
T.O.Dーちからと意思の代行者:EP8-2
EP8-2:クレメンテ老のパーティーへの招待
石畳が整然と敷き詰められた広場の中央に、年季の入った噴水が静かに湧き出していた。周囲には古い建造物が残り、かつては華やかな催しが行われていたであろう格式高い町の雰囲気を漂わせている。だが、この町も時代の波に飲まれ、今となっては落ち着いた寂れ方を見せていた。
そんな広場の片隅で、リオン・マグナスとフィリア・フィリスは少々居心地の悪い表情を浮かべていた。いつもなら陰で活動する二人が、なぜこんな場所にいるのか――その理由は、先ほど受け取った一通の招待状にあった。
「……まさか、招待されるとは思ってなかったな。俺たちがここにいることを知ってる奴なんて、限られてるはずだが……」
リオンが眉をひそめながら手元のカードを眺める。そこには流麗な筆跡で「クレメンテ老のパーティーにぜひご出席を!」という文言が書き込まれていた。差出人の名は明記されていないが、明らかにクレメンテ本人が主宰するものらしい。時間と場所まで指定されたそれは、品格と遊び心を感じさせる装飾がなされており、見た目だけなら非常に高貴な招待状だ。
「クレメンテ老という方が、この町の古参の軍事関係者であり技術屋として名を馳せている……という噂は聞いていましたが、どうやら本当のようですね。どうやら彼の催すパーティーは軍事的な意味もあるとか……」
フィリアが落ち着いた口調で推測する。その瞳にはやや緊張が走り、契約の楔を服の袖で隠しつつ、周囲を警戒していた。じつのところ、このパーティーへの招待が何を意図しているのか、二人にはまるで見当がつかない。
「どうする? あんなジジイの催しに顔を出したら、俺たちが死者であることや、運命調整者だってことがバレるかもしれない。下手な干渉は避けたいのに……」
リオンは不満げに目を細め、カードをしまいこむ。これ以上の目立つ行動は本来控えるべきだとわかっているが、しかし招待状には「ハロルドさんを通じて伝えています。面白い客を見つけた、と。ぜひお会いしたい」との余計な言葉まで添えられていた。
そう、あの天才科学者ハロルドとの思わぬ遭遇があった直後、なぜかクレメンテ老がふたりの存在を嗅ぎつけ、わざわざ“面白い客”として招いてきたのだ。無視すればそれはそれで問題が起きるかもしれないし、過度に警戒すれば逆にフォルトゥナが干渉する口実を作ることになるかもしれない。
「ハロルドさんの仲介なのだとしたら、断るのも危険かもしれませんね。彼女がどんな形でわたしたちを紹介したのかも気になります。……リオンさん、やはり出席して様子を探るしかないのでは?」
フィリアが静かに意見を述べる。彼女も過去のちょっとした情報から、クレメンテ老が技術屋や将の立場で非常に古参の人物であることを知っていたが、まさかこの時代で直接関わることになるとは思っていなかった。
リオンは歯を食いしばりつつ、「やれやれ……“面白い客”扱いか。死者の秘密を知られないようにしないといけないし、面倒だが……パーティーの場は色々な人物が集まるかもしれない。運命改変率を抑えつつ、情報を得るのも悪くない、ってところか」と渋々納得する。
「そうですね。クレメンテ老がどういう人か実際に会ってみないとわかりませんし……ハロルドさんと同じく奇抜なところがある方かもしれませんから、気を引き締めて臨みましょう」
フィリアは苦笑いしながら言葉を結ぶ。すでにこの町で、どこかしら軍事的な意味のあるパーティーの支度が行われているようで、通りには豪華な馬車などが出入りしていた。金や銀の装飾をまとった従者たちが行き来し、貴族らしき人々がきらびやかな衣装を誇示している。
「さて……問題は、俺たちがどういう立場で出席すべきかだよ。死者とか力の代行者だとか明かすわけにもいかん。どうするんだ? 招待状には名前も書かれてなかったが……」
リオンがため息をつきながら歩くと、フィリアは困ったように視線を下に向ける。「確かに……。あまり怪しい身分だと疑われるでしょうし、何より運命改変が大きくなる危険性があります。もしハロルドさんが何か余計なことを話していたら……」
「ま、俺たちが今さらごまかせるわけもないが……最低限、死んだ身ってことは隠さないとな。レンズ魔術を使って認識を誤魔化すくらいしか手がないか」
リオンは半ば諦めのように言葉を吐き、広場の時計塔を見やる。約束の時刻にはあとわずかしかない。宛先不明の招待状を拒否せずにここまで来たのだから、行くしかないと覚悟を決めるしかなかった。
――やがて、会場となる建造物が見えてきた。それはかつての王侯貴族の屋敷を思わせる巨大な館であり、入り口には衛兵のような男たちが整列している。紋章付きの旗がはためき、奥からは華やかな音楽らしい調べが微かに流れていた。どうやらすでにパーティーは始まっているようだ。
リオンとフィリアは顔を見合わせ、最後の覚悟を交わし合う。認識阻害を薄めに張りながら、招待状の提示をする形で入場しようという算段だ。そこへ、案の定、衛兵が声をかけてきた。
「ご用件は? ここはクレメンテ老が主催する大事なパーティー会場だが……その招待状は……?」
フィリアが笑顔を作り、ふわりとした雰囲気で「ええ、じつはわたしたち、クレメンテ老からお呼びを受けていまして……こちらに」とカードを見せる。衛兵はじろじろと二人を見たが、めぼしい身分証などは求めてこないようで、すんなりと通してくれた。どうやら、クレメンテ老本人が「面白い客が来るから警戒はするな」とあらかじめ伝えていたらしい。
館のホールに足を踏み入れると、真っ赤な絨毯が伸び、左右には豪奢な服装をまとった紳士淑女が行き交っている。シャンデリアが眩しいほどに照らす空間では、ワインや豪華な料理が並び、談笑や社交辞令のような会話が飛び交っていた。気品と遊び心が混じった高級感のあるパーティーだ。
そして、中央のステージには楽団が演奏をしている。優雅なバイオリンとハープ、そして笛の調べが心地よくホールを満たしていた。リオンは肩を落とす。
「やれやれ、こういう社交の場は慣れてないんだがな……あちこちから視線を感じるし、目立つのは嫌だぞ……」
「そうですね……ですが、振る舞いだけは失礼のないようにしましょう。運命改変を最小限にするためにも、無用な注目は避けたいですものね。」
フィリアが落ち着きを取り戻しながら、リオンと肩を並べる。二人は館の奥へ進み、まるで彫刻のように立ちすくむ給仕たちからグラスを受け取り、それとなく場に溶け込もうとする。
すると、唐突に賑やかな声が聞こえ、人々の話題が一箇所に集中する。見ると、年配の男性がそこここに挨拶をしながら姿を現した。その顔には皺が深く刻まれ、白髪をオールバック気味に整えているが、どこか若々しい気概を持つ雰囲気がある。貫禄と茶目っ気を併せ持つようなオーラを放つ人物――これがクレメンテ老なのだろう。
「おお、あちらがクレメンテ老だろうな。周りの人に声をかけている……」
リオンが視線を向けると、フィリアははっとしたように目を見開く。見るからに社交に慣れた風で、笑いも交えて人々と談笑しているクレメンテ老。その顔にときおり浮かぶ笑みは、何やら底知れない含みを感じさせる。
「どうやらとても明るく、面倒見が良い方のようですね。でも、ハロルドさんによれば、技術屋で最古参の将でもあるとか……軍事的な意味がきちんとあるパーティーだと言っていましたし、油断ならないかも……」
フィリアの言葉を裏付けるように、クレメンテ老は周囲の軍服を着た人物と冗談を交わし、議論が高まると茶目っ気たっぷりの笑い声をあげている。一方で、その瞳の奥には鋭い光があり、まるで相手を見透かすように会話をリードしているらしい。
「おや……あそこにいるのは、“面白いお客”さんかな? ちょいと失礼するぞ」
どこからともなく声がかかり、リオンとフィリアはハッと振り向くと、そこにはクレメンテ老本人が立っていた。背はさほど高くないが、がっしりした体躯と、皺に刻まれた貫禄が普通じゃない。軽く杖をつきながらも、瞳が優れた洞察力を宿している。
「あなたが……クレメンテ老……?」
リオンは半ば呆気に取られながらも、一応の礼を示す。フィリアも微笑を作って、「初めまして。招待状を頂いた者です。わたしたちは……」と言いかけるが、クレメンテ老は笑い混じりで手を振る。
「うむうむ、ハロルドくんから聞いとる。なんでも死んでいるのに動いている不思議な人とか、意思の代行者とか……“面白い”奴らがいると。それでワシが興味を持ってな。ま、気軽に“クレメンテじい”とでも呼んでくれんかの?」
その飄々とした言葉に、二人は内心ギョッとする。やはりハロルドがいらぬ情報を伝えているらしい。死んでいる……とまでは聞いてるのかと警戒が走るが、クレメンテ老は気さくに笑って応対するだけで、詰問してくる気配はない。
「まぁまぁ、お堅い話は後にして、楽しんでいかんか? ワシのパーティーは軍事や技術の意味もあるが、若い衆が交流する場でもあるんじゃ。お主らは“客”として来てくれたんだから、存分に味わうといい。むろん、余計な騒ぎは勘弁だがのう」
クレメンテ老の声には冗談めいた和やかさがあるが、その奥に隠された一種の迫力にリオンは気づく。死者の身がバレてもおかしくない。もしバレたら彼がどう振る舞うかわからないが、とりあえずは表面上は歓迎しているようだ。
「ありがたいお言葉です。招かれた以上、失礼のないよう努めさせていただきます」
フィリアは礼儀正しく返答する。リオンも無愛想な仕草だが、一応頭を下げる。クレメンテ老はそれを見てニヤリと笑い、「うむ、では遠慮なく会場を回るがいい。若い衆に紹介してやろうかと思ったが、今夜のパーティーは色んな技術屋や軍の方も来とるし、ワシに任せれば退屈はさせんぞ?」と誘いかけてくる。
そこへ、後ろから騒がしい足音が聞こえた。白衣がふわりとなびいて現れたのは、何とハロルドその人。「おお、クレメンテ老、さっそくあいつら見つけたの? 退屈せずにすみそうじゃん」
嫌な予感を抱えつつも、リオンとフィリアは同時にため息を吐く。まさかハロルドまでこの場にいるとは……いや、そもそもハロルドがきっかけで二人はここに呼ばれた可能性が高い。
「ふふ、死者くんたち、会いたかったわ。見てみて、クレメンテじいさんのリニューアルした兵器一覧とかも置いてあるの。こりゃ退屈しないわねぇ」
ハロルドが嫌味なくらいに楽しそうな笑みを浮かべる。その背後でクレメンテ老が慌てて、「おいおい、ハロルドくん、その“死者”って話は秘密じゃろうが……」と小声で咎めるように言う。どうやら死んでいるうんぬんの話は公開していないようだが、ハロルドが悪気なく喋りそうで怖い。
フィリアは心臓がヒヤリとするのを感じ、咄嗟に話題を変える。「あ、あの……興味深い兵器がたくさんあると伺いました。ぜひ見せていただければと思います……!」
ハロルドは「あはは、いいねぇ。そこの展示室がまるごと兵器庫みたいになってるから、一緒に行こうよ」と乗り気だ。どうやら余計な秘密を喋るつもりはなさそうだが、何をしでかすかわからない。
「わしも案内するぞ。最近の若い連中は派手ばかりで実用性に乏しい品を好むが、ワシの兵器はそうじゃないからの。軍事的な意味、技術的な意味がきちんとある。ふはは、マニアックな品だが楽しめるじゃろう?」
クレメンテ老が笑いをこぼす。リオンは内心うんざりしながらも、ここで断れば逆に不自然だろうと判断し、「わかった。案内してくれ」と短く返事をする。
かくして、二人はハロルドとクレメンテ老に連れられ、パーティーの賑わいをかすめるように奥の展示室へ向かう。途中、派手な衣装を着た貴族や豪華なドレスを身にまとった淑女が会話に夢中になっており、二人に気づく者はいない。認識阻害も多少効いているのだろう。
展示室はパーティー会場の裏手にあり、静かな照明とカーテンに囲まれていた。木製の長テーブルや金属のスタンドの上に、武具やレンズを使った兵器が並ぶ。中には実験段階の実装もあって、電磁的な火花やレンズ光がちらちらと放たれ、独特の匂いが漂っていた。
「どうだ、なかなか良い品だろう? ここにあるのはワシが開発を手掛けたものの一部。兵器開発の歴史が詰まっておる。ハロルドくんも興味を持ってくれているんだが、あいつは改造しようとするから目が離せんのだ……」
クレメンテ老が楽しそうに案内する。ハロルドは腕を組んで「んー、どれもまあまあかな。改良余地いっぱいありそう」と勝手に評価を下している。
「はあ……なるほど。最新技術やら、レンズ魔術の応用やら、いろいろ揃ってますね……」
フィリアはかがみこんで細かい回路を観察している。レンズ魔術の専門家として興味深い面もあるのか、思わず夢中になりそうだったが、ここで不用意に技術を解析すれば歴史に大きな波紋を及ぼすかもしれない。あくまで最小限に留めねば……という意識が働く。
リオンはワンウェイ・リヴを隠す形で腕を組み、できるだけ目立たないように振る舞っているが、クレメンテ老はにこにこしながら「おぬしら、いったい何者なんじゃ? ハロルドくんの言うところによると、相当面白い素性らしいが」と問いかけてきた。
「ただの旅人さ。ハロルドにちょっと手を貸しただけで、こんなパーティーに呼ばれたんだ……」
リオンがやや冷ややかに応じると、クレメンテ老は杖を軽く突きながら、「まあ、ええじゃろ。人にはそれぞれ秘密がある。ワシも無理に詮索はせん。気が向いたら教えてくれたらよいのじゃ」と気楽に笑う。
「ねえねえ、リオンくん? あなた、死んでるのにこの場にいられるって、ほんと不思議だよね。どういう仕組み? 教えてよ!」
またしてもハロルドが無遠慮に突っ込んでくる。フィリアの顔が青ざめ、「は、ハロルドさん、そういう話は……」と制止しかけるが、ハロルドは頓着ない。
クレメンテ老も面白そうに横目でリオンを観察している。運命調整者としての身分がバレるのはまずいが、どうやら既にハロルドは“大まかな”事実を掴んでいるらしい。リオンはうんざりしつつ、適当に話をそらそうとする。
「死んでるってのは比喩だ。ま、実験か何かで体がおかしくなっただけだろ……詳しく言えることはないんだ」
やんわりと拒否すると、ハロルドは「ケチー」と頬を膨らませている。クレメンテ老はふははと笑い、「まぁよいよい。いずれ話してくれればいい。いやあ、君らを呼んで正解じゃった。ハロルドくんも喜んでいるしな」と陽気にまとめてくる。
そして、老将は杖をトントンと叩き、「ところでの、今夜のメインイベントは、この後の“社交の場”じゃ。軍事的な意味、技術的な意味があるとはいえ、退屈はさせたくない。そこでハロルドくんが『面白い二人を連れていく』と言い出してな。もしよければ、わしのパーティーに参加せんか?」と言葉を投げかけてきた。
「え……パーティーって……いまのはパーティーじゃないのか?」
リオンが戸惑うと、クレメンテ老は「ふはは、これまではただの前夜祭よ。真の社交はこれからなんじゃ。わしの知人や将軍連中も多数来る予定でな。今宵、正装してくるといい。さすがにその格好では浮くだろう?」
視線をリオンの黒い戦闘服に移し、クレメンテ老は茶目っ気ある笑みを浮かべる。フィリアも同様に僧衣風の装い。二人ともパーティー服とは程遠い。
「しょうがねえな……。正装って言われても、俺たちは旅装しかないぞ……?」とリオンがぼやくと、老将は杖を振って「そこはわしの部下たちに任せろ。服の一着や二着、すぐに用意してくれるわ。まぁちっと面白い格好になるかもしれんがな」と愉快そうにウィンクする。
一方、ハロルドがにやけ顔で「いいわねぇ。ドレスアップしたあなたたち、見てみたいわ。特にリオンくんなんか、女装が似合いそうよね?」と冗談のように言い放つ。フィリアは思わず笑いを堪え、「ハハ……さすがにそれは……」と気まずそうにする。
「……おいハロルド、ふざけんな。女装ってなんの話だ……」
リオンは青筋を立てるが、クレメンテ老は「それも悪くないかもしれんのう」と合わせて笑う始末。どうやらこの老将、ただ真面目なだけでなく、かなりちゃめっ気があるらしい。
「まあまあ、心配しなくても死ぬこたぁないじゃろ。わしも若い頃は変な格好をして踊ったもんだ。お主たちが退屈せぬよう、ちょっとした出し物を用意しておるのじゃよ」
意味深な言い方に、リオンは頭を抱えたい思いで目を伏せる。フィリアが気まずいながらも、「あの、わたしたちは……本当に正装とかは遠慮したほうが……」と薄く抵抗を試みるが、クレメンテ老は「なぁに、心配せんでええ。死んだ者でも生きた者でも関係ないわ。わしが特別な服を準備させてやるから、楽しみにしておれ」と断言する。
(また厄介なことに巻き込まれそうだ……)
リオンは内心で深いため息をつき、フィリアに視線を投げる。運命改変を最小限に抑えながら、社交パーティーに参加するなど、ひと苦労もふた苦労もあるだろう。しかし、断るわけにもいかない状況だ。ここで恨まれたり疑われたりすれば、さらに大きな改変が起きる可能性がある。
結局、二人はこの誘いを受けるしかない――“クレメンテ老のパーティー”への正式な出席が決まったのだ。
「よし、それじゃあ手配してこよう。お前ら、しばし待て。案内の者を呼ぶからの。あとは飯でも食って腹ごしらえしておくのじゃ。何せ今夜は長いぞ、ふははは……」
老将の笑い声が館の廊下に響き、近くの将兵が慌てて走り寄ってくる。フィリアは苦笑しながらリオンを見つめ、「大丈夫でしょうか……」と小声でつぶやく。リオンは応える言葉も見つからず、「さあな……」と短く返すだけ。
ハロルドは「いいじゃない、面白そうだし」と余計に煽り、リオンは「くそ……」と顔を覆う。こうして二人は、思いがけずクレメンテ老の主催する社交パーティーへの招待を受けることになった。死者としての秘密を抱えたリオンと、運命を歪めないよう慎重に立ち回るフィリアが、この華やかな場で何を見、どんな出来事に巻き込まれるのか――それはまだ誰も知らない。
館の廊下から奥へと導かれる二人。案内の従者たちが彼らを部屋に通す。そこには華麗な衣装や執事が待機しているらしく、クレメンテ老が言った「面白い格好」を本当にすることになるのかもしれない。
死者の秘密を隠しながらの正装、しかも奇抜な老将の趣向が加わるとなれば、波乱は必至。リオンは腑に落ちない表情を浮かべながらも、「まぁ、やるしかないか……」と胸中で呟いた。フィリアも同じ思いで、祈るような気持ちで足を運ぶ。
こうして、リオンとフィリアの新たな試練――“クレメンテ老のパーティー”という名の社交戦が幕を開ける。陰からの仕事が主だった二人には、あまりに刺激の強い場だが、運命改変を最小限に抑えながら乗り越えねばならない。飄々とした老将と奔放な天才科学者ハロルド。さらに軍の要人や技術者たちを巻き込んで、長い夜が始まろうとしていた。