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日常パート:初詣

『あーあ、折角、お正月はお姉さまと一緒に初詣に行けると思っていたのに』そう漏らすソラナ
今日は、元日。
シークレットの家では、朝食にお雑煮を食べていた。
年末に餅つき大会をしたときに大量に作ったお餅を消費していた。
しかし、そこに一緒に住んでいるはずのオズモの姿はなかった。
一足先に食べ、エブモスの家に向かったのである。
朝食を用意するシークレットが、みんなをまってからにしたら。と促したのだが、そこは我が道を行くオズモ、
『極上の素材を調理するわ!素材は待ってくれないのよ!』と必死の形相で話し始めたので、怖くなって聞くのを止めたのである。
極上の素材が何を意味するのか。待ってくれないというくらいだから、生きているんだろう。
いや、この場合は、シークレットの知り合いのだれかだと予測するのが正しい。
そう結論付けたシークレットは、心の中で同情するとともに『余り、その、トラウマにならないようにやりすぎないようにね』とだけ付け加えた。
『私がやるのだから、素晴らしい出来に仕上げるわ』と見当違いの回答が返ってきたが、詳細を聞いたら巻き込まれる気がして、ツッコむのを止めたのだった。
そして、今に至るというわけなのだが。
ソラナちゃん用、シェードちゃん用、ノノちゃん用と書かれたNFTが上に置かれた晴れ着がある。
いずれも、それぞれの個性を考慮した上で1から作られたかのような晴れ着だった。
ソラナちゃん用と書かれたNFTの下に置かれた晴れ着は、彼女の自己主張のしっかりとした濃い銀髪に負けないくらい深い黒で作られた晴れ着。
黒なのに晴れ着として成り立つのかと言われたら、そこはさすがのオズモさん。
彼女の髪の毛の色と合わせた銀色で何通りもの模様を描き、そこに黄金色をちりばめる。それもいやらしくない配合で。
それは、作る際にどれだけソラナのことを考えたのか、読み取れる出来栄えだった。
だからこそ、シークレットは言ったのだった。
『別にソラナのことを思ってないわけじゃないんだよ。オズモさんは』
『むしろ、凄く思っているというか』そこまでいうと、ソラナは目を輝かせた。
ソラナは、アラメダの一軒から、オズモを慕っているようだった。
(慕っているというか、もうなついているに近いような)
(なついたチワワだよ。これ、完全に)そう思うシークレット。
『これだけ、ソラナが映える晴れ着を作ってくれたんだ。そこに思いはあったはず』
『お姉さま、わたくしは信じていましたわ』そういって、手を前にして祈るようなポーズで宣言するソラナ。
正直、絵になる。その姿は、まるである女子高で繰り広げられるドラマのワンシーンの様な姿だった。
(もしくは、少女革命だよな。まぁ、絵になるのは間違いないんだよね。ソラナ)
『ほら、そこ』シークレットが指摘すると追加のNFTに記載があった。
NFTには、着替えたならエブ子ちゃんの家に来ることと記載されていた。
つまり、そこで待ち合せてから初詣に行くということなのだろう。
(追加で書いてあった、『極上の素材』うんたらは見なかったことにしよう。うん、僕は見なかったよオズモさん)
そう思い都合の悪い情報から目を反らすシークレット。オズモとの付き合い方がだいぶわかってきた感じだった。
『ところで、そのシークレットちゃんって書かれているものはなんですの?』シークレットが本能的に避けていた情報にソラナが触れる。
シークレット君ではなく、ちゃんと書かれていたNFT。オズモさんは、意味のないことはしない。意味がないように見えることはするけれども。
NFTの下にある晴れ着をソラナが取り出す。
それは、女の子が着る晴れ着だった。
彼の色素の薄い銀髪に対し、十全に生かし切るにふさわしい色合いとデザインの逸品だった。
追加するように彼の切れ長の目や顔のパーツの良さを生かし切るアクセサリーも併せて用意されていた。
(これ、着るの?)
『お姉さまが用意してくれたものよ。みんな、お餅を食べ終わったら着替えるわよ』
そういうと、食事を手早く終わらせてソラナ達は着替え始める。
ソラナは、慣れた手つきで着替えを終わらせ、シェードやノノを着付けていく。
正直意外だった。
彼女は、そういうタイプではないとシークレットは思っていたからだった。
『何を意外そうな表情をしているの?』
『この手の衣装は、CEO時代に沢山着てきたわ。暗殺とか、めんどくさいことを考えずに済むように自分で出来るようにしてきたのよ』
答えを言ってくれた。
その上で『お姉さまの役に立てるのならこれほど嬉しいことはないですわ』と付け加えた。
彼女にとっては、オズモの存在がかなり大きな割合になっているのだろう。
だからこそ、素早く着替えてオズモの指定したエブモスの家に向かおうとしていた。
シェードも、ノノも美しい装いに変身していた。
シェードは、落ち着いた銀色の髪の毛に似合う鮮やかな色の晴れ着。
ノノは、白が刺した明るい銀色の髪に似合う晴れ着。
外着に着替え終わったシークレットにソラナがつっこむ。
『シークレット!貴方、着替えてないわね。さっさとドレスアップするわよ!』
『えっ、僕は着替え終わったのだけれど』
『ちがうちがう!オズモお姉様の用意した晴れ着によ!』
『せっかくお姉さまが、似合う装いを用意してくれたのだから、ドレスアップするのよ!』
そういうや否やシェードとノノに目配せをする。
シェードもノノもその意図を理解できたので、動き、シークレットを拘束をする。
シークレットも、個人的には女性の恰好はしているのだが、それは素性を伏せた上での出来事。
そうではなく、こうしてよく知る人の前で女性の恰好をさせられるケースはなかった。
なので、心理的に抵抗があったのか、自然と普通の外出用の恰好をしていたのだが。
『貴方は、よく似合うと思う、だから安心なさい』謎の説得力を持たせ語るソラナ
『わかったよ』
『僕も、和服を着るのは初なんだ。だから、手伝ってくれるかな』観念したようにソラナ達にお願いする。
『よくってよ!』『さぁ、可愛く仕上げるから、シェードちゃんもノノちゃんも手伝って!』
シークレットの着付けがはじまった。
『きれい』
『かわいすぎます』
『ちょっとまって、わたくしの計算を上回る可愛さですわ』
三人の声がハモる。

『お姉さまの見立ては、まさに正解だったわけね』
そう、ソラナが締めくくる。
その位の出来だった。

『みんな、手伝ってくれてありがとう。さぁ、行くよ』シークレットが促す。
三人は、見とれていたのか、行動が遅くなった。

『美しいものに見とれるのは当然ですわ』
『さぁ、準備は整ったわ。お姉さまも待っていることですし、さっさといくわよ』
ソラナも準備して、向かう。

ピンポーン
『はぁい!』
『エブモス、明けましておめでとう』
『シークレット、くん?すごーい!!綺麗!』
『エブモスも、その晴れ着、似合っているよ』
『シークレットくん、ありがとう!これオズモさんに用意してもらったんだよ』
『シークレットくんも?』
『そうだけれど、、エブモス?その、そんな近くで言われると照れるよ』
『だって!こんなに綺麗なのだもの!ねぇねぇ、アバランチ姉ぇも来て!』
『何々、エブモス、あっノノさん、シェードちゃん、ソラナちゃん、明けましておめでとう!』
『と、そこの美人さんは?』ボケでも何でもなく言うアバランチ
『シークレットです』と、名乗りを上げるシークレット
『えっ、えーーーー!綺麗過ぎるのだわ!』そういって、シークレットの手を取り居間へと連れていくアバランチ。
『見てみて!シークレットくん、綺麗過ぎるのだわ!』
そういって、通された居間には、Junoさんとオズモさんがいた。
それぞれ、着物に袖を通して。
Junoさんは、凛々しい着物というよりかは、可憐さを出した晴れ着だった。
それは、彼女の中にある乙女性を十分に見抜いたものではないと用意できないものだった。
普段の凛々しい彼女からは予測できない様な少女性を出している彼女。
恥ずかしがってうつむいて、それでも見上げてくる視線は、男女ともに射貫くべき殺傷能力のある視線だった。
(直撃したら、撃沈する自信がある)
普段淡泊、そして冷静なシークレットですらそう感想を抱くJunoさん。
その完成度と彼女の地を見抜いたものの力量はすさまじい。
(まぁ、たぶん、このことだったんだよね。オズモさん)
そして、何が行われたかある程度想像はついたので、心の中で『お疲れ様です』とJunoさんにシークレットは呟いた。
対して、オズモさんは、その豊かな胸を隠そうともしないスタイルで晴れ着を着こなしていた。
ただ、下品な感じではなく、色っぽさを前面に出したそれは、異性の視線をくぎ付けにするようなものだった。
(Junoさんが、性別を選ばず攻撃を仕掛けられる無差別兵装だとするのなら、指向性を絞った突出型兵装だ)
余りにそれがすごいものだったことを向かい側のソファーで伸びているポルカドットの姿が物語っていた。
(鼻に詰められたテッシュから噴出し続けている鼻血、、、何があったんだ?)不思議そうな表情で見つめるシークレットにエブモスが説明してくれた。
どうやら、彼が訪れたときに勢いよく玄関に出ていったオズモさんが転んでしまったのを受け止めたらしいのだが。
彼女の胸が彼の頭を直撃したようだった。
(らっきーすけべ)そんなことがあるのだろうか?いや、あったんだこの人は、相変わらずお約束を外さないなぁと心の中でつっこむシークレット。
もっとも、彼の場合、その優れた演算能力故に直撃した瞬間にイマジネーションが高速で走り、その結果とのことなのだが、それは言わぬが花だった。
うぶで通すか、むっつりスケベの称号を得るかで複雑なポルカドットに対して、『ポル兄ぃは、想像力がすごいんだから!もう、むっつりすけべ』というエブモスがいた。
ここに、ポルカドットの称号が決定したのであった。
うぶ認定が短い期間だったね。いや、シュレディンガーのうぶというか観測されなかったんだね。残念、ポル兄。でも、ポル兄だから仕方ないね。
ポルカドットが、そんな妄想の狭間から目を覚ますとシークレットと目があった。
ポルカドットの顔がみるみる内に赤くなっていく。
『えっと、俺の名前はポルカドットといいます。お嬢さんのお名前は何というのでしょうか』



シークレットの艶姿にシークレットだと認識できていないようで、空回りするポルカドット・
『ちがうよ!ポル兄!彼はシークレットくん!それと、なに口説こうとしているの?』エブモスがしっかりとつっこむ。
『しーくれっと??あなた、いや、おまえがか?』
『そうですけど』何事もなかったかのように返すシークレット。
『すまん、整理がつかない。エブ子助けてくれ』
ついに支援要請を出すポルカドット。
エブモスは、シークレットとオズモに聞いたことを整理して説明する。
納得いったのかいかなかったのか、『?』マークを連発しながらも、シークレットに改めて正月の挨拶をするポルカドット。
しかし、その表情に落ち着きは無く顔もどこかしら赤みかかっていた。
『新たな性癖を開拓してしまったわね。我ながら素晴らしいプロデュース能力、そして素材の良さね』などと、後ほどアバランチに問いただされ、オズモは、供述していた。
ともあれ、美人が揃っての初詣。
まわりの視線を一気に持って行った初詣。
写真を撮られるシークレットに、インタビューを受けるJunoとオズモさん。
ナンパされそうになるアバランチを守るポルカドットという初詣となった。
『ねぇねぇ、そんなところを見てどうしたの?』エブモスがシークレットに話しかける。
『あぁ』
『騒がしくもあるけれどさ』
『こういうイベントもいいなぁって思ったんだよ』そう答えるシークレットの姿に、エブモスも『うん』と返した。
少し前までは、対立するもの同士、その前から知っていた幼馴染。
長く引き離されていた二人だった。再開するのは絶望的で、思い出すことなんてもっと可能性は低かった。
その可能性を紡ぎ実現したのは、彼らに関わってきた者たちの思いなのかもしれない。
人格を移すことになった科学者兄妹、感情を入れ込みすぎて粛清されてしまった科学者師弟、科学者兄妹の世話焼きな上司、それ以外にも彼らの可能性を紡いだ人たち。
誰一人かけても起きなかった奇跡。
そのことに感謝しながら、シークレットは、過ぎた年とこれからの年について祈ったのだった。

『シークレット君、行くよー。ほら、みんな行っちゃったよー。私達もお昼に行くんだよー』そういうエブモスの声を受け止めながら、彼は、自分の祈りを終えると今を進むようにエブモスの方を向き進み始めた。

それは、彼のこれからの方向性を示しているようにも見えた。

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