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天蓋の欠片EP9-2

Episode 9-2:タスクフォースの葛藤

連続事件の謎解明により、真理追求の徒が円状に事件を起こしていたこと、そして「G-6」廃棄施設を儀式の最終ポイントに据えている可能性が浮上した――この情報は、タスクフォースの一部メンバーに大きな衝撃を与えた。
しかし、組織全体にはスパイの存在が疑われており、上層部の多くは「そんなオカルトじみた話は信じ難い」と態度を保留している。アヤカは内部の限られた信頼できるメンバーを集め、夜明け前の会議室で極秘にミーティングを開いた。

タスクフォース本部の地下フロア――外の光が差し込まない薄暗い会議室。アヤカを含め、十数名ほどのメンバーがテーブルを囲むように座っている。照明は最低限だけ点灯され、壁にはモニターが設置されていて地図が映し出されていた。
アヤカが深刻な顔で口を開く。「皆さん、こんな時間に集まってもらって申し訳ありません。私たちが独自に掴んだ情報では、真理追求の徒が“G-6”廃棄施設を最終儀式の場として狙っている可能性が高い。そこを中心に円環を築くため、連続事件を偽装してきた……そう考えるのが最も筋が通ります」

テーブルの一端に座る男性隊員が困惑気味に手を挙げる。「しかしアヤカさん、上層部は“G-6”廃棄施設の監視を厳にせよとの通達を出していません。むしろ“別の地域を重点警戒しろ”と言われている。もしそこにスパイが絡んでいるなら、我々が逆らうのは危険です」
アヤカは苦い表情でうなずき、「そうなの。だからこそ、私はこのメンバーだけで極秘裏に調査を進めたい。もし本当にスパイがいるなら、私たちが動けば確実に報告が行くだろうけど……どうにか隠密に動く方法を考えなきゃならない」と答える。

一方、別の女性隊員が唇を噛みしめる。「私たちは組織に命令されて動いているのに、上層部に疑念を抱くなんて……正直、葛藤がありますよ。スパイがいるとか、円環の結界とか、ちょっと信じがたい。でも、連続事件の異常性は確かに納得できる部分があるんです……」
会議室の空気が重苦しく沈む。タスクフォースはあくまでも国家や国際機関の指示を受けて活動する組織で、個々のメンバーが勝手に動くのは本来許されない。だが、アヤカは組織の大義名分を守りながらも、裏切り者の存在に備えなければならないという板挟みに立たされていた。

「……ご安心ください。私が責任を負います。上層部に逆らう形になっても、もし儀式が本当に行われれば取り返しのつかない事態になる。私たちが事前に阻止できれば、それが何よりこの組織にとっての利益でもあるはず」
アヤカが強い口調でそう言い切ると、隊員たちは小さく頷き始める。彼女はなおも続ける。「まずは可能な範囲で“G-6”周辺を監視し、動きがあればすぐに私に知らせて。それと……生成者のユキノさん、カエデさん、そして探偵の九堂エリスさんと連携するつもり。彼女たちのほうが真理追求の徒の動向を掴んでいる」
一部の隊員が顔をしかめる。「民間人ですよね……しかも学生たちを直接戦闘に巻き込むなんて、本当にいいんですか?」と渋い声が上がる。

アヤカは苦い笑みを浮かべ、「彼女たちがいなければ、これまでの襲撃はもっと大きな被害を出していたはず。私たちの責任で保護しながらも、彼女たちの“生成者”としての力を借りないと、真理追求の徒には対抗しきれない。そこが私たちのジレンマよ……」と苦悶を吐露する。


会議が終わり、他の隊員が次々と会議室を後にしていく。アヤカは一人テーブルに残り、モニターに映る地図を見つめながら唇を噛んでいた。
「……ユキノさんとカエデさんを保護すべき立場でありながら、彼女たちの力を利用しているのも事実……。このままでは、いつか取り返しのつかない感情的衝突を引き起こすかもしれない」

アヤカの頭には、ユキノたちが痛みを伴う力を使っている様子が鮮明に浮かぶ。あれほど必死に戦っている姿を見れば、彼女たちにさらに危険な最前線へ行かせることへの罪悪感は強まる一方だ。だが、タスクフォースとしては儀式を防ぎ、世界を守るという大義名分がある。
「私たちは本当に、彼女たちを守れているのか……? それとも、都合よく戦わせているだけなんじゃ……」
呟きに応える声はない。広い会議室には誰もいなくなっていた。アヤカは心の中で“スパイを排除し、儀式を防ぐ”という任務と、“生成者の安全を守る”という責務との間で苦しんでいる。もし上層部が表向きに動けば、スパイに動向を察知される。黙って隠密に動けば、守るべき存在を危険にさらす。何を選んでもリスクが大きい――それが彼女の葛藤だ。

(私がもっと早く動いていれば、こんな状況にはならなかったかもしれない。エリスさんは既に傷を負っているし、ユキノたちも身体に痛みを溜めている……)

アヤカは少し瞼を閉じ、頭を振るようにして意識を切り替える。行動しなければ何も変わらない――それは分かっているのだ。彼女は会議室を出て、タスクフォースの極秘資料が保管されている端末室へ向かう。スパイをあぶり出す手掛かりを探す決意を新たにして。


その日の夕方、タスクフォース本部の廊下では、隊員同士が低い声で囁き合う姿が見られた。「ねえ、あの“G-6”だか何だかの警戒は命令にないのに、アヤカさんが勝手に動いてるんだって?」「そうらしい。上層部に逆らう形だよな……。本当に大丈夫なのか?」といった囁きが飛び交う。
中には「連続事件が実は円環の結界目的で、観測者を利用する陰謀がある? そんなオカルト信じられない」「いや、実際に怪しい痕跡を見た隊員もいるらしいぞ」とささやき合う者も。タスクフォースの中で確かな亀裂が生まれつつある――スパイがいるかもという噂がさらに職員たちを疑心暗鬼に陥れているからだ。

「俺たちは上層部の命令に従えばいいのか、それともアヤカさんに着いて行くのか……困ったな」
「まさか身内に裏切り者がいるなんて、信じたくないけど……最近の動きは不可解なことが多いしな」

そんな声が廊下で渦巻く。指揮系統の乱れが生じれば真理追求の徒に付け込まれるのは明らかだが、上層部は“円環”や“観測者”などのオカルトめいた説明を正式には受け入れていない。アヤカを支持する者は少ないが、一部の若い隊員は「現場に出てる彼女のほうがリアルを知ってる」と同調する者もいて、徐々に派閥めいた空気が漂い始めた。


タスクフォースのミーティングルームでは、アヤカの不在中に、別の高官が小規模な集まりを開いていた。そこには数人の隊員が呼ばれ、彼らは半ば強制的に「円環」「儀式」「観測者」といったアヤカの主張を否定するよう説明を受ける。
高官は渋面で、「このところ、アヤカ局員は独断専行が目立ちます。皆さん、上層部としては“生成者や観測者のオカルト説”に正式な裏付けがない以上、過度に傾倒すべきでないと考えている。もしあの円環理論が誤りで、他の地域でテロが起きれば責任問題ですからね」と釘を刺す。
隊員の一人が反論を試みる。「ですが、現場で“G-6”に不自然な痕跡を見つけたとの報告もあるんです。真理追求の徒が円状に事件を起こしているのも、事実で――」しかし高官は「まだ推測の域を出ません。誤った情報を流す者がいるかもしれない。最優先は上層部の指示を守ることです」と言葉を遮った。

(これじゃあアヤカさんの言うとおり、上層部にスパイがいるかもしれない……)

何人かの隊員はそんな疑念を抱えたまま、表には出せず会議を終えていく。こうしてタスクフォース内部では、アヤカを支持する少数派と、上層部の命令に忠実な多数派の間に溝が広がり、さらにその背後でスパイが暗躍している構図が形成されていた。


夜、アヤカはエリスに呼び出されて街の一角にあるカフェを訪れる。深夜営業の落ち着いた空間で、二人は向かい合って座った。
「こんな時間に人通りの少ないカフェを指定するなんて、あなたも随分大胆ね」
アヤカが軽く冗談めかして言うが、エリスは「ここなら上層部の監視がないし、スパイにも気づかれにくい。まぁ、男とデートする場所でもないし」と肩をすくめる。
二人ともコーヒーを頼み、アヤカが目を伏せながら口を開く。「実は……私、隊員たちをまとめるのに苦労してる。上層部は円環や観測者の話を信じたがらないし、スパイの噂が広がって隊員たちも疑心暗鬼。もう、どうすればいいのか分からない」

エリスは小さく頷いて、「想定内よ。でもあなたが挫けるなら、ユキノたちを支えられる人はいなくなる。あなたはタスクフォースの“公務員”として、彼女たちを本来なら保護する立場。その信念があるでしょ? だからこそ、これまで彼女たちを見てきたんじゃない?」とややきつめに返す。
アヤカは何も言えず俯く。エリスは続ける。「真理追求の徒の目的は“G-6”での儀式よ。そこへ行くために私たちは少数精鋭で奇襲を仕掛けるしかない。あなたはその手配をするだけでいい。内部の派閥がどうであれ、あなたが信頼できる隊員だけ連れてくればいいのよ」
「でも……もしスパイに動向が漏れたら? ユキノやカエデが痛みを押して戦うことになる。最悪、蒔苗の“終了”が引き金になれば世界が終わるかも。そんな大きな責任を、私が負いきれるの?」

エリスはコーヒーカップに唇をつけ、苦さを噛みしめるように静かに言う。「あなたが負わないなら誰が負う? 上層部が動かない以上、私たちがやらないといけない。私だって、彼女たちが傷つくのは見たくない。でも今はそういう状況なのよ……」
アヤカの目にうっすら涙が浮かぶ。「分かってる。ありがとう、エリスさん。あなたもユキノたちを大事に思ってるのは分かる。だから私も腹をくくるわ。……つらいけどね」

二人は黙り込み、カフェの静かなBGMだけが耳に残る。外の街灯がにじみ、曇り空からは冷たい夜風が吹き込みそうだ。タスクフォースの葛藤は深まる一方だが、それでも彼女たちは“決断”を避けられない。連続事件の真相――円環の結界――が明らかになった今、儀式の阻止が最優先だからである。


翌朝、アヤカが担当する護衛隊員のブリーフィングで、一人の若い隊員が思わず声を上げた。「アヤカさん、本当にユキノさんやカエデさんを危険な廃棄施設へ連れて行くんですか? 彼女たちはただの学生でしょう。いくら“生成者”の力があるからって、保護方針に反していませんか?」
アヤカはバツの悪そうな顔をしつつも、冷徹な目で返す。「保護することが最終目標です。しかし、真理追求の徒が彼女たちを狙うのは避けられない現実。むしろ、彼女たちの意思で前線に立ち、痛みを克服しながら戦っている以上、私たちができるのは“安全を確保しつつ力を生かす”ことだけなんです」

だがその隊員はさらに反発を示す。「本部の方針では、生成者の戦闘参加はあくまで“必要最小限”とされている。少なくともユキノさんやカエデさんを施設まで連れて行くなんて、過剰に思えます」
周囲の隊員もそれを聞いてざわつき、アヤカは胸を痛めながらも声を張る。「分かってるわ。それでも、あの廃棄施設を調べるには彼女たちの協力が欠かせない。もし私たちが大部隊を派遣すれば、敵に察知される恐れが大。少数精鋭なら、彼女たちの力が頼みの綱……」

沈黙が広がり、やがて他の隊員が「でも、彼女たちの同意はあるんですよね?」と尋ねる。アヤカは頷き、「ええ、本人たちも世界や仲間を守るために、痛みを耐える覚悟を持っている。私たちとしては、危険を最小限に抑えながら彼女たちの力を生かすしかない」と言葉を絞る。
保護か利用か?――タスクフォース内の葛藤は消えない。隊員たちの表情には戸惑いが混じり、しかしアヤカの決意を揺るがすほどの反対は起こらなかった。結局、彼女たちが最前線に立つことへのジレンマを抱えつつも、指示に従うしかないという立場を崩せないのだ。


一方、ユキノとカエデもタスクフォースの隊員から微妙な目線を感じつつ、登校を続けていた。護衛が校門を固めるたびに、クラスメイトが「また物々しいね……」と囁き合い、二人は居心地の悪さを感じる。
「……私たち、保護されてるのか、利用されてるのか、分かんない時あるよね」
休み時間に窓際で話すユキノが、ぼそりと呟く。カエデは手元のノートを閉じ、「うん。タスクフォースの人たちは悪気があるわけじゃないのは分かるけど、結局“戦ってもらう”方向で動いてる感じがする」と同調する。

「私たちが痛みを克服するほど、彼らにとっても戦力になるわけだし……。でも、守ってくれないわけじゃないし、矛盾してるんだよね」
ユキノは溜め息を吐くが、すぐに首を横に振って笑みを浮かべる。「ま、あたしはそこまで気にしてない。大事なのは、わたしがみんなを守りたいし、誰かに命令されなくても戦う覚悟を決めたってこと。カエデさんも、同じじゃない?」
カエデは曖昧に笑い、「うん……そうだね。私は研究施設の時は“利用されてる”だけだったけど、今は自分の意志で痛みを受け止めてる。そう思えば、同じ戦いでも気持ちは違うかも」と静かに答える。

二人の背中を校内放送のチャイムが押し、そろそろ午後の授業に戻る時間。タスクフォースの護衛が廊下を巡回し、クラスメイトがそれを横目で見ている。“保護”される立場のユキノたち――だが、実際には“利用”もされているという葛藤を抱えながらも、今は前に進むしかない。


そんな中、タスクフォース内部では、アヤカやエリスが極秘に計画を進めている一方で、スパイが確実に動向を掴み始めていた。上層部に紛れ込んでいるか、あるいは中間管理職の一人か、あるいは現場隊員か……正体はまだ分からないが、少人数で「G-6」に突入する計画がある程度察知されてしまう。
「どうやら奴らは“G-6”を疑ってる……。予定より少し早めに儀式の段取りを進めるか」
ローブ姿の男が携帯端末で仲間と連絡を取り、「円環はほぼ完成してる。あとは生成者が来れば強制的に扉を開くトリガーにできる……観測者も誘い込めば、さらに好都合だ」と嘲笑する。夜のビル裏で交わされる密談は、タスクフォースより一歩先を行くつもりらしい。

(やっぱりスパイの情報が伝わってる……。エリスたちが踏み込む時、こちらは待ち伏せすればいい。蒔苗がついてくるなら儀式成功は目と鼻の先だ)

彼らは隊員の制服を手に取り、「裏切り者」が渡した書類を確認する。そこには護衛の布陣やエリスの動きが詳細に書かれていた。これが“タスクフォースの葛藤”の最悪の結末――スパイが渡した情報で、保護対象が危険に晒される状況を生んでいる。


いよいよ“G-6”へ突入する日が迫る夜、エリスとアヤカはもう一度探偵事務所で落ち合い、最終作戦をすり合わせていた。地図上で侵入口や避難ルートを確認しつつ、ユキノとカエデへの指示内容をまとめている。
「もしスパイに動向が漏れても、私たちは少人数だから、一気に殲滅する作戦で行けるかもしれない。生成者の力に頼る形にはなるけど……」とエリスが言えば、アヤカは厳しい表情で返す。「でも、相手も覚悟を決めてるだろうし、蒔苗を無理やり呼び出す装置を完成させている可能性もある。ユキノやカエデが儀式のトリガーにされないようにしなきゃ」
エリスは時計を見ながら肩をすくめる。「問題は時間よね。あまり長引けば蒔苗が退屈して“終了”を選ぶ可能性もあるし、徒が儀式を強行するかもしれない。私たちとしては一気に蹴りをつけたい」

「蹴りをつける……」アヤカは溜め息を吐き、「大丈夫かな。タスクフォースの中にはまだ疑問を抱えてる人が多い。ユキノやカエデを危険にさらすな、という声も根強いわ」
エリスは唇を曲げ、「私だって二人を危険にさらしたくはない。でも、もう後戻りはできないわ。彼女たちも分かってる」と言い切る。
二人はテーブルに置いた書類を見つめ、決意を新たにする。戦いの火蓋が切られる前夜――タスクフォースの葛藤はピークに達しつつあるが、それでも彼女たちは前進せねばならない。


翌日、学校の昼休み。ユキノとカエデはエリスからのメッセージを受け取る。「明日夜、G-6施設へ突入予定。最少人数で行く。覚悟して」と短い文面だが、二人は瞬時に緊張感を覚える。
カエデは教室の隅で携帯を握りしめ、「明日の夜……ついに、連続事件の真相に決着をつけるんだね。怖いけど、やるしかない」と唇を噛む。
ユキノは息を飲み、「うん、私も怖い。でも……もしここで踏み止まったら、みんなが危ないままだし、蒔苗だってどう行動するか分からない。痛みは我慢する。カエデさんがいるから頑張れる」と言い、互いに小さく笑い合う。かつての孤立した転校生と優等生だった二人が、こうして共に世界を救う覚悟を固める日が来るなんて信じられないが、現実は容赦なく彼女たちを導いている。

ナナミやクラスメイトには詳しい事情を話せず、ただ「明日ちょっと用事があって……」と曖昧に誤魔化すしかない。タスクフォースの護衛も、何か感じ取っているようだが詮索はしない。
こうして、タスクフォースの葛藤を背景に、ユキノとカエデもまた“連続事件の謎解明”の先にある最終決戦へ向けて、一歩を踏み出したのだ。


作戦決行前夜、タスクフォース内部で密かに共謀している者たちが動き出す。「明日夜、“G-6”へ少人数が突入するらしい。こちらも待ち伏せするぞ……」と耳打ちする男の姿が廊下に見える。アヤカを仰ぎ見ながら「バカな女だ。こっちの思う通りに進んでくれて助かる」という声がかすかに響く。
その一方、エリスは情報屋から「不穏な動きがある。明日夜、真理追求の徒が逆に大勢の戦力をG-6へ集結させるらしい」と連絡を受ける。やはりスパイに情報が漏れているのだろう。
「くそ……やっぱり漏れてる。だけどもう後戻りはできない。このまま行くしか……」とエリスは歯噛みする。ユキノやカエデに余計な不安を与えたくないが、これ以上隠すのも危険だ。結局、手短に「敵が待ち伏せしてる可能性も高い」とだけ伝えている。


上層部の方針と現場の認識との乖離、スパイの存在で揺らぐ指揮系統、ユキノやカエデの保護か利用かというジレンマ――すべてが絡み合って「G-6」施設での最終決戦を目前に控える形になった。
一方、観測者・蒔苗もまた、不透明な態度の中に微妙な干渉を垣間見せている。彼女がリセットを選ぶのか、それとも彼女自身の意志で世界を見守るのかは定かでない。真理追求の徒は円環を完成させ、次なるステージとして“0次宇宙の扉”をこじ開けようと狙っている。
(これこそが、連続事件の真髄にして、タスクフォースが抱える最大の葛藤――守るための戦いでありながら、生成者を戦力として投入し、傷つけることへの背反。スパイの暗躍がどこまで進行しているかも未知数で、もはや組織の秩序は危ういバランスで保たれている。だが、ここまで来た以上、後退は許されない。)

翌朝、エリスは事務所でユキノとカエデを迎え、ほんの短い時間だけ作戦最終確認を行う。「アヤカが選抜した数名の隊員と一緒に、今夜“G-6”へ潜入する。数は多くないけど、敵に気づかれずに深部まで行けるはず」
ユキノは拳を握りしめ、「わかった。痛みなんかに負けないで、結界を壊して儀式を止めよう」と目を燃やす。カエデもうなずき、「私も一緒。蒔苗に“終了”なんてさせないし、真理追求の徒にも利用されたくない」と気合を込める。
エリスは彼女たちに笑みを送り、「ありがとう。タスクフォースの皆も葛藤は抱えてるけど、私たちにできることはやるつもり。……これはたぶん最後の大勝負になるかもしれないわ。絶対に生きて帰りましょう」と宣言したのだった。

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