新たに力が漲るようだ。革命家として、今度こそ“殺すための戦い”ではなく、“救うための戦い”を実現する――ウィーグラフAIもそれを支える覚悟を固めているのだ。
作戦概要:
ゴルターナ公の居城近くに展開する兵力を牽制し、城を外部から孤立化。
城内で怪物化しつつあるゴルターナ公を、できる限り血を流さずに抑止する(可能ならルカヴィ封印または人間の姿へ戻す道を探る)。
ラムザと合流し、ルカヴィとの対抗手段を再確認する。
これらを最終目標に、ミルウーダたちは“ゴルターナ公討伐作戦”への参加を決める。教会や他の貴族勢力がどう動くかは不明だが、少なくとも自分たちの信念にもとづいた行動を貫きたいのだ。
ミルウーダは小さく拳を握りしめながら、ウィーグラフAIに向けて力強く言葉を告げる。
「行こう、兄さん。貴族がまたルカヴィを呼び起こすなんて、許しておけない。今は血を流さずに済むか分からないけど、私……あなたと一緒に戦うよ。必ず、ゴルターナ公を止めてみせる。」
モーグリロボが耳を立て、静かに頷く。尻尾が小さく揺れ、「俺もやるぞ……今度こそ、本当の意味で人々を守れるようになりたい……。戦いではなく、伝えることをしなければならない。だが、もし戦いが不可避なら、知恵で最小限の血で済むように導いてみせる……」
彼のロボットの瞳が赤い光を帯び、誓いのように輝く。
まさに“兄妹の新たな革命の形”が動き出した瞬間。暴力しか知らなかったウィーグラフが、今は情報と戦術を伝える役割を担い、“伝える”という革命へ向かう。贖罪の道を明確に歩み始めた今、その意志が揺るがない。
こうして、ミルウーダとウィーグラフAIは、ゴルターナ公=キュクレインの討伐作戦へ足を踏み出す。ルカヴィの力に苛まれた公を放置すれば、またしても多くの命が奪われるだろう。
聖石とルカヴィの秘密がさらに深まり、今や教会や貴族の陰謀も絡み合う深淵へ向かおうとしている。しかし、兄妹は力だけではなく、AIの知識と革命家としての誇りを武器に、血ぬられた道を変革しようと決意する。
最後にミルウーダは、遺跡の外を見つめながら唇を引き結ぶ。暗い空と遠くそびえる山脈の向こうに、ゴルターナ公の居城がある。噂によれば、城の外観さえ歪んで見えるとか――まるで怪物の巣窟だ。
「ルカヴィなんて、もう誰も苦しめさせない。あんな悲劇、あんな絶望……私が止めてみせる。」
その背後で、ウィーグラフAIが静かに尻尾を揺らし、同意を示すように小さく呟く。
「……俺も、もう後戻りはしない。この姿でも、できることがある……。聖石の力を暴走させる愚行を繰り返させないために、俺は今度こそ、贖罪の道を歩むんだ……」