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1.5-4 ExA

「例の調度品は届いたかしら?」
「花瓶は、あっち。ああ、その絵は、そこには飾らないで。もっと、向こう。そう、そこよ」
ひまわりの様に黄色い髪を短いソバージュにしパリッと清潔なシャツの上からジャケットを羽織り、パンツスタイルを着こんだ女性がスーツを着た男性の意識体に指示をする。

「ここですか、代表?」

「そうね。そこ。いいわね。丁度、私がアーティストに作らせた曲の反響音の邪魔にならないところね」

「はぁ」

「それと、この大きなボード、いかがしますか?」

「それはね。中央よ。丁度、ソファーの前になるように置いて頂戴」

「いいわ。様になってきたわね」
「あと、グランドピアノ。丁度フロアーの目立つところに置きたいわね」

「デイジーさん。何やっているんですか!?」
フロアを見渡して、満足げに頷く女性に声をかける赤毛のショートボブの髪型をした娘
ドレススタイルをカジュアルに着こなした一見するとお姫様の様な雰囲気。
しかし、その在り方は、いたって秘書の様だった。

「ん?あぁ、トロン君か。遅かったじゃないか」
振り向き、トロンと呼ばれた娘に呼びかける意識体
彼女こそが、ExAの代表であるデイジーだった。

「デイジーさん。また、トレードをサボって。そんなことをして。大丈夫なんですか?」

「はは!大丈夫に決まっているだろ?むしろ絶好調だよ」
「それにだね。こうして、自分たちがいる空間を調律することは、良い結果を生み出す元になるんだ」
知ってたかい?とわざとらしく聞くデイジー

「それはいいですけどね!」
「ただ、見学希望のお客さんだっているんですよ」
「CEOにして、トレーディング部門の最高実力者 デイジーがそんなところにいるのを見たら不安になるお客さんだっているんですよ!」

「はは!だったら、尚の事いい!」

「何がですか!」

「私が何もしないでも、万事ことが進んでいる。それを見ることで客は安心できるだろ?」

「はーあぁ」
それを聞いて、手をわざとらしく額に当て、ため息をつくトロン

「そういうのは、その手にお酒を持っていない状態でいって頂けると非常に説得力がありますのに」

「はは!そう固いことを言わない」
「今日は、18:00からレセプションパーティーだからね。雰囲気を出していこうというのだよ」

「そういう問題じゃないんですけどー」
「って、あと1時間もないじゃないですか!!」

「ああ、そうだね。あっという間だ。楽しい時間は直ぐに過ぎる」

「そうじゃないでしょ!デイジーさん!」
「もう、いいですよ。ほら、みなさん!!」
パンパンと手を叩いて、スーツ姿の意識体の視線を一点に集める。

「もうすぐお客様が来られます。正確には、出資者様。ですね」
「なので、Aチームは受付け」
「Bチームは、撮影禁止場所などの事前注意の説明」
「Cチームは、会場内の導線の整備」
「よろしくお願いします!」
そういって、手を大きく叩いて、準備に取り掛かるように促した。

「トロン君」

「なんですか?デイジーさん」

「もう一杯」

「もう飲んでるんですか!?」
「始まりの挨拶を終えるまでは我慢してくださいって言ったじゃないですか!」

「いや、このひと時の一杯がやめられない」

「どうしょもないじゃないですか!」

「ん?デイジー君」

「なんですか?こんどは?」

「君の携帯端末がなってるぞ。しかもその色。重要なお客様だろ?」

「ん?」
「にゃぁああ!?」

「どうしたんだい?まるで猫の様じゃないか」

「ちょっと、デイジーさん」

「なんだい。改まった顔をして」

「この場は、お任せします」
「重要な方なので、私、対応に出ます」

「重要?ああ、例の研究所に入り浸っている子か」

「そうそう」

「コスモスの主要人物ともつながりがりがあるからね。丁寧に持て成して。って、君には言わないでもわかるか」

「はい。なので、この場はお任せします」

「任された」

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「すごーーーい!!」
「こんな大きなビル、OPEN SEA以来!」
そういって、フラッパーゲートのある入口付近のソファーに腰かけ、足をパタパタとさせるエブモス。

「確かに、広いわね」
「ただ、何と言ったらいいのかしら。それだけの様な気もするわ」

「えっ、ソラナちゃん。嫉妬?」

「違うわよ。ほら、ここ」
そういって、床を軽く鳴らすソラナ

「全然強度が足りないわ」

「足りないわって、十分固いと思うよ」
「それに、これだけのビルなのだから、きちんとしているはずだよ」

「そうじゃないわ」
「これじゃあ、重量銃器を振り回した際に踏み抜いてしまうわ」

「ふつーそんなことしないよ!」

「アラメダリサーチ基準では普通よ」
「フロアーの床も戦闘に耐えらえる様な強度で設計するわ」

「それは難癖だよ。ソラナちゃん」

「ええ、難癖よ。少し悔しかったのよ」
「ほら」
そういって、小さな光となったトランザクションを床に放つ。
すると、それは反応せずに吸い込まれるように床に浸透してった。

「貴重な素材で作られている」
「こんな面積をこれで作るなんて、一体いくらかかっているのかしら?」
とんだ贅沢品だわ。とソラナが漏らす。


「ごめんなさーい!」
「待たせてしまったわ」

綺麗なショートボブの赤毛を揺らしながら、少女が到着した。

「おっそーーい!まったよーー」

「ごめんなさーい」

「いいよ。そんな待ってないし。それに、わたし達もゆっくりしてたから」

「ありがとう。エブモスさん!」

「いいよ。それにわたしの事は、エブ子でいいよ!」

「ありがとう!エブ子ちゃん!」

(気を許したら、一気に馴れ馴れしさが増したわね。気をつけなさい。エブ子)
そう小声でいうソラナ

(何?ソラナちゃん。やきもち?やきもち??)

(ちがうわよ!)
ドスッと、鈍い音がする。
ソラナがエブモスを肘で小突いたのだ。

「いったーい!」

「どうしたの?エブ子ちゃん?」

「大丈夫だよ!ちょっと、ぶつかっただけだから」

「でも、鈍い音がしたような」

「気のせいだよっ!」
「それよりも、ExAの本社ってすごいんだね!」
「こんなに綺麗で、しかも地下鉄からすごい近いなんて」

「ふふ。まだまだよ」
「だって、ここ共有部だもの」
「本当にすごいのは、これから」
「ほら、二人とも、早くこちらに来られたらいかがかしら?」
そう言いながら、フラッパーゲートを通る為のNFTを二人に渡すトロン

「ソラナちゃーん、早くー!」

「エブモス、そんな急がなくても、ExAもトロンさんも逃げないわよ」
「でしょ、トロンさん?」

「トロンでいいわ。ソラナさん」

「じゃあ、わたくしもソラナでいいわよ。トロン。じゃないと平等じゃないでしょ?」

「ふふ。噂通りの人ね」

「噂?」

「ええ。中央集権 FTX、そしてアラメダリサ―チのCEOでありながら、だれよりの平等であろうとしたあなたらしいわ」

(知った様な口で言わないで欲しいのだけれど)
「元、よ。元。今は、コスモス再生委員の事務方担当者よ」

「へぇー」
「先の異変で、潔く消滅しなかったのですね」
「そこは、噂と違って随分と生き汚いのですね」

「ええ。そうよ」
「生き残れる可能性があるのなら、どんな交渉もするわ」
(わたくしを活かしてくれた存在、そして命に誓って、この命は、わたくしのものだけではないのだから)

「だから、自分のやったことに対する責任は自分でとる。それがわたくしに出来る最大限の償い」

「そうなんだね」
「まぁ、いいわ」
「今日は、ゆっくり楽しんでいってね」

(やはり、わたくしの所属、そしてエブモスの繋がりはバレていると見て間違いなさそうね)
(その上で、相手を油断させるなんて。流石、エブモスね)

「ふたりともーー!早くしないと置いてっちゃうよ!」

「エブモス。トロンがいなければわたくし達、道がわからないのよ。先に行ってどうするのよ?」
「ほら、トロン。あとはよろしくね」
そういって、やれやれとするソラナであった。



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