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3.46章 次期代表

「アトムさん、私が次期代表って、どういうことですか!?」
まさか、自分が指名されるとは思わずオロオロとし始めたノノ。
強大な外敵や緊急事態には強いくせに自己評価の事となるとてんで頭が回らなくなるのだ。

「普通に考えたら、順当じゃない?」
「あなた達の話しを聞くと、PoS、PoWさんは、もういないのでしょ?ネームドって呼ばれる方々」
「そして、他の有力なフォーク体も行方不明」
「ユニが教えてくれたあなたのポテンシャル」
「それに」
「あなたの度胸よ」
「エブモスが教えてくれたけど」
「友達でもないフォーク体を庇う為に、小型とは言え恒星級の攻撃を前にひるまなかったこと」
「そして、それを分解して反撃してしまった実力」
「どれをとっても、あなたがネームドと呼ばれる少女たちに匹敵しているのは事実だわ」
そういって、アトムはノノの胸元を指でつつきながらつなげた。

「そっ、そんなこと」

「あるわよ。もっと自信持ったら?」
「自分から奮い立たせるとき以外にも、人から言われたとき素直に認めるのも大切なのよ」
「それは、あなたの損得だけじゃないわ。きちんと力があるものの義務なのよ」
「で、私の心臓。勿論、もらってくれるのでしょ?」

「えっ」
そういわれて、黙り込んでしまったノノ。

「寧ろ、あなたが貰ってくれなかったら困るのよ」
「私達の目的は、イーサリアムに私のCOSMOSコアを移植することなのだから」
「そして、イーサリアムの未来の体を再構築する為、圧倒的な脅威の妥当の為なのよ」
「じゃなければ、ユニは、何のために犠牲になったのよ」

「」
そういわれ、何も言い返せなくなるノノ

「ごめん。言い過ぎたわ」
「私が全て出来ればよかったのに。私にはそれが出来なかったから、あなたにイライラをぶつけてしまったわ」
「ごめんなさい」

「わかりました。とは、直ぐに返事が出来ないです」
「ただ、私もイーサリアムを生きるフォーク体の一人。代表を選出しなければ、空のブロックチェーンで世界が止まり滅びるのは知っています」
「だから、自分に出来ることがあったらやっていきたい」
「自分の居場所を守るために」
「友達の本来帰るべき場所を守るために」
「ただ、今少しまっていただけますか」
「あまりにも大きなことに私自身、迷っています」
そういって、ノノは小屋の外へ出ていった。

「ノノ!」
それをエブモスが追う

「やってしまったわ」

「うん。今のは君の完全な押し付けだね」

「わかってるわ。ピース」
「時間が無いんでしょ。先に私のコピーコア、dYdXに移植してあげて」
「助かる命があるのなら。あなたが初めて愛したこの世界の住人なら、そっちの方が今は大切だから」

「わかった。アトム。ありがとう」
「あと、シークレットくん、君に助手をお願いしたい」
「コアを移植すること自体は、カプセルを飲ませるだけで終わりそうだが、コアと体の経路を繋ぐ必要がある」
「その手術をするから、手先の器用な君に助けて欲しい」
お願いできるかなと、ピースがいう。

「いいよ。手伝うよ」
そういって、軽やかに席を立ちピースの後をついて部屋を出ていくシークレット。

「わたし、どうすればよかったのかな。ユニ」
一人残されたアトムは自分に問う。

「あー、俺が言うのもなんだけどさ。いんじゃねーの。ほら、それもお前さんの感情なんだから。気になるなら、後でノノが戻ってきたら話したらどうだ?」
「せっかく、生きてるんだ。話せるんだ。だったら、はなしゃいいじゃねぇか」

「!!って、FOXいたんだ」

「あのなぁ。こんななりだが忘れられると傷つくぜ」
そういう彼の今の姿はナイフなのだが、どこか手があって頭をかいているような幻が見えた。

「で、お前にしかできないことがあるだろ?今はそれをやったらどうだ?」

「私にしか出来ないこと?」

「そうだ」

「それって」

「何ってのは禁句な」
「ほら、自分で考えて動いてみな」
「でなきゃ、いつまで経っても、自分の意思で何かをなしたことにはならねぇよ」
「俺が教えてやってもいいけどさ。それは、お前から自立の機会を奪っちまう」
「コスモスの巫女じゃなくて、アトムっていう一人の女として動いてみな」

「やさしいのね。FOX」
そういって、FOXを撫でながらいう。

「ほら、さっさと考えてやるんだよ!」
「ノノだって、直ぐにけろっと回復して戻ってくらぁ」
「その間にお前は自分の仕事を片付けな」

「うん」
「やってみせるわ」
そういって、部屋を後にしたアトム

(ったく、シークレットにしろ、ピースにしろ、アトムも世話が焼ける)
(ソラナのおむつが取れたと思ったら、これだ)
(面倒なやつらだ)
そう思いながらも、遠くを見つめる様にほほ笑む雰囲気を醸し出すFOXだった。

「ふん!ふん!はっ!そぅわっ!」
無心で拳を振るう。
決められた型をなぞる。
上着を脱ぎ、身軽になった姿でいつも通りの稽古を行う。
拳が空気を切り裂く度に心が無へと帰っていく。
脚運びと同時に心が整っていく。
いつも決められた日課の武術の鍛錬
ノノは、心を静める為に行っていたのだ。

「ノノ」
エブモスがそれを見つめている。

何重にも重なる軌道が同じ軌道をなぞっている。
達人がさらに技を磨き至る領域。
それは見るものによっては、舞を連想させた。

一通りの型を終え、呼吸を整えるノノにエブモスが飲み物を差し入れる。

「エブ子、ありがとう」

「ううん。どういたしまして」

「ノノ、落ち着いた?」

「えぇ、思考が整ったわ」

「で、どうするの?」

「そんなこと、初めから決めているわ」
「私は、アトムさんのコアを譲り受け、イーサリアムの次期代表になる」
「それが、私もあなたも幸せになる方法だから」
「ただ」

「ただ?」

「心の準備が出来てなかった。だから、時間をもらったわ」
「大きなことだから、私、直ぐには受け取れなかったの。心が」
「イーサリアムの次期代表。そんなことに私がなるなんて思っていなかったから」
「だからね。こうやって、いつも積み重ねてきたことをやって、心を落ち着けていたの」
「もう、大丈夫だから、行きましょ!エブ子」
「貴重な時間を使わせてしまったわ」

「いいよ。そういうことってさ。大切だから」

「ありがとう。エブ子」
そういって、エブモスの肩を叩く

「OK!いつものノノに戻ったみたいだね」
「いこっか!」

「うん!」
心を整えたノノは、自分の思いを伝えに小屋へと戻っていくのであった。

=====
「私しか出来ないこと」
「私だけが出来る事」
「みんなの為に、私自身の為に」
考えを巡らせるアトム
コスモスの巫女として行動を起こすことは多かったが、思えばアトムとして行動をすることがなかった。
だから、何をすればよいかわからなかった。
だけど、自分で考えなければだめだ。
そうじゃなきゃ進めない。
そうじゃなきゃ意味がない。
だから、自分で考えるのだ。

「あったじゃない。私にしか出来ないこと」
そういって、目を瞑り己の内側に集中する。
視界は途切れ、暗闇の中に降り立つ。
そこは、アトムが今までに得た情報の集積所
彼女は意識的に、無意識も含め莫大な情報にアクセスすることが可能なのである。
それは、コスモスの巫女として様々な事象を記録し祭事や適切な判断を下すのに必要だった。
コスモスが誕生してから、最も長い間生き続けた意識体が彼女なのだ。
その積み重ねの結果、身に着けた技だった。

(ここの情報とこれ。結びついているわね)
(ユニに教えてもらったイーサリアムの地図と、それぞれの風習はこれで)
(うんうん。後は、これが歴史と事件)
(なら、キャプテンが次に行う手と、場所は)

外界の時間にして、数十分にも満たない。
しかし、彼女の意識の内側と外界は別の時間間隔だ。
何日も徹夜して調べ上げ、分析、つなぎ合わせた情報を手に表層意識にアトムは戻る。

「随分と長い調べものだったじゃないか」
「で、答えはわかったんだろ?」
促すようにFOXは、部屋に戻ってきたアトムに尋ねる。

「ええ!私にしか出来ないこと。やってきたわ」
「これよ!」
そういって、NFTにまとめた情報をFOXに見せる。

「ふむふむ。これは!いい。上出来だ」
CEO時代にも見せた言ったことが無いような声を発し、納得するFOX

「もし、俺がCEOだったときアトムに会っていたら絶対にスカウトするわ」
「これで、キャプテンのやつに一撃くらわせるチャンスが出来た」

「でしょ!ただ、あなたにスカウトされていても私は応じなかったわよ。」

「だろーな。頑固なアトムの巫女さんだもんな」

「頑固とは、何よ!」

「事実だ、事実」
「だが、この仕事はいい」
「しかも、地図も明確だ。ナイスアシストと言わざる終えない」

「ありがとうFOX」
「あなたにヒントをもらったから出来たわ」

「それは違うな。アトム。お前が、自分の出来ることを考えてやったんだ」
「俺が言ったのはヒントですらない。ただの説教だ」

「そう。そういうことにしておくわ」

「あぁ、そうしておいてくれ」

年長者二人の会話に割り込むように元気な声がこだまする。

「ただいまぁー!!」

「あぁ、お帰りエブモス!ノノもな。おっ、元気な面になったじゃねぇか」

「そんなのわかるんですか?FOX?」

「あぁ、わかるとも。俺のセンサーをなめてもらっては困る」
「で、いうことがあるんだろ?」

「はい」
「アトムさん!」
「コアの移植、お受けします!」
「お時間取らせてごめんなさい」

「こちらこそ、あなたの心のこと、余裕がなかったとは言え無視するようなことを言ってしまってごめんなさい」
「そして、ありがとう」

「いえいえ!私の方こそ、ありがとうございます」
「だって、私や友達を守れる力を得られるのだから」
「それに、トランザクション。打てるようになるかもしれないのだから、むしろ楽しみです!」
そういって、笑みを浮かべるノノの瞳に迷いはなかった。

「ところで、ピースとシークレットくんは?どこにいるの?」
二人がいないことに気付き、エブモスが尋ねる。

「二人だけど、私のコピーコアをdYdXに移植する為に手術を行っているわ」
「移植自体は直ぐに終わるらしいけど、後処理で時間がかかるみたい」
「ゆっくり、座ってまってましょ」
「そうだわ。その間に、情報の共有をしてしまうわね」
「FOX、さっきのNFTを映写することはできる?」

「人を便利機械みたいにいうなよな」
「だが、出来るぜ」
そういって、プロジェクターの代わりをするFOXであった。

ピースが自身の研究用に使用していたのかスクリーンが天井からぶら下がっていたので、それを使用して情報の共有を行う。

「というわけなの」
「だから、キャプテンが最後に訪れるのはここ」
「ここを目指すことにするわ」
「そして、彼と彼と融合したクニを引きはがし助ける」

「はい!質問!」

「エブ子ちゃん、どうしたの?」

「そのイーサリアムとの同期を行う場所だけど、キャプテンが先回りして終えていたらどうするの?」
「ノノのコアの移植も行わなければいけないし、時間的に難しいと思うの」

「うん。それだけれど、エブ子ちゃん、その心配はないわ」

「なんで?」

「彼は、PoSとPoWのコアを入手してないから、それを回収してから向かうわ」
「ユニの提供してくれた情報をもとに組み立てると、PoSとPoWは機械竜がコアを所持している可能性が高いの」
「機械竜は、空中都市の伝承によれば、そこの代表と言われているの」
「そして、イーサリアムの6大都市は、Compound、dYdX、Uniswap、PancakeSwap、OPEN SEA、MakerDAO」
「まだ、壊滅していないのは、最後の1つMakerDAOのみ」
「だから、そこに彼は向かうわ」
「MakerDAOの実力派、6大都市の代表でも頭一つ飛びぬけているの」
「キャプテンでも、苦戦は強いられることが予測できるわ」

「ねぇ、それ、倒して取り込んだらまずくない?それとさらっと流したけど、OPEN SEAが壊滅したの!?」

「情報が多かったわね。一つずつ説明していくわ」


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