0.11-2 Next STEP
「何が足りないと思う?」
稽古場で、シークレットは、アヴァリアとイーサに問いを発した。
今回の件、ピアーナとのファーストコンタクトで、自分たちが彼女に対して足りないところがあった為だ。
3週間後の対決は、決定した。
ならば、自分たちは、何をするべきなのか。
決めておく事が重要だった。
「気合い!」
そう声を上げるイーサ
「それは、確かに必要だ。けど、君たちの場合、もうそれは足りているだろ?」
「人気?」
ふんわりと問いかけに答えるようにアヴァリアの唇が言葉を紡ぐ。
「それは、確かだ」
「ピアーナの場合、君たちよりも前に活動していた様で『地盤』が固められている」
そう言って、タブレットで資料を提示するシークレット
そこに書いてあったのは、ピアーナのインディーズシーンでの活動記録
あるメディアでは、彼女専用のインタビューまで組まれていた。
「かっこいい!」
「エブモス、率直な感想をありがとう」
「そう。かっこいいんだ。彼女の場合、路線も、V系ロック、ファンを煽動し場を作り上げるもの。としっかりしている」
パンパンと、タブレットを叩きながら、シークレットが話す。
その声には、いつものダウナーな空気はなかった。
「さて、これを踏まえて、だ」
「僕たちに足りないのは、『人気』と『キャラクター性』だと言える」
「「キャラクター性?」」
「ああ。これは、僕の配役ミスなんだが。2人にはもっと近い距離を保ってもらいたい」
「シークレット、ふんわりしすぎ。具体的には?」
アヴァリアが聞く
「それについて、補足をしようか」
「エブモス『観客』として感じたところ。言ってもらえないかい?」
「えっ!?わたしが?」
「そう。『ファン』の視点を補完したいんだ。なら、普段、業界になじみなないものに聞く。これが一番だろ?」
「そっか!」
「ただ、いきなり、そう言われても」
エブモスは、ステージを思い出した。
(イーサさんのダンスは、キレがあってダイナミックでよかったし)
(アヴァリアちゃん、歌が綺麗だったなぁ)
んー。と量手を組みうなる。
「うーん。あっ!」
「何かあったかい?」
期待を込めながら、シークレットはエブモスを見つめた。
「あれ!アイドルって言うわりには、絡みが少なかったかも」
「絡み。絡みか!なるほど」
シークレットがうなずく様に納得する。
普段、シルクとして活動する事が多い彼
しかし、シルクは、ソロ
対等な共演者とのコラボはあっても、はじめからユニットであるものの気持ちは、わからなかった。
だからこその盲点。
「よし!そうと分かれば早速」
シークレットが急いで席を外し、準備の為に出かけようとしたところをエブモスが呼び止める。
「ちょっと、待って!まだ、足りないものがあった」
「なんだい?エブモス」
乗り出すように聞こうとするシークレット
(今日のシークレットくん。すごいぐいぐい来るんだよ)
いつものダウナーな空気感からは想像出来ない勢いに若干押され気味のエブモス。
「あのね。2人で活動しているのに『ユニット名』がないのはおかしいと思う」
そう補足したエブモス
場が静まりかえった。
(えっ、何か言っちゃいけないこと言っちゃった!?)
がしっと、エブモスの両肩をつかみシークレットが大きく頭を垂れる。
(えっ!)
彼の長く透き通る前髪がエブモスのアホ毛にかかる。
「それだよ!!何を基本的な事を忘れていたんだ。僕は!」
顔を上げ、アヴァリアとイーサを交互に見やる。
そして、しばらく考え込んだ後、彼女たちに言った。
「君たちは、今日から、アイドル『アイゲンレイヤー』だ!」
「「アイゲンレイヤー?」」
凛とした声が惚けた音で、ハモるように稽古場に響いた。