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再観測:星を継ぐもの:Episode5-3

Episode5-3:先へ進む道標

 広大な星海の宙域――そこはかつてThe Orderが誇る大艦隊を布陣していた場所でもあり、円卓騎士団と地球側の増援艦隊が合同で激戦を交わした戦場である。いまや敵艦の多くが沈み、王国艦隊が複数隻を配備し、星海の一画に仮拠点を築き始めていた。

 小宇宙という異次元空間の奥深くまで来ているため、通常の物理法則がままならない。この場に長期間の安定拠点を設置すること自体、困難を極める。しかし、ユグドラシル・モデルやThe Orderの核心を突き止めるためには、星海より奥へと踏み込む“橋頭堡”が不可欠だった。

「まるで宇宙ステーションを無理やり浮かべているような気分だな……」  ガウェインが盾を片手に、艦隊の臨時ベースを見下ろしている。そこには王国の大型輸送艦が停留しており、神官隊が魔法的バリアを張りながら環境を安定させている。見慣れぬ星屑や残骸がひしめき合う暗闇の宙をバックに、まばゆい照明が人工的に作り出した基地を照らしている。

「ここがしばらくの行動拠点になるわけだ。おかげで地球との往復も少しは楽になるか……もっとも扉やゲートを何回も抜ける手間は変わらないが」  低い声で応じたのは、スコープを抱えたトリスタン。彼のフォール・ノート(狙撃機)は先の決戦で砲弾を使い果たし、整備班が急ぎ補給と修理を行っている。

 円卓騎士団の4人――アーサー, ガウェイン, トリスタン, そしてカイン&アリス――が基地の一角に集まり、次なるステップを見据えつつ休息を取っていた。大規模決戦の後だけに疲労が大きく、各機とも被弾が多く修理が必要だ。
 一方、星海のさらに奥――白黒の世界や未知のゲートがなお存在するらしい。そこまでの道がどうなっているかは未確定だが、今回の拠点形成により、大部隊が後追いできるようになったのは大きな前進だった。


ブリーフィングルームの隅で、カインは端末を置き、ホログラムのアリスを表示させていた。数日前の決戦からの休息で、アリスは多少回復したものの、干渉力を連続行使したダメージが相当深刻らしく、完全には調子が戻っていないようだった。

「アリス、体……じゃないな、演算は大丈夫か?」  カインが問いかけると、アリスは小さく息を吸い込み、「まだ本調子じゃないわ。どこかで大きな干渉をまたやれと言われても、難しいかもしれない……」と申し訳なさそうに答える。

「そりゃそうだ。あれだけの艦隊相手に干渉力を乱発したんだ、むしろよく生きてると思うよ。しばらくは無理せずに」  やや苦笑交じりのカインの言葉は本心だ。アリスがいなければ旗艦撃破など叶うはずもなく、騎士団全員が命を落としていただろう。その代償が重いのは分かっている。

 アリスはホログラム越しに、控えめな笑みを浮かべる。「でも、私がこの世界を進む鍵であるなら、休んでばかりもいられない……。ユグドラシル・モデルのこと、思い出しそうなのに肝心な部分がまだ見えなくて……悔しいの」

「焦らなくていい。お前が壊れたらどうにもならないんだから……」  カインが彼女をいたわるように言うと、アリスは目を伏せながら「ありがとう、カイン。でも私は……」と口ごもる。自分が“小宇宙そのもの”をエミュレートする存在であり、人類とThe Orderを繋ぐ架け橋としての運命を背負っている以上、何もしないわけにはいかない――そんな使命感が、彼女を突き動かしているのだろう。


数時間後、拠点の中心に設けられた会議スペースでは、指揮官モルガンをはじめ、アーサーや円卓騎士団、そして技術班・神官隊の代表らが顔を合わせていた。
 星海を漂う大型輸送艦の格納庫を改造して作られた臨時ブリーフィングルーム。壁のモニターには、これまでの探索データや敵艦隊との戦闘記録が投影されている。

「皆、これまでの苦労で星海の宙域はほぼ制圧できたと言っていいわ。まだ細かい敵残党はいるけど、大規模抵抗は期待しづらい。でも、ここから先が問題よ」  モルガンが端的にまとめる。その先とは、白黒の宙域や更なるゲートが存在する境域のことだ。アーサーがそれに続ける。

「うむ。円卓騎士団が一度は足を踏み入れかけた、あの“上位宇宙”とも思える領域。そこに通じるゲートの座標は非常に不安定だ。アリスを含め、誰もが大きな負荷を覚悟しなければ行けない」

「それに、あの融合兵がいたように、何かもっと凶悪な存在がまだ待ち受けているかもしれません……」
 技術班の主任ヨナスが渋い顔で言葉を継ぐ。「王国の艦隊も、正直これ以上の進軍には危険を感じています。星海に拠点を作っているけど、恒久的に駐留するにはリスクが大きい」

 そんな中、カインは傍らのアリス(ホログラム)を見やり、意を決したように発言する。「だけど、結局そこに行かなきゃならないんだ。ユグドラシル・モデルの真実があるなら、世界を救うためにも避けられない道だと思う。俺たちだけでも行く価値がある」

「そうね……。私もそう思うわ」
 アリスが弱々しく頷くと、ガウェインが盾を脇に置いて「当然、俺らだって一緒に行くさ。そりゃ死地だろうけど、今さら止まれん」と鼻息荒く言う。トリスタンは静かに「僕も異存はないよ。道標があるなら進むしかない」と同調する。
 モルガンはメンバーの決意を一通り確認し、「となると、今後どう進むか……具体的な道標を探す必要があるわね。あるいは、上位宇宙へアクセスする“鍵”のような物が、この星海のどこかに眠っていないか?」と提案する。

「鍵……そういえば、白黒の宙域でアリスが干渉を行った時、紫の橋が一瞬できたでしょう。あれが何らかの“道標”になり得るのかもしれません」
 アーサーが振り返るようにカインやアリスに視線を向ける。アリスは少し思案し、「私の干渉で生じる橋は一時的なものに過ぎないかもしれない。でも、もっと安定した“道”を作れるかも……ユグドラシル・モデルの情報があれば」と含みを持たせる。

「なるほど。結局、そのユグドラシル・モデルって何なんだ? 誰が作った、どんな計画なんだ?」
 ガウェインの素朴な疑問に、アリスは苦悩した顔で答えられない。「ごめん、全部は思い出せなくて……でも、人類がThe Orderに対抗するために作った何か……それだけは分かるの」
 モルガンが浅く息を吐いてまとめる。「分かったわ。それを突き止めるためにも、星海のさらに奥に行く道標が要る。今のところ、あなたたちが唯一の頼みね。……とりあえず、騎士団は休息を取りつつ、上位宇宙へ向かう手がかりを探してほしいわ」

「了解だ、モルガン隊長。必ず見つけてみせる」とアーサーが力強く答え、カインとガウェイン、トリスタンも意気を示す。こうして、**“先へ進む道標”**として、さらに上位宙域へと旅立つ準備を進めることが本格的に決まる。


数日後、星海の宙域である程度の治安が確保されると、王国側は神官隊や調査隊を派遣して、近隣の廃墟や小惑星帯を探索し始めた。今後の鍵となる“何か”――古代装置か、ユグドラシルの記録か、もしくは上位宇宙へ通じるヒント――が眠っていないか探すためである。

円卓騎士団はメンバーそれぞれが機体の整備を済ませ、再び前線任務に就いていた。カインとアリスは銀の小手を運用しつつ、調査隊を護衛する形で幾つかの宙域を回る。

「この辺は以前にもドローンや異形の群れがいたけど、今は静かだな……」
 カインがコクピットから星空を見渡す。アリスは落ち着きを取り戻した声で解析し、「敵の大半は撤退したか散り散りに残っている程度かも。艦隊戦で大打撃を受けたのね」と推測する。
 一方、近くを飛ぶガウェイン機が「こっちには妙な影があるが……どうやらただの金属片みたいだ」と通信。トリスタンが射線を確認し、「落ちてるのはシールドパーツか古い装置か分からない」と淡々と返す。

 しばらく進むと、アーサーのエクスカリバーが先行していた調査隊の神官から通信を受信する。「こちら調査隊A-13。宙域X方向で古い“観測制御装置”と思われる物体を発見。円卓騎士団の援護を要請します」
 これがちょっとした大発見かもしれないと悟り、騎士団は即座に移動して隊を支援する。目的地は小惑星帯の陰に隠れているらしく、危険も伴うが期待も大きい。


調査隊が発見した“観測制御装置”は、見たところ水晶球を金属的な枠で覆ったような形をしており、かつてThe Orderが使っていた可能性もあるし、あるいは古代文明の残骸かもしれない。
 神官が魔法的スキャンをかけると、淡い光が球体から漏れ出し、周囲に走る文字に似た文様を浮かび上がらせる。カインやアリスもそれを覗き込むが、見覚えがない文字列が連なっている。

神官「何か……扉やゲートを制御する術式かもしれません。波長を合わせることで、更なる空間と繋げる一種の転送理論が書かれている気がします」

「転送理論……? ということは、上位宇宙やさらに先の領域への道標になるかもしれない」
 カインが目を輝かせる。アリスも端末で補助解析を始めるが、難解な文字のため時間がかかりそうだ。
 アーサーは周囲を警戒しつつ、「この装置さえ解析できれば、白黒の宙域や上位宇宙と安定的につながるルートを確保できるのではないか」と期待をにじませる。ガウェインやトリスタンも同じ思いだろう。

 だがここで再び邪魔が入る。近くの岩陰から、残党らしき異形が数体飛び出し、観測光を乱射してくる。研究者や神官が悲鳴を上げ、混乱するが、円卓騎士団が素早く迎撃に回る。
 カインは銀の小手を低空で飛ばし、ミサイルを撃ち込んで周囲を制圧。ガウェインが盾で神官を守り、トリスタンが狙撃で要所を一撃、アーサーが剣ビームで殲滅する。短い交戦で異形は沈黙し、装置は無事保護される形になった。

「ふう……また出たか。しつこい奴らだな」
 ガウェインが盾を下ろし、トリスタンが「まあ、少数なら怖くない」とスコープを閉じる。カインはアリスを気遣いつつ、「装置の解析が進めば、俺たちも白黒の宙域を安定して行き来できるかもな」と話しかける。アリスは頷き、「そうなれば私にも負担が減るし、騎士団だけでなく大艦隊が深部へ行きやすくなるかもしれない」と応じる。

 **これこそが“先へ進む道標”**になる可能性が高い。アーサーが「よし、装置を艦へ運ぼう。神官と技術班で徹底解析してもらうんだ」と指示し、調査隊が感謝しつつ装置を持ち帰る準備をする。かたわらでガウェインが大きく伸びをして「任務完了ってわけだな」と気を緩めるが、トリスタンが「油断は禁物だよ」と釘を刺す。


その後も数日間、星海の各宙域を巡る小競り合いが断続的に起きる。異形の残党やドローンが姿を現し、あるいは亡霊艦の自動防衛システムが暴走して神官隊を襲うが、その都度、円卓騎士団や護衛の艦隊が応戦し、被害を最小限に抑えていく。
 一方で大規模な敵の反攻は起こらず、どうやらThe Orderの主力は壊滅的ダメージを受けていることが伺える。もともと小宇宙の奥深くまで侵攻してきたのは彼らの最後の砦だった可能性がある。

カインはある星海の小惑星帯でパトロールを続けながら、アリスとの会話を重ねる。彼女は干渉力の負担を減らせば大丈夫とのことで、軽度の補助だけして休息を取っている状態だ。

「これが今の俺たちの日常ってわけか……すごいよな、ここは地球の常識じゃ考えられない空間なのに、基地や隊まで作っちゃってさ」
 カインが感嘆を込めて言うと、アリスは「うん……でも、いつまで続けられるかな」と不安げに返す。扉やゲートがいつ変動するか分からず、帰り道が断たれるリスクもあるからだ。
 それでも、今はやるしかない。上位宇宙へ通じるかもしれない“道標”を掴み取るため、星海という宙域での駐留が続けられている。


とある日、星海拠点で任務を終えたカインが仮設ラウンジで休んでいると、神官隊の一人が慌てて駆け込んできた。「カインさま、アリスさま! 先日保護した“観測制御装置”の解析が大きく進みました!」
 驚いたカインが端末を開くと、アリスが小さなホログラムで映し出される。神官は興奮気味に続ける。「あの装置……どうやら“空間転送”を安定化させる術式が書き込まれています。扉やゲートに連動し、上位宇宙へ通じる道を安定させられる可能性があるらしく……!」

「なんだって? それってつまり、白黒の世界やさらに奥へ安全に行けるかもしれないってことか?」
 カインの問いに、神官は深く頷く。「はい。もちろん大掛かりな準備が要りますし、アリスさまの干渉力も必要ですが、いまの我々なら、星海を拠点としてゲートを大きく安定化できるかもしれない」

 この知らせをアーサーやガウェインらも受け取り、即座にブリーフィングが開かれる。そこで技術班や神官隊が具体的な計画を提出した。「装置を中心に、扉やゲートの波長を共鳴させて安定化し、上位宇宙への転送ルートを作り出す。そのためには、星海と白黒の宙域の境界部分に大規模な魔法陣と観測基盤を据えなければならない」

 アリスがモニターを見ながら、「つまり、星海にもう一つ拠点を設置して、そこから白黒の世界へ繋がる“橋”を固定化するってこと……?」と確認する。技術班主任ヨナスが「ええ、理屈上は可能です。ただ、敵残党の襲撃や空間乱流をどう抑えるかが課題ですが」と答えた。
 アーサーが腕を組んで静かに口を開く。

アーサー「それができれば、大艦隊で白黒の宙域――さらに上位宇宙へ進行できる。ユグドラシル・モデルの本体やThe Orderの根幹を撃つ道が見えてくるというわけだ。……これぞまさに“先へ進む道標”だな」

「なるほど。俺たちが頑張って装置を手に入れた甲斐があったな」
 ガウェインがにやりと笑う。トリスタンは「星海に二つ目の大拠点を築くことになる。まだ先は長そうだが、我々に後戻りの選択肢はない」と冷静に評価する。
 カインはアリスをそっと見て、「本当に一歩ずつだな。でも、こうやって未来が切り開かれていくんだ」とつぶやく。アリスは控えめに微笑む。「うん……私も覚悟を新たにするよ」


ところが、新計画を実行に移そうとする矢先、星海の外れで再び混乱が発生する。落ち延びたThe Orderの残党――生体兵器やドローンの集団が、拠点設置に向かう神官隊を襲撃するという報告が入ったのだ。

「ちっ、またか……!」
 ブリーフィング直後にアラートが鳴り、カインたちはすぐさまスクランブル発進の体制をとる。円卓騎士団が急行すると、神官隊の小型輸送船がドローン十数機に囲まれ、観測光ビームを連発されているシーンに遭遇した。
 護衛が不十分なため、神官隊が絶体絶命のピンチに陥っている。

「俺たちの出番だ!」
 ガウェインが盾を前面に掲げ、真っ先に突撃。続いてアーサーが剣ビームでドローン群を斬り払い、トリスタンが精密射撃で動きを止める。カインは銀の小手で観測光を乱し、ドローンの隊形を崩す。

カイン「アリス、補助を頼む……! 神官隊を狙ってるビームを少しでもずらせ!」

アリス「は……はい……!」

 まだ疲弊状態のアリスだが、干渉力の小規模運用なら無理なくできると考え、短い範囲での位相ズレを発動。ドローンの精度が狂い、狙いが乱れたところをカインがミサイルで一掃する。
 やがてドローン十数機がまとめて爆散し、神官隊の船が救出される形となる。短い小競り合いだが、見逃せない危険がまだ星海に潜んでいることを痛感する場面でもあった。

「ありがとうございます、円卓騎士団……! おかげで助かりました!」
 神官隊が艦内通信で深く礼を述べる。アーサーが「気にするな。お互い協力して先へ進むんだ」と力強く答え、カインたちは小規模な護衛を加えて神官隊を誘導していく。
 星海に仮設基地を築く作業はそうして続行され、何度か小競り合いを経ても大きな被害は出ず、徐々に完成に近づいていく。これこそ次の段階へ進むための基盤――まさに「道標」を物理的に整備する行為とも言えよう。


昼夜の区別がない小宇宙だが、一息ついたころを“夜”と見なし、カインは銀の小手のコクピットでアリスと静かに会話をしていた。ホログラム越しのアリスは以前よりは顔色(表情)が良く、疲労はだいぶ回復しつつあるようだ。

「これで星海には大きな拠点が二つできて、白黒の宙域に通じるゲートを安定化できるかもしれない……俺たちの目的も、少し近づいたんだろうか」
 カインがホッとしたような笑みを見せると、アリスは複雑そうに瞳を伏せる。「うん……でも、まだ私の頭の中は霧みたい。ユグドラシル・モデルが何で、どうしてThe Orderと関わりがあるかは分からない。それに、もっと奥へ行けば……また怖い化物や戦いがあると思う」

「大丈夫だ。何度でも言うが、俺たちが守る。アリスはお前のペースで思い出せばいいさ」
 するとアリスは切なそうに微笑み、「ありがとう、カイン。あなたがいるから私、ここまで来れた」と答える。
 まだ星海の先に待つ世界は見えない。しかし、この星海を足がかりに、もっと深部へ進めば、真相やユグドラシル・モデルの全貌に辿り着ける可能性が高まる。今回の道標確保は、そのための大きな一歩となった。


大艦隊との決戦を制した円卓騎士団たちは、星海の宙域に堅固な拠点を築き始め、観測制御装置の解析によって白黒の宙域へ通じるゲートを安定化するプロジェクトを推進中だ。アリスが干渉力を発揮しやすくなる環境を整えることで、さらに奥の領域を探索できる見込みがある。
 同時に、ユグドラシル・モデルという謎のキーワードが、少しずつ具体的な姿を示しかけている。かつて人類がThe Orderに対抗するために研究した何らかの計画――アリスがその核を担う存在であることは間違いないが、まだ核心は見えない。騎士団の面々は、その問いが近いうちに大きく姿を現すだろうと感じている。

 星海の暗闇に灯る拠点の光が、遠く見渡す限りの星屑と交じり合い、幻想的な夜景を形作る。上を見上げれば、無数の星々の破片が流星のように瞬き、あるものは砕けて塵となり、あるものは結晶となって光を放つ。
 アーサー、ガウェイン、トリスタン、カイン、そしてアリス。彼らは星海の仮設ラウンジに一堂に集い、静かな会話を交わしていた。ふだんは厳粛な騎士団も、この時ばかりは軽い雑談や冗談で疲れを癒している。

「まったく、こんな異次元の宙域で拠点を作るとは思ってなかったぜ」とガウェインが愚痴ると、トリスタンはクスリと笑って「何だ、案外楽しんでるんじゃないか」と茶化す。アーサーがそれを微笑ましく眺め、「だが、この先ももっと危険が待ち受けている。心の準備はしておけよ」と真顔で付け加える。
 カインはアリスのホログラムを見やり、「お前も少し楽しそうじゃないか」と訊くと、アリスは照れたように笑う。「うん……みんながいるから、怖さが和らいでるのかな。いつか……何が起きても、私、この瞬間を忘れないよ」

「馬鹿言うな。いつかとかじゃなくて、ずっと俺たちが守るんだから、忘れる必要ないだろ」
 カインが照れ隠しでぶっきらぼうに言い、アリスは小さく吹き出す。周囲の仲間もそれに気づいて穏やかに笑い合う。確かな絆がここにある。その光こそが、先へ進む道標となるのだ。

そして画面の外では、星海全体をゆっくりと包み込むように、扉とゲート、観測制御装置、神官の魔法が交じり合い、ひとつの大きな転送陣が成り立ちつつある。これはまだ試作段階だが、いずれ騎士団や大艦隊が白黒の宙域――そのさらに先、上位宇宙へと到達するための橋頭堡になり得るだろう。

星海という奇異の宙で活動する王国艦隊と円卓騎士団が、新たに手に入れた“道しるべ”を手掛かりに、更なる深淵を目指す準備を進める。数多の困難や敵が待ち受けようとも、今の彼らにはそれを乗り越えるだけの絆と希望がある。次回、いよいよ上位宇宙やユグドラシル・モデルの秘密が本格的に動き出すことになるだろう――。

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