
FFT_律する者たちの剣_EP:3-1
EP3-1:アルガスとの再会
イヴァリースの大地を、北から南へ吹き抜ける晩秋の風が、枯れ葉を舞い散らせていた。
空は高く澄んでいるのに、地を渡る風には冷たさが混じる。晴れているのに肌寒い、そんな気候の変わり目を感じながら、ミルウーダは一筋の山道をゆっくりと歩いていた。
足元には低木や細い雑草が生え、先日の豪雨のせいか、まだあちこちにぬかるみが残っている。滑らないようにと気をつけながら、一歩ずつ前へ進む。
ここは王女オヴェリアを保護したのち、ミルウーダが行動の拠点にしていた町から東に数日ほど離れた山間の道。彼女は少しでも騎士団や暗殺者の追跡を避けるため、人目につきにくいルートを選んで移動していた。
それだけでなく、革命家としての情報収集もかねて、各地を転々とする必要があった。武器の調達や古い連絡先へのコンタクトなど、やるべきことは山積みだが、王女を伴ったまま動くのは危険が多い。そこでオヴェリアは一時的に安全な隠れ家へ預け、ミルウーダひとりでの行動となっていた。
「しばらく静かに過ごせると思ったけど……やっぱり、何やらきな臭いわね。」
ぼそりと呟く声は低く、警戒感を帯びている。
城下や村々で得た断片的な情報によると、ゴルターナ公がこの近辺の領地をさらに拡大すべく、部下の貴族たちに軍備を整えさせているらしい。おまけにラーグ派がそれを牽制しており、小競り合いが起こるのも時間の問題だ。
教会もまた聖石を巡る動きで暗躍しているという噂が絶えない。無論、革命家のミルウーダにとっては、どの勢力も油断ならない相手だ。
「オヴェリアを預けた隠れ家は……平気かしら。」
一人ごちつつも、ミルウーダはなるべく考えすぎないように自分に言い聞かせる。彼女が遠出している間は、信用できる仲間が王女を見守っているはずだ。今は自分の使命を果たすことが先決――情報を集め、武器を調え、王女を再び連れて旅を続けられる体制を整える。
そのために、山道を抜けて隣接する小さな町を訪れ、そこで連絡役に会う予定だった。
「……しかし、この道は閑散としてるわね。商隊も旅人も、ろくに通りかからないし。」
山道は狭く曲がりくねっており、落石や倒木が道を塞ぐ部分もある。旅人には不便極まりないルートだが、逆に言えば兵士や官憲の目をかいくぐるには格好の場所かもしれない。
風の音だけが耳に響く。まるで、この先に何かが待ち受けているとでも言わんばかりの静けさだ。
そんな不穏な空気を感じながら歩を進めていたミルウーダの頭を、ある記憶がよぎる。
――貴族主義を振りかざし、平民を徹底的に見下していた男、アルガス・サダルファス。
かつて革命軍の一戦闘員として活動していたミルウーダは、アルガスの傲慢な態度に幾度となく憤りを覚え、刃を交えたことがある。もっとも、その頃はラムザやディリータらがいたせいで、完全な決着に至らず中途半端な形で退却を余儀なくされた。
それ以来、ミルウーダにとってアルガスの名は“貴族至上主義の象徴”のように刷り込まれていた。遠くに姿を見かけるだけでも苛立ちが募る、そんな旧敵の一人である。
「……まさか、今になってあいつと会うなんてことは……ないか。」
そう思いつつも、どこか嫌な予感が拭えない。貴族同士の争いが激化する今のイヴァリースでは、どこで誰が暗躍しても不思議ではない。
革命軍が一度壊滅的状況に追い込まれた際、ミルウーダ自身も死の淵を彷徨った。その背後に、アルガスを含む貴族派の尖兵がいたという話もある。だからこそ、彼の存在が頭をかすめるだけで警戒心が高まってしまう。
とはいえ、山道を越えて町へ行くだけの旅路。そうそう都合よく(あるいは悪く)アルガスが現れるはずもない……。そう自分に言い聞かせ、少しだけ肩の力を抜く。
昼過ぎ、山道の曲がり角を超えた先に、石造りの小さな防塁跡が見えた。かつてここで戦があったのだろうか、崩れかけの塁壁や矢倉の台座が残っている。辺りには草が生い茂り、ほとんど廃墟に等しい。
しかし、その一角から煙がうっすら立ち上っているのをミルウーダは見逃さなかった。誰かが焚き火を焚いているのかもしれない。こんな場所に人がいるなんて珍しいが、ひょっとすれば野営中の旅人かもしれない。
(野盗なら厄介だけど……無視して通り過ぎる手もある。)
慎重な判断が頭をよぎるが、それと同時に奇妙な違和感も覚える。辺りに漂う空気は重苦しく、まるで誰かがこちらを待ち伏せしているような……そんな漠然とした予感だ。
ほとんど無意識に短刀に手をかけ、少しずつ防塁跡へ近づいていく。かつては胸壁だっただろう石の残骸をそっと乗り越え、崩れた階段を踏みしめる。風が吹き抜け、落ち葉がカサカサと音を立てるが、それ以外の音は感じられない。
小さな中庭のようなスペースに出たとき、そこに焚き火の痕跡が目に入った。まだ新しい灰があり、煙が上がっているが、焚き火をした当人の姿は見当たらない。いや、見当たらない、はずだった。
次の瞬間、背後から声が響いた。
「……待っていたぞ、ミルウーダ・フォルテ。」
聞き慣れた、嫌な響きの声。張り詰めた傲慢さと冷たい敵意が混じり合うその声を、ミルウーダは一瞬にして思い出した。――アルガス・サダルファス。
思わず振り返れば、そこには金髪の短髪と冷たい灰色の瞳を持つ男が立っていた。白と青を基調とした騎士装束らしき服を纏い、肩には貴族の紋章を刻んだ徽章が付いている。両腕を組み、まるで獲物を観察するかのように鋭い視線を投げかけていた。
「アルガス……まさか、あんたがここに……!」
言葉が出てこない。心臓がドクン、と強く脈打つ。
アルガスは口角を吊り上げるように不敵な笑みを浮かべ、鼻で笑う。
「久しぶりだな、革命家の小娘。いや、今はただの敗残兵か? どうせ貴族に逆らった罰で、のたれ死ぬのがお前の運命だったはずだが……まだ生きてやがったとは。」
その言葉の一つ一つが皮肉と侮蔑に満ちている。かつてと何ひとつ変わらない傲慢さ――それだけで、ミルウーダの中の怒りが静かに沸き上がった。
当時はディリータやラムザの存在に邪魔され、アルガスとの戦闘は決着がつかぬまま終わった。しかし、だからこそ因縁の火種はくすぶり続け、いつか決着をつけたいと思うほどの“旧敵”だった。
「……あなたはまだそんなことを……。ずいぶん偉そうにしてるみたいだけど、相変わらずね。」
ミルウーダが低く呟くと、アルガスの瞳がさらに冷たく光る。貴族至上主義の体現者とも言える彼の態度は、まさに“昔のまま”だ。
「当然だ。貴様ら平民は家畜に等しい。どれだけあがこうとも、貴族に逆らった時点でお前の敗北は決まっている。……かつては少し甘く見ていたが、今度こそきっちりと“処理”してやろうか?」
アルガスは手袋をはめた右手をゆっくり腰のボウガンに伸ばす。その動作一つとっても、隙のない貴族らしい騎士の立ち居振る舞いを感じさせる。かつてのアルガスは“口先だけ”とも言われたが、戦場を渡るうちに腕を上げたのかもしれない。
一方、ミルウーダはアルガスの威圧的な言葉に焦りというより、沸騰する怒りを感じ取っていた。革命家として、彼のような貴族にどれだけ平民が殺され、苦しめられたか……それを思い出すだけで血が煮えたぎる。
(落ち着け……。私は王女を救出して、“守る戦い”をするんじゃなかったのか。こんなところで無意味な殺し合いはしたくない……でも、こいつだけは……。)
激しい感情がせめぎ合う。アルガスの貴族主義が変わっていないなら、話し合いなど無駄だろう――そう頭ではわかっている。だが、今の彼がどんな立場で何をしているか、その情報はほしい。
もしゴルターナ派やラーグ派の動きに関わっているなら、王女の命を狙う勢力にも通じるかもしれない。ここで会ったのは何かの因果かもしれない、とミルウーダは思う。
アルガスはボウガンのボルトに手をかけ、矢を番えるように構える。まるで、すぐさま撃てる態勢を整えるかのようだ。
ミルウーダも警戒を解かず、短刀を抜く。そこに剣や銃を握るほどの余裕はないが、距離が近いなら短刀で戦うほうが得策だ。魔銃を使えば大きな音を立て、近くに潜む他の兵を呼び寄せる可能性があるかもしれない――状況によっては使わざるを得ないが、まずは様子見だ。
「私をここで倒す気? それが、貴族としての“気高い”行いってわけなのね。」
軽口を叩くように言うミルウーダ。アルガスは鼻を鳴らす。
「ふん、家畜のお前に説教される筋合いはない。革命だの平民救済だのと吠えたところで、所詮は無様な負け犬。それとも、またラムザやディリータを呼んで助けてもらうのか? あいにく、今度は奴らもいないようだが……?」
挑発じみた言葉に、ミルウーダの心臓がひりつく。確かにディリータやラムザの存在が絡んで、アルガスとの過去の戦いは終わった。だが、今回ラムザやディリータはここにいない。
それどころか、王女オヴェリアを守るために動いているラムザは別の場所で騎士団と衝突している可能性が高い――そう思うと、“自分は一人”という現実が重くのしかかる。
「あなたは、あの頃から少しも変わらないのね。平民を家畜扱いして、貴族としての誇りを盾に傲慢な態度を振り回す……。自分を疑ったことはないの?」
ミルウーダの問いかけに、アルガスは笑い飛ばす。
「疑う? なぜ私が疑う必要がある? 貴族は高貴なる血筋、平民はただの土くれ。生きる価値もろくにない愚民が、騎士や貴族に口答えするなど笑止千万! だからこそ、お前らは家畜なんだよ。家畜は主人に逆らえば処分される。そちらが道理だろう?」
あまりにも露骨な差別意識。その言葉が耳を刺すたび、ミルウーダは自分が歩んできた道を思い返す――革命軍の旗の下、貴族を倒すために剣を振るってきた理由がまざまざと蘇る。
そうだ、自分はこういう輩と戦っていたのだ。王女を救うために“守る戦い”を志し始めた今も、こうして目の前にいる敵が変わらないなら、やはり戦わずにはいられないのか……?
(私が“守る革命”を目指すからといって、こういう連中を放置していいわけがない……。)
怒りで拳が震えそうになるが、ミルウーダは必死に冷静さを保とうとする。むやみに殺し合いをするのは避けたい――だがアルガスは容赦なく矢を射かける構えを見せている。
視線が交錯し、次の言葉を紡ぐ前に、アルガスが口角を歪めて言い放つ。
「お前がここに来ることは、調べればわかる程度のことだった。情報屋から耳にしたのさ。“革命家崩れが武器を求めて放浪している”ってね。お前をこの場所で待ち伏せするのは、そう難しくなかった。」
「……待ち伏せ、ね。わざわざこんな荒れ果てた防塁で?」
ミルウーダの問いに、アルガスは得意げに頷く。
「我が主君が、革命の残党をできるだけ排除しておくよう命じられたのさ。お前のことが特に厄介だと耳にしてな……。そんなに目立った行動はしていないようだが、念のため潰しておくに越したことはない。」
その“主君”が誰なのか、ミルウーダは思い浮かぶ。ゴルターナ公か、ラーグ派の貴族か、あるいはその取り巻きか――いずれにしても“革命軍の残党狩り”としてアルガスが動いているのだろう。かつての戦いを思い出すと、まさに筋が通る話だ。
先に動いたのはアルガスだった。彼は構えていたボウガンを素早く狙い定め、ミルウーダの胸元へ向けて矢を放った。
シュンッという鋭い音とともに、鉄製のボルトが空を裂く。ミルウーダはすかさず横へ跳躍し、石の破片を踏みつける形で大きくステップを取る。矢はわずかに肩先をかすめ、近くの石壁に突き刺さった。
「ちっ……!」
アルガスが舌打ちする。彼もまた、ミルウーダの動きを侮ってはいないようだ。すぐに次の矢を番えようとするが、そこでミルウーダが一気に間合いを詰める。ボウガンは連射性能が低い武器だという弱点を突く作戦だ。
「あなたなんかに、今度こそ負けるわけにはいかない……!」
短刀を握った右腕に力を込め、アルガスの懐へ突っ込む。一撃でボウガンを叩き落とすことを狙うが、アルガスは巧みに身を翻し、左手で短剣を抜いて応戦する。両者の刃がギリギリの距離で交差し、火花が散った。
「貴様……! その程度の戦術で私を倒せると思うなよ!」
アルガスが嘲笑しつつ、短剣を振るう。ミルウーダは紙一重で刃を受け流し、体勢を低くしてアルガスの懐へ潜り込もうとする。だが、相手の反応は速く、短剣を逆手に切り上げて牽制してくる。
かつて暗殺者のような戦術で名を馳せていたミルウーダだが、アルガスもまた騎士としての訓練を積んできた。焦りは禁物だ。
荒れ果てた防塁の中庭で、二人は互いの得物を交わし合いながら動き回る。倒れた石柱や壊れた木箱が戦場の障害物となり、足元の不安定な土が一歩の油断を許さない。
ミルウーダは短刀を中心に、時折左手で投げナイフを織り交ぜて間合いを変える戦法を試みるが、アルガスは貴族らしく品のあるステップでかわし、反撃の短剣で襲いかかる。時折バックステップでボウガンに持ち替えようとするが、その隙をミルウーダが詰めることで射撃を封じていた。
「くっ……なかなかやるな!」
「そっちこそ、少しは腕を上げたみたいね!」
刃物が幾度となく擦れ合い、金属音が廃墟にこだまする。ミルウーダが短刀の柄をひねるようにして、アルガスの短剣を弾こうとするが、アルガスも力づくではなく、巧妙に角度を外して攻撃をいなしやすい位置を取る。
それは、かつてのアルガスよりも成長した剣技であり、貴族然とした大振りの戦い方とは違う洗練を感じさせた。あるいは、ディリータやラムザとの戦いを経て、実践的な動きを身につけたのかもしれない。
一合、二合――さらに刃を交えたその瞬間、アルガスは短剣の鍔迫り合いを利用して、急に足を使った蹴りを繰り出してきた。ミルウーダの右膝付近を打ち、バランスを崩そうという狙いだ。
咄嗟に気づいたミルウーダは片足を引いて回避しようとするが、石の破片に引っかかり、その動作がわずかに鈍る。結果、アルガスの蹴りがミルウーダの脛をかすめ、体勢が乱れた。
「はッ……甘いぞ、家畜が!」
アルガスが一気に短剣を振り下ろす。刃がミルウーダの肩を斜めに狙い、血が飛び散る未来が見えた――が、間一髪ミルウーダは逆の腕で短刀をクロスさせ、斬撃を逸らす。金属が打ち合う激しい衝撃が腕に響き、まるで骨が軋むような痛みに襲われる。
とはいえ、完全には防げなかったらしく、短剣の切っ先がミルウーダの上腕をかすめた。痛みとともに、ぬるりとした感触が走る。袖に濃い赤がじわじわと滲んでいく。
「ちっ……!」
ミルウーダが歯噛みし、後退して距離を取る。腕の傷は深刻ではないが、出血を抑えねばいずれ力が入らなくなる危険もある。すぐに短刀の柄で軽く傷口を圧迫し、止血を試みる。
アルガスはその一瞬の退避を許さないかのように、ニヤリと笑ってボウガンを再度構えようと動くが、今度はミルウーダが鋭い投げナイフを放り投げる。その軌道はアルガスの顔面をかすめ、驚いたアルガスは咄嗟に頭を低くして回避した。
「ぬう……こざかしい……!」
アルガスの眉間に怒りの皺が寄るが、その隙を利用してミルウーダも短剣を持ち直し、再度突進を試みる。負傷しているとはいえ、こうしてアグレッシブに攻めなければ逆に射抜かれるだけだ。
防塁の狭い通路を挟んでの刃の応酬。上下左右に互いがステップを踏み、石壁に背中を預ける格好になりつつも、殺意のこもった一撃が通れば即終わるという緊迫感が漂う。
攻防を繰り返す中、ミルウーダの胸中には葛藤が渦巻く。アルガスの貴族主義がこれほど変わっていないなら、ここで決着をつけることで平民の未来が一歩開けるかもしれない――そんな考えすらよぎる。
しかし同時に、最近“守る戦い”をしてきた自分が、ここでまた“殺し合い”に戻るのは矛盾なのではという疑問もある。確かにアルガスは憎い敵だが、過去の革命のように血を流せばいいというものでもないのでは……?
(いや、こんな甘い思考はやめろ! あいつは明確に私を殺す気なんだ。私もやらなければやられる。それに、奴を倒せば平民のためになるかもしれない。)
そう結論づけても、どこかに引っかかるものを感じるのは、きっとラムザや王女オヴェリアとの出会いが自分を変えたからだろう。だが、アルガスは完全に憎悪と侮蔑を向けてくる。和解も理解も不可能――ならば、戦うしかないのだ。
「アルガス、あなたは本当に何も学ばなかったのね! まだ貴族の威光に固執して、平民を見下すだけの人生? そんなものが誇りだというの……?」
苛立ちをぶつけるように問いかけるミルウーダ。アルガスは短剣を払い、冷笑を浮かべる。
「学ぶ? 馬鹿馬鹿しい。血統こそがすべてだ。お前のような底辺がどれだけ吠えようと、貴族は貴族、平民は平民。上下の秩序に変わりはない。それが世界の摂理だろうが!」
決定的な平行線。もうこの男に言葉は通じないと痛感する。さらに激しい斬り合いが再開し、鋭い金属音が廃墟の石壁に幾重にも反響する。
やがて、乱戦の中で一瞬の隙が生じる。アルガスがボウガンを投げ捨て、再度短剣の柄を握り直す刹那、ミルウーダは低い姿勢から鋭く踏み込み、短刀を突き上げるように繰り出した。
それは急所を狙った攻撃ではなく、アルガスの右肩をそぎ落とそうとする軌道。しかし、アルガスもまた鍔迫り合いの反動を利用して体を回転させ、短剣を横に払ってカウンターを狙う。両者の刃が宙で交わり、ギリギリの位置関係で視線がクロスする。
「うああっ……!」
「このっ……家畜が……!」
力と力のぶつかり合い。短刀の刀身が軋み、短剣がわずかにめり込む音がする。ミルウーダは腕の傷の痛みが限界に近づくのを感じるが、ここで引けば一瞬で刺されると直感する。
アルガスも血走った目で睨みつつ、歯を食いしばりながら刃を押し返す。双方の足元がぬかるんだ地面で踏ん張り合い、互いの衣が汗と泥で汚れていく。
「貴族に逆らった罰を、今度こそ受けるがいい!」
「……っ、言わせておけば……!」
アルガスの叫びと、ミルウーダの歯ぎしりが重なり合い、二人の闘気が廃墟の空気を震わせる。
まさに、ここで一撃が決するか――という刹那、足元の崩れた石材が大きく崩落し、支えを失ったアルガスが一瞬バランスを崩す。ミルウーダは機を逃さず、体重を乗せた突きでアルガスを押し込むが……。
「……くそっ!」
アルガスも寸前で膝をつき、地面を蹴って体を捻るように移動する。結果、両者が互いに斬り付け合う形になり、接近戦でバランスを失って転倒しかける。
刃が交錯し、鎧の一部を裂き、皮膚を切りつける感触がわずかにあったが、決定打には至っていない。地響きとともに粉塵が舞い、二人は肩で息をしながら距離を取り合う。真正面からの斬り合いに再び移行するのか――そこまで行かないうちに、パート1の一幕が閉じられるような余韻が漂う。
ミルウーダは左肩からじわじわと血が滲み、アルガスも右腕や脇腹に薄い傷を負っているようだ。今この場でさらに戦えば、どちらかが命を落とす可能性も高い。
しかし、物語はまだ終わらない。二人の因縁がここで決着するのか、あるいは新たな局面を迎えるのか――それは次の行動次第。周囲を静寂が包み込み、激しい息づかいだけが廃墟に残る。
アルガスとミルウーダの再会は、予想通りの激突へと発展した。
何一つ変わらない貴族至上主義を掲げるアルガスと、“革命家としての自分”を思い出してしまったミルウーダ。王女オヴェリアを守るために戦ってきた彼女が、ここで再び旧敵との血生臭い対峙を迎えている。
言葉を交わしても双方の意見は平行線のままで、相手を否定することしかできない。まさに、かつての因縁が再燃しているのだ。
「あなたはまだそんなことを……。」
アルガスの冷笑、ミルウーダの怒り。
一度だけでは消えなかった因縁は、再び刃を交えさせる運命に導かれたかのようだった。