
再観測:星を継ぐもの:Episode4-3
Episode4-3:小宇宙の奥へ
暗黒の虚空が広がり、視界の端には遠く点滅する星屑ともつかぬ光が浮かぶ。そこは地球の常識を逸脱した異次元空間――扉を抜けて到達した小宇宙の一角である。
前回の戦いを経て、円卓騎士団は神殿や周辺区域を制圧し、そこを拠点として後続の神官隊や技術班が入ってきている。とはいえ、ここは相変わらず重力や物理法則が不安定で、地球と同じ感覚では行動できない。王国の科学技術と魔法が融合した特別な装置や、アリスの空間安定化支援がなければ、拠点を維持するのも困難を極める。
この日、神殿の大広間――かつてスフィアを破壊し、内部防衛部隊を打ち破った場所――には仮設の制御装置や観測機器が並び、複数の研究者・神官が行き来していた。天井や壁は依然として不規則なパターンを放ち、一瞬、己が逆さになっているのではと錯覚するほどだ。
その中央に立っているのが、アーサー、ガウェイン、トリスタン、そしてカイン&アリス。騎士団の面々だ。さらにモルガンや技術班の主任ヨナスも同席し、次の作戦を協議している。
「ここまでは、皆の奮戦で防衛線を安定させ、神殿を中継地点にできた……しかし、さらに奥には“The Orderの核心”が潜んでいるかもしれない」
モルガンがスクリーンに映る地図(といっても歪んだ空間のデータ)を示す。そこには先ほど見つかった渦状ゲートが赤いマーカーで表示されており、どうやらその先こそが「真の最深部」へ繋がる可能性が高いという話だ。
「さらに奥には、いまだ正体不明の巨大領域が広がっているとの解析結果です。扉の奥の“さらに奥”……異次元の多層構造と見ても不思議じゃない」
ヨナスが難しい顔で説明を続ける。「そこは重力がさらに混乱し、観測光も暴走状態……通常の部隊では踏破不可能に近い。それこそ干渉力を操るアリスがいなければ、侵入すら厳しいでしょう」
「つまり、また我々円卓騎士団が先行するということか。いつも通り、危険を承知で深部へ行かねばならんのだな」
ガウェインが嘆息混じりに言う。トリスタンは静かにライフルを持ち直し、「不服はない。覚悟はできている」と短く応じる。
カインはちらりとアリスを見やり、苦笑してみせる。「俺たちが行くしかないさ。アリスも……大丈夫そうか?」
ホログラムで投影されるアリスの姿は少し疲弊しているが、微笑をたたえている。「ええ、今なら、私も……“さらに奥へ”行く用意がある。怖いけど、ここまで来て引き返せないよ」
それを確認したアーサーがうなずく。「よし、円卓騎士団が再びゲートへ突入し、その先に存在するとされる領域を確認しよう。上位宇宙と呼ぶべき場所かもしれないが、何としても核心に迫らねば」
「皆さん、気をつけて。内部防衛部隊の残党がいる可能性は高い。あと、時空がさらに乱れているらしいので、下手すれば帰れなくなるリスクも……」
モルガンが苦い表情で忠告する。だが、騎士団の面々に迷いはなかった。こうして、小宇宙の奥への大冒険が始まろうとしていた。
神殿の大広間から続く通路を抜けた先に、前回見つかった渦状ゲートが空間にぽっかり開いていた。周囲には無数の残骸や浮遊岩が散在し、光の帯がくるくる回っている。その中心部が淡く青紫に輝き、妙に不安定な波紋を放っていた。
アリスはコンソール越しにデータを読み取りながら、「ここまでのゲートとは比較にならないほどの波長乱れ。急いで抜ければ何とかなるけど、滞在が長引くと閉じてしまうかもしれない」と警鐘を鳴らす。
「やはりタイムリミットがあるのか。手短に攻略し、戻ってこなければ」
アーサーが唇を結び、銀の小手(カイン&アリス)、ガウェイン機、トリスタン機の三機が隊列を組む。背後には神官隊や護衛隊が一定数控えているが、ゲートそのものが不安定なため、大人数で突入するのは困難。隊長モルガンは外で待機し、状況を見ながら援軍を送る段取りだ。
「それじゃあ、行くぞ……!」
カインがマイク越しに仲間に呼びかけ、最大出力でゲートへ飛び込む。アーサーやガウェイン、トリスタンも続き、背後で火花のように光が弾ける。ゲートを潜り抜ける際の衝撃は凄まじく、機体が軋むほどの振動が伝わる。
アリスの演算力フル稼働で、何とか姿勢が保たれ、やがて視界が暗転したかと思うと――次の瞬間、まったく違う空間が目の前に広がっていた。
騎士団の視界に飛び込んできたのは、もう一つの“世界”としか思えないほどの広大な空間だった。漆黒の宙には無数の建物の残骸が浮遊し、上下が逆になった塔やドームが絡み合って、迷宮のように連なっている。
遠くを見ると、一部は光の川とも呼べそうなエネルギーラインが流れ、そこに岩塊や金属片が漂っていた。観測光を含んだ膜が、まるで空を彩るオーロラのようにも見える。
「なんだここ……まるで“天空都市”が崩れたみたいだ」
ガウェインが驚嘆する。アーサーは無言で周囲を見渡し、トリスタンは「ここでも敵が待ち伏せしてるかも。警戒を怠れない」と言う。
カインはアリスに指示を仰ぐ。「この空間、前の神殿よりもさらに複雑そうだ。干渉補正、行けるか?」
「はい、何とかやる。でも、もしこの先に上位宇宙があるなら、もっと強烈な歪みがあるかも……ごめん、限界が近いかもしれない」
アリスが少し悲しげな調子で言うのを、カインは優しく受け止める。「構わない。できる範囲でいい。お前が壊れたら元も子もないからな。無理するな」
そう誓った直後、黒い塔の影から無数の飛行兵器が一斉に飛び出し、観測光ビームを放ってきた。再び始まる激戦――内部防衛部隊の残党がここでも抵抗しているのだ。
アーサーが前進しながら剣ビームで応戦、ガウェインが盾でカバーし、トリスタンが上空から狙撃。カインは銀の小手の機動力を活かして敵中をかいくぐる。
建築物の残骸が至るところに漂い、思わぬ死角から弾が飛んでくる。騎士団は必死に陣形を整え、激しい弾幕の中を抜けて敵を各個撃破していく。失われた天空都市の幻影が、彼らの行く手を阻むかのように再三崩落や爆発を巻き起こす。
戦闘が長引くにつれ、カインはコクピットで感じる。アリスの息遣いが荒く、演算を維持するのが厳しそうだ。「アリス……息が上がってる。もう離脱したほうが……」
しかしアリスは弱々しく首を振る。「まだ……やれる。私がいなければ、ここでみんな詰んじゃうでしょ。もう少しで決着が……」
強がりを言う声が震えており、カインは胸が痛む。それでもこの戦いを乗り越えなければ、先へは進めない。敵が次々と湧いてくる限り、逃げるか、もしくはこの空間を決定的に制圧するかの二択だ。
見渡せば、ガウェインやトリスタンも被弾や消耗が顕著だ。アーサーが必死に指揮をとりながら、「もう少し耐えれば敵が減る!」と声を張る。円卓騎士団の信頼し合う絆があればこそ、まだ戦線を維持している。
「分かった……。皆を守るためにも、最後まで付き合うさ!」
カインは歯を食いしばり、銀の小手のスラスターを再噴射して敵陣を翻弄する。弾幕をかいくぐるテクニックと、アリスの細やかな干渉補正があってこそ可能な危険行動だ。
と同時に、この奥の空間には妙な“気”が漂っているのを感じる。アリスも気付いているらしく、「観測光の濃度が前よりずっと高い。恐らく、The Orderの主核やユグドラシル・モデルに関する施設が近いのかも……」とこぼす。
「ユグドラシル・モデル……やはりお前の記憶にあるキーワードだな。何とかここを乗り越えて、そいつを突き止めよう。お前の過去も含めてな」
その言葉にアリスは微笑もうとするが、また弾幕が降り注いでそれどころではない。カインは瞬発的に回避し、仲間の位置を確認する。アーサーやガウェイン、トリスタンがめいめいに近接戦や狙撃で敵を減らしており、そろそろ決着が見え始めた。
激戦を潜り抜け、さらに浮遊するビル群を崩しながら進むと、大きなアリーナ状の空間が目の前に出現した。巨大な円形の構造物が中央に宙吊りになっており、そこには半透明の床のような面積が広がっている。近づくと、どうやらそこが最後の防衛結界の中枢らしく、濃厚な観測光が渦を巻いている。
騎士団は減速し、周囲を警戒する。しかし、ここに来て敵の姿があまり見えない。不気味な静けさに包まれているのだ。アリスが「……波長反応があるけど、小さい……。まるで隠れているよう」と警告を発する。
「何か仕掛けがあるんだな。突っ込むしかないか」
アーサーが前へ踏み出し、ガウェインが盾を構えて一緒に動く。トリスタンは後方から狙撃位置を探り、カインが銀の小手でアリーナの中心部を照らすようにゆっくり飛行する。
すると、アリーナ上にぽっかりと人型の影が現れた。しかもよく見ると、人類に似たフォルムを備えており、金属的な装甲を纏いながら青白い瞳を輝かせている……?
「人間……? いや違う、The Orderの改造体か……」
ガウェインが呆然とつぶやく。そいつは無言のまま空に浮かび、騎士団に向けて右腕をかざす。その腕先から鋭いビームが放たれ、アーサーが剣ビームで辛うじて防ぐ形となる。
『何者だ……貴様、まさか“融合兵”というやつか?』
アーサーが問いかけるが、応答はない。ただし、その瞳に僅かな理性のようなものが見え、口の形がかすかに動いたように見える。「ユグ……ドラシル……守……」といった断片的な言葉を発しているらしいが、はっきりとは聞こえない。
「ユグドラシル……やはり関係があるのか……」
カインがアリスに向かって言うと、アリスは震える声で応じる。「あの人も……かつて人類だった可能性があるわ……。でも、今はThe Orderに取り込まれている……」
その融合兵は超人的なスピードで移動し、近接武器を抜いてアーサーに切りかかる。ガウェインが盾で援護するが、一瞬で背後を取られたり、信じられない体捌きでビームを反射したり、ただ者ではない。
円卓騎士団は総力戦で応じるが、一撃一撃が非常に重く、かつ観測光を巧みに使って防御・回避を行う。そのあまりの強さに、ガウェインが「なんて化物だ……!」と呻くほど。
「くっ……アリス、このままじゃ押し負ける。何か弱点はないのか?」
「わからない……でも、あの鎧に大きな綻びは見当たらない。中の人間部分がどれだけ残ってるか……」
「まさか説得できるとか……そんな甘い考えは通用しなさそうだな」
カインは苦しみつつ、キャノンを放つが、融合兵は軽々と跳躍し、観測光のバリアを形成して弾を消してしまう。アーサーが剣ビームを振るっても、紙一重で避けられたり受け流されたりするほど敏捷だ。
(なんて強敵だ。まるで人間の戦闘センスとThe Orderの力が融合してる……!)
激しい打ち合いが繰り返され、やがて融合兵が一瞬だけ隙を見せた際にガウェインが盾で押し込む形で拘束を試みる。トリスタンが背後から狙撃を狙うが、融合兵がカウンターでガウェインを弾き飛ばし、弾道をずらす。ガウェインは盾ごと宙を舞い、トリスタンのビームが外れる形となった。
そこへアーサーが剣ビームの横薙ぎを叩き込み、カインが干渉力で融合兵の動きを微かに鈍らせようとするが、依然として捕捉できない。光の残像を引きながら、融合兵は渾身の一撃をアーサーへ繰り出す――!
「やばい……!」
カインが操縦桿を引き、銀の小手が横から割って入り、干渉力で軌道をずらす。融合兵の刃が虚空を切り裂き、代わりにカイン機の肩部アーマーをかすめて火花を散らす。激しい衝撃がコクピットを揺らし、警告灯が点滅する。
「ぐっ……!」
何とか即死は免れたが、衝撃で息が上がる。アリスが弱々しく声をかける。「カイン、大丈夫? 今の一撃、すごい力だった……」
「何とかな……でも、もう……!」
ここで融合兵がさらなる力を解放したかのように、背中の装甲から幾条もの観測光翼が展開される。紫の羽のようなビームが蠢き、周囲の空間をぎらつくオーラで染め上げる。アーサーもガウェインも思わず後退し、トリスタンが苦戦して射線を取れずにいる。
「……これはまずい」
皆が本能的に感じ取る。あれが最終形態に相当するのだろう。しかし、ここで退けば“さらに奥”へは行けないし、今回の戦いも無に帰す。アリスが瀕死の意識で干渉力を高め、何とか道を作ろうと考えるが、危険が高い。
カインは決断する。アリスに無理を強いる形にはなるが、融合兵を倒すにはそれしかない。「アリス……頼む。俺たちを死なせる気がなければ、力を貸してくれ!」
アリスも迷いながら「わかった……! もう少しだけ……私も一緒に……!」と叫び、演算を最大化する。コクピットのディスプレイにエラーメッセージが連鎖するが、カインは気にせず操縦桿を握る。
「アーサー卿、ガウェインさん、トリスタンさん! 今から融合兵を干渉力で縛る……一斉攻撃を頼みます!」
通信にアーサーが「了解、カイン!」と返し、ガウェインも「盾で正面を押さえる!」と拳を固める。トリスタンは上空を取り、狙撃位置を再調整する。
銀の小手から放たれる干渉波が空気を震わせ、融合兵の周囲の観測光が一時的に乱れる。その瞬間、融合兵は動きを鈍らせ、ビームの軌道がずれる。ガウェインが盾で突進し、アーサーが剣ビームで足元を削り、トリスタンの狙撃が背面を貫こうとする。
融合兵が怒気に似たオーラを発し、観測光翼を振り回すが、カインの銀の小手が左右から再度干渉をかけ、動きを封じようとする。機体が軋み、アリスが悲鳴を上げるが必死に支える。
「はあああっ!」
アーサーが剣ビームを振り下ろし、融合兵の胸部を深く切り裂く。そこから光が噴き出し、ガウェインが盾をかざしながら相手の腕を薙ぎ払う一撃を叩き込む。トリスタンがとどめの狙撃を放ち、背部を吹き飛ばす。
融合兵は嘶くような振動を撒き散らし、最後にカインがキャノンを連続射撃で胸部コアを破壊する。凄まじい衝撃波がアリーナを駆け巡り、紫の羽が散り散りに崩落し、肉片や金属装甲が空を舞った。
「ぐっ……やったか……!」
カインが安堵すると同時に、融合兵は激しい閃光とともに消滅し、残されたのは緩やかに漂う観測光の残骸だけ。力を失ったのか、周囲の闇がほんの少し明るくなった気がする。アーサーやガウェイン、トリスタンもボロボロではあるが、立っている。
「ふう……これで本当に決着か。強敵だったな」
アーサーが息を整えながら呟く。ガウェインも盾をズシリと床に置き、「ああ……あれ以上の相手が出てきたら、こっちが限界だ」と笑う。トリスタンは黙ってライフルを下ろし、周囲を見渡すが、新たな敵の影はない。
そしてカインはコクピット内を振り向く。「アリス、どうだ……大丈夫か?」
「ごめん……ちょっと、私……意識が……」
アリスは声もままならないほど疲れている。体があったら倒れ込んでいるような状態だろう。カインは焦る。「アリス、喋らなくていい。すぐ帰ろう。これ以上は無理だ」
融合兵を倒した先には、緩やかな道が続いている。そこはおそらく、この空間の最深部、あるいは上位宇宙への直通ルートかもしれない。アーサーらは一瞬迷うが、さすがに今の状態で突き進むのは自殺行為に近い。アリスも限界、騎士団も甚大なダメージを負っている。
「……ここまでだな。ひとまず拠点に戻り、アリスを休ませよう。解析すれば、融合兵やこの領域の謎も解けるかもしれん」
アーサーが決断し、ガウェインとトリスタンも無言で賛同する。カインも安堵しつつ、アリスをできるだけ負担なく帰還させようと機体を動かす。
一行はアリーナを出て、先ほど通ってきた道を戻る。周囲はまだ不安定だが、敵の主力を倒したおかげか、散発的な攻撃しかなく、比較的スムーズに脱出できた。神殿へと戻り、そこから転送ゲートを遡って扉近くの拠点へ到着するまで、大きな戦闘はなかった。
地球側へ帰還し、扉の外へ出たころ、時刻はすでに昼を過ぎていた。艦橋や神官隊が大慌てで出迎え、「無事だったか!」「大丈夫か?」「すぐ治療を!」と声が飛び交う。何度も死線を越えてきた円卓騎士団は、それでも笑みを交わし合う。
「内部防衛部隊を倒して、融合兵まで……なんという激闘だ」
モルガンがホッと胸を撫で下ろしながら「皆、よく頑張ってくれた。これで更に深部への道が開けたわね」と言う。アーサーが「ええ、しかしアリスや私たちも限界です。しばらく休ませてほしい」と返す。
こうして小宇宙の奥での大乱戦が一段落し、円卓騎士団は傷つきながらも大きな成果を得ることになった。融合兵や崩れた天空都市――その存在証明は、世界の謎、あるいはユグドラシル・モデルの秘密へ繋がるだろう。
休息をとったカインは、夕方になってようやく簡易宿泊区画でシートに身体を沈めていた。出撃の度に死地を潜り抜けているせいか、疲労は相当重い。それでもアリスが無事でいてくれる安心感が先に立つ。
端末からアリスのホログラムが小さく映し出され、やはりかなり弱った声で「ありがとう、カイン。みんなを守れて、良かった……」と呟く。
「お前こそありがとうだよ。もし干渉力がなければ、あの融合兵には勝てなかったかもしれない。もうゆっくり休め。しばらくは大規模作戦もないだろう」
アリスはホログラムの表情を和らげ、微笑んだ。「うん……今は休む。でも、いずれまた、もっと奥へ行かなきゃならない。まだ終わりじゃないよね」
「そうだな……。あそこにあるゲートを越えれば、もっとやばい領域が広がってる気がする。The Orderの本体が待ち構えてるかも……」
重い沈黙が降りる。二人は次なる戦いを恐れながらも、避けられない運命を悟っている。最後にアリスがそっと言う。「でも、あなたとみんながいるから……私は負けないよ」
「俺も、だ。お前がいる限り負けない」
穏やかな時間がしばし流れ、アリスのホログラムが光を弱めてスリープモードに入り、カインは深い息をついて瞳を閉じる。扉を通じて小宇宙の奥に踏み込んだ冒険は、まだ序章に過ぎない。内部防衛部隊の精鋭を倒しても、さらに強大な謎や敵が潜んでいるだろう。
それでも、彼らがここまで繋いできた絆は確かな力になっている。アリスの干渉力、騎士団の連携、そして王国の支援――全てを駆使して、小宇宙の深淵へと挑む日がまた来るだろう。そこにはThe Orderの秘密や「ユグドラシル・モデル」の真相が待ち受けている。果たして世界を変える発見があるのか、それともさらなる絶望があるのか、誰にも分からない。
しかし、これだけは確かだ。騎士団は決して歩みを止めない。
激闘の果てにひとまず神殿から更なる転送ゲートを制し、融合兵を倒し、深部への扉を見出した。今は勝利の余韻を噛み締めながらも、次の闘いへ備える短い静寂が訪れる。
扉の彼方、紫色の虚空では、まだ巨大な意志が蠢いている。やがて、アリスとカインは否応なくその中心へ導かれ、世界の命運が懸かる最終幕へ向かうことになる――。