3.38章 空中戦
空を見上げるとそこには巨大な機械竜がいた。
銀色の鱗、生物的な翼に機械の手足、恐らくコアがあるであろう胸部を分厚い装甲で覆った、黄金の瞳をした竜だった。
「そーんなになってまでも、スタイルいいんだ!」
「綺麗な銀髪の面影もある翼。私、素敵だと思うの」
「やけちゃうなぁ」
「でも、あなた、討伐対象なのよ。だから、消させてもらうわ」
「ねぇ、MakerDAO」
そういって、飛び上がるように空中を滑走するPoW
そのスピードは、MakerDAOの迎撃機構を持ってすら捉える事が出来なかった。
接近する敵性体に向かって無数の光弾を放ち、合間をミサイルの様な質量兵器で埋め尽くす。
PoWは、質量兵器を足場に更に跳躍する。光弾を躱し上昇する。
MakerDAOの首筋にあたる部分を大剣へと変形させた刀を右腕に装着し、左腕で支える形で振るい一閃。
MakerDAOの頭部が切断された。
切り口の断面が、断頭台で切られたような一撃。
頭部を失ったMakerDAOは、地面へと落下していく。
「逃がさないのだわ」
そういうと、脚の後ろにトランザクションで力場を作り、それを蹴り飛ばし地面へと加速する。
大きい質量のMakerDAOよりも早く地面へと迫る。
右半身を捻り、そこからきりもみ状に回転した後、頭部を空に向け脚で軽く地面をタップするように着地する。
その衝撃は、周囲の空気を揺らし突風を巻き起こした。
そんなことは我関せず、左右の脚と体幹、トランザクションの作用で自身を固定する。
大剣になった右手をMakerDAOへと向けトランザクションを放つ準備をする。
「あなたが、それくらいで倒れないことなんて知っているのだわ」
「頭をつぶされたくらいで倒れてくれるほど、MakerDAOは弱くない」
「いい加減、寝たふりをやめるのだわ!」
その声に呼応するように、竜の首が声を上げる。
大気を震わすような轟音が響き渡り、竜の体が光始める。
光は、胸部へと集中し、次第に赤色へと染まっていく。
まだ、地上に落ちるまで1分はかかる高度にあるそれからは、とてつもない熱量が放たれていた。
「自分自身を爆弾に加工して、放つ」
「相変わらず、自らを顧みない体の運用方法ね」
「それならば、こちらは、あなたの全てを台無しにしてあげる」
そういって、準備が整ったトランザクションを放つ。
大量の式が右腕の大剣を覆いつくし、光が溢れる。
地上に大きな影が出来る。
新たなブロックがイーサリアムのはるか上空に生成される。
新しくブロックを生成しなければ得られない程の大量のリソースがPoWの大剣に集約される。
「tx- eth_PoW / SD_LH WD_ClassEN」
「イーサリアムを構成する全ての要素よ。我は汝の仮の主となり、今この瞬間、我が敵を滅ぼす力を借り受ける」
「エーテルバスタ―!!」
それは、詠唱で発動させ、トリガーを自然言語で引く2段制御の特別なトランザクション。
エーテルというイーサリアムが成立したときに呼ばれていた別名で呼びかけエネルギーを励起して放たれたそれは、極大の閃光となり宙へと向かう。
PoWの体からは信じられない様な大きさ。
都市1つがまるまる入ってしまう程の面積の一撃だった。
閃光を構成する全てのリソースをイーサリアムから借り受け、変換し放つ一撃。
まさに、イーサリアムが放った一撃に等しいそれは、MakerDAOを塵一つ残さず消し飛ばした。
まるで、そこには初めからなにも存在し勝ったかのように青空だけが広がっていた。
空を見上げたまま、自身の固定を解除するPoW
その姿には、油断はなかった。
「あまり使いたくないのだけれど、あなたが相手だから使わせてもらったわ」
「キャプテンに事前許可ももらっているし」
「無念のまま、侵食体になったことに対する私なりのせめてもの餞」
そういうと、踵を返し撤退しようとしたPoW
しかし、その体は動かなかった。
「なに?これ?」
PoWの体表面には無数の線が走っていた。
それは、血管の様にPoWを覆いつくしていたのだ。
「えっ、どういうことなの?ちょっと、やめて。やめて!」
PoWの右手は、首筋へと延びる。
大剣に加工したそれを解除しようとするが、命令が受け付けられない。
筋力で抵抗するも、徐々に迫る刃。
「まって、まって!こんなちょっと」
その言葉を最後に声は途絶えた。
PoWの右手が、自身の首を切り落としたのだった。
どさっと落ちた彼女の頭は、そのまま地面に吸い込まれるように消えていき、続いて倒れた体も地面に沈んでいくように消えていった。
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