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1.5-41 ソリティ・ガイア

「ふぅ、ソラナちゃん。早いよー!」

「エブモスが遅すぎなのですわ」
「少し、TPSを上げたらよろしいのでは?」

「あーーっ!人の気にしてることを!それ、わたし1人の力じゃどうしょもならないの知ってるくせに!」

「ならば、黙って走ることね。ほら、少しスピード落としましたから、これなら、いけますわよね?」

「ぎりぎり、だよー。どこの鬼コーチなの?」

「鬼コーチ。いいフレーズですわね。水球選手だった頃を思い出します。あれは、わたくしが、強化合宿で教鞭をとったとき」

「そういうのいいから!はぁ、はぁ。少し、スピード落としてくれるかなぁっ!」

「んもう、後少しだけですからね」

「ありがと。ソラナちゃん。なんだかんだ優しいんだ」

「ふふ。感謝なさい」
そう笑うと、ソラナは振り返りながら、サブマシンガンを構えへ発射した。

「嘘でしょっ!!ソラナちゃん!」

薬莢が山の様に排出され、弾丸がエブモスの後ろへと飛ぶ。

金属音の様な悲鳴が上がり、ガシャンと何かが落下する音がした。

「エブモス、余りわたくしから離れないように」
「ここは、もう、相手のテリトリーよ」
そう言うソラナの表情は、どこまでも真剣だった。

「テリトリーって!ここ、コスモスだよね」
「なんで、コスモスにこんなやつが出るの!?」
エブモスが振り返り指差した先には、鋼で出来たエビやカニ、虫の様な何かなど生物を模倣したボットと思われるものの残骸が横たわっていた。
みな、ソラナによる精密射撃で、その駆動部分をやられたのか、身動きができなかった。

「理由なんて、簡単よ。相手が雑兵を生産している。以上よ」

「シンプルだけどっ!シンプルだけど。なっとくいかないよー!」

「納得いかなくても、そういうときもあります。さぁ、走りますわよ。相手は待ってはくれないのだから」
そう言って走り始めるソラナ。

「まってよ!ソラナちゃーん!」
渋々、追いかけるエブモス。

彼女たちは、白い荒野を走る。
ただの荒野ではない。
廃墟の入り混じる荒野だ。

白いビル群が崩壊しており、真ん中からぽっきり折れているもの、何かに削りとられた様に右から半分がなくなっているもの、何かの屋根と思われしもの。

そういった残骸が残された白い大地を駆け抜けて行った。

———-
数時間前

「ならば、コスモスの第三層しか考えられないわね〜」
頬杖をつきながら、オズモがゆっくりと言う。

「なんでなの?」

「エブモス、少しは考えてから聞いたらどうなの?」
呆れた様に言うソラナ

「だって、わかんないんだもん!」
「ソラナちゃんは、わかるの?」

「ええ、わかりますわ」
「わたくし、オズモお姉様の妹でしてよ」
胸を張って、自信満々に答える。
はった胸からは、ぷるるんっ!と音がするくらい良い弾力でその双丘が揺れる。

「何!何!?じまん!?」
わぁー!とエブモスが騒ぎ始める。

「何の事かしら?」
「それより、聞きたいのではなくて?」

「そうだっ!ソラナちゃんの胸に気をとられてる場合じゃなかった!」

「エブモス、あなたねぇ」

「何で、リックさんやデイジーさんが第三層に向かうって思ったの?」
「ううん。その前に。第三層って、そんなのあるの?」
エブモスが素朴な疑問をぶつける。
自分達の街が、層構造なんて聞いた事がなかったからだ。

「あなたは、違和感を感じたことは。そうね。無さそうね」

「ソラナちゃんひっどーい!それ、わたしが鈍感みたいじゃん!」

「あら、あなたが鈍感なんて言うつもりはありませんよ。何せ、わたくしの意図する事が直ぐにわかったのですから」
そう言って、ニンマリとするソラナ。
それは、認めた者に対してする笑みの様なのか、さながら、寛いでいる人を見つけて膝に乗るタイミングを伺っている猫の様だった。

「はいはい。2人とも、そこまで」
「私が説明するから」
時間がないのでしょ?とオズモ

「はい!よろしくお願いします。お姉様」

「うん、おっけー」
「エブ子ちゃん、まず、このコスモスはね見た目通りの作りじゃないの」
そう言うと、オズモは、ホワイトボードを取り出し図を書き始めた。

球体があり、それが6当分されていた。
一番上の層に射線が引かれ、そこは、エブモス達が住んでいる場所を示していた。
他の層は、それぞれ

リソース加工
居住区画用、生産施設など記載されていた。

「ねぇ、なんで1層ないの?7層構造なんでしょ?」

「それはね。エブ子ちゃん。こういうこと!」
そう言って、全ての区間から一部分を丸で囲み、矢印を描いて、六層構造の真ん中に丸を描く。
それを机に置くと、もう一枚ホワイトボードを取り出し、そこに丸を描いて浮かべた。



「どういうこと?」

「そうね。少しわかりやすく説明するわね」
「私達が住んでいるコスモスは、これ。ほら、エブ子ちゃんもリソース加工地区とか社会科見学で行った事あるでしょ?」

「うん!あるよっ!」

「そう、そう言った区間があるの。それを横からみたらそうの様な形になっているのよ」

「なるほどー」
「でも、なんで?」

「その方が機能を分ける事が出来るから。効率化の為よ」

「ふーん。なら、この浮いている丸は?」

「それが、第三層よ」
「色々な層に丸をつけたでしょ?」

「うん」

「層は、機能を分けていると言ったわよね」

「うん」

「それぞれの層から、機能を寄せ集めて、構成されたのが第三層なの」
「いわば、ちっちゃなコスモスなのよ」

「ちいさなコスモス?」

「そう。ちいさなコスモス」
「私達が住んでいるコスモスのシュミレーターにして、コア。純粋な実験区間でもあるわ」
「ここで試された技術が、私達のコスモスで多く使われているの」
「私が使っている、このAMM」
そう言って、鳥の形をしたボットを指に止める。

「彼も、ちいさなコスモスでの実験を通して生み出されたわ」

「新しい技術を試す場所なの?」

「技術だけではないわ。新たな概念を実験したり。外部脅威の算出をしたり。コスモスの未来と言っていい領域。それが、ソリティ・ガイアよ」

「ソリティ・ガイア?」

「そうよ。一つにして無限。このコスモスを意味する言葉。それでいて、コスモスではない小さなコスモス。それが、この第三層よ」

「うーん。わからないけど。なんとなく。わかったような」

「うん。要するに、コスモスの魂が入った未来のコスモス。そう理解してもらえたらいいわ」

「凄いねっ!それ!」

「でしょ?」

「でも、何で、その第三層に行こうとしているの?」

「コスモスの魂が入った未来のコスモスと伝えたでしょ?」
「ここで行われた事は、私達の住んでいるコスモスにも影響するのよ」
「それが、数百、数千年後かもしれないけれど。必ず、このソリティ・ガイアに合わせる形にコスモスはなるのよ」

「あわわわっ。大変なんだよっ!」

「そうよ〜」

「だって、このちっさなコスモスが滅んだら、コスモスも滅んじゃうんだよ!」
「なんで、オズモさんは余裕なの!?」

「なぜって、そんなの影響が起きる前に修正すれば良いでしょ?」
「何百、何千年後よ。影響があるのは」

「たしかに!」

「ただ、それよりも、こちらの方が影響が大きいかしら?」
そう言って、上のホワイトボードに描かれた丸の上に更にホログラムを展開する。
それは、丸を底にすり鉢状の型を形成していた。

「これは?」

「祭壇よ」

「祭壇?」

「アトムさん、いるでしょ?」

「うん!巫女のアトムさんだよねっ!」

「そうそう」
「彼女が、コスモス様と会い、その更に上位の世界を観測する為の場所があるのよ」

「どう関係があるの?」

「上位世界との距離が近い。つまり、こちらはデイジーの目的にあった場所なのよ」

「デイジー達にとっては、上位者に会う為の。リックくん達にとっては、上位者との安易なコンタクト方法を知ってしまったコスモスを滅ぼす為のね」
「双方にとって、都合のいい場所がここなのよ」

「なるほど!」
「って、かなり、マズくない?オズモさん」

「不味いわよ。かなり。だから、エブ子ちゃん。あなた達の背中に未来はかかっているわ」
コスモスのね。と続け、頑張ってね。頭をポンポンする。

「オズモさん達は!?みんなで戦えばいいじゃん!」
なんでやらないの?と食ってかかるエブモス。

「出来るなら、私達も参加しているわよ」

「なら!」

「相手側からの要求」

「相手?」
「だれ?」

「ソリティ・ガイアよ」

「ソリティ・ガイアって、ちいさなコスモスでしょ!?なんで?」

「魂があるのよ。語りもするわ」
「そんな彼女が、『あなた達2人』の立ち入りなら許可したのよ」

「アトムさんは?」

「今回の許可の対象外よ」
「だから、あなた達が救うのよ。コスモスを!」

「わからない。わからないけど、やらなきゃだめなのは、わかる」
そう言って握り拳を作るエブモス

「そう力まないで。うまくいくものもいかなくなってしまいますわ」
「リラックスよ。エブモス」

「うん!ソラナちゃん、ありがとう」

「よくってよ。エブモス」

「ときに、オズモさん」

「はい?」

「何で、リックさん達は侵入出来たの?」
「呼ばれなければ、いけないんでしょ?第三層って」

「なぜ、行けたのかしら」

「なぜって!」

「そうね。ソリティ・ガイアにとって、デイジーもリックくんも、必要だったのかもしれないわね」

「滅ぼされてしまうのに!?」

「そうよ。だけど、こうも考えられないかしら?」
「そこで滅ぼされるなら、それまで。って」
「その前提で、それを上回り回避出来るのならば、コスモスの住人の力があがる」
「生き残った方が、優れていると実験しているみたいね。まるで」

「なんか、釈然としない理由だね」

「さぁ、それがあっているかは、わからないわ。あくまで、私の妄想よ。だから、真実を知るのは、ソリティ・ガイアだけ」
「ただ、事実として、彼らを止めなければ滅びるというのは確実よ」

「お姉様」

「何、ソラナちゃん」

「まどろっこしいですわ!」
「そんな外敵、片っ端から片付けてやりますわっ!」
「リックも、わたくし達を裏切ったこと、その身を持って味わって頂きます!」
そう言って、手を握り、指を外部に弾いた勢いで空圧を発生させる自称、お淑やかなお嬢様のソラナ。

「ソラナちゃん。気合い充分ね」

「はい!お姉様!」
花が咲く様な笑顔で返すソラナ
どんなときでも、全力で生きる。
それが、彼女の生き様なのだった。


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