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3.72章 終わり

(機動が変わった?)
ふとした違和感に気が付いたノノ。
それは、ちょっとしたことだった。
MakerDAOがスラスターを使い高速で動き回り、狙撃を行っていた時に感じた違和感
その直感に従い、ノノはMakerDAOから高速で距離を取る。
追う姿勢から、逃げの姿勢へと。

MakerDAOは、両手に融合させたライフルを高速で乱射していたのを止め、爆発した。

「何よこれ!」
MakerDAOの周囲から、一気に距離を置いたノノは、その爆発に飲まれることはなかった。
しかし、爆破の余波は遠くにいても伝わって来るものだった。
ノノの体表面に刻んだトランザクションや、エブモスがかけてくれた身体強化の効果が剥がれ落ちていくのを感じた。

そして、ノノは拳を突き出した。
突き出した拳は、ナックルで守られていたがMakerDAOが放った片手剣の突きで粉々になった。
「うん。なかなかの使い心地だ。戦闘能力も申し分ないね。それと、戦闘経験。なるほど、これはこう使うのか」
そういって、MakerDAOの姿をしたナニカは、片手剣を変形させ銃口を作り、ノノにゼロ距離射撃を放った。
しかし、それを受けてやるほどノノは弱くない。
体の重心を瞬時にずらすことで、それを回避した。

「ずっるいなぁ!それ。だから、達人は嫌いなんだ」

「その話し方は、キャプテン!?あなた、退去したんじゃなかったの?」

「退去?してないよ」

「コアからも反応が無かったじゃない」
「それに、後は任せたって言ってたわよね」

「言った言った。任せたってね」
「時間稼ぎをね」

「この嘘つきキャプテン」

「そうだよ。僕の得意技だからね」
「っと、素晴らしいんだよ。この体。MakerDAOだっけ。素晴らしいスペックだよ」
「ほら、こんなこともできちゃう!」
そういうと、キャプテンは、再び周囲に光を収縮させ始めた。

「っいけない!」
ノノは、踏み込みそれを止めようと突きを放つ。

放たれた突きは、キャプテンに躱され、左腕の関節部をがっしりと押さえれてしまった。
「さて、これで逃げられないね」
そういうと同時に手と融合したライフルが放たれる。
全てがノノの体へと降り注ぐ。
手を押さえられているがゆえに躱せない一撃。
しかし、ノノは、自らの腕を捻り、体を回転させることで命中を最小限に抑える。

「くっ」
あらぬ方向へと曲げた腕の痛みとキャプテンの銃撃にうめき声を上げる。

「へぇー、すごい覚悟!そんな動き僕には出来ないなぁ」
「だって、今、ものすごく痛いんじゃないかなぁ」

「痛いわよ」
「でも、私は私の思いを貫くのにまだ倒れられないってだけ。それがこの痛みを許容するの」
「キャプテン」

「うん?」

「あなた、こころは無いの?」

「こころ、あるに決まっているだろ」

「なら、なんで、そんなことが出来るの!」

「?」

「なんで、MakerDAOの体を乗っ取り、dappsをイーサリアムの大地をまっさらにするなんてことをできるの!」

「それは、僕がdapps達の意思の総体だからね。彼らがこれを望んだんだよ。僕は実行するだけ」
「それに、まっさらにするならMakerDAOだって同じことをしようとしただろ?何故、僕の時だけそんなに言うかなぁ」

「それは、あなたが自らのちからを全く使わないで事をなそうとするからよ!あなたの行為には信念が感じられないわ」

「それはそれは、ご高説どうも」
そういいながら、ノノから放たれた右手と蹴りのラッシュ
それを簡単に躱しながら、キャプテンが言い返す。

「あの二人、戦いながら、何か、話しているみたい」
「シークレットくん、わかりそう?」

「いや。エブモス。何を言っているのか、ここからだと聞こえない。しかも、空間に遮断のトランザクションがかけられている」
「音声を傍受するのも無理だ」

「僕はね。別に信念とか関係ないんだよね。これは生存本能みたいなものさ。いや?嫌悪感かな?」
「ノノ、君は部屋を汚くしたままでいる事に耐えられるかな?」

「何をいきなり!」

「まぁまぁ、良いから」
「僕はね。嫌なんだよ。そういうの」
「だから、きちんとお掃除して綺麗にするんだ」
「ごみ1つ無い部屋にね」

「何が言いたいのかしら」

「わからないかい?鈍感だなぁ」
「dapps達が一人もいない世界にお片付けしてしまおう!そういうだけなのさ!」

「わからないわ!」
「dappsも、フォーク体も、同じ意識体よ!」
「それぞれに意思があり、個性があり、命があるわ」
「それを自分の都合で片付けてしまいたいなんて、あなたはなんて勝手なの!」

「はははっ!バカみたい!命があるって」
「そんなわけないじゃん」
「だって、僕らはブロックチェーンの意識体なんだよ。その上にあるdappsの意識体なんだよ」
「意・識・体」
「言葉の意味、きちんとわかっているかなぁ?」
そういって、キャプテンの銃撃はより激しさを増していく。
それらを紙一重で避けながら、反撃の糸口を探すノノ
よけるノノにライフルの一部を片手剣に変形させて切りつけてくるキャプテン
銃撃と斬撃のコンビネーションで徐々にノノの体力を削っていく。

「ひと様の技術で強くなっておきながら、よくそんなことが言えるわね」

「あぁ、言えるさ。だって、彼らの願いを叶えるのが僕だからね。その為にちからを借りているだけさ」
「何せ、僕には、これと言ったちからがないからね」
そういって、キャプテンは、再び体から閃光を発し移動する。
体に存在するスラスターを増やし、無理やり推進力を得てノノの真横へ移動し、銃撃を放つ。
ノノも、躱そうとするも数発を脇腹に受ける。
「くっ」

「まったく、君もやるね。なんだよその、こっち向かずに感覚だけで回避とかさ。化け物かい?」

「化け物に化け物呼ばわりされたくないわね」

「はは!なんだい。酷いなぁ。MakerDAOの時は、まんざらでもない顔していたのにさ。僕がいうとそうなるのかい」

「それは、あなたには信念がないからよ。積み上げてきた志がないから」

「なんだよ。志とか信念、信念ってさ。馬鹿の一つ覚えみたいにさ」
「そんなもので、どうにかなるならどうにか出来ていただろ?この世界だってさ!」
「少女一人救えない世の中とか、マジ、おかしいからな、笑っちまうよ」
そういって、高速でスラスターをふかしながら逃げ回るキャプテン
その体からは徐々に光が溢れてきていた。

(まずい、あれは放たれたらいけない)
ノノは、腰に付けていたツールを分離させそれを指弾としてキャプテンに放つ

「当たるわけないだろ」
高速で飛来するそれらをキャプテンは躱していく

(諦めるものか)

「いいや、諦めろよ!」
そういうと、指数関数的にキャプテンの周りの光が膨張し始める。
それは、空間を波打ちながらすべてのものに伝番していった。
地面の石は粉々に。
空間を構成する次元すらもズタズタに引き裂くように。
ところどころ、青い筋が覗く世界が出来上がり、ノノの体を吹き飛ばした。

「なーに?もう終わりなの?」
全身に傷を負いながらも立ち上がろうとするノノをキャプテンが蹴り飛ばす。

「抵抗できないみたいだね」
「と、そこ、賢しすぎ」
そういうと、キャプテンは手を振るう。
クニの体が光の輪で拘束される。
手からは、狙撃用ライフルが落ちる。

「隠蔽のトランザクションを使って、狙撃か」
「なんだよ。僕の事言えないじゃん」
「きったなぁーい」
ひらひらと手を振りながら、ジェスチャーしながらキャプテンが笑う。
笑いながら、クニの手を踏みつける。
「くぁぁ!!」

「あはは!」
「これで、もうできないでしょ?」
「それと、『そこの君』もかくれんぼは終わりだよ」

そういって、自身のスラスターを引き抜きぶん投げる。

「つぅ」
シークレットがエブモスを庇う様にその全てを受け倒れる。

「君は、まぁ、無力化しないでもよさそうだけど。万が一があるといけないからやっとくね」
そういって、エブモスへと近付くキャプテン

「さ、させるか」

「うーん。いいね!その健気さ。そういうの。大っ嫌いだよ」
そういうと、腰の短銃でシークレットの両足を射貫く。
「がはぁっ」
シークレットが膝をつく。

「ふーん。君もその子を庇うのかい?いや、その子より、君の方が貴重だろうに」
「コスモスの巫女がさぁ!」

「そういう問題ではないわ!」
「この子は、私達の家族。コスモスの家族よ!」
「私は長女として、やらせるわけにはいかないわ」
そういって、立ちはだかるアトム

「どうでもいいけどさ。その義務感、ウザいんだけど」
そういって、手刀でアトムを切りつける。
一度切りつけ、血が噴き出る。
それでも、アトムが倒れないのを見ると、イラついた様に切りつける。
何度も、何度も。
その度に、アトムは立ち上がり、キャプテンの前に立ちはだかる。
「やらせ、やらせはしない!」
体はもう、ボロボロになり、力もつきかけているアトム
しかし、目は鋭い光を放ったまま、力強くキャプテンを睨み続けていた。
その様子に我慢ならないと言わんばかりに歯を食いしばり、腕を払いアトムを弾き飛ばしたキャプテン

「終わりだよ。コスモスからの客人。エブモス、君は無力だ」
「だが、君は未知数なんだ。だから、消させてもらうよ」
キャプテンは、エブモスがイーサリアムに来てからの軌跡をMakerDAOのコアの欠片にアクセスすることで得ていた。
それは奇跡と言っても良いものだった。
意思だけで、道を切り開いてきたエブモス。
それを手助けした多くの存在。
それが、気に食わなかった。

振り上げた手刀は、握り拳となり降り下ろされた。
ただの拳ではない。
イーサリアムで最強クラスのMakerDAOの肉体をトランザクションで強化を重ねた拳だ。
それが叩きつけられるのだ。
隕石の一撃にも似た一撃だった。
それは、放たれた先にクレーターを生み出した。
しかし、エブモスの姿はどこにもいなかった。

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