
FFT_律する者たちの剣_EP:7-1
EP7-1:ヴォルマルフの策謀
イヴァリースの夜。月を覆い隠すように、厚い雲が空を支配している。
その下で、グレバドス教会の大聖堂――荘厳な石造りの尖塔がそびえ、普段ならば敬虔な信徒が祈りを捧げる神聖なる場所。その奥深く、夜更けにもかかわらず灯りが消えない部屋があった。
高い天井から吊るされたステンドグラスに、外の稲光が微かに映り、怪しい輝きを走らせる。その光を背にして、ローブを纏った一人の男が静かに佇んでいた。
彼の名はヴォルマルフ。
グレバドス教会の重鎮でありながら、ルカヴィや聖石に深く関わる“闇”の側面を担っていると噂される人物だった。高貴な雰囲気を漂わせながらも、その瞳は冷酷そのもの。まるで人の命を弄ぶことに何の躊躇もないかのような、淡々とした狂気を宿している。
「……人は神を求めるが、神が望むのは人の服従だ。」
ヴォルマルフはそう呟き、自らの指先で聖典の書をスッと撫でる。書の表紙には金箔の紋章が刻まれ、内部には古代文字がびっしりと書かれている。そこにルカヴィ復活の秘儀や、封印を解く儀式などが隠されているとされる。
その表情には微かな嘲笑が浮かぶ。神を崇めることで救いを得る人間たち。だが、真に神の力を振るうのは、選ばれし者――教会の上層部こそが“神の代理”として世界を支配するのが正しい姿だと、彼は信じて疑わない。
ヴォルマルフの背後に、ローブを被った僧が数名控えている。彼らも同様に教会の暗部に通じ、ルカヴィとの内通や聖石の悪用計画に加担している者たちだ。大聖堂のさらに奥深く――通常の信徒や司祭が立ち入らない部屋には、闇の儀式の遺跡のような装置があるらしい。
僧の一人が低い声で報告する。
「ヴォルマルフ様、先日から教会の動きに干渉してくる勢力がありましたが、どうやらミルウーダと名乗る革命家、そしてベオルブ家の名を継ぐラムザという青年……さらにはウィーグラフの亡霊のような存在が絡んでいる模様です。彼らは聖石を封じようとしています。」
その言葉に、ヴォルマルフはスッと眉を上げる。
「聖石を……封じる? ふふ……それは面白い。貴族たちはこぞって聖石を奪い合い、ルカヴィを操ろうとしているのに、この者たちは無力化を狙っているというのか。もしそれが成功すれば、我々の計画が……」
彼の唇に揺らめいたのは、まるで子供が虫を眺めるような好奇の笑み。明らかに“無力化”されるなど考えたくもないが、一方でその可能性を自ら踏みにじる愉悦を味わっているかのようにも見える。
「実に興味深い。――ルカヴィがもたらす破壊の力は、貴族の愚かな欲望と結びついている。だが、教会こそが真に神の御心を体現するのだ。彼らがどう足掻こうと、このイヴァリースは“神の下”に服従する運命……」
この言葉に、周囲の僧たちは粛々と頭を垂れ、同意の意を示す。
彼らが掲げる“神”こそ、ルカヴィ復活の裏にある真の目的――“ゾディアーク”への接近とも囁かれているが、その全貌は謎だ。いずれにせよ、教会が人々を支配するためには、聖石を独占し、ルカヴィの脅威をコントロールする必要があると考えているのは確かだ。
夜が明け、遺跡内には淡い朝日のような照明が注がれている。ミルウーダとウィーグラフAI、そしてラムザとセラフィーナが再度顔を合わせ、教会の動きをチェックしているところだ。
つい先日、教会の刺客が遺跡に侵入してきたことから、明らかに彼らの作戦が危険視されているのがわかる。さらに、ゴルターナ公のキュクレイン化だけでなく、教会がどう裏で糸を引いているか――探る必要があると判断した。
「教会サイドの動きも調べなきゃ。ルカヴィだけじゃなく、彼らが新たな召喚を狙っている可能性も……。私たちの“聖石無効化”計画が邪魔になるなら、潰しに来るかもしれない。」
「かつて教会がディリータを利用したように、ゴルターナ公もコマの一つに過ぎないのかも……。イヴァリースを裏から牛耳ろうとしている連中がいる――その中心人物が、ヴォルマルフという名を聞いたことがあるよ。」
ラムザは過去の戦いを思い出しながら、グレバドス教会の暗部に存在する幹部らの名を挙げる。ヴォルマルフこそ、その中でもキーマンらしい。
ウィーグラフAIは端末を通じて教会の情報を検索し、モーグリの尻尾をピコピコと動かしつつ話す。
「このヴォルマルフ……神の権能を語るが、実際はルカヴィに近い思想を持っているとか。教会の書庫を勝手に調べ、異端の儀式を開いているらしい。……俺たちの計画を掴めば、必ず潰しにかかるだろう。」
ミルウーダは肩の力を抜くように息を吐き、冷静に決意を燃やす。
“情報戦”――かつて革命家として地上戦を多く経験した彼女にとって、情報面での対決はある意味新境地だ。だが、“殺さずに革命を成す”ためにはこの道を避けて通れないと理解している。
セラフィーナとウィーグラフAIが遺跡の端末を駆使し、教会の内部文書にハッキングを試みるシーンを挿入する。高くそびえるファイアウォールや暗号化を一つずつ破り、闇に包まれた計画書を探すイメージがよく合う。
「教会のホストへ接続を試みます……暗号レイヤーが幾重にも張り巡らされています。なるほど……これは古代式の魔力符号と現代式の暗号が融合している……。」
「俺が支援する。波形解析に加えて、魔力的な撹乱を誘導する……そっちのキーをロック解除しろ……! よし、60%まで突破……」
ふと、モニターにエラーメッセージが連続表示される。どうやら教会側も“AI対策”を進めており、逆に遺跡システムへのハッキングを仕掛けてきたかもしれない。
「くそ……教会の中にも、俺たちと同じくらい技術に長けた連中がいるとは。さすがヴォルマルフ……いや、奴自身がやっているのか、或いは配下の術士か……」
「兄さん、落ち着いて。こんなサイバーな戦い(?)は初めてだけど、あなたなら勝てるよ。」
最終的に相手の逆ハッキングを振り切り、一部のファイルをダウンロードすることに成功。そこには**“ヴォルマルフの策謀”**を覗かせるメモらしきものが含まれている。
ダウンロードしたファイルを開くと、古い言語や暗号化された文章がびっしり。セラフィーナが解読を進めると、そこに浮かび上がる言葉がセラフィーナの人口脳髄さえも凍らせる。
「神の力を取り戻す儀式」
ルカヴィが“ゾディアーク”の名のもとに再集結し、教会が“真の神”としての立場を確立する計画が書かれている。
「ヴォルマルフはキュクレインを始めとする各ルカヴィと裏で連携し、聖石を集め、神の降臨を促す」
ゴルターナ公のキュクレイン化を焚き付け、混乱を拡大させる。
「人は神を求めるが、神が望むのは人の服従……まさに人々が戦乱に疲弊したとき、教会が救いの神を掲げれば、イヴァリースを一挙に支配できる」
そこにはヴォルマルフの名が明確に記され、「“人の意志”など無力。神の威光こそが世界を束ねる」という旨の文があり、まさに彼の有名な言葉が引き合いに出されている。
「人は神を求めるが、神が望むのは人の服従だ。」
読むほどに、ラムザとミルウーダの顔が強張る。教会は人々を救うどころか、ルカヴィまで利用して“神の威光”を打ち立て、全てを支配しようとしている……という明確な陰謀。
一瞬、遺跡の照明がノイズで揺らめき、ラボ内が青紫の不吉な光に染まる。コンソールから低い唸り音が響き、外では風が荒々しく吹き始める。まるでイヴァリース全体が暗雲に包まれつつあるのを象徴するかのようだ。
ミルウーダは魔銃を胸に抱くようにしながら、ファイルの内容に呆然とする。
「こんなの……教会がルカヴィと結託して、世界を支配しようとしているってこと? 私たちはゴルターナ公だけじゃなく、教会まで相手にしないと……」
ラムザも歯を食いしばり、「やはりそうか……。ディリータもかつて“教会の闇”に巻き込まれたと言ってた。ヴォルマルフという男は、ルカヴィ召喚の首謀者なのかもしれない……」と唇を噛む。
ウィーグラフAIはメタリックな尻尾を振りつつ、目を赤く光らせるようにスクリーンを睨む。
「……奴らがゾディアークを復活させたら、イヴァリースは地獄になる。一度、俺もルカヴィに身を委ねたが、あんな絶望が蔓延したら、人間なんてひとたまりもない。教会がいくら支配を狙おうと、結果は破滅だ。」
取り出したファイルを全て読み通したうえで、ミルウーダは地図の一点を指し示す。そこにはゴルターナ公の居城周辺だけでなく、教会本部近辺の動向も記載されている。
彼女は息を整え、目に燃えるような光を宿す。
「……私たちがやろうとしているのは、ゴルターナ公のキュクレイン化を阻止すること。そして、聖石の力を無力化すること……。でも、教会の闇がこんなにも深いなら、今の作戦だけじゃ不十分かも。もっと大きな動きが必要になる。」
周囲は静まり返る。確かに、ゴルターナ公を倒したところで、教会がルカヴィを別の場所で呼び出せば同じ悲劇が繰り返される。“革命”的な発想が必要なのは間違いない。
そこで、ウィーグラフAIが低く呟く。
「ミルウーダ……。確かに、教会の根を断たねば、いずれルカヴィは別の形で復活するだろう。だが、今すぐ教会を正面から打倒するわけにもいかん。俺たちには人手も足りない……」
彼女は頷きつつ、ラムザと目を合わせる。「だからこそ、情報を広めるの。教会がルカヴィと内通している事実を、ディリータや他の同志にも伝え、民衆が真実を知るように……。血を流さずに世界を変えようとするなら、まず事実を共有するのが一番の武器だよ。」
“情報戦”――これこそが、ミルウーダたちが掲げる新たな革命の形とも言える。
ラムザは苦い顔をしながらもうなずく。「確かに、人々が知らなければ、教会の陰謀を黙って受け入れるしかない。でも、僕たちが真実を明かせば、それが教会に対する抵抗の火種になるかもしれないね。」
まるでミルウーダたちの会話を妨害するかのように、遺跡内部で再びアラート音が鳴る。今度は、先ほど捕虜にした教会の一部が逃亡し、仲間を引き連れて再侵入を試みたようだ。
しかし、既に対策が整っている。ウィーグラフAIがセキュリティシステムを稼働させ、分厚い鋼鉄の扉を閉ざして廊下をロックする。
「奴らが廊下を突破しようとしているが、こちらにはセキュリティゲートがある。数人で応戦すれば十分だ……兄妹、行ってこい。」
「了解! ここは瞬時に終わらせるよ。ラムザ、カバーをお願い……」
二人が廊下へ突入し、わずか数分の交戦で再度撃退する。敵は慌てて退却するが、一部が最後に「ヴォルマルフ様がすべてを導くだろう……!」と叫びつつ離脱していく。印象的な捨て台詞を残し、教会の闇が大きく迫っていることを感じさせる。
再びラボに戻り、ミルウーダたちは互いの傷を簡単に処置しつつ息を整える。
長かった夜が明け、遺跡の外では灰色の空に朝日が霞む。魔銃を整備するミルウーダの横で、ウィーグラフAIがノイズ混じりに話しかける。
「……結局、ゴルターナ公に加えて教会のヴォルマルフまで敵に回す形になるか。ずいぶんと“大義名分”のある革命じゃないか、ミルウーダ?」
その口調は皮肉めいて聞こえるが、モーグリロボの瞳には兄妹としての信頼がうかがえる。彼は本当に“殺さない革命”を支えているし、妹の作戦を支えているのだ。
ミルウーダも「どうせなら、一度に全部片付けようよ。私たちが聖石を封じ、ルカヴィを倒す。そしたら教会も貴族も、人々を騙し続けられないはず……」と静かな闘志を燃やす。
ラムザが画面を見つめ、「ヴォルマルフ……。確かに、やつはディリータを操作して、王女オヴェリアを利用したとも聞いた。ゴルターナ公=キュクレインと合わせて、複数のルカヴィを管理しているなら、一筋縄ではいかないな……」と漏らす。
セラフィーナは淡々と報告する。「ルカヴィの封印と教会の陰謀……双方への対応には、相当の準備が必要でしょう。ですが、遺跡を拠点に情報を拡散すれば、少なくとも民衆が盲目的に教会を信じることを防げるかもしれません。」
最終的にダウンロードしたデータの中には、ヴォルマルフの肉声を録音した短い記録が含まれていた。そこには、彼が誰かへ向け語りかけるようにして、こう言う声が収録されている。
「人は神を求めるが、神が望むのは人の服従だ。」
その声は隠しマイクのような形で録音されたらしく、背景にオルガンの重低音が混じる。おそらく大聖堂の一室での会話の断片だろう。
ミルウーダとラムザ、ウィーグラフAIはこの言葉を耳にして、ぞっとするほどの冷たい威圧感を感じる。神を利用すると語るのではなく、“服従させる”と断言する彼――つまり、ヴォルマルフは神とルカヴィが表裏一体であることを知りながら、人間を踏み台にして世界を支配しようとしているのだろうか。
「こんなの、絶対に放っておけない……。神を求める人々を、家畜のように扱おうとしてる……まるで貴族の圧政より酷いかもしれない。」
「だから僕らが止めるんだ。世界を守るためにも……アルテマの剣を手に、ルカヴィに対抗できる力を準備するしかない。」
「そうだな。奴らが服従を望むなら、俺たちは自由を示す――それこそが“革命”というものだ。」
夜から明けた遺跡での激闘と情報戦は一段落つき、ミルウーダの「ルカヴィ無効化」プランがより確固たるものとなった。教会の黒幕としてヴォルマルフが立ちはだかることもはっきりし、ゴルターナ公=キュクレインへの討伐だけでは済まぬ大きな戦いが始まろうとしている。
最後の情景描写として、遺跡のラボで朝焼けのような光がパネルを染め、ミルウーダとウィーグラフAI、そしてラムザが改めて集うシーンを描く。地図や巻物がテーブルいっぱいに広がり、アルテマの剣のためのデータやルカヴィ召喚の痕跡ファイルが散乱している。
そこに、セラフィーナがコーヒー(あるいは何らかの飲み物)を運んでくるAI的描写を添え、「皆様、お疲れのようです。少し休息を……」と優しい声で勧める。
「ありがとう、セラフィーナ。もう少しだけ作業したら休むよ。兄さん、これからの方針を再確認しよう。」
「わかった。ヴォルマルフの策謀を暴きつつ、ゴルターナ公のルカヴィ化を止める。アルテマの剣を完成させれば、それらすべてに対抗しうる……。まったく、忙しいな。」
「僕はいつでも行けるよ……僕らが組めば、どんなに狡猾な教会の陰謀だって打ち破れる。」
小さく頷き合う三人。神を求める人々を“服従させる”というヴォルマルフの言葉に対抗すべく、彼らは“革命”を掲げるのであった。