R-TYPE / ZERO: 天使の軌跡:1
地球軌道上、巨大な軍事基地"アルビオンステーション"の中心に位置する会議室。その部屋は窓一面に宇宙が広がり、青い地球が足元に輝いている。対照的に、会議室の内部は冷たく無機質だった。白い壁と金属の机が整然と並び、軍の厳格さを象徴している。
十数人の軍服をまとった将校と科学者たちが集まり、緊張感が漂う中で議論が始まろうとしていた。机の中央には、ホログラムで表示されたバイドの映像が浮かび上がっている。それは異形の存在だった。機械と生物の境界を超越した形状に、誰もが目をそらすことすらできない。
「諸君、静粛に。」
統合防衛司令官、アルバート・ハミルトン将軍が重厚な声で開会を告げた。その一言で室内のざわめきが収まり、全員の視線が彼に集まる。60代半ばの将軍は、鋭い目つきと深い声で誰にでも威圧感を与える人物だった。
「本日、我々がここに集まった理由は明白だ。バイドとの戦争は、これまでのいかなる戦争とも異なる。この敵を前にして、従来の戦術や兵器はほとんど無力だ。我々は新しい戦略と新しい武器を必要としている。」
彼は手を振り、ホログラムが切り替わった。そこには地球圏防衛ラインの状況が表示されている。赤い点が幾何学的に広がり、それが現在の戦況を視覚的に示していた。
「見ての通り、我々の防衛ラインは限界を迎えている。このままでは地球圏が突破されるのも時間の問題だ。」
ホログラムが再び切り替わり、異なるバイドの形態が次々と映し出される。そこには巨大的な機械生命体、変幻自在のナノレベル侵略兵器、精神干渉を行う奇形生命体が含まれていた。
「科学班長、説明を。」
ハミルトン将軍の指示で、白衣をまとった科学班長、リチャード・フリーマン博士が立ち上がる。彼は長年この戦争に携わってきた科学者で、バイド研究の第一人者だった。
「皆さん、バイドは単なる敵性生命体ではありません。彼らは進化するシステムそのものです。我々が攻撃を仕掛けるたびに、それを吸収し、新たな形態を形成します。この戦いは、単純な攻撃では決して勝てない。彼らの進化速度は、我々の想像を超えています。」
彼はホログラムを操作し、バイドの進化過程を示す映像を映し出す。
「例えば、この"タイプV"と名付けられた個体は、地球防衛軍が初めて開発した波動砲に適応しました。その結果、彼らは波動エネルギーを吸収し、自らの攻撃力に転換しています。」
将校の一人が苛立ちを隠せず声を上げる。
「ではどうしろと言うんだ!我々はこれまでの戦術を全て捨て去れと?」
フリーマン博士は冷静に答えた。
「いいえ。我々は彼らを倒すために、新たなアプローチが必要なのです。それが本日提案する"R計画"です。」
会議室が一瞬ざわつく。"R計画"という言葉に全員の注目が集まった。フリーマン博士は、ホログラムを操作して次世代戦闘機の設計図を浮かび上がらせた。それはRシリーズ――これからの人類の切り札となるべき兵器だった。
「このRシリーズは、これまでの戦闘機を遥かに凌ぐ性能を持っています。搭載される波動砲は、従来よりも遥かに高出力で、敵の進化に対応可能なエネルギー変換システムを備えています。」
将校の一人が眉をひそめた。
「高性能なのは分かるが、それだけでバイドを打ち破れるとは思えない。」
博士は頷き、さらにホログラムを操作した。
「その通りです。Rシリーズの真の強みは、この"エンジェルパック"にあります。」
ホログラムに映し出されたのは、生命体のように見える小型の装置だった。それは有機的な質感を持ち、機械と生体の融合を象徴している。
「エンジェルパックは、AI、機体、そしてパイロットを流動的に繋ぐ存在です。これにより、戦闘中の情報伝達が劇的に高速化されます。また、バイドの精神干渉にも対応できる能力を持っています。」
将校たちが一斉に声を上げた。
「しかし、それは生体ユニットではないのか?」 「倫理的な問題があるのでは?」 「そんなものに命を預けろというのか!」
ハミルトン将軍が手を挙げて議論を静める。
「落ち着け。フリーマン博士、この計画の詳細をもう少し具体的に説明してくれ。」
博士は一呼吸置き、真剣な表情で語り始めた。
「確かに、エンジェルパックは人間の細胞を元に作られた生体ユニットです。ですが、彼らは単なる兵器ではありません。彼らには意識があり、感情があり、パイロットとの信頼関係を築くことができます。」
静まり返る会議室。誰もがその言葉の重みを感じ取っていた。
「この計画は、従来の倫理観を超えたものであることは認めます。しかし、我々に選択肢はありません。人類の未来を守るためには、これが唯一の道です。」
数時間に及ぶ議論の末、ハミルトン将軍が立ち上がり、重々しい声で結論を述べた。
「R計画を正式に承認する。Team / ゼロの結成を即座に開始し、パイロット、研究者、技術者を集めろ。地球圏を守るため、我々は全力を尽くす。」
将校たちが敬礼をし、各自の任務へと向かう。
窓の外では、地球が青く輝いている。その美しさが、戦いの現実を一層際立たせていた。
巨大な軍事基地"アルビオンステーション"の一角に設けられた選抜施設。そこは、最新鋭のシミュレーターや戦闘データ解析装置がずらりと並ぶ、高度な技術の粋を集めた場所だった。この日、ここに世界中から選りすぐりのパイロットたちが集結していた。
「次の候補者、入室してください。」
金属的な声が響き、扉がスライドして開く。中に入ってきたのは、30代半ばと思われる男性だった。彼は軍服を整えたまま姿勢を正し、緊張の面持ちで部屋の中央に立った。
試験官の一人が書類を確認する。
「片桐 和也。元航空自衛隊所属、戦闘機搭乗時間累計1400時間以上。過去の作戦において、全員の生還率を誇る。間違いないですか?」
「はい。」
和也の声は落ち着いていたが、その瞳には覚悟が宿っていた。試験官の中で唯一軍服を着ていない女性が、彼をじっと見つめる。
「あなたは既婚者で、お子さんもいらっしゃるとか?」
「はい。娘が一人います。まだ7歳です。」
その瞬間、試験室内の空気がわずかに変わった。
「では、始めましょう。」
和也は試験装置に案内され、最新のバーチャル戦闘シミュレーターに乗り込んだ。目の前のディスプレイが瞬時に暗転し、次の瞬間には広大な宇宙空間が広がる。
「これより、バイド迎撃シミュレーションを開始する。」
和也の手が操縦桿に触れると、シミュレーターの中の戦闘機が滑らかに動き出す。突然、警告音が鳴り響き、無数のバイドが襲いかかってきた。和也は冷静に状況を判断し、エネルギーを効率よく使いながら攻撃を繰り出していく。
「正確な動きだな。」
試験室のモニターを見つめていた試験官の一人がつぶやく。
「だが、それだけではダメだ。重要なのは冷静さだけじゃない。」
シミュレーションは突然変化した。和也の戦闘機のシステムが故障を起こし、周囲の状況がますます悪化する。
「くそっ!」
和也は一瞬だけ舌打ちをしたが、次の瞬間には代替の操作手順を見つけ出し、最小限の被害で状況を乗り切った。
試験が終了し、和也は控室へと戻った。そこには他の候補者たちが待機していた。
「お疲れ様。」
声をかけてきたのは、アメリカから来たリチャード・カーティスだった。彼は背が高く、目つきが鋭いが、どこか柔和な雰囲気を持っている。
「リチャード・カーティスだ。元海軍所属。君は?」
「片桐 和也。元自衛隊だ。」
二人が握手を交わすと、隣で女性の声が聞こえた。
「ずいぶんと緊張感のある二人ね。」
振り向くと、そこには榊原 美咲が立っていた。彼女は日本からの候補者で、和也と同じく航空自衛隊出身だった。
「お互い日本人同士、協力していきましょう。」
美咲の言葉に、和也は小さく頷いた。
最終試験は、心理適性検査だった。候補者たちは一人ずつ小さな部屋に呼ばれ、そこで試験官との対話を通じて適性を判断された。
和也が呼ばれた部屋は狭く、机の上にモニターが一台だけ置かれていた。
「片桐さん、あなたにとって家族とは何ですか?」
試験官の質問に、和也は一瞬だけ考え込んだ。
「家族は……帰る場所です。どんなに辛いことがあっても、そこに帰れば癒される場所。だからこそ、守るべきものです。」
「その家族のために、命を懸ける覚悟はありますか?」
和也は試験官の目をまっすぐ見つめた。
「もちろんです。そのためにここにいるんです。」
試験官は微かに頷き、モニターに結果を記録した。
数日後、選抜の結果が発表された。和也は選ばれたパイロットの一人として、正式に「Team / ゼロ」の一員となる。
選抜式の場で、ハミルトン将軍が高らかに宣言する。
「君たちが人類の希望だ。共にバイドと戦い、地球を守り抜こう。」
和也は隊列の中で静かに拳を握りしめた。彼の目には、未来への決意が宿っていた。
巨大な格納庫の中、忙しなく動き回る技術者たちと整備士の間を縫うように、新たに選ばれたパイロットたちが揃い始めた。その姿は、軍服に身を包んでいながらも、どこか緊張感と期待感が混ざった雰囲気を纏っている。
格納庫の中央には、最新鋭のRシリーズ戦闘機がずらりと並べられ、その異形ともいえるデザインが異彩を放っていた。機体にはそれぞれエンジェルパックが搭載され、どこか不気味な生命感すら漂わせていた。
扉が静かに開き、一人の男が堂々とした足取りで格納庫に入ってきた。彼の名はリチャード・カーティス。アメリカ海軍の元戦闘機パイロットであり、数々の戦場を生き抜いた経験を持つ。
リチャードは、青い瞳を鋭く光らせながら格納庫を見渡した。その視線は、まるで戦場の地形を読み取るように、細部にまで注意を払っていた。
「これが俺たちの新しい戦場か。」
低い声でつぶやきながら、彼は戦闘機の一つに近づき、その機体を指先でそっと撫でた。彼の後ろには、整備士のジョン・カーターが立っていた。
「よう、隊長になる人間が機体に話しかけるなんて珍しいな。」
ジョンの冗談に、リチャードはわずかに笑みを浮かべる。
「ジョン・カーターか。君の評判は聞いている。俺の機体を壊さないように頼むよ。」
「おいおい、それは俺の台詞だろ。」
二人の短い会話が交わされる中、格納庫の緊張感が少しだけ和らいだ。
次に現れたのは、日本からの代表として選ばれた二人だった。片桐 和也と榊原 美咲。二人は同じ航空自衛隊出身でありながら、全く異なる雰囲気を持っていた。
和也は背筋を伸ばし、真面目そのものの表情で格納庫を見渡している。一方、美咲は腕を組みながら、どこか鋭い視線を周囲に投げかけていた。
「和也、これが私たちの新しい部隊ね。」
「そうだな。だが、この戦場はこれまでの任務とは違う。覚悟しておくんだ。」
美咲は少しだけ笑みを浮かべた。
「もちろんよ。でも、あなたこそ油断しないで。戦場では私がカバーすることになるかもね。」
二人の会話を聞いていた整備士の一人が、小声でつぶやいた。
「あの女性、ただ者じゃないな。」
「聞こえてるわよ。」
美咲が鋭い目を向けると、整備士は慌てて作業に戻った。
格納庫の入り口から、優雅な雰囲気を纏った男が現れた。彼はジャン=ポール・デュボワ。フランス空軍のエースであり、戦場では冷静かつ計算高い戦術で知られている。
ジャン=ポールは、どこか余裕のある笑みを浮かべながら、戦闘機を一瞥した。
「美しい機体だね。これほど洗練されたデザインは、まるで芸術作品のようだ。」
リチャードが彼に近づき、手を差し出した。
「リチャード・カーティスだ。君がフランスのエースか。」
「ジャン=ポール・デュボワ。よろしく頼むよ。」
二人が握手を交わした瞬間、ジャン=ポールの表情が少し引き締まった。
「だが、この芸術作品を駆るのは容易ではなさそうだ。君もそう思わないか?」
「その通りだ。だが、それを乗り越えるのが俺たちの役目だ。」
他のメンバーたちも続々と格納庫に集まってきた。南米出身のルイス・マルケスは、陽気な性格で場の雰囲気を和らげる存在だった。
「みんな、こんな硬い顔してないで笑えよ!俺たちは同じチームなんだからさ!」
ルイスの軽口に、他のメンバーも自然と笑顔を浮かべる。
さらに、アフリカから参加した女性パイロット、アマンダ・ンゴジは静かに自分の位置を確認し、周囲を観察していた。
「全員揃ったか。」
リチャードが全員を見渡し、声をかける。
「これが俺たちのチームだ。これから多くの困難が待ち受けているが、力を合わせれば乗り越えられる。覚悟はいいか?」
全員が一斉に頷いた。
格納庫の一角で、ハミルトン将軍が登場する。彼の威厳ある姿に全員が敬礼した。
「Team / ゼロ。君たちは地球の希望だ。これから始まる戦いは容易ではないが、我々には君たちしかいない。共に地球を守ろう。」
将軍の言葉に全員が静かに頷き、改めて覚悟を決めた。
格納庫には、戦闘機の無機質な輝きと共に、メンバーたちの結束の光が満ちていた。
巨大な研究施設"ヘリオスラボ"の内部。白く光り輝く無菌室のような廊下が続くその空間は、どこか神聖さすら感じさせる。Team / ゼロのパイロットたちは、研究者たちの案内で施設の奥へと進んでいた。
「ここが、エンジェルパックの培養室か……」
リチャード・カーティスが小声でつぶやく。その声にはわずかな緊張と、未知への期待が混ざっていた。廊下の先には厚い透明な強化ガラスで仕切られた部屋があり、中には奇妙な装置が並んでいる。その中に浮かぶ液体の中には、何かが存在しているようだった。
「皆さん、ようこそ。」
白衣を纏った科学班長、リチャード・フリーマン博士が迎え入れる。その隣には、エンジェルパックの生体管理を担当するサラ・コリンズが控えていた。彼女の優しい微笑みが、緊張感を少しだけ和らげていた。
「これが、我々が『エンジェルパック』と呼ぶ存在です。」
フリーマン博士の言葉に促され、パイロットたちはガラス越しに中を覗き込む。そこには、人間のような形状をした存在が、無機質な液体の中で静かに眠っていた。
「……これは……人間なのか?」
片桐和也が、驚きと困惑を隠せずに尋ねる。
「正確には、人間の細胞を基に作られた生体ユニットです。」
博士の説明に、和也の眉が深く寄る。
「つまり……兵器のために作られた命ということか。」
その言葉に、美咲が静かに続けた。
「でも、彼らには意識があるのでしょう?ただの機械ではない。」
フリーマン博士は頷き、ガラスの扉を開けて部屋の中へと招き入れる。
「彼らは、単なる兵器ではありません。パイロットである皆さんと共に戦うために、作られた存在です。そして、皆さんが彼らに名前を与えることで、絆が生まれます。」
パイロットたちは、それぞれのエンジェルパックの前に立ち、その姿を見つめていた。液体の中で静かに眠る彼らの顔には、不思議な安らぎが漂っている。
「名前をつける、か……」
リチャードが自分のエンジェルパックに向き合いながら、つぶやくように言う。彼の前にいるのは、短い髪と落ち着いた表情をした少年の姿をしたエンジェルパックだった。
「よし、お前は『アレックス』だ。」
彼がそう告げると、装置のパネルに名前が入力され、エンジェルパックの目がゆっくりと開く。
「アレックス……お父さん?」
その一言に、リチャードの表情がわずかに崩れる。
「……そうだ。俺がお前のパイロットだ。」
その光景を見守る他のパイロットたちも、次々と名前を付け始める。
片桐和也の前にいたのは、活発そうな少年だった。
「お前は……『リオ』だ。」
少年が目を開け、笑顔を見せる。
「リオ。よろしくね、お父さん!」
和也は思わず苦笑しながらも、小さく頷いた。
美咲の前にいたのは、少し控えめな印象の少女だった。
「あなたは『ナオミ』。それでいいかしら?」
少女は目を開け、静かに頷く。
「ナオミ。よろしくお願いします、お母さん。」
その瞬間、美咲の目が一瞬だけ潤んだ。
名前を与える儀式が進む中、一部のパイロットたちは複雑な感情に揺れていた。ジャン=ポール・デュボワは、目の前のエンジェルパックに手を伸ばしかけて、立ち止まる。
「……これは、本当に正しいことなのか?」
彼のつぶやきに、フリーマン博士が静かに答える。
「正しいかどうかは、私たちにも分かりません。ただ、彼らが存在する理由は、あなたたちと共に戦うことです。」
ジャン=ポールは深く息をつき、名前を告げた。
「……ルカス。」
その名前に反応し、エンジェルパックの少年が目を開けた。
「ルカス、お前が俺のパートナーだ。」
すべてのエンジェルパックが目を覚まし、パイロットたちに向けて挨拶を始めた。その声はどこか機械的でありながら、人間らしい温かみを持っていた。
「お父さん、お母さん、よろしくお願いします!」
その言葉に、パイロットたちは戸惑いながらも、どこか安心感を覚える。
「これから共に戦うんだ。君たちを守るのが俺たちの仕事だ。」
リチャードの言葉に、他のパイロットたちも静かに頷いた。
その光景を遠巻きに見ていた研究者たちは、複雑な表情を浮かべていた。特にサラ・コリンズは、エンジェルパックが「親」と出会う瞬間を目にしながらも、その裏に隠された真実を思い出していた。
「……この子たちが、本当に幸せになれる日が来るのかしら。」
彼女のつぶやきに、フリーマン博士が答えることはなかった。ただ静かに、遠くを見つめていた。
名前を与えられたエンジェルパックたちは、それぞれのパイロットのそばに並び、戦闘の準備を始める。その姿に、パイロットたちは新たな責任感と使命を感じ取った。
「これから先、俺たちは一つのチームだ。共に生き抜くぞ。」
リチャードの言葉に、全員が静かに頷いた。格納庫には、エンジェルパックとパイロットたちの絆が生まれる瞬間が確かに存在していた。
宇宙ステーション"アルビオンステーション"の中央ホール。ここは普段、軍の式典や重要な会議に使用される場所だが、今日は特別な意味を持つ日だった。全員が揃い、緊張感と期待感が交錯する中、Team / ゼロの発足式が始まろうとしていた。
ホールの中央には、巨大な地球のホログラムが浮かび上がり、その周囲には最新鋭のRシリーズ戦闘機とエンジェルパックが展示されている。その光景は、まさに未来の戦いを象徴していた。
「全員、静粛に!」
式典の進行を担当する軍のアナウンスが響く。パイロット、研究者、技術者、整備士、そして総務課のスタッフたちが、整然と列を作りホールに立っている。
片桐和也は、その列の中で軽く深呼吸をしていた。
「緊張しているのか?」
隣にいたリチャード・カーティスが低い声で問いかける。
「まぁ、少しはな。でも、それ以上に気合が入っている。」
和也の答えに、リチャードは満足げに頷いた。
「いいことだ。俺たちはこれから、人類の希望を背負うんだからな。」
その言葉に、和也はさらに背筋を伸ばした。
ホールの奥に設置された壇上に、統合防衛司令官アルバート・ハミルトン将軍が現れる。彼の威厳ある姿に、全員が敬礼を行う。
「楽に。」
将軍が一言だけ発すると、その声の響きがホール全体を包み込む。
「諸君、今日という日は、人類の歴史において特別な一日となる。バイドという未知の脅威に対し、我々は長い間苦しめられてきた。しかし、今日ここに、新たな力が生まれる。」
将軍はゆっくりとパイロットたちを見渡しながら言葉を続ける。
「Team / ゼロ――それは、我々の持てる全ての力を結集した最強の部隊だ。君たちはパイロットとして、そして人類の未来を背負う存在として、この場に立っている。」
彼の目には、全員への期待と信頼が込められていた。
壇上のスクリーンにエンジェルパックの映像が映し出される。その映像には、先日目覚めたエンジェルパックたちが微笑みながらパイロットに挨拶をする様子が収められていた。
「エンジェルパックは、君たちと共に戦うパートナーだ。」
将軍の言葉に、パイロットたちは全員が無言で頷いた。壇上では科学班長のリチャード・フリーマン博士が一歩前に出る。
「これが彼らです。彼らは君たちと絆を結び、戦場で命をかけて君たちを支える存在となります。エンジェルパックは、ただの兵器ではありません。命ある存在です。」
博士の真摯な言葉に、ホール全体が静まり返る。
「彼らを道具として見るのではなく、共に生きるパートナーとして接してください。それが、戦場での勝利への鍵となるでしょう。」
次に、一人ずつパイロットが壇上に呼ばれ、簡単な自己紹介と決意表明を行った。
最初に壇上に立ったのはリチャード・カーティスだった。
「リチャード・カーティス。元アメリカ海軍所属。俺は、このチームのリーダーとして、全員を必ず生きて帰らせる。共に戦おう。」
その言葉には力強さがあり、全員の士気を高めた。
続いて片桐和也が壇上に上がる。
「片桐和也。元航空自衛隊所属。家族を守るため、そして未来のために、全力を尽くします。」
彼の真剣な表情に、会場から静かな拍手が起こった。
他のメンバーたちも次々と壇上に立ち、それぞれが自分の言葉で決意を語った。
その後、軍本部の予算確保を担当するヴィンセント・ロックが壇上に登場し、彼なりのスピーチを行った。
「諸君、私は戦闘には参加しないが、別の戦場で戦う。そう、軍本部の堅物たちと交渉し、このチームに必要な全てのものを手に入れるのが私の仕事だ。」
彼の皮肉混じりの言葉に、会場から笑い声が起こる。
「だから君たちは、心配せずに戦ってくれ。俺が君たちの背後を支えるから。」
最後に、ハミルトン将軍が再び壇上に立ち、正式な発足を宣言した。
「Team / ゼロ。君たちは今日から人類の最前線だ。地球を、そして未来を守るために全力を尽くせ!」
将軍の力強い声が響き渡り、全員が敬礼を行った。
「全員、健闘を祈る!」
その瞬間、ホール全体が一つのチームとして結束した。エンジェルパックとパイロットたちの絆、そして研究者や整備士たちの支えが、このチームを強固なものにしていく。
式典が終わり、パイロットたちは控室で互いに言葉を交わしていた。
「これからが本番だな。」
リチャードがつぶやき、和也が小さく頷いた。
「でも、俺たちはチームだ。一人じゃない。」
その言葉に、全員が頷き、静かに拳を握った。
チームとしての第一歩がここから始まる。そして彼らの戦いは、これから歴史に刻まれる。