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1.5-28 アフタヌーンティー

「只今、戻りましたわ!」
そういうと駆け出し、オズモへと抱きつくソラナ
オズモも、それを正面から抱き止める。

「おかえりなさい。ソラナちゃん」
「その様子だと、進展はあったようね」

「もちろんですわ!」

「うん。りょうかい。じゃあ、エブ子ちゃん、リックさんと一緒に座って待っていてもらえるかしら?」

「コーヒーだったら、わたくしが!」

「ううん。たまにはね。紅茶が飲みたい気分なの。とても、香りが良いからソラナちゃんにも楽しんでもらいたいかな。一緒に待っていてもらえるかしら?」

「そういうことでしたらっ!」
そういうと、すかさずどこからともなくエプロンを取り出して、身に纏うソラナ

「このわたくしにも、手伝わせていただきたいです」

「ゆっくりしていて欲しかったのだけれど。それなら、そうね。手伝って貰おうかしら」
オズモがそう言うと、ソラナとオズモは、研究室の奥、キッチンスペースへと消えていった。

「ノリノリ過ぎなんだよっ、ソラナちゃん」

「まいったねー。とは言え、少し考えをまとめる時間が出来て助かったよ」

「まとめる?」

「あぁ、そうさ。エブモスちゃん」
「さっき君にカフェで話した話し、覚えているかな?」

「戦力の話し?」

「それだよ」
「ソラナちゃんに提案したあの力なんだが」

「ふむふむ」

「正直、どうしてあーいう形をとっているのかわからなくてね」

「わからないの!?」

「あぁ。だって、そうだろ?トランザクションが発生したなら、その経緯が記録されるはずだろ?それが全くないんだ」
そう言って、手から木の実を出すリック
それを近くの植木鉢に放り投げると、一瞬で双葉へと変化し地面に根付いた。

「変化したら、やっと、記録される」
「僕が今まで、コスモスで見たものとは、全く異なるんだよねぇ」

「リックは、チェーンが違うんだから、そういう事もあるんじゃないかな?」

「いや、トランザクションとブロックへの記録はそう変わるもんじゃない」

「気にし過ぎじゃないかな?」

「なら、いいんだけど」
「ただ、記憶が無いってのは思ったより不安なものだよ」

「そう?なる様になるよっ!」

「力強いなぁ!」
「あぁ、そうだ。これは、君が持っておいてくれ」
そう言って、2つの碧色の綺麗な玉をエブモスの手に渡す。
渡された玉がエブモスの手に吸い込まれる様に消えていった。

「消えたっ!」
「って、いいの!?それ、リックさんにとって大切なものでしょ!?」

「確かに大切なものだけどサ。ただ、こうすると、少しだけ防御力が上がる。ソラナちゃんは、強いだろ?だが、君は、強く無い。なら、君の守りに使うのが良い使い道だろ?」

「確かに、わたしはソラナちゃんみたいに戦えないけど。リックさんだって、そうでしょ!?なら、危険は、変わらないはずだよっ」
大丈夫なのリックさん?と尋ねるエブモス

「大丈夫、大丈夫!僕には、謎の技があるみたいだしね」
そう言って、ちょいちょいと指を動かしてトランザクションを発生させる。
双葉は、ニョキニョキと成長し蔦をテーブルまで伸ばしたのを機に止まる。
ひょいと、指を動かして再度、トランザクションを作用させる。
すると、蔦は消え去り、テーブルの上には1つの木の実があった。

「ねっ!」

「すっごーーい!」
「って、これでどうにかなるの!?」

「なるなる!」
「それに、こいつだってある!」
そういって、謎の棒
丸が二つ空いたものを取り出す。

「これで、いざとなったら」
ばちーんと、振りかぶるリック

「全然だめそう!」

「ははは、厳しいなぁ」
「まぁ、ならなかったら、ソラナちゃんに守ってもらうさ」
君ともどもね。
と、笑って答えるリック

「あら、また、2人で楽しく談笑かしら」

「あぁ、楽しく話させてもらっているよ」
「しかし、随分時間がかかっ!?」

「どうしたの?」

「何、その焼き菓子とかポットとか!」

「あら、貴方、知らないの?」
「これは、上位者の世界で言う『英国式アフタヌーンティー』と呼ばれているものよ」
ご存知無いかしら?
と、言い切るソラナ。

「いや、知っているけどさ!それがなんで、ここにあるんだよ」

「それは、わたくしが作ったからです」
「お姉様が紅茶を淹れている間に」

「この場合、時間が掛かっていない事を突っ込めばいいのかい?それとも、オズモさんが紅茶を淹れるのに時間がかかった事を言えばいいのかな!?」

「お姉様は、完璧に紅茶を淹れていたわ!」
「わたくしが、そこに合わせて、用意したに過ぎないんだから!」
「お姉様が遅いわけではないわ!」

「ソラナちゃんったら、もう、張り切っちゃって。凄かったのよ」
おっとりと現れるオズモ
その手には、ティーポットと茶器があった。

「お姉様が特製の茶葉でミルクティーをと仰ったので、合わせるものがあった方が良いと思って」
やり過ぎてしまいましたでしょうか?
と、可愛らしく小首を傾げるソラナ

(ソラナちゃんっ、あざといんだよっ!)

(あぁ、彼女、自分が可愛いとわかっているものの所作だね。あれは。)

「なんですかっ!2人ともその生暖かい視線は!」

「「さぁ、なんだろうね」」

「そんなことよりも、さぁ、お姉様。ご一緒に」

「そんなに慌てないでも。今そちらに座るわね」
そして、お茶会がスタートした。

——————-
「なるほどね。結果、トロンちゃんが黒幕なのね」

「ええ、証拠はきっちり押さえましたもの」
そう言って、携帯機器を取り出しオズモに渡すソラナ。

「そうね。この数値に状況。言い逃れは、出来ないわね」
計測されたリソースの流動性と、現場の状況証拠、本人の映る写真。

「なら、これが送られてきた理由も読めそうね」
そう言って、1枚のNFTを提示する。
それは、3色に光り開封されていく。

「うん。宛先は、やっぱりあなた達3人ね」
条件が揃うと読める様になるNFT
かなり一般的様式ではあるが、情報漏洩を防ぐ為によくコスモスでも使われていたりするそれが発動した。

「はぁ!?ふざけるんじゃありますせんことよっ!!」
ソラナが憤慨する。

「まぁまぁ、ソラナちゃん。おちついて。まだ、続きがあるみたい」

「エブモス!こういうときは、続きも大抵、碌でも無いものよ!」

「私には、何も見えないし聞こえないから、説明してくれないかしら?」

それを聞いて、ソラナが顔を真っ赤にして、更に怒る。

「ソラナちゃん、落ち着いて!」

「これが、落ち着かずにいられますか!?」
「なんなんですか?この内容は3人以外に公開しないことって!」

「なるほどねー。NFTの条件に私が書かれていなかったから、共有が出来ない。と」

「申し訳ありません。お姉様」
しょぼくれはじめるソラナ
いちいち、寒暖の差が激しくて、そばにいたエブモスは、風邪をひきそうだった。

「いいわよ。そういうものだし。それ」
「書いてある内容は、ある程度掴めたから大丈夫よ」

「えっ!」

「共有出来なければ、解析すればいいじゃない」

「さっすが、お姉様!」
前のめりになるソラナ
きっと、彼女に尻尾があったのなら、大きく左右に振っている事だろう

「はい、か、いいえは答えられるかしら」

「はい」

「うん。なら、私が解析した結果があっているか、はい、と、いいえで答えてね」

「はい!お姉様」

「っと、ここまではあっているわね?」

「はい!」

「じゃあ、結論」
「早い話しが、招待状の様ね」
「そして、招待されているのは、あなた達3人」

「提示されている条件が、碧色の玉を引き渡す事。デイジーに危害を加えない事。デイジーとトロンの詮索を止める事」

「それと引き換えにコスモス宙域から手を引く」
でしょ?

「はい!」

「碧色の玉、どうして欲しいのかしらね?」
「あれって、トロンのトランザクション発動がわかるだけのものじゃなかったのかしら?」
なぜ、そんなものを態々欲しがるのか、不思議に思うオズモ

「どちらにしても、素直に渡すつもりはありませんわ!これだけの被害を出して、勝手に手を引くと上から目線で!」

「そうね。やった事に対する罰が無さ過ぎるわね」
「ただ、それ以上に碧色の玉。どんな意味があるか良く見定めないとね。未知数だわ」
「ソラナちゃん。交渉、頼めるかしら?」

「もちろん!お姉様自慢の妹のこのわたくしが、トロンと交渉して良い結果を勝ち取りますわ!」
だんっと、机を叩き誓いを胸にするソラナ

「ソラナちゃん、ソラナちゃん!」

「何かしら、エブモス?」

「机が割れちゃったんだよ」

「ごめんなさい!お姉様!」

「い、いいのよ気にしなくて。直しておくから」

「力強過ぎるよ、ソラナちゃん」

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