再観測:星を継ぐもの:Episode4-2
Episode4-2:内部防衛部隊との戦い
扉の向こう――未知の空間と呼ばれる異次元領域に足を踏み入れた円卓騎士団は、重力と時空の歪んだ闇の中で思いがけない発見をしていた。残骸と化した研究施設らしき「神殿」の跡、謎の文字列、観測光と混じり合った独特の構造物――まるで人類の技術とThe Orderの力が奇妙に融合した形跡があったのだ。
短時間の探索で少なからぬ資料を得たが、敵の激しい抵抗やアリスの負担もあり、騎士団は一度撤退を選択。地球側に帰還後、王国大艦隊の上層部やモルガンたちは、いよいよ本格的な内部進攻を視野に入れた。内部に潜むThe Orderの防衛網、あるいは未知の研究所を制圧・調査することで、世界を脅かす元凶を掴む――それが彼らの至上命題である。
ブリーフィングルームには、カイン、アーサー、ガウェイン、トリスタン、そして神官や技術者、指揮官たちが再集結していた。スクリーンには先の探索で得られた映像が映し出され、黒い宙域に浮かぶ神殿のシルエットが拡大される。
「円卓騎士団が突き止めてくれたこの“神殿”……どうやら更に奥へ通じるゲートがあるようです」
指し示すのは技術班の主任であるヨナス。細い指が映像の一角を示し、そこにかすかな光の通路が写り込んでいるのが分かる。
「ゲートの先にはさらに大規模な空間が広がっている可能性がある。そここそが“The Orderの内部防衛部隊”の本拠、あるいは研究施設の主要区画ではないかと推測されています」
アーサーが厳かに頷く。「つまり、次はそのゲートを突破して、さらなる深部へ入る必要があるということか。……そこで本格的な戦いになるだろうな」
ガウェインが盾を傍らに置いたまま、低い声で言う。「前回もかなりの抵抗があった。今度はより組織だった敵が待ち受けているに違いない。下手をすれば帰還もできなくなる可能性がある」
カインも覚悟を固めるようにアリスへ目をやる。ホログラム越しの彼女は少し疲れた様子だが、その瞳には確固たる意志が宿っている。
「私が干渉力で空間を安定させれば、通路の先に行くことは可能だと思います。……ただ、敵の“内部防衛部隊”は、いわばここの最終防衛線かもしれません。強大な観測光バリアや、大型の生体兵器がいるでしょう。覚悟が必要です」
アリスの静かな口調に、モルガンが頷く。「あなたがそう言うなら、その通りかもしれないわね。……カイン、どうする?」
「もちろん行きます。円卓騎士団で突撃隊を編成して、最奥部を目指しますよ。アリスも、ここで引き返す気はないんだろ?」
アリスは瞳を伏せ、微かに震える声で答える。「……はい。私はやっぱり、この世界と私自身の正体を知りたい。怖くても……カインと一緒なら大丈夫です」
そうして皆の視線が合意を示し、再突入が正式に決まる。
かくして、内部防衛部隊との戦いが始まるのだった。
翌朝早く、王国大艦隊の周囲には朝霧がかかり、紫色の扉がぼんやりと光りながら佇んでいた。先日から引き続き、地上の防衛体制は厳重であり、The Orderが地球側へ大挙して出てくるのを阻止している。逆に言えば、こちらも大きな部隊を派遣して扉を抜ければ、地上は手薄になるため、一部の艦や護衛隊を残して侵攻部隊を組むのはリスクが大きい。しかし、今はやらねばならない。
カインは銀の小手を整備ドックから引き出し、出撃態勢を整える。機体の外装には追加の干渉安定装置や、今回の長期戦用に調整された燃料パックが取り付けられている。前回よりも重装備だ。
コクピットに滑り込み、アリスの声を聴く。
「……調子は良好そう。カイン、大丈夫、いけるわ」
「こっちも問題なし。行こう、アリス――今度こそ、最後の壁を破る」
円卓騎士団の他の機体――アーサーのエクスカリバー、ガウェインのガラティーン、トリスタンのフォール・ノートも発進準備を終えている。加えて、今回は護衛として複数の僚機や神官隊が同行し、扉内部で一定の拠点を築く計画らしい。
艦橋からモルガンの通信が入る。
『騎士団、聞こえる? こちら準備完了。扉の開口部に異常はなし。内部へ突入したら気をつけて。まだThe Orderの残党がいるはずよ』
カインたちは順に「了解!」と応答し、加速して紫の光へ飛び込んでいく。何度目かの扉越えだが、その衝撃は相変わらず強烈で、視界がチカチカと点滅し、身体が重力のない空間に放り出されるような感覚がある。
「うっ……やはり慣れないな」
「私が安定化させるから……少し待って」
アリスの演算が機体を支え、ノイズが徐々に減少する。数秒後、銀の小手のカメラが異次元の黒い宙域を写し出した。またあの暗闇だ。しかし、すぐ近くには既に先に入ったアーサーやガウェイン、トリスタンの機影が浮かんでいるのが見え、安心感があった。
『みんな無事か?』
アーサーの呼びかけにそれぞれ「大丈夫」「問題なし」と返答があり、円卓騎士団は合流する形を取る。
扉を抜けてさほど経たぬうち、かつて探索した“神殿”のある宙域が視界に入る。浮遊する岩塊や残骸が相変わらず散在し、観測光をちらつかせている。以前の戦闘である程度の敵は排除していたが、今回のターゲットはさらに神殿の奥にある“ゲート”と呼ばれる場所だ。
アリスはモニターに前回収集したマップを投影しながら言う。
「確か、神殿の入口から右奥へ伸びる回廊みたいなものがあったはず。そこがゲートに繋がっているかもしれない。でも内部は広いし、敵が組織的に守っているかも……。」
「了解。では、アーサー卿、ガウェインさん、トリスタンさん――神殿へ向かいましょう。一部護衛隊も連れてくるんですよね?」
カインが振り返ると、アーサーが静かに頷く。
「ええ、今回は神官隊や技術班も同行する。神殿内部に拠点を築いて、さらに奥に行く足がかりを作る計画だ。カインたちは先陣を切って安全を確保してほしい。……敵が強いかもしれないが、やるしかないな」
ガウェインはハンマーのような強化武器を新たに背負っており、「盾だけじゃなく殴り合いもできるぜ」と笑う。トリスタンは相変わらず静かだが、「狙撃を補強した装備で遠距離支援に徹する」と言葉少なに意思表示する。
こうして神殿へ再び足を踏み入れることが決まり、円卓騎士団が編隊を組んで浮遊する宙域を進む。背後には複数の護衛機、神官らが搭乗する小型輸送船も続き、やがて黒い闇の中でかつての“神殿”が見えてくる。
前回と同じように暗闇を割って登場する建造物は、どこか拡張された雰囲気を漂わせている。遠方からの見え方が若干変わっているのだ――空間が動的に変化しているせいか、神殿の位置がズレたり、新たな構造が付け足されたようにも見える。
「恐ろしい……。構造が変わるなんてあり得るのか?」
ガウェインが眉をひそめると、アリスが苦しげに分析する。
「多分……The Orderが空間制御を行ってるのか、もともとこの未知空間が不定形なのか、どちらか……。私が少し干渉すれば安定するとは思うけど、規模が大きすぎて……」
「無理はするな。とにかく神殿へ入り込む。そこから隊が拠点を築きながら進む形だ」
アーサーが短く言い、騎士団は神殿近くまで降り立つ。地面(というか底面)は依然として不規則な重力が働いているが、神官隊が持ち込んだ重力安定装置を設置することで、半径数十メートルだけでも歩行可能なエリアを確保していく。
まるで宇宙での上陸作戦のような光景が繰り広げられ、金属製の柱や結晶がゴツゴツ飛び出す神殿前の広場に、護衛隊と整備班が臨時ベースを作り始める。
少しの休憩を挟み、円卓騎士団は神殿の巨大な扉(あるいは裂け目)の先へ踏み込む。地球でいう石造りや鉄骨では説明がつかない構造の壁が延々と続き、紫や青の紋様が表面を絶えず走っている。人が通れるほどの回廊が真っ直ぐ伸びているが、天井がうねり、場所によっては壁が浮遊しているように見える。
隊列を整え、ライフルやビーム兵器を構えながら奥へ進む。神官隊の照明魔法(この世界では魔法と科学が融合)や、観測光ランプを使って足元を照らし、怪しい影を探る。
「……嫌な気配がするぜ」
ガウェインが盾を前方に掲げると、トリスタンが「ええ、何かが近づいてくる」と低い声で応じる。アリスが慌ただしく計器をチェックしているのが見え、「また敵が……!」と短く言う。
直後、回廊の壁がゴゴゴという音を立てて割れ、そこから液状の触手を持つ異形が数体飛び出してきた。暗闇の中で紫の瞳を光らせ、牙のようなパーツをむき出しにしている。内部防衛部隊の一端なのか、まさに不意打ちである。
カインは銀の小手を地面に着陸させたまま、咄嗟に武器を引き抜く。とはいえ、ここは狭い回廊で機体をフル稼働させにくい。アーサーやガウェインが素早く降機し、白兵戦を想定した近接武器を構える。トリスタンは後方で狙いを定め、カインもアリスの補助で火器を使いつつサポートする。
「来るぞ……!」
最初の一体が攻撃を仕掛け、触手が鞭のようにしなってカインへ迫る。思わず身を屈めると、ガウェインが盾を横から叩き込んで触手を弾く。続けざまにアーサーが剣型ビーム兵器を閃かせ、一閃で胴体を切り裂く。
断末魔のような低い振動が回廊に響き、その個体が紫の体液を飛ばして地面に崩れ落ちた。しかし続けて次の異形が飛び込み、ガウェインの盾を噛もうと牙を向ける。ガウェインは咆哮しながら大きなハンマー型武器を振り下ろし、一撃で相手の頭部を粉砕する。
「はあ、はあ……ここで白兵戦かよ!」
苦笑するガウェインに向けて、アリスが「ごめんなさい、機体を動かすには狭すぎるし……」と申し訳なさそうに声を落とす。
カインはライフルで援護射撃を行い、狭い空間での射線を確保して異形を仕留める。トリスタンは少し距離を取り、ピンポイントで敵を狙い撃っているが、視界が悪く、しばしば射線が遮られる。
激戦が数分続き、隊員たちが息を詰めながら奮闘した末、ようやくその場の異形を全て制圧できた。回廊の床には紫の血液のような液体が溜まり、蠢いているのが嫌に不気味だ。
アーサーが浅い呼吸を整えつつ、「さすがに内部防衛部隊の一角だけあって、しつこいな。まだ奥がある」と言う。ガウェインは「ちったぁ休ませろよ……」と苦笑するが、先へ進む決意は揺るがない。
神官隊と護衛兵が続き、回廊を確保しながら一歩ずつ進む。こうしてさらに深層へ進む段階で、アリスが不意に「待って……もっと強い波長が近づいてる……」と warningを発する。
回廊を抜け、広がる空間に出た瞬間、一同は息を呑んだ。そこは大広間とも言うべきアトリウム状の空間で、天井が異様に高く、あるいは上下が反転しているかのような造り。床からは円柱や円環が幾重にも伸び、中央に浮遊するスフィア(球体)が紫の光を放っている。それが結界かもしれない。
カインたちは周囲を警戒しながら、ゆっくりとその球体に近づく。見たところ、先ほどの異形より大きなシグナルを感じさせる何かが隠れているはずだ。アリスが計器を確認し、「結界らしきエネルギーがこのスフィアを中心に展開してる。もう少しで敵が……いや、来るわ!」と叫ぶ。
その言葉が終わるか否か、大広間の四方から激しい閃光が走る。壁や天井の一部が崩れ、そこから複数の巨大戦闘体が出現した。獣のような四脚型や、飛行する人型、生体と機械の融合らしき怪物などが、一斉に観測光を放ちながら騎士団へ襲いかかる。
「くっ……まとめて来たか!」
ガウェインが盾を構え、アーサーが剣型ビームを掲げて号令する。「隊形を乱すな! 神官隊は後方へ!」
トリスタンが狙撃ポジションを探すが、宙に浮いた台座や柱が邪魔をしてラインが取りづらい。カインは銀の小手を相対的に浮遊させ、キャノンを連射して牽制しようとするが、敵も火力が強烈で打ち合いが熾烈を極める。
「アリス、どうする? この結界スフィアを壊せば敵の動きが弱まるかも……?」
「そうかもしれない。試してみる……干渉力でスフィアに衝撃を与えてみる?」
「やる価値ある。援護頼むよ、みんな!」
カインが通信で仲間に呼びかけ、アーサーが「了解した!」と叫ぶ。ガウェインとトリスタンが敵を引きつける間に、銀の小手がスフィア上部に回り込み、ミサイルを撃ち込む。
紫色の球体がバチバチと火花を散らし、観測光の電磁波が跳ね返る。しかし、干渉波を追加して照射すると、スフィアの光が少し乱れ始めた。アリスの推測どおり、これが結界の制御装置なら大打撃になるはずだ。
「……うっ……でも、反動が強い!」
アリスが悲鳴を上げる。スフィアが猛烈な逆干渉を仕掛け、機体が激しく揺さぶられる。カインは操縦桿を握りしめ、必死に態勢を保つ。
周囲では巨大な四脚型がガウェインを押し潰そうとし、アーサーがビーム斬撃を放って阻止している。トリスタンは飛行する人型の背後を狙撃して撃破。激しい乱戦の中で、カインは再度スフィアにミサイルを叩き込み、干渉波を増幅させる。
「アリス……もう少しだけ……!」
「うん……頑張る……っ!」
閃光が走り、スフィアの外殻が砕け散ったかのように紫の破片が宙へ舞う。その瞬間、アトリウム全体が揺れ、床や壁から生体的なうめき声に似た振動が伝わる。結界が弱まったのか、敵巨大体が一斉に動揺を見せる。ここが絶好のチャンスだ。
アーサーが剣型ビームを最大出力で切り上げ、四脚型の脚を次々に斬り落とす。ガウェインは盾で最後の一撃を防ぎ、ハンマーを振るってコアを打ち砕く。トリスタンが飛行型の頭部を狙撃し、カインも地上からキャノンでとどめを刺す。連携が見事に決まり、敵の攻勢が弱まるとともに次々に撃破されていった。
「はぁ、はぁ……スフィアを破壊できたからか、こいつらの結界が消えたみたいだな……!」
ガウェインが苦しそうに息を整える。トリスタンも肩で呼吸しながら「かなりギリギリだった……」と呟く。アーサーが全体を見回し、「皆、無事か?」と問いかける。
「カイン機は……多少の被弾だけど大丈夫です、アリスが少し負荷を受けてるみたい」
カインが答えると、アリスもホログラムで「うん……平気、大きな問題はないよ」と皆を安心させる。どうやら最大の敵部隊、内部防衛部隊を突破できたようだ。
巨大スフィアが崩壊したあとの大広間には、まるで余波が去った後の静寂が漂っている。壁や天井は半壊状態だが、一部の光脈がまだ生きており、幾何学的な発光が走っている。その先に、人が通れるほどの転送ゲートらしき開口部が浮かび上がっていた。
カインたちはおそるおそる近づき、アリスが解析を試みる。すると、波長が安定しているらしく、このゲートが更なる内部へ通じている可能性が高いと分かる。
「中枢はまだ奥かよ……。いったいどれほど広大なんだ、この空間は」
ガウェインが呆れ気味に言う。アーサーは慎重に首を振り、「ここまでも相当辛かった。さらに奥へ行けば、より強力な敵や未知の領域があるだろう」と懸念を述べる。
トリスタンは、ライフルを抱えながら周囲を警戒している。「とはいえ、ここで引き返すか? 神官隊や後方部隊があとから来ることも可能だが、敵が復活したり、空間がまた変化するかもしれない」
カインが視線をアリスへやる。彼女の表情は疲弊がうかがえるが、少し思案したのち、固い意志で言い放つ。
「私は……まだ行ける。ここまで来たら引き返したくない。もし上位宇宙やThe Orderの本体がさらに奥なら、今がチャンスかもしれない……!」
「アリス……分かった。けど無理は禁物だ。隊長や護衛部隊にも連絡しておこう」
アーサーが短く頷き、通信を開く。しかし、この空間の深部はやはりノイズが多く、地球側との直接通信は難しい。やむを得ず、ここで神官隊が陣を作り、後続に伝言を残して、騎士団だけで先へ進む決断をすることになる。
「よし、俺たちは行く。もし3時間以内に戻らなければ、扉前で待機する艦隊が救出に来てくれ。ただし、空間が変動したら戻れなくなる恐れもある……」
ガウェインは苦笑して「短期決戦だな……何度死にかければ済むんだ」とぼやくが、いまさら退く気はない。トリスタンも軽く微笑して「最後まで付き合うよ」と続ける。
こうして円卓騎士団は転送ゲートへ足を進める。少数精鋭での突入。背後には神官隊や護衛兵が防衛拠点を構築し、状況によっては援軍を送る流れだ。果たして、内部防衛部隊を突破した先に何が待つのか――誰もが胸の奥で不安に苛まれながらも、すでにその一歩を踏み出していた。
円卓騎士団4機(アーサー、ガウェイン、トリスタン、カイン&アリス)は転送ゲートへ飛び込み、それぞれ慣れぬ浮遊感に耐えながら進む。先ほどの回廊や大広間よりも短く感じるが、急激な空間歪みに襲われ、思わず操縦が乱される。
カインは歯を食いしばり、アリスの干渉力に頼って姿勢を維持する。「うっ……今回もきつい……!」
アリスは汗をかいているかのように声を震わせ、「頑張って……もう少し……!」と励ます。
やがて転送トンネルを抜けると、視界がひらけ、薄暗いが広大な空間へ出た。先ほどの神殿と比べ物にならないほどのスケールの壁や柱が遠くにそびえ、地面が上下反転したように多数存在し、空には岩や建造物が浮いている。観測光の帯が幾重にも走り、まるで巨大な“街”が宙に固定されているかのようだ。
「なんだ……ここは。まるで廃墟の都か?」
ガウェインが呆然と呟く。アーサーも息を飲む。「建造物が浮いてる……人類が作ったとは思えないが、所々に似た意匠があるな」
トリスタンの鋭い目が、遠方に複数の敵影を捉えたと告げる。「あそこにまとまった数の生体機……こんなにいるなんて、まだ防衛部隊が存分に残っていたのか……!」
どうやらこここそが内部防衛部隊の本拠の一つなのかもしれない。密集した敵群が列をなして動く姿が見え、彼らの拠点らしき大きな門も確認できる。この空間はまるで異世界の都市の廃墟を思わせるが、一部の建物はThe Order独特の曲線と生物的な繊維が絡み合っている。
騎士団が気付いた時には、すでに敵が動き出していた。上空や地面(どこが地面か分からないが)から多数の機体が殺到し、一部は翼や触手、あるいは機械的な武装を携えている。前回の戦いとは比べ物にならない数で、一斉に観測光を照射し始めるのが見えた。
「くっ……これが本拠地か。数が違いすぎるぞ」
ガウェインが吐き捨てるが、アーサーは冷静だ。「だからこそ、こちらは少数精鋭で速攻をかける。敵が包囲態勢を整える前に突破しないと、逃げ道もなくなるぞ!」
カインはアリスに眼で合図。「いいか、まだ大変だが……!」
「うん、もう少し頑張る。私が空間補正するから、動き回って。敵をひきつけよう。」
こうして銀の小手が先陣を切り、アーサーが斜め上から剣ビームで援護。ガウェインは盾を張って正面を受け止め、トリスタンが狙撃位置を確保しようと岩や建築物の裏を使う。この連携は地球でも同じだが、ここは異空間ゆえ弾道や重力が安定せず、難易度が段違いである。
大量の敵が押し寄せるさまはまるで蟻地獄の巣を突いたかのよう。生体機が絡み合い、機械型がビームを乱射し、飛行型が複数の角度から同時攻撃を仕掛けてくる。カインは機体を激しくローリングさせながらミサイルを連続発射。
周囲で爆発や火花が絶え間なく起き、紫や青いエネルギー閃光が闇を彩る。ガウェインが「このやろう!」と盾で敵をはじき飛ばし、ハンマーでコアを叩き潰す。アーサーが空を自在に舞いながら巨大な敵をビーム斬撃で二分し、トリスタンは奥の指揮官らしき個体を抜群の精度で狙撃し、混乱を誘う。
(すごい数だが……俺たちが押し返してるぞ!)
カインはそう感じながら、気を抜けない。なぜなら、敵が後退する気配もなく、まるで時間稼ぎをしているように思えるからだ。この空間にはまだ何か仕掛けがあるかもしれない。案の定、突如として地面が隆起し、巨大な触手ブロックが姿を現した。
「何だあれ……建物そのものが動いてるのか!?」
ガウェインが驚愕する。アリスが「建物型の生体兵器……? 観測光の反応が中枢に……!」と焦る。どうやらこの空間では、建造物そのものがThe Orderと融合した“巨大な兵器”になる例があるらしい。
騎士団はそのビルサイズの生体ブロックと交戦を余儀なくされる。飛び交う瓦礫と観測光ビームが激しく、カインは銀の小手を左右に旋回させて回避しながらミサイルを叩き込む。アーサーとガウェインが連携で外装を砕き、トリスタンが最深部のコアを射抜く。絶妙な連係プレーでなんとかその怪物も葬り去った。
「はあ……そろそろ限界が……!」
トリスタンが息も絶え絶えに言い、ガウェインも腕が痺れるようだ。「こっちも盾がボロボロだぞ……。」
しかし、アーサーは気を張り、「耐えろ、そろそろ敵の数が減ってきた。奥へ抜ける道を作ろう!」と檄を飛ばす。カインもアリスも無言でうなずき、さらなる突進をかける。
激戦が小一時間続いたころ、敵の波が徐々に途切れ始めた。騎士団は前進を続け、宙に浮かぶ残骸や建築物の森を抜けると、大きな開けた空洞が姿を現す。そこには扉とは違う、より巨大な渦状のゲートのようなものが歪みながら回転しているのが見えた。
アリスが息を詰め、「あれが……更なる深部へ通じる道かもしれない!」と声を上げる。アーサーも頷いて、「あそこが最後の入り口だろう。突入すれば、The Orderの核へ行けるかもしれん」と意気込む。
しかし――唐突に宙が歪んだ。暗黒の奥で膨張する影が一気に膨れ、巨大な存在が姿を露わにする。それは半ば機械、半ば生物のようにも見えるが、体長は何十メートルにも及び、観測光のオーラを纏っている。まるで“ボス”のように騎士団を見下ろしている。
「こいつが……内部防衛部隊の最終兵器か!」
ガウェインが震える声で言い放つ。敵は無言のまま紫の触手を伸ばし、そこからビームを複数同時に放つ。騎士団は慌てて回避するが、外れたビームが近くの建築物を粉砕し、衝撃波が凄まじい。
カインは青ざめながらも操縦桿を握り直す。「やるしかない……。アリス、頼むぞ!」
アリスも必死に応える。「うん……干渉力を全開にして、あのオーラを弱めるから……みんなで叩いて!」
アーサーが「皆、火力を集中するぞ!」と指示し、ガウェインとトリスタンが左右に展開。アーサーが正面で突き合い、カインが銀の小手で干渉波をぶつける。巨大存在が震えるように咆哮し、観測光をめちゃくちゃに振り回してくるが、騎士団は何度も死地を潜り抜けてきた戦士たちだ。簡単には負けない。
ガウェインの盾が正面からビームを逸らし、アーサーが横っ面にエクスカリバーの剣ビームを叩き込む。トリスタンが後方からコアに狙いを定めようとするが、体が巨大ゆえコアがどこにあるか不明。
そこでカインがアリスと共に、干渉力で波長を探り、背部の一部に異様な集中点を見いだす。「あそこだ、あれがコアかもしれない!」
アーサーとカインが連携し、銀の小手が敵の周囲をぐるりと回り込み、背面付近へ突進。触手が追撃してくるがガウェインが巧みにカバーし、トリスタンがビーム弾を撃ち込んで軌道を乱す。カインのミサイルが背面装甲を砕き、アーサーの剣ビームが深く貫通すると、敵は轟音を上げて暴れ始めた。
「あと一押し……!」
ガウェインが絶妙のタイミングで盾を投げるようにぶつけて敵の姿勢を崩し、トリスタンがすかさず高出力の狙撃を背面の裂け目へ放つ。ビームが突き刺さる形で内部を焼き切ると、巨大存在が断末魔のように観測光を乱発。
騎士団は巻き込まれないよう急速退避し、戦場に激しい爆発の花が咲く。紫の霧が高密度に膨れ上がり、付近の空間を崩落させるほどの衝撃波が走る。各機が何とか踏ん張り、やがて闇が静まり返った。
「倒れた……か?」
カインがコクピット越しに様子を窺う。そこにあった巨大存在の姿は消え、残ったのは紫の残滓が広がる混沌だけ。再生しないか警戒するが、どうやら完全に沈黙したようだ。
一同が息をつくと、中央の渦状ゲートがわずかに脈動を増し、やや安定した輝きを放ちはじめた。
こうして円卓騎士団は内部防衛部隊の核を撃破し、この広大な空間の制圧に成功した。暗黒の空には散らばる星屑や廃墟がまだ残るものの、敵の大きな反撃の兆候は見られない。
アリスが安堵の声を漏らし、「もう……力が残り少ない……」と呟く。カインは慌てて「もう無茶はするな。目標は達成したんだ」と優しく言う。周囲の仲間も似た思いで、これ以上の奥探索を強行すべきか迷う。
しかし、その渦状ゲートから微かな空気の流れ――と呼べるか分からないが、波長が吹き出すかのようにカインたちの機体を誘う。その先にあるのが最深部か、上位宇宙への入り口か。
アーサーが眉をひそめる。「これ以上進めば、さすがにアリスも限界だろう。いったん地球側に報告し、作戦を立て直そう。後続を呼ぶなり、大規模な体制で臨まないと、いくら騎士団でも危険すぎる」
「賛成……正直、俺もボロボロだ。」
ガウェインが盾を見やりながら苦笑し、トリスタンが息を詰めつつ首肯する。カインもアリスを気遣い、ここで深追いは得策でないと判断した。
こうして、巨大存在を撃破して得られた安定を活かし、騎士団は渦状ゲートへの最終突入は次の機会に回すことに決める。少なくともここまでのエリアはある程度安全になったため、後続の神官隊や探査班が拠点を設置できるだろう。
帰路は比較的スムーズだった。先ほどの大部隊を倒したおかげで敵の妨害が少なく、騎士団は神殿付近に戻り、さらに神官隊の拠点から扉を経由して地球側へ帰還する。
扉を抜けて地表に出たころ、空は昼間の光に満ちていた。周囲の兵士や技術者が拍手や喝采で迎え、「やったぞ、内部防衛部隊を倒したんだな!」と喜ぶ声が上がる。アーサーやガウェイン、トリスタンが疲労の中でも誇りを胸に微笑み、カインもぐったりしながらアリスに「ありがとうな」と言う。
「ううん、こちらこそ。カイン……あなたがいたから私も折れずに済んだわ」
その囁きに、カインは微苦笑を浮かべて頷く。今回の激闘で、アリスの干渉力が改めて皆の命綱になった。だが、それだけに無理をさせたことも事実であり、今後の長期作戦にはさらに緻密な準備が必要だ。
こうして内部防衛部隊との戦いは終幕を迎える。
円卓騎士団は謎の空間内部で強力な防衛部隊――巨大戦闘体や無数の異形兵器――と激突し、すさまじい死闘を経てそれを打ち破った。神殿や深部ゲートの存在も確かめられ、そこが更なる奥へ繋がる事実を掴んだ。大きな成果だが、同時にまだ解明は十分でない。
王国大艦隊と騎士団は、今回の成功を喜びつつも、未知なる領域の深奥に待つさらなる試練を想像せずにはいられない。アリスは自らの過去と運命を背負い、カインや仲間たちと共に前に進む覚悟を新たにする。
いずれ、この扉の内側で発見された神殿やゲートを中継拠点にして、上位宇宙、The Orderの本体、そして“ユグドラシル・モデル”の謎へ踏み込むことになるだろう。そこに待ち受けるのは破滅か、それとも救済か――誰もが胸を震わせながら、今は生還の安堵に浸っていた。
地平線の上では日は傾き、夕暮れが近づいている。扉付近の地上キャンプでは整備員たちが忙しなく騎士団機を取り囲み、傷ついた外装を見て歎息を漏らしながら修復に取りかかる。その光景をぼんやり眺めるカインの傍らで、アリスが優しい声をかける。
「……この戦いを乗り越えられたのは、みんなの連携のおかげね。私も限界を感じたけど……カイン、ありがとう」
「何度でも言うぞ、俺はお前がいたから生きられたし、扉の奥にも行けたんだ。こちらこそ感謝してる……。」
夜風が涼しく吹きつけ、陣地の焚き火が揺らめく。アーサーやガウェイン、トリスタンも遠くで笑顔を見せており、先ほどまでの死闘を思えば奇跡のような穏やかさが漂っている。
しかし、これはまだ一幕に過ぎない。未知の空間はさらに深く、The Orderの核心は遠い。それを打ち破り、世界を救うまで、円卓騎士団の冒険と戦いは続く。今回の激闘――内部防衛部隊との戦い――が終わりを告げ、また新たなステージへ歩みだす彼ら。その先にはどんな運命が待ち受けているのか、未だ誰にも分からない。