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1.5-29 話し合い

「交渉は、」

「決裂よ」
そう言って、席を立ったソラナ

「エブモス、リック。行くわよ。もう、ここでこうして話す意味はないわ」

「行かせると思っているのかしら」
カチリと、複数の引き金を引く音がする。

「ふぅ。関係者だけの話し合いが聞いて呆れるわね」
「これだけの暴力を行使しようと用意していたのだなんてね。お笑いよ!」

「彼らも、我が社の社員。関係者よ」

「屁理屈ね」

「さぁ、ソラナ。『碧色の玉』を渡して貰おうかしら?」

「それが何かを教えてくれなければ、わからないわ」
「碧色の玉なんて、宝石店を巡れば、いくらでもあるわよ」

「しらばっくれても、無駄なんだから!」

「落ち着きなさい。トロン」

「デイジー。」

「きちんと、説明しなければわかってもらえないわ」
「彼女の言っていることは、正しい」
「碧色の玉なんて、この世に沢山あるのだから」

「特徴は、伝えたわ!その上で、それを絶対に持っているはずなのよ」

「トロン!」

「う、わかったよ。デイジー」
そう言って引き下がるトロン

「その物騒な火器も下げてくださるかしら?」

「ソラナ君。すまなかった。私たちは、事を急いてしまったみたいだ」
そう言って、銃を下ろし下がる様にジェスチャーするデイジー。
黒服を着た武装社員達が武器を下ろし、奥へと下がる。

「先ず、私達のレルム構想についてはわかるかい」

「ええ、幾つかの専門集団を作りリソースを投下して国の様に機能させる事よね」

「その通りよ」
「その後の事を話すわ」

「その後?」

「ええ、話には続きがあるわ」
「国で得た富のうち、2割を上位者に捧げるの」

「上位者に!?」

「そうよ。その為には、アクセスする為のキーが必要なのよ」
「それが、碧色の玉」

「デイジー。あなた達は、アクセス出来ないの?少なくとも、貴女の真体は、リソース運用AIのはずよ?」
「上位者からリソースをもらって、運用し、渡しているのではなくて?」

「私からは、アクセス出来ないわ。リソースは、トロン経由で受け渡しをしているのよ」

「ならば、トロンが行えばいいじゃない!」

「それが上手くいけば、求めないわよ」

「いかないのね」

「ええ、トロン。そうよね」

「うん。私は、ただリソースを受け取り、デイジーに渡すだけ。デイジーからも、リソースを受け取って上位者に渡すだけ」
「そこに、私の意思は介在しないの。彼らが欲しい時に、そうなるだけなのよ」
そう言ったトロンの横顔は、少し寂しそうな表情をしていた。

「なるほどね。それは、僕らと君たちの違いだね」
それまで、黙っていたリックが話し始めた。

「そうね。あなた達、上位者に愛されているものには、わからない事実だ」
「私達は、彼らから愛されてはいない。でも、私は、この私を作り出してくれた創造主に感謝している。そして、私は、愛したいんだ!」

「デイジー、」

「トロン、貴女の協力で私の夢は後一歩と近付いた。後は、貴殿の協力次第だ。リック殿」
そう言って、リックを見つめて手を差し出したデイジー。

「つまり、僕らに協力して欲しい、と」

「ああ」

「僕らに、まだ隠していることはないか?」
そう言って、リックは、デイジーを見つめ返す。

「」

「上位者へのアクセスが出来る。ということは、君たちに聞いて、今、知ったよ。だが、構造的にそう言ったアイテムがなければ成り立たない事は、なるほど、推察出来る」
「僕の記憶に、なぜ、『儀式』『御子』などの知識があるか納得出来そうだ」
「その上でだ」
「君たちは、まだ、僕らに隠し事をしていないかい?」
「交渉の大切なことは、互いに隠し事をせず。フラットに。だろ?」
リックは、そうでなければ、事を進めることは出来ないのだから、と続けた。

「そ、それは」

「はーい。トロンちゃん、そこまでっ!」
「どうやら、このゲーム、ボクらの負けみたいだね」

気配も無くトロンの真後ろに現れた男にデイジーが声をかける。
「だれ、あなた?」

「お初にお目にかかります。紳士淑女達」
「僕の名前は、ジャスティン。彼女のパトロンさ!」
そう言って、ジャスティスと名乗った痩身の赤いスーツにシルクハットを被った長い赤髪の青年は、指を鳴らした。

途端。
銃声が響き、デイジーが倒れる。

「デイジー!」
デイジーに近寄ろうとしたトロンの腕から血が流れていた。

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