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星を継ぐもの:Episode9-2
Episode9-2:騎士団の奮闘
星の海に足を踏み入れた円卓騎士団の選抜隊は、すでに幾度かの戦闘を乗り越えていた。かつて、ギネヴィアウイルスの影響で仲間同士を撃ち合う悲劇に苛まれていた騎士団。しかし今は、干渉治療を武器に仲間撃ちの恐怖を克服し、互いを完全に信頼できる体制を築いている。
見上げれば星々がゆっくりと流れる黒い天蓋、足元には鏡のように光る不思議な床。上下左右の区別があいまいなまま、隊は静かに進んでいた。先ほどまでの激戦で傷ついた者はいても、仲間を撃つ惨劇には至っていない。魔法陣と医療用の器具を駆使する神官セリナとリリィが、常に周囲の意識を落ち着かせているからだ。
ここは「小宇宙」と呼ばれる異次元空間。扉の先に待ち受けるのは未知の地形、奇妙な生物、そしてThe Orderの秘密かもしれない。その正体を探るべく、カインをはじめとする主力メンバーが集結した――モードレッド、ガウェイン、トリスタン、さらに補助の兵や整備士も同行している。
今や、かつて王都を苦しめた内輪撃ち問題は過去のものだ。干渉治療によって隊員が冷静さを保ち、幻覚や恐怖に負けても即座に回復し、仲間への銃口を向けることはない。この安定感こそが、未知の空間を踏破する原動力となっている。
隊が進む先は、巨大な渦のように回転する星雲が見え、中心部から低い唸り声のような振動が聞こえていた。その深部へ迫るにつれ、空間の法則はさらに狂い、足元の床が曲がりくねって上下に連続した壁や天井へ繋がる。重力がところどころで翻り、倒錯感が増すが、隊員たちは意外に落ち着いている。
「深いな……まるで底なしの闇だ」
ガウェインが防御フィールドを広げながら低く呟き、モードレッドが隣で銃を握りしめる。「ま、これだけ歪んでりゃ普通は仲間同士で混乱しそうなもんだが、神官がいりゃ安心ってわけだな」
隊員の一人が「もし神官たちがいなかったら、たぶん発狂して仲間を撃ってましたよ……」と苦笑混じりに言う。リリィはそれを聞き咎め、「もう撃たないでね。観測術で常に見守ってるけど、自分でも冷静を保とうとして」と笑って返す。
セリナは遠方を見ながら、「扉から離れるほど、空間の影響が大きくなるようね。次に何が起こるか分からない。皆、心して進んで」と注意を促す。だが神経質になりすぎるあまり、仲間撃ちが発生することはもはやない。干渉治療がある限り、王都で培った体制が支えてくれるからだ。
やがて星の光が流れる大河のような地形に差し掛かった。足場が半透明になり、下を覗き込むと無数の光粒が川のように流れている。まるで天上の川が逆転し、床として存在しているかのようだ。隊員は恐る恐るその上を歩いてみるが、不思議と沈まない。
「ここ、ちゃんと踏めるんだ……浮いてるみたい」
兵の一人が舌を巻き、トリスタンが「足元を見すぎると眩暈を起こす。焦らず、前を向け」と落ち着いた声で助言する。
カインは銀の小手を携えながら、「この向こう側に何か情報源があるかもしれない。皆、ついてきて。仲間への誤射なんてあり得ないから、安心して集中しよう」と励ます。
「分かりました! 絶対に仲間に銃を向けることなんてしません!」
兵たちが力強く返事する。かつての王都騎士団では、「仲間を信頼している」と口では言っても、ギネヴィアウイルスに蝕まれれば一瞬で撃ち合いへ転じた悲しい歴史がある。しかし、今は違う。干渉治療が全員の心を繋ぎ止めているのだ。
一方、リリィとセリナは、魔力を使い続けて疲労が蓄積している。敵との戦闘や歪んだ地形のストレスで、誰かが恐怖の発作を起こすたびに干渉しなければならないからだ。
「はあ……。でも、みんなが仲間を撃たない姿を見ると、頑張り甲斐があるわね」
リリィが息を整えながら微笑む。セリナは気丈に「ええ、大丈夫よ。疲れても仲間を救うための術式だから。私たちがいなくなったら、せっかく築いた騎士団の結束が崩れるかもしれないもの」と言う。
かつて神官組織は、王国の政治構造や内政との兼ね合いで分裂しかけたこともあった。しかしマグナス神官長の調整とエリザベスの後押しにより、純粋な研究者としての神官集団が再編され、今では仲間撃ちを完全に防ぐ仕組みを安定稼働させている。
それによって王都が再結束を果たし、ここ小宇宙へ飛び込む勇気を手にできた――二人の神官はその事実を胸に、さらに前へ進む気力を得ている。
光の水路を渡り切ろうとした瞬間、闇の反対側から複数のビームが一斉に放たれた。隊員がとっさに反応し、ガウェインが防御フィールドを広げ、「みんな下がれ!」と叫ぶ。
暗がりから姿を現したのは、まるで人型の騎士のような金属兵器だが、その動きは生々しく、有機的なうねりを伴う。頭部には複数のレンズがあり、観測光に近いビームを放ちながらこちらを制圧しようとする。
「敵か……どんな形態だろうと、仲間には撃たない!」
モードレッドが挑発的に叫び、砲火で応戦する。かつてのようにパニックが起これば狙いが乱れ、結果的に仲間を撃ち抜く可能性があった。しかし干渉治療のおかげで今は冷静だ。兵たちも、味方を間違えて撃つ不安がないからこそ落ち着いて射線を確保できる。
「狙え、味方の位置はここだ!」
セリナが通信でフォーメーション指示を送り、リリィが後衛の兵を守りながら、万一の発作を抑える体制を取る。
金属騎士たちがビームサーベルのような武装を展開し、近接戦闘を仕掛けてくるが、カインとガウェインがすかさず迎撃する。カインは銀の小手で位相干渉弾を適量撃ち込み、ガウェインが防御フィールドを調整して一瞬の隙を生む。トリスタンがそのチャンスを的確に狙ってヘッドショットを放ち、モードレッドが横合いから一斉射で残った敵を薙ぎ払う。
かつて「仲間撃ち」を恐れてできなかった大胆な連携が、ここでは軽やかに繰り出されている。もう誰も味方に銃口を向ける心配などしないからだ。
激しい火花と衝撃音が響く中、カインはかすかに笑みを浮かべる。隊員同士が見事な連携を発揮し、敵を圧倒している。もしここで誰かが味方を撃ちそうになっても、即座に干渉治療が働くため、混乱に陥ることはない。実際、何度か幻覚に怯えかけた兵もいたが、セリナが施術を行うことで落ち着きを取り戻している。
「やっぱり、内部崩壊がないって最高だな。敵に集中して戦えるなんて……昔じゃ考えられなかった」
モードレッドが背中の汗を拭いつつ、半ば感慨深そうに言うと、ガウェインが短く答える。「同感だ。これだけ連戦しても、仲間同士が乱れないんだからありがたい。かつての苦しみがウソみたいだ」
金属騎士たちは最終的に崩壊し、星くずのようになって闇に溶けていく。トリスタンが周囲を警戒し、カインが「よし、敵は片付いた……無事か?」と皆を見回す。
「ええ、みんな怪我こそあれど、仲間を誤って撃つ事態にはならずに済みました」
リリィが胸をなで下ろし、セリナが小さく息を吐く。「干渉治療の魔力は消耗してきたけど、まだ大丈夫。あと何度か襲撃があっても、味方を撃つ心配はありません」
隊員たちが互いの無事を祝し合う。この光景こそ、仲間撃ちを克服した騎士団の象徴そのものと言えるだろう。
そんな戦闘を乗り越え、さらに奥へ進むと、廃墟の一角に大きな門のような構造が浮かび上がる。半円形のアーチが闇に溶けながら光を放ち、そこだけ空間が安定しているようにも見える。
「ここは……何だ? 異次元の関門みたいに見えるが」
トリスタンがスコープで観察し、モードレッドが「試しに近づいてみるか。もう仲間を撃つリスクはないし、怖がる理由もない」と鼻で笑う。
ガウェインは防御フィールドを最適化しながら言う。「突入するかどうかは、神官やカインの判断に従おう。俺たちの仕事は敵を撃破することと、仲間を撃たないことだ」
カインは慎重にアーチの足元へ近づきながら、神官たちを振り返る。「セリナ、リリィ、観測してもらえる? もしこの門が別の領域へ繋がるなら、また危険があるかもしれない」
セリナとリリィが頷き、干渉治療の端末とは別の観測装置を取り出す。「ちょっと魔力を流してみるわ……。仲間同士の撃ち合いは問題ないにしても、ここの空間が暴走すれば隊自体が危険よね」
二人が魔力を通すと、門がかすかに震え、薄青い光が波紋を描く。そこに不思議な文字が浮かび上がり、何か古代の言葉を示しているようだが、誰にも解読できない。
「敵意があるわけじゃなさそうだけど、これを通ったら別の階層へ移動するのかもしれない……」
リリィが困惑顔で言葉を探す。セリナも首を振り、「分からないけれど、先ほどの戦闘で消耗してる隊員をどうするかも悩むところね」と囁く。
ここで意見が分かれる。モードレッドやトリスタンは「この門をくぐってさらに奥へ進むべき」と考え、ガウェインは「無理は避けたい。いったん陣を整え直してからでも遅くないんじゃないか」と慎重論を唱える。
「ここで無理して大量の敵に遭遇したら、神官たちが持たないかもしれない。干渉治療の魔力消費もバカにならんだろう?」
ガウェインが冷静に指摘すると、セリナとリリィは頷きながら「確かに疲労は増している。でも、ここで引き返しても、また同じ道を戻ってくるのよ。どうせ進むなら、このまま行くのも一つの手」と一理ある意見を言う。
カインは皆の声を聞きながら、静かに思考を巡らせる。「王都に帰るだけなら、今まで得た情報では十分かもしれないが、ギネヴィアウイルスやThe Orderの根源を突き止めるには物足りない。次の段階へ進むリスクは大きいけど、仲間撃ちを克服した今なら戦闘が長引いても悲惨な内輪崩壊にはならない」
隊員数名が「行きましょうよ。ここで戻ったら、また来る手間がかかりますし、干渉治療があるからこそ長期戦も耐えられます」と前向きな意見を述べる。もう以前のような戦慄が隊員の心を支配していないのだ。
最終的に、カインが皆の意見を受け止めて結論を出す。「……分かった。門をくぐって先に進もう。これ以上無駄に戻っても、たぶんまた同じ道を来るだけだ。神官の魔力消費は確かに気になるけど、隊員が仲間同士の撃ち合いをしないなら、被害も最小限だろう」
ガウェインは苦い顔をしながら、「仕方ないな……俺は守りを強化するから、もし敵が大軍で来ても落ち着いて行こう」と同意する。モードレッドは笑みを浮かべ、「へへ、やるじゃねえか。ここまで来て引き返すのはごめんだ。仲間を信じて進むのみだな」と勢いを示す。トリスタンは無言で頷き、セリナとリリィは決意の眼差しを返す。
こうして隊は門の前に集合し、陣形を整える。闇のアーチから微かに淡い光が漏れ、向こう側へ続く別の空間を覗かせている。誰もが息を詰めるほどの緊張を感じながらも、仲間撃ちの惨劇は起きない。
カインが深呼吸し、「俺たちが乗り越えたこの空間の洗礼――敵も不可思議な地形も、どれも仲間を攻撃する恐怖よりはマシだ。何が出てこようと、互いを守り合える自信がある」と呟く。リリィが微笑み、「そうね。ここまでで十分証明されてるもの」と指先で装置を確認する。
セリナが最後に皆へ声をかける。「もしまた発作が起きても、私が即座に干渉して落ち着かせます。だから恐れずに戦いましょう。味方への銃口なんて、もう私たちには不要ですよ」
一列になり、慎重に門へ近づく。モードレッドが先頭を切ろうとするが、ガウェインが「いや、俺が防御を展開する。お前はその後ろから火力で援護しろ」と割り込む。二人が視線を交わし、トリスタンが右隣に並ぶ。
「カインは中央付近で状況把握を。セリナとリリィ、後方で干渉治療を」と自然な連携が生まれる。この隊には仲間撃ちを起こさない絶大な安定感があるからこそ、迷いなく配置を決められる。
門に差し掛かると、空間がまた歪みを大きくして星光が瞬く。隊員たちが足を踏み入れたとたん、視界が白く揺れて身体が宙に浮いたような感覚が走る。
「うわ、何だ……!?」
兵が悲鳴を上げるが、すかさずリリィが干渉術で声をかける。「大丈夫、仲間への銃を向ける必要はないわ。落ち着いて!」
すると、兵は失神しかけながらもトリガーを引かずに踏みとどまる。かつてのように味方を撃ってしまう事態は一切ない。
時間が捻じ曲がるような感覚の中で一人ひとりが門をくぐり抜け、星色の光に包まれる。カインは意識が霞む中でも、「もう仲間撃ちにはならない……セリナたちを信じよう……」と心で繰り返し唱える。
闇と光が混ざりあい、隊の姿が門の向こうへ溶け込むように消えていく――これが異次元空間での次なる洗礼の始まりかもしれない。
門を抜けると、空間はガラリと一変していた。先ほどの星海や廃墟に比べて、さらに高次の領域かもしれない。空は紫や紺色のグラデーションが激しく移り変わり、地面は幾何学模様のタイルが回転するように配置されている。
「ここは……また別の階層なのか? うわ、歩くたびに床が動いてるような……」
モードレッドが驚きながら足を踏みしめる。だが、まるで磁力が働いているかのように重力が保たれており、ひっくり返る心配はなさそうだ。
「みんな、無事……?」
カインが周囲を見渡すと、隊員たちがそれぞれの位置で息を整えている。リリィが「はい、こちらも問題ありません。仲間同士で撃ち合うような事態はまったくありません」と笑みを返し、セリナも「ただし、魔力の消耗は加速しそうね……」と少し疲労を滲ませる。
ガウェインはフィールドを調整して部下を守り、トリスタンが狙撃の準備を続ける。モードレッドは火器の点検をしながら「いつでも敵を迎え撃てる」と自信たっぷりだ。
「干渉治療さえ維持できれば、俺たちは仲間同士の混乱で崩壊しない。怖いのは外部の敵だけだ」と彼は言い切る。かつての荒々しさが柔らいでいるのは、仲間撃ちの可能性がない安定感ゆえだろう。
不意に、誰かの声が聞こえた気がして、隊員が周囲を見回す。「い、今の……何だ?」
空中からかすかに響く囁き声。まるで人の言葉のようだが、何を言っているのか分からない。カインは耳を澄ましてもはっきりしないが、心の奥でアリスのイメージが浮かぶ。
「もしかして、ここでアリスの意識と繋がってる……?」
そう感じて足を止めるが、セリナが首を振る。「分からない……でも、もしこれがギネヴィアウイルスの幻聴なら仲間撃ちにつながる恐れがある。幸い、私たちが干渉できるから大丈夫だけど……用心して」
隊員たちが慎重な面持ちで周囲を見回す。しかし、声の正体は依然として謎。やや不気味な沈黙が漂う中、モードレッドが小さく舌打ちする。「くそっ、ここには何が住んでるんだ。さっきみたいに敵が来るなら来いってんだ。仲間同士で撃ち合いなんかもう起きないんだから、はっきり戦わせろよ」
ガウェインは冷たく制止する。「焦るな。今の俺たちに内輪崩壊はないが、敵が狡猾に攻めてくれば苦戦はする。落ち着いて進もう。神官の魔力も節約したい」
こうしたやり取りをしていると、自然に隊員たちの口から「昔は散々仲間を撃ち合ってしまった」「王都で誤射を繰り返して取り返しのつかない事態が起きそうだった」等の思い出が語られる。だが、今はもうその頃とは大きく異なる。
「本当に、あの頃の俺たちは地獄だった。ギネヴィアウイルスに侵され、友人を敵と見なして……。でも、干渉治療のおかげで一切撃たずに済むようになったんだ」と兵の一人がしみじみ語り、仲間が深く頷く。
リリィとセリナも、その回想を聞いて胸を温かくする。「私たち神官も、皆がここまで信頼してくれるなら頑張り甲斐があるわね。今は誰が危機に陥っても必ず助けられる自信がある」
彼らの間には強い連帯感が育まれている。この結束こそが、未知の異次元空間に挑む騎士団の原動力。もし干渉治療がなかったら、ここまで奥へ来る前に内部崩壊を起こしていたに違いない。
突如として、闇の奥から強烈な光弾が飛来し、隊員が「来たぞ……!」と叫ぶ。今度の敵は波打つ蛇のような多頭の怪物が宙を泳ぎながら、無数のビームを放っている。
「防御フィールドを強めろ!」
ガウェインが叫び、モードレッドが相手の正面に回って火力を浴びせようとする。だが敵は機敏に動き、複数の頭部がそれぞれ異なるビームを連射してくる。視界が白く染まるほどの光があちこちで爆発する。
通常なら大パニックに陥り、仲間を射撃する者が出ても不思議はないシチュエーションだ。けれど隊員たちは互いを信頼して撃ち合わない。神官がフォローしてくれるからだ。
「くそっ、三頭がこっちを狙ってる。落ち着いて……味方に弾を当てるな!」
「了解、仲間を撃つなんてあり得ない!」
隊員同士が声を掛け合いながら、ビームを巧みに避け、反撃の火力を集中する。セリナとリリィが発作を起こしかけた兵を見つけるたびに干渉術を当て、数秒もしないうちに意識を安定させるから、内輪崩壊が起こらない。
カインは銀の小手で位相干渉弾を装填し、「スキを見せろ……!」と蛇怪物の動きを読んで一気に撃ち込む。ガウェインがフィールドで防御し、モードレッドがサイドから砲撃を叩き込み、トリスタンが狙撃で頭を的確に潰す。連携攻撃が見事に決まり、怪物は絶叫を上げて崩れ落ちる。
戦闘が終わると、周囲はまた静寂に包まれ、隊員たちが重い呼吸を繰り返す。何人かは被弾して負傷し、神官の治療を受けるが、誰も仲間を撃った者はいない。隊内には惨劇の気配すらない。
「何度襲われても、仲間同士の撃ち合いが起きない……最高だな」
モードレッドが半笑いで言えば、ガウェインが「いや、当たり前のことをやっと取り戻したんだよ。昔は当たり前にできてたことさ」と言い返す。兵たちも「そうですね……王都で一度失ったものを、干渉治療でようやく取り戻した」と口々に同意する。
カインは隊の状況を把握し、疲労の度合いを測りながら、「ここから先は未知が深まるばかりだけど、仲間撃ちを完全に避けられるなら、少人数でも敵を攻略できる。……まだ行けるか?」と問う。
隊員は目を合わせて頷き、「はい、干渉治療が続く限り大丈夫です。あの恐怖はもう二度と御免ですから」と意気込む。セリナとリリィは「私たちも頑張ります」と微笑み返す。
こうして隊は、さらに深く小宇宙の奥へ向かう覚悟を新たにする。星の海や廃墟、闇の渦など、どんな異形が襲いかかってこようとも、仲間同士を撃つ最悪の結末はもう起こらない――それが騎士団の最大の強みだ。
「行こう。この先に、ギネヴィアウイルスの根源やThe Orderの支配があるかもしれない。アリスの意識と繋がる手がかりもあるはずだ」
カインが決意を言葉にすると、ガウェインやモードレッド、トリスタン、そして神官たち全員が頷き合う。かつての騎士団なら、誰かが恐怖に屈し、別の誰かを撃ち抜いて崩壊していたかもしれない。しかし今は違う。
この物語はまだ終わらない。小宇宙の洗礼は続き、さらに強大な試練が待ち受けている可能性は高い。けれど、このメンバーならきっと乗り越えてみせる。仲間撃ちを克服した自信こそが、巨大な心の支えとして機能している。
星と闇が交錯する世界で、王都の誇りを背負った精鋭たちは、強大な敵と不条理な地形に翻弄されながらも、内輪崩壊の悲劇を起こさずに前進してきた。かつての騎士団が味方同士を撃ち合っていた頃の面影は、干渉治療によって完全に取り払われ、彼らの結束は高みへと昇りつつある。
もし干渉治療がなければ、ここまでの道中で何度味方を傷つけ、心を折っていたか分からない。だが今や、仲間の背を撃つ恐怖に支配されない団結が成立し、未知の空間を切り拓く姿がある。
星雲のさらに奥へ、幾重もの激戦を潜り抜けるごとに、隊員たちの連携は磨かれる。干渉治療の魔力は有限だが、かけがえのない安心感をもたらし、仲間への疑念や恐怖を完全に排除している。
この状態を王都では「仲間撃ちを克服した」と呼んでいる。言い換えれば、彼らは外部の脅威に集中して対処できるだけの信頼関係を取り戻したのだ。それがどれほど大きなアドバンテージになるか、ここ小宇宙での戦闘が教えてくれる。
まだ道は続く。深遠な闇が待ち受ける先に、The Orderの正体やギネヴィアウイルスの源、そしてアリスが長い眠りに陥った理由までもが解けるかもしれない。隊は一瞬の休息を終え、星屑が渦巻くさらに奥の領域へ足を進めようとしていた。