日常パート:アバランチ姉の療養
『以上が今度のプロジェクト内容です』
『わかった。で、ずいぶん顔色が悪いようだが』
年明け一発目のリモート会議。
アバランチがその能力をコスモスさんに買われ、特務一課と共同プロジェクトを行っていた。
プロジェクトは、トークンに関する研究、今回はオズモさん達研究所のメンバーはタッチしていなかった。
というのも、どちらかと言えばコスモス内での規則の整備に近いプロジェクトだったためだ。
だから、オズモさんは食指が動かずに『パス』と一言。
能力的に遂行可能だと見込まれたアバランチが推薦を受けて受託する運びになった。
そして、毎回、会議のモデレーターをしていたわけだが、今日は、体調が悪かった。
いつもなら、顔を出しながらパラチェーンズに進捗を確認し、課長のポルカドットの進行をサポートするのだが、今回は、顔出し無し。
そうとう辛いらしい。
それを読み取ったのか、ポルカドットが口を開く。
『アバランチ、今日はもういい。休め。アス太、お前、頭の回転はえーよな。行けるよな。代われ』と一言。
そっけなく振られた会話に、アバランチはダメだしされたと思い落ち込む(きっと自分の体調も管理出来ない様な女だと思われたのだわ)
勿論、ポルカドットがそんなことを思ったわけでもなければいったわけでもなかった。
この男、パラチェーンズやアス太には以心伝心の癖にこと、自分の好きな女性になるとダメダメだった。
デレて使い物にならなくなるか、そっけなく対応して、相手に誤解を与えるかの2択だ。
『アバランチ、ゆっくりやすんで、後日対応してくれたらそれで構わない』
『そら、アス太、続きをするぞ』そう促した。
ところ変わって、特務一課の机にて。
がさっ(婚活ならIBC!あなたも運命の人と出会える)
『なんなんですかねーーー!アス太くん!!』
『えっ、どうしましたポル課長?』
『僕は、アバランチさんに失恋したポル課長に新しい出会いをと思いまして』
『だれが失恋したんですかねー!誰が!』
『いや、あんなにそっけなくされたら心が離れちゃいますよねー』
『いくら、向こうから片思いしてくれていたって!』
『片思い!?まさか、アバランチさん』
『俺の事思ってくれていたのか?』
『そうなのかアス太君!』
『知りませんよそんなこと』
『僕、占い師じゃないんですよ?』
『ただ、僕なりに感じただけです』
『あくまで勘ですよ』
『後、そわそわするのやめてくれませんか?』
『いくら、ポル課長でもリズム取るとかねーです』
『いや、だがな』
『気になるなら、後は、僕らに任せたらどうですか?僕らでやれるので』
『大丈夫か?プロジェクトかなり押しているが』
『僕には、ポル課長の人生の方が押しているように見えますよ』
『さぁ、仕事は部下に任せて。帰った帰った。』
『だいたい、なんです?』
『その通販で届いた生薬詰合せ!絶対、アバランチさんの為ですよね』
『』
『ほら、仕事は僕らで出来る』
『でも、ポルカさんの人生は誰も代わることが出来ないんだからいってください』
『サンキュー、アス太!!』
『いいってことです!』
『僕らも、ポルカさんにはいつもお世話になっていますからね』といい笑顔を見せ送り出すアス太。
ピンポーン『はぁい』
気だるい声が聞こえる。
『おう、じゃまするぜ』
そういって、顔を出したのは、アバランチにとって意外な人物だった。
先ほどは、リモート会議をそっけなく切ったポルカドットが、大きなビニール袋を複数持ち玄関の前にいたからだった。
リモート会議が終わって、1時間。
まだ、お昼であり、仕事が終わる時間ではない。
会話をしながら、アバランチの家にあがる。
エブモスは今日は、学校の為、いなかった。
『ポルカさん、お仕事は?』思った感想を率直に述べる。
『あぁ、アス太達に任せえて、早退した』
『っと、それよりだ、重要なことがあるからな』
『重要?』
『まずだ。アバランチ』
『お前食事食べてないだろ!?』
『!!』
『何故、わかったの?』
『顔色が悪すぎる』
『熱、結構あるだろ』
『これを渡しておく』
『これは?』
『オズモに調合してもらった薬だ』
『えぇー』
『きちんと効くやつだからな、大丈夫だ』
『お前の症状を伝えたら、調合してくれた』
『それよりだ、予備の布団は確かあそこにあったはず、それで間違いないか?』そういって、指を差し、確認をするポルカドット。
『あるけど、それがどうしたっていうのよ?』
『あぁ、これか』
テキパキと空きスペースに布団を敷いていくポルカドット。
勝手知ったるエブ子の家。
アバランチも住んでいるがエブモスの家でもあるのだ。
ポルカドットは、エブモスの兄貴分でもあるから、よく来る場合があるのだ。
エブモスが布団を干そうとして、危なっかしいかったので何回か手伝ったことがあったのだった。
『お前ん家、客用とかあるのな?』
『そうだよ!あとは、予備ともいうかな?』そんな会話をしながら。
だからこそ知っている部屋の間取り。
『よし、出来た』
『あと、タオルとお湯もセットしておいた』
『それでよくふいた後に、着替えて寝ていろ』
『俺はキッチンを借りる』
『アバランチ』
『何かしら?』
『寝てろ』
急に放たれる言葉、自分の上司で妹の兄貴分のポルカドットが訪ねてきたと思ったら、いきなりテキパキと家事をはじめて『寝てろ』とのたまわっているのだ。
正直状況が読み込めない。
アバランチは、ポルカドットに対して恋心を抱いている。
いつもは、限りなくいい加減だけれども、仕事や身内の肝心なときになるとしっかりする彼のギャップにやられていた。
大きいけれど、意外と繊細な手も、ふと寄りかかってしまったときに感じた大きくて温かな背中も好きだった。
上げればきりがないのだけれども、好きなところは沢山あった。
だからこそ、先ほどのリモート会議のそっけない対応には落ち込んでいたのだが。
ふと、キッチンを覗きに行くとポルカドットは、料理をしていた。
テキパキと食材を刻み、下味をつけている。
視線に気づいたのか振り返り、
『体調が悪いんだ。着替えて寝てな』
『それが一番だ』と言われた。
アバランチは、彼の言う通り、高熱で発汗した体をタオルでふき着替えると予備の布団に眠った。
これまで使用していた布団には見慣れない機械が温風を送っていた。
(オズモさんの顔がプリントされている)
彼女の発明なのは言うまでもなかった。
恐らく、高速で乾燥と殺菌をする機械なのだろう。
『出来たぞ』
そういうと、食事をアバランチの部屋へと運んできた。
キッチンまで借りたのに部屋に入るときは律儀にノックをするポルカドット。
その対応に、思わず笑ってしまったアバランチ。
『なに笑っているんだ?』ちょっと不思議そうに尋ねるポルカドット。
『ううん。貴方が、キッチンまで借りていてね。部屋に入るのに許可取るのがおかしくて』答えるアバランチ。
『あぁ、女の子の部屋に入るからな』
『許可取らなきゃって思ったんだよ』
『それに、着替えていてもなぁ』とポルカドット。
お互いに意識しているのか、少しかみ合わない会話。
『それは、いいんだ』
『ほら、昼食が出来たのだから食べようぜ』
そして、ご飯をアバランチに出すポルカドット。
具材たっぷりの中華風のおかゆだった。
『今日の事なんだが』いきなり切り出すポルカドットにアバランチが答える。
『なぁに?』
『そっけなくして悪かった』
『お前の事だ。色々気にしていると思ってな。俺も言葉が足りなかった。悪かった』
素直に謝るポルカドットに、アバランチが『キモいのだわポルカドット!!』
とそれを台無しにする一言を言う。
『キモいってお前!』
『だって、ポルカドットが気を使ってきたのですもの。しかも、細かな言い回しで!』
『これは、珍事件なのだわ』
『珍事件っなぁ、俺だって反省とかするんだぞ』
『いいのよ。そんなこと気にしなくたって。貴方は頼れる特務一課の課長』
『皆をまとめるリーダーなの』
『だから、そんな細かなこと気にしないでいいのだわ』
フォローするように続けるアバランチ。
『でも、気にしてくれていて嬉しかったのだわ』
そう続けた。
『よし、食べ終わったみたいだな』
『んじゃ、台所に夕飯分と朝食分もあるから、それぞれ温めてから食べな』
『それと、薬、それよく効くから飲んでから寝る事』
『あとだ』
ごそっと、大きな袋から複数出てくる手ごろなサイズの瓶。
『これは生薬だから、体自身が直す力を促進してくれる。飲むと治りやすいから飲んでおくこと』
そういって、栄養ドリンクを手渡した。
『後は、これくらいでいいかな』
『そうだ、仕事は、体調が治ってからでいいからな』
そう念を押すようにいうと、彼は、自分の用事は終わったとばかりに帰る支度をする。
一言言わなければ、そういう思いがアバランチの背中を押す。
『ポルカドット!』
『なんだ?』玄関から、出ていくタイミングで呼び止められたポルカドット。
『今日は、色々とやってくれてありがとうなのだわ』
『わたし、プロジェクトがんばるから!』
『ん、あぁ!期待してるぜ』そういってポルカドットは帰っていった。
(なんで、なんであと一歩言えなかったの!!?アバランチ!)
そういって、悶えているアバランチを学校から帰宅したエブモスが発見し、『アバランチ姉ぇがおかしくなった!』といって、聞きつけたオズモさんが『美少女のピンチに私は駆け付ける!』と乗り込んできたのは、また別のお話し。
後日。
お礼という形で、ケーキをお店い食べに行く約束を取り付けたアバランチ。
『ポルカドットと、初デートなのだわ!』とうきうきしていたところをエブモスにつっこまれ。
『アバランチさんが、俺をデートに誘ってくれたのだ!』と自慢していたことをアス太につっこまれていた。
案外、この2人似た者同士なのかもしれない。
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