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番外編-4:マティック

湯舟に浸かり、くつろぐ。
鼻歌を歌いながら、童女みたいに足をパタパタさせる。
ここには、彼女を見ているものはいない。
いわば貸し切りの状態だった。
外の風景を見ながら、脚をパタつかせていたとき、浴場のドアが引かれ湯煙の向こうにシルエットが現れた。
頭にお団子が二つ、シルエットが浮かび上がる。
全体的に丸っぽいそれが、何故かタヌキを連想させた。

「だれだ!?」
シルエットに見覚えがないJunoは咄嗟の事に声を上げてしまった。

「ひゃぁ!」
「私は、マティックです」
「Junoさんに助けられたタヌキです」

「タヌキ?何故、人型なんだ?私が助けたのは、こう、丸っこくてふわふわしてだな」
まだ、お酒が残っていたのか、そういいながら、エアタヌキを自分の腕の中に作り始めたJuno

「そんなまじまじ思い出さないでくださいよ~。恥ずかしい」
「ほら、いつも、首根っこと頭を交互に撫でてくれたじゃないですか。あれ想像して気持ちよくなってしまいそうです」
そう叫びながら、目をとろけさせて真っすぐにレッサーパンダのように立ち尽くすマティック。
風呂場の湯気が大きな胸に当たり、集約されてしずくとなり落ちていく。

「で、なんで、人型なんだ?」
「大抵、意識体は生じたときから姿が変わらないものだ」
「人型で生じたものは、障害を通して姿が変わらないものだと思っていたのだが」
そういって、目の前の少女をいぶかしげに見つめる。

「そんな怪しいものを見つめる様に見ないでください!!」
「そもそもの前提が違うのです」
「私は、2つの姿を持ち生まれました」
「だから、タヌキの私も人型の私も等しく私なのです」

「......」
(そういえば、FINAも恐竜と人の姿を切り替えることが出来たな)
砂漠への遠征時に知り合った現地協力民の少女の事を思い出した。

「確かに、そういう例もあるな」

「そうなの!私はそれ!」

「ただ、ならばなぜ初めに言わなかった!?」
「それは、誠実ではないのではないか?」

「ごめんなさい!」
「あなたたちを騙すつもりはなかったの」
「変身を解く体力がなかったから、タヌキのままだったの」

ふぅ、と深呼吸をした後にJunoが続ける。
「うむ。何か理由がありそうだな。そもそもタヌキの姿をとるなんて一体なぜだったのか」
「それはそうと、そこでは寒い。一度シャワーを浴びて風呂に入ったらどうだ」
「話すならば、それからでもよいだろ?」

「えっ!いいの!やったーーー!」
「さっすが、お姉さま!話がわかる!」
そういうとシャワーを早々と浴び、Junoの直ぐとなりへと入るマティック

「まてまて、距離が近い」

「えーーー、いいでしょ?昨日だって同じベッドで寝たんだから」

「それは、マティックがタヌキの姿だったから/// こら、そこ触るんじゃない!」

「すごい!出るところは出ているのに腹筋は引き締まっている」
「背中の筋肉も、形がとてもいいわ」

「、わかるのか?」

「こう見えて体の事には詳しいです!お薬とかも作れちゃいまーす」

「化かしているわけではないよな」

「失礼な!ちゃんと、薬剤師免許持ってますよー」

「そうか、悪かった」
すっかり、マティックのペースに巻き込まれてしまったJunoだった。

「あー、そうだ。聞き忘れないうちに聞いておく」

「なぁに?」

「何故、タヌキの姿になっていたんだ?」
「そして、Axelarにいた?」
「コスモスの民ではないのだろう?」

「えへっ、ばれちゃった」

「『えへっ』じゃない」
「場合によっては出入国在留管理庁に引き渡さなければならない」
真剣な顔になりながら、話を進めるJuno

「そうよー、私はコスモスの民ではないの」
「でも、不法侵入じゃないよ。私、招待されたのAxelarに」

「何!?」

「私の名前は、ポリゴン。Polygon Networkの意識体~」
「MATICKは、Polygon NetWorkにおけるリソースのトークン名なの」
「だから、お姉さまにマティックってつけられて驚いちゃった!」
「直ぐにばれちゃうなんてって思ったけど」
「マンチカンとスコティッシュフォールドに似ているから付けたって!」
「理由が、かわいいー」
「でも、見破られたら、タヌキの姿で二足歩行しながら挨拶することになっちゃう!って内心ドキドキしていたから、たすかりました」

「そんな理由で?タヌキのままでいたの?」

「お姉さま。もし、猫に変身出来て、そのまま部下に知られずに可愛い可愛いされて、ばれて説明とかしなきゃいけなかったら大丈夫な人?」

「それはー」
(気まずいどころではない!)
「こまる!!」
頭を撫でられ、チュールをもらい膝の上でくつろいでからの身バレ
恥ずかしいが過ぎた。
立ち上がり、力強く叫ぶJuno
張りのある胸が、水しぶきを弾き飛ばす。

「わぁー!お姉さま、だいたん!」
Junoのすぐそばにいたマティックは、水しぶきを被る形になった。
そして、彼女の完璧に近い形の双丘を眺める形になった。

(がんぷくがんぷく!)
手を合わせ、なむなむと拝んでいるマティック

「じろじろと見ないで!」
むぅっとした顔で、胸を隠し湯につかりなおすJuno
そこに戦闘中の威厳など欠片もなかった。

「お姉さま、かっわいいー!」

「ん!それはいいから。マティック、いや、この場合は、ポリゴンか。なんでタヌキの姿なんてしてたんだ?」

「マティックでいいよ。お姉さまに付けてもらった名前、すっごくかわいいから大切にしたいなぁ」

「そっ、そうか!」
自分のセンスが可愛いと褒められて悪い気がしないJunoは、顔を赤らめながら自慢げにうなずいた。

「えっと、私がタヌキの姿をしていたのは、あるものを探していたから!センサーがすっごく働くようになるのよね。タヌキになると」

「何を探していたんだ?」

「お姉さま達が『悪性ボット』って呼んでいるもののブレーン」
「転送の起点になっているものよ」
「それを探し当てて、コアをかみ砕こうとしたんだけれど」
「逆にやられちゃってね」

「意外と強いんだな。マティックは」

「まぁね!一応、こんなんでもPolygon Networkの最大戦力だし」

「ほ、ほうー」
えっへんと胸をはる姿を見るが、少しもそんな様子には見れなかった。

「ところで、お姉さま。重要なことを言い忘れてました」
「だから、私、浴場に来たのです!』

「なんだ、重要なこととは?」

「『悪性ボット』のブレイン、まだ生きてます!」

「な、に!」
「最小の期待は破壊したはずだが」
そういうJunoの周りに転送空間が開かれてくる。

「なんだこれは!」

「ありゃー、ブレーンによるパッチの解析、成功しちゃったみたいですね」
「せっかくあてたパッチ、食い破られちゃう」
「この様子だと、今から130秒後には浴場は悪性ボットたちに占拠されちゃいますね」

「だから、その前に倒しますね」
そういって、タヌキの姿へと変身すると、Junoの髪を前脚であさる。
「ちょっと動かないでくださいね」
こちょこちょとくすぐったい感覚が走る。

「いた!」
「えい」
プチっと小さな虫をつぶしたような音がして、転送空間は全て閉じられていった。

「これで、大丈夫です!」

「どういうことだったんだ?」

「簡単な事です!一番小さな個体は、これだったのです」
そういって、彼女が見せてくれた指の先端をトランザクションで拡大すると、透明に透き通ったノミのようなものがつぶされていた。
もう、マティックによって粉々にされてしまったが、そいつの中には、確かにコアの様なものがあった形跡が見受けらえた。

「マティック、有難う」
Junoは、マティックを抱きしめる。
急なことで驚いたのか、タヌキの姿は、一瞬で解除され、美しい女性と愛らしい少女が抱き合う形になる。

一人ではどうすることもできなかった今回の件、Axelarや隊員たちはへべれけ。
Junoは、ブレーンを見つける手立てすらなかった。
もし、ブレーンを退治できなかったら、ベース基地ごと全滅していたかもしれないのだ。
それを救ってくれたマティックの功績は大きかった。
何より、その勇気に感謝したかった。
自分が疑われるとわかって浴場まできて正体を明かしてくれたこと。
そして、果敢に敵へと向かったこと。

「マティック」
「私は、お前に何が出来る?」
「私にできることならなんでもやろう!」
Junoは、Junoで自分に示せるものでお礼をしようとしていた。

「なんでも、ですか~」
「なら、お姉さまのおからだで」

「くっ、わかった。それがお前の望みなら」
そういって、覚悟を決めるJuno

「って、うそですよ」
「冗談です」
「だめですよ。そういうこと、気軽に言っちゃ」
「お姉さま、そんなんじゃ、パクっと食べられちゃいますよ。もちろん、性的な意味で」
「そういうのは、まだ、いいけど」
「そうだなぁー、今日もお姉さまと一緒に寝たいな」
それはだめかな?と可愛く小首をかしげるマティック
正直、できるタヌキだ。

「そんなことでよければ」

「やったぁ!」

===
人知れない場所で攻防が繰り広げられていた浴場。
勇者には、褒美が与えられようとしていた。

「じゃあ!おやすみなさーい」

「って、待て!マティック。人の姿でなのか!?」

「それはそうだよ!」
「だって、タヌキのときと感覚が違うんだもの」
そういって、Junoにすりすりし始めるマティック
観念したのか、Junoもマティックを抱き寄せ、頭を撫でてやる。
心地よかったのか、目をとろーんとさせJunoを見つめたあと、Junoの胸元に頭をぐりぐりと押し当て始めた。
丁度、タヌキの姿の時にやったようにだ。

「っん」
「だめだ!もう寝る」
ぷいっと、マティックとは逆の方を向き目を閉じたJuno
マティックは、Junoのパジャマの裾をひっぱる。
くいっくいっと。

「明日は、早いんだ。マティックも早く寝なさい」
そういったきり、Junoは黙ってしまった。
いくらひっぱっても反応がなく、仕方なくマティックも眠りについた。
彼女の手が背中越しにあたる。
(正直、あれ以上されていたら、どうなるかわからなかった)
そうJunoは思い、寝ることにしたのだ。
しかし、興奮の為、寝付けなかった。
耳を澄ますと、マティックの声が聞こえた。

「お姉ちゃん」
少し涙くんだような声で発せられたそれは、Junoの心を大きくえぐった。
(私は、何を勘違いしていたんだ。こんな少女がそんな目的で添い寝をするわけがないじゃないか)
(むしろ、そうだと思っていた私の方がばかだ)
(私は、彼女の事を深く知らない。だが、もしかしたら、そう。姉に対して、色々あったのかもしれない)
(そんなことは、命を懸けた戦場ではあることなのにな。何を私は)
自身のマティックに向けた感情、マティックが向けていた感情が違うのではと思いJunoは恥ずかしくなっていたのだ。
そして、自分が出来ることを行動に移した。
(私は、お前の姉にはなれないが、今、この瞬間の温もりを与えることはできる)
そう思い、マティックの方に向き直り彼女を抱擁する形になり眠りについた。

(ふふ、上手く行ったわ!)
タヌキ寝入りだったのだ。
このタヌキ、やはりできるタヌキだった。

朝起きると、マティックがいなかった。
NFTが枕元においてあり、そこには『ありがとう、また、会いましょ!お姉さま』と記載されていた。

(マティック、、)
NFTには、小さく矢印が書いてあり裏面を示していた。

裏面を見たら、そこには、マティックの端末アドレスとも呼べるものが記載されていた。
(ちゃっかりしている。しかし、いいだろう)
自身の端末を操作し、トランザクションを打つJuno

「さーて、Polygonに戻りますかな」
そういって、道すがら伸びをしていたマティックの端末が鳴る。
「ん!?」
急いで端末を見ると、そこにはJunoからの友人申請が記載されていた。

「まさか、本当にしてくれるなんて」
「これは、お姉さまに何かあったらすぐに駆け付けなきゃね」
そうつぶやき、Polygonへの道を歩き始めたのだった。

なんだかんだ色々あったがJunoの遠征は無事に終わったのだった。

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