1.5-15 信託
大きな光の柱があった。
それは、天まで伸びていた。
天には、幾重にも網目の様に張り巡らされた光の筋が脈動していた。
点滅ではなく、脈動。
まるで、一つの生き物、その血管の様に。
ここは、BNBチェーン上に作られたdapps 0xLSD その更に中心部だった。
中央部には、西洋の神殿を思わせる作りの台座がある。
台座には、受け皿と思わしき石器の様な器。
台座の前では、小麦色の肌に長い白髪の5,6才と思われる子供が降り祈りを捧げていた。
切れ長の瞳に長いまつ毛。
瞳の端には、星の様な紋様が浮かび上がっていた。
子供は、シルクで作られたかのような光沢があり、真っ白な祭事用と思われるローブを身に着けている。
布地の表面には、一欠片の埃も存在しない。
そのことが、子供が特別な存在であることを示してた。
「本日のお勤め。おつかれさまです」
近くに控えていたローブを着た神官の様な男が声をかける。
「いえいえ。これも、皆さんの日々の努力の賜物です」
「だからこそ、こうして今年も、リソースを貸し与えて頂くことが出来ました」
そういった子供が手にした器は、虹色の液体で満たされていた。
「素晴らしい力です。まさに、御子のちから!」
「これで、0xLSDは安泰だ!!」
力強く唸り、子供に近付こうとするスーツ姿の筋肉質な老人
「長よ。そこまでに。御子様の力は神聖なもの」
「世俗的なものに落とし込まないで頂きたい」
すっと、間に割って入る騎士。
「な!!パラディン!貴様!わしを誰だと思っている!」
「無論。存じております。0xLSDの長よ。ただ、行き過ぎた行動は控えて頂きたい」
「御子様は、上位者と接触できる唯一無二のお方」
「この0xLSDの神聖なる存在そのであり、生命線です。その身は何物にも穢されてはならないのです」
「貴様、このわしを穢れていると申すか!」
「ええ、欲にまみれた。その顔。鏡でご覧になられたらよろしいかと」
長と呼ばれた男性がパラディンにつかみかかるも、パラディンはびくともしない。
その事が長の怒りを更にたきつける。
「二人とも、よさないか」
静かに、そしてよく通る声で神官が告げる。
「神官様」
その声には、御子に対する信仰とその前で狼藉を働く2人に対する二人への冷たさがあった。
「御子様が不安にされておられる」
「しかし!神官様!」
「パラディンもだ」
「お前も熱くなりすぎだ」
「神職たるもの、己を律しなければならない」
「そうでなければ、仕える方の信頼にも関わるのだ」
わかるな。と続けた。
「申し訳ありませんでした。神官様」
「長よ。私も熱くなりすぎ、心にもないことを言ってしまい。申し訳ない」
「いや。わしこそ。熱くなり過ぎた」
神官の一喝が効いたのか、二人は互いに己の非を認め合った。
「では、長よ。御子様が賜りしリソースの運用を頼んだぞ」
「かしこまりました。神官様」
そう言い残し、長と呼ばれた筋肉質な男性は退出した。
残されたのは、子供とパラディンと神官
「パラディン、お前も席を外してくれないか」
「御子様は疲れてらっしゃる。『リフレッシュ』が必要だ」
「かしこまりました」
そう、言い残し席を外すパラディン。
その退出を見計らい、御子が声を発した。
「ありがと!リックさん!!」
「勿体なきお言葉」
「私は、あなた様に仕える身」
「どうぞ、『リック』と呼び捨てにしてください」
「うん。リック。さっきは、ありがとう!」
そういうと子供は、ニカっとほほ笑む。
先ほどまでの神秘的な雰囲気はどこえやら。
その笑顔は、何処にでもいる元気な子供の様だった。
「さきほどとは?」
「えっ、リックが二人の間に入って止めてくれたこと!」
「みんな仲良くがいいよね」
「はい。0xLSD様のいう通りでございます」
「もうっ!そのかたっ苦しい名前やめてよね」
「しかし」
「次、二人のときにその名前で呼んだら、返事してあげないよ!」
「それは困りました」
「じゃあ、ちゃんとよんで!」
「わかりました」