再観測:星を継ぐもの:Episode4-1
Episode4-1:未知の空間
深夜を通り越し、朝が訪れる直前。王国の空母レヴァンティス艦の甲板には薄青い明かりが広がり、修理や再整備を急ぐ作業員たちが懸命に動き回っていた。
先の扉前の防衛線を突破した騎士団は、扉内部への短時間突入を遂行して何とか帰還した。しかし、その結果判明したことはわずかで、得られたデータも解析に時間がかかる。
艦のブリーフィングルームでは、アーサーとモルガンを中心に高官たちが集い、次なる計画を練っていた。扉の先の異空間――いわゆる**「未知の空間」**への本格探索が、今や最重要課題なのである。
「先遣隊の帰還で得られた情報によれば、扉の内部は重力や時空の概念が乱れている。騎士団のパイロットがかろうじて生還したのは、アリスの干渉力があったからこそ……。」
モルガンが地図ではなく、半透明のホログラムを指し示しながら話す。そこには扉を中心とした空間座標のイメージ図が浮かんでいるが、ぼやけて歪んだ立体が再生されているだけで、定まらない形を繰り返している。
アーサーは腕を組み、険しい眼差しでそれを睨む。
「だが、あれだけでは分からない。The Orderが本格的に支配している空間なのか、或いは古代装置が作り上げた擬似世界なのか……。いずれにせよ、次はもう少し腰を据えてあの世界を調べる必要がある。」
「そこで、次の案として長期滞在を視野に入れた探索部隊を編成するかもしれないわ。騎士団が中心になるのは間違いないけど……危険度が高いのも事実ね。」
モルガンが言葉を切って、部屋を見回す。周囲にいる技術班や士官たちは沈痛な面持ちだ。何せ、未知の空間に深入りして帰れなくなる可能性もあるからだ。
結論はまだ出ない。しかし、円卓騎士団を含め、大艦隊が手をこまねいているわけにはいかない。The Orderの脅威がこのまま拡大すれば、地球の残された土地はさらなる破壊にさらされるだろう。
レヴァンティス艦の一室にて、パイロットスーツ姿のカインは、AIコアとして存在するアリスのホログラムを前に考え込んでいた。
扉からの帰還後、アリスは演算疲労でしばらく休んでいたが、なんとか回復し始めている。先の突入では、空間内の現象に翻弄されて散々な目に遭ったが、今度はもう少し落ち着いて探査を行えそう――その期待もある。
「……で、隊長はまだ正式なゴーサインを出してないけど、いずれ俺たちがもう一度、あの扉に入ることは確実だと思う。」
カインが苦笑気味に言うと、アリスは小さく頷いた。
「うん、私も感じるの。もし本当に“上位宇宙”に通じているなら、そこでThe Orderの本体……或いはこの世界を揺るがす謎が解けるかもしれない。怖いけど、逃げられないよね。」
「逃げるつもりはないさ。ただ、次はもっと準備を整えたい。装備もそうだし、アリスの負担を減らす方法も考えないと……。」
アリスはやや遠い目をする。「私が見たあの世界――歪んだ空間、浮遊する岩塊、そして不規則に流れる観測光……記憶の断片と重なる気がする。まるで自分の本当の家に近いような、不気味な懐かしさ……。」
カインはその言葉を噛み締めながら、心中で決意を固める。今度こそ、アリスの真実とThe Orderの核心に迫るため、未知の空間へと足を踏み入れる時が来るのだ。
翌日、大艦隊が扉周辺の地上をさらに制圧し、周囲に陣地を設営し始める。多数の機材や装甲車両が集まり、上空では空母や護衛艇が連携して警戒を強化。万が一、扉から敵が溢れ出しても迎撃できる態勢を整えるのだ。
そんな中、円卓騎士団のメンバー――アーサー, ガウェイン, トリスタン, そしてカイン――が扉の入口近くで打ち合わせを行っていた。地面には紫色の渦巻く光がまだ残り、扉本体は相変わらず柱のようにそびえている。
「二度目の突入か。今度は少し長めに滞在する予定らしいぞ。」
ガウェインが盾を地面に置きながら肩を回す。彼の機体は既に整備を完了し、立ち姿は凜々しいが、その口調にはやや不安が混ざっている。
「敵がまた出てくる可能性もある。扉内部にも相当な防衛隊がいるだろう。前回のように奇襲をかけるだけで済まないかもしれない……。」
トリスタンが低い声で続ける。
「アリスとカインが要だ。干渉力がないと空間が安定しないかもしれん。無理をさせたくはないが……。」
アーサーが思案深げに言うと、カインは「やりますよ」と力強く答える。「隊長やアリスとも話して、ある程度覚悟はできました。お前たちがいてくれるなら大丈夫だ。」
こうして円卓騎士団の意見がまとまり、大艦隊と合流して作戦の最終段階へ移行する。モルガンが艦橋から全体に通達する。
『これより、扉内部への再侵入作戦を開始する。今回の目標は空間内の安定を図り、可能な範囲で情報を収集すること。円卓騎士団を中心に先発隊を送り込む。後方支援は艦隊が行うけれど、即座の援護は期待できないかもしれない。慎重に行動して。』
再侵入の刻は、夜明け直後に設定された。薄い朝焼けが地平線を染める頃、扉から数百メートル離れた場所に護衛部隊が集まり、空母や地上車両が警戒している。円卓騎士団の4機は、搭載武器や追加装備を抱えながら、扉へ向けて離陸した。
カインの銀の小手も、前回の教訓を踏まえて多少の改修が施されている。機体強度や干渉波の安定化装置などが追加されたが、アリスの負担を完全に除去するものではない。それでも前よりはマシだ、とカインは信じる。
「アリス、準備はいいか?」
「大丈夫……少し怖いけど、あなたがいるから。」
扉に近づくと、やはり波長ノイズが増すが、前回ほど激しい抵抗はない。どうやらThe Orderも大規模防衛部隊を配置する余力がないのか、あるいは別の思惑があるのか――。
とにかく、騎士団は一列に編隊を組み、そのまま光の壁を突き破るように扉へ突入する。前回と同様、目が眩むような閃光と空間の揺らぎが襲い、コクピットに重力がくるくる回るような感覚が広がる。だがアリスが安定化を図ってくれるおかげで、何とか制御不能にはならない。
「うっ……!」
カインは小さく呻き声を漏らし、瞼の裏がチカチカする。隣でアリスが必死に演算する音が聞こえ、周囲の映像が一気に染み込む。数秒後、またしても黒い空間と星のような光が視界を埋め、機体がふわりと浮き上がった感覚に包まれる。
「来たな……小宇宙か、未知の空間か……。」
アーサーの低い声がインカムに混じり、ガウェインやトリスタンも「大丈夫、問題ない」と応じる。前回ほどの衝撃はなく、騎士団は比較的スムーズに到着したようだ。
そこは相変わらず、重力の概念が曖昧な宙域。黒い闇を背景に、星の破片のような岩塊や、不思議な建造物の残骸が散在していた。周囲にはいまだに観測光の霧が漂い、距離感がつかみにくい。
カインは銀の小手のカメラを拡大し、前方を眺める。淡い光が帯状に続く道のようなものが見え、そこに小さな浮遊島が連なっているようにも見える。どうやらそこが次の行き先だと直感した。
「アリス、あの先を調べたい。大丈夫か?」
「うん、できる範囲で座標をマッピングしてみる……。干渉力を使えば、重力の歪みを少し補正できるかもしれない。」
銀の小手がゆっくりと進み、戦闘態勢を保ちつつ探査モードを取る。他の騎士団メンバーも互いをカバーしながら周囲を見渡すが、大きな敵影はすぐには見当たらない。
アーサーが通信で話す。「どうやら前回叩いた防衛隊のコアはここにいないようだ。慎重に探してみるぞ。ガウェイン、トリスタン、各自方位を確保してくれ。」
『了解!』
ガウェインは力強く答え、盾を前面に掲げながら、トリスタンは狙撃体制を維持しながら左右を見渡す。
騎士団は光の帯に導かれる形で、数十メートル四方の浮遊島に接近した。岩や金属破片が一緒に混ざっており、地球の廃墟とも違う怪しい雰囲気を醸し出している。まるで研究施設の一部が宇宙空間に浮かんでいるのか、あるいはThe Orderが作り出した擬似構造か――判断は難しいが、まぎれもなく人工物の名残が見えた。
「これ……人間の文字に似た模様が書かれてるね……。」
アリスがカメラ映像を拡大する。見ると、崩れた壁らしき部分にアルファベットに似た文字列がかすれ、そこから先は何か流体が付着していて読めない。ただ、その雰囲気は古代文明というより近未来的な印象がある。
「もしかすると、かつて人類がここへ来たのか? いや、The Orderが人類の技術を吸収したのか……。」
カインが戸惑いの声を漏らす。同時にアーサーが「いや、観測光の波長が混在している。もしかすると混成技術だろう」と推測する。
四機が浮遊島の周囲をゆっくりと旋回していると、突如、遠方から尖ったビームが飛来した。慌ててガウェインが盾を掲げて防御し、カインたちも回避行動を取る。
闇の中で青い稲光のようなビームが何度も疾走し、騎士団を狙うかのように襲いかかる。どうやら敵がいたのだ。
「散開! 敵を探そう!」
アーサーの短い指示に従い、各機がリバーススラストを使ってバラバラに分散する。トリスタンが瞬時にスコープをのぞき、「くっ……見えない。闇の奥から狙撃してるのか……」と焦りを口にする。
「アリス、何とか敵影を捉えられないか? 干渉でレーダーを補正してくれ!」
「やってみる……でも、この空間、座標軸が不安定だから……少し時間がほしい。」
このわずかな時間も敵は見逃さない。再び光のビームが走り、トリスタン機の脚部をかすめる。警告音が鳴り、装甲が損傷したとの報告が上がる。
カインはやむを得ず、このビームが射出されている方向へ突撃を仕掛ける。躊躇していては味方が撃たれるだけだ。
「行くぞ……!」
銀の小手が高度を上げながら急旋回し、ビームの飛来元とおぼしき方向へ全速力で切り込む。視界には星空のような暗闇と、岩や金属の破片が乱雑に浮いている。そこを縫うように進むと、不意に黒い塊が視界を横切る。
アリスが叫ぶ。「そこだ! 敵らしき生体兵器が隠れてる……!」
「捕まえた!」
カインはミサイルを連発。闇の中から現れた異形が避ける間もなく爆炎に包まれる。しかし、再度別方向からビームが飛んでくるのを感じる。どうやら複数が連携して狙撃しているらしい。
「…っ、こいつら、連携が手慣れてやがる!」
慌てて回避したところ、背後に潜むもう一体の異形が観測光を放つ。あわや被弾する寸前、盾を構えたガウェイン機が割り込んでくれた。衝撃が盾で弾け、ガウェインが唸り声をあげる。
『こいつらスナイパーか! やたら狙いが正確だ。』
「くそ、狙撃機体ならトリスタンが得意だろう。どうだ、トリスタン!」
『視界が悪い……でも、やる……!』
トリスタンは被弾した脚部を抑えながらも、スコープを再度覗き、遠くの残骸や陰に潜む異形を狙撃する。光が闇を裂く瞬間、命中弾が爆発し、敵機のシルエットが微かに砕け散るのが見えた。うまくやれば敵のスナイパーを減らせるはずだ。
「アリス、もう少し捉えられないか?」
「今やってる……波長を見て……そこ、11時方向に一体と、5時方向にもう一体……!」
カインはその情報を即座に伝え、騎士団全体で連携を取る。アーサーが11時方向の生体兵器を撃破し、ガウェインが5時方向を足止めし、カインとトリスタンが追撃。こうして一体ずつ排除していくと、徐々に敵の狙撃手が減り、攻撃が落ち着いてきた。
最後に残った一体が逃げようとするのを、トリスタンが寸分たがわぬ射撃で仕留める。静寂が戻る。
「ふう……どうにか、片付いたか……。」
カインは大きく息を吐き、操縦桿を緩める。アリスも「ごめん、今の解析でいっぱい……。でも敵は全滅したみたい」と消耗した口調で応じる。
戦闘が一段落し、騎士団は再度編隊を組んで暗闇の空間を進んだ。すると遠方に、以前よりも明るい光の軸が見える。まるでさらに奥へ進むための通路のように上下に伸び、波紋を浮かべている。そこを抜ければ、また違う次元へ繋がるのかもしれない。
カインは「どうする?」と短く問う。アーサーは少し迷ったが、「俺たちは先遣隊だ。行けるところまで行こう。後続が来るまでにはこの先の安全を確保したい」と答える。トリスタンやガウェインも頷いたが、カインはアリスを心配そうに見やる。
「アリス、まだ動けるか?」
「うん、平気。先に進もう。ここで戻ると意味がないもの。」
覚悟を決め、4機は新たな光軸へ向かって飛び出した。前回よりもさらに異質な領域へ足を踏み入れる感覚があり、機体の外装がチリチリと電流を帯びるのを感じる。果たしてどこまで耐えられるか――カインは不安を抱きつつも、アリスの心意気に応えるべく意を決した。
光軸をくぐると、いっそう濃厚なブラックアウトのような宙域へ飛び込む。上下左右に何か不規則な幾何学模様が浮かんでおり、星々の輝きとは異なる線条や円環が散らばっている。まるで抽象画のなかを飛んでいるかのようだ。
アーサーの声が警戒を含んで響く。「ここは……重力の方向がコロコロ変わる。気をつけろ。敵がまた潜んでるかもしれない。」
『うわ……視界がぐるぐるするぞ。』
ガウェインが苦戦しているようだ。トリスタンも「射線が安定しない……」と嘆く。
カインはそれでも銀の小手を宙で安定させようと必死に操作するが、通常のエアロダイナミクスがまるで役に立たない。機体の制御はほぼアリスの演算に頼っている状態だ。
「アリス、もし限界が近いなら、すぐ戻ろう。お前が壊れちゃ困る……。」
「大丈夫、まだ行ける……。むしろ、この空間をもう少し調べたいの。」
「わかった……離脱はいつでもできるようにしといてくれよ。」
そんな会話を交わしつつ、騎士団がふわりふわりと移動していくと、遠方に不思議な構造体が浮いているのが見える。ドーム状の殻がいくつも重なり、その表面に光の紋章が施された――あたかも聖堂か神殿のような威厳を漂わせている。
何らかのThe Order本拠か、あるいは古代文明の遺構か。確かめようと、アーサーが調査を提案するが、そこにまたしても敵と思しき反応が出現。通信が割れて、トリスタンが「敵襲……数機……」と報告する。
どうやらThe Orderの異形たちが、この神殿のような構造体を守っているらしい。騎士団は再度戦闘態勢を取る。カインも何度目か分からない宙域での戦いに意識を引き締め、アリスに任せる部分を確認する。
「相手はまた狙撃型か、それとも近接型か……。やっかいそうだな。」
「私がレーダー補正するから、落ち着いてね……。変な波長が増幅してる気がするの。」
そして異形たちが姿を現し、神殿周囲で激闘が始まる。空間がさらに歪むほどの観測光ビームが乱舞し、騎士団は回避と反撃を繰り返す。前回ほど数は多くないが、戦闘能力は高い。
カインは銀の小手を急加速させ、敵の背後を取る形で波長干渉を放ち、一定時間動きを鈍らせる。そこへアーサーが剣型ビームを斬り込ませて仕留める。一方でガウェインが盾を広げ、トリスタンが遠距離からカバー。宙のあちこちで爆発が閃き、闇に星火のように散っていく。
「はぁ、はぁ……もうきりがない……!」
カインが息を荒げる。アリスが「あと少し……頑張って……」と声を返す。彼女も限界に近いはずだ。そんな状況下でようやく敵を撃退し、神殿周辺は一時的に静かになった。
騎士団が神殿の入り口らしき場所へ降り立つ。重力がめちゃくちゃなはずだが、その空間では一部安定しているのか、地面のように立つことが可能だった。機体を降りたカインたちはヘルメットを着用し、半ば逆さまになった廊下を通り、神殿内部を探索する形を取る。
石造りとも金属ともつかない材質の壁には、不可解な文字列や図形が彫られ、紫色の光が壁面を走っている。まるで呼吸しているかのように動きがある。
「なんだこりゃ……地球の言語か? いや、違うな。でもアルファベットにも似ている……。」
ガウェインが呆然と眺める。トリスタンが慎重にスキャンするが、「まるで古い研究用語の変形かもしれないが……俺には分からない」と首を振る。アーサーは「アリスに解析できるか?」とカインへ声をかける。
「どうだ、アリス……?」
カインが問いかけると、アリスの声が少し高揚した調子で返ってきた。「私、これ、記憶にあるかも……。でもまだ断片で……ごめん、もう少し近づけば分かるかもしれない。」
奥へ進むと、中央に円形の台座があり、その中央には水鏡のように半透明の液体が揺れている。そしてその周囲には細長い突起物が並び、かすかな振動を発している。
アリスが不意に喘ぎ、「ああ……ここ……私……。ユグドラシル・モデルの……」と苦しげに言いかける。
「落ち着け、アリス! 無理するなよ。だけど、この空間……お前の記憶に近いのか?」
「うん、昔、白い研究室で見た装置……これに近いの……。ここはもしかしたら“人類”と“The Order”が混成した施設かもしれない……!」
衝撃の事実だ。アーサーらも耳を疑うが、アリスが言うなら何か根拠があるのだろう。神殿と思いきや、実は異次元で行われていた研究所かもしれない、ということか。
さらに奥を調べたいところだが、アリスの負担や、敵の再襲撃を考えると、長居は得策ではない。カインはアーサーと目配せする。するとアーサーは短く頭を振る。
「ここまでだ。十分な手がかりを持ち帰れれば、隊長や技術班が解析できる。長居して敵に囲まれれば帰れなくなる。」
ガウェインとトリスタンも賛同し、アリスもさすがに疲弊が限界に近い様子だ。カインは念のため撮影だけ行い、音声や映像を録画。神殿を後にする決断を下す。
円卓騎士団は再び機体に乗り込み、宙へと飛び立つ。神殿の外には敵影は見当たらず、どうやら一時的に安全が確保されている。この機を逃さず、扉から帰還すべく、引き返しを図る。
再び光軸を通り、先ほどの宙域を抜け、紫色のトンネルを潜ると、意外にもスムーズに地球側の扉へ戻る流れができていた。以前叩いた防衛隊が再度出張ってくる様子はなく、敵の動きが鈍いのかもしれない。
「行ける……帰れるぞ!」
カインは安堵し、アリスも「うん、みんな無事に……」と弱々しく笑う。そこからしばらくの間、暗闇のねじれが続き、機体がやや乱れるが、やがて視界が一気に開ける。
周囲が明るい――再び地球の扉前だ。隊員たちの歓声が遠くで聞こえ、光柱の中から騎士団が出てくるのを迎えている。ほんの数十分かもしれないが、中では体感的に何倍もの時間が過ぎたように感じられる。
「ただいま……!」
カインがコクピット越しに呟き、地上にはモルガンや技術班の姿が見える。アーサー、ガウェイン、トリスタンも順に着陸し、みなボロボロだが生きて帰った事実に安堵の色が広がる。
隊員たちが拍手喝采で出迎え、「無事だったか!」「成果は?」などと口々に質問する。カインは降りるや否や膝から力が抜けそうになるが、踏ん張ってアリスの端末を抱えたままモルガンのもとへ急ぐ。
「隊長……我々、何か凄い施設を見つけました。The Orderの施設……いや、人類が関与した混成研究所かもしれない……。」
モルガンは驚愕と興味を同時に示し、「そう……そこまで入り込めたのね。まさかそんなものが……」と呟く。後ろからアーサーがうなずき、「アリスの記憶にも一致するらしい。詳細は録画データがある」と補足する。
ガウェインとトリスタンも多少の負傷や機体損傷を抱えながら、「中は本当に謎だらけだった」と息をつく。技術班が目を輝かせ、「すぐにその映像を見せてください!」と飛びついてくる。
こうして円卓騎士団は再び未知の空間へ突入し、さらなる謎を持ち帰った。何者がこの研究所を造り、The Orderとどういう関係にあるのか。それを解析すれば、地球を苦しめる脅威の根本が明らかになるかもしれない。
カインはほっと胸を撫で下ろし、「また死にかけたな……」と自嘲する。アリスはホログラムで微笑んで、「でも、大きな一歩だと思う……私の記憶も少しはっきりしてきたから……」と声をかける。
「お前が無事で何よりだ。ご苦労さ、アリス。」
陽光が差し始めた地平線を背に、王国大艦隊が静かに待機する。まだ扉は健在で、紫色の光を放ち続けている。そこがThe Orderの本拠か、人類の失われた研究の成れの果てか、今なお分からない。だが、騎士団の報告を受けてモルガンやアーサーらが指令部で次の大作戦を計画するのは時間の問題だ。
騎士団は扉の先で新たな領域――歪んだ宙域に浮かぶ研究所の廃墟――を発見し、The Orderとの交戦を制して多くの資料を持ち帰ることに成功した。アリスの記憶も少しずつ真実に近づきつつあり、ユグドラシル・モデルという謎のプロジェクトの姿がぼんやりと見え始める。
しかし、より深く知るためには、まださらなる踏み込みが必要だろう。
次なるEpisodeでは、いよいよ扉の奥深くへと勇気を持って侵入することになるのかもしれない。
そこにはThe Orderの本質や、人類の遺された研究成果が待ち受けるのか――誰もが胸に不安と希望を抱きながら、今暫くの束の間の休息を味わうのであった。