1.5-45 まず、話しましょう
「なるほど、ね」
ふぅ、と何処からともなく紅茶を手にして一息つくソラナ。
「ソラナちゃん、お代わりいる?」
「えぇ、もらうわ」
エブモスが手持ちの保温ボトルから紅茶を注ぐ。
「ミルクも頂けるかしら?」
「ミルクは、あった!はい!」
手持ちの荷物から取り出したミルクと書かれた小さなキューブを手渡すエブモス。
その上にある蓋を剥がし、紅茶へと注ぐソラナ
「貴女も、お一ついかが?」
そう言って、キューブをアイラに差し出す。
「いいわね。頂こうかしら」
それを受け取り、自らの紅茶へと入れるアイラ。
「あぁ、お砂糖頂けるかしら?」
「りょーかいなんだよっ!」
「でも!」
「でも?」
「このバタークッキーと合わせれば、お砂糖要らずなんだよっ!」
そう言って、バタークッキーを手渡すエブモス
「そうなのね!さすが!エブモスさん。私の母さんも、その気遣いはいつも、すごいと言っていたわ!」
そんな事を言いながら、クッキーを頬張るアイラ
「うーん。うん!美味しいわ」
花の様な笑顔を浮かべ、目を細めるアイラ
「Juno姉ぇ特製のクッキーなんだよ!バッチリなんだよっ!」
「まぁ!Junoさんのお作りになったクッキーでしたの!それでしたら、納得ですわ!」
きゃっきゃきゃっきゃと華やかに。
まるで、女子会
お茶会の様に話し合う3人
「ちょっと待て、君たち」
「なぜ、戦いの最中にお茶会を開いているんだい?」
「僕も考え方は、柔軟な方だが。正直、わけがわからないっ!」
「別に貴方に理解を求めていないわ」
そう言うと、アイラは、冷めた目でリックを見つめた。
「貴方は、私の敵対者よ。明確なね」
「ソラナちゃん達は!」
「ソラナさん、よ。私のお友達を何勝手にちゃん付けで呼んでいるのかしら?」
アイラが手を軽く握ると、リックの首に手の跡が現れる。
「っ!がぁ!」
「やめて!アイラちゃん!リックさんが死んじゃう」
「はっ!」
「エブモスさん、ごめんなさい」
エブモスの声に我に返り、握っていた手を緩める。
何も無い空間を握っていた手を緩めると、リックの首に浮かんでいた手の跡が消えていった。
「癇癪を起こすのも大概にしなさい」
「淑女たるもの、いついかなる時も余裕を忘れてはいけないわ」
「はい!ソラナさん!」
(どうしてこうなったんだ?)
締め付けられていた圧力を退けられて、頭が冷静になり、なればなるほど、今の状況がわからないリックだった。
————
それは、話し合いが始まってから数分の事だった。
「なるほどね。つまり、貴女は、わたくし達に害を与えるわけでは無いと。そういう事ね」
「はい。私があなた方や、その世界を害する理由は、ありません」
はっきりと言い切るアイラ
その瞳に嘘は見受けられなかった。
多くの商談や争い、交渉に介入して来たソラナの心眼を持ってしても、そこに虚言は見られなかった。
(だとしたら?)
「あなたから感じられる『脅威』の正体は何かしら?」
ソラナも、それを率直に尋ねることにしたのだった。
「それには、まず、お互いが知り合わないと難しいと思いませんか?」
それは、アイラからの提案だった。