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4.66章 SVM
土の温かさ。
海の潮の落ち着く香り。
草原を駆けるときの爽やかな風が頬を撫でる。
そこはどこだったのだろうか。
目の前を魚が横切り、自らの下を鳥たちが通り過ぎていく
重力や天地といったものの概念から切り離された世界
(これが、GNO-LNADのリソース)
GNO-LANDにあるあらゆるものを生み出し、育んでいった意識体達を含むすべての源
それにアクセスしていた。
(わたしが捉えられる世界観、それが、全て混ぜこぜになっている)
真ん中には道が見えた。
光が天へと延びて、そのまま地表を覆いつくしている雲を突き破るように眩しい道が。
さながら、UFOが家畜や人を攫う際の光の様に天へと繋がる道
(良くわからないけれど、あれに乗せればよさそうね)
(でも、どうすればいいの?)
ニトロは周囲を見る。
相変わらず、不規則に変化する世界
何物にもとらわれず変化する世界
手で鳥を捕まえても次の瞬間液体へとなり、手から滑り落ち、魚へとなり飛び立つ世界
(どうすればいいか。あなた自身に聞いてごらんなさい)
Feachの声が聞こえた気がした。
(Feachさん。もっと具体的に教えて)
(あなた自身の中にあるSVMを意識して、そして、強く定義するの)
(周りにあるのは、何にでもなることは出来るけれど『ただのちから』よ)
(だから、あなたの思うままになる。それを『どうしたいか』だけ意識したらいいわ)
そういうと、Feachの声は、潮騒の音にかき消され、また、聞こえなくなった。
(って、言われてもね)
ただ、そうしているわけにもいかない。
ソラナが助けを求めている。
ただ、その事だけが頭の中を大きな割合で占めていた。
(急いでいるのに!)
その心の声に呼応するように右手が熱くなる。
(っっつ)
(これは!?)
SVMと書かれた紋様が浮かび上がっていた。
デジタルモザイクの様に消えては現れるそれを左手で触れる。
(温かい)
(ソラナちゃんといるときの様に、安心できる温かさ)
思い出されるのは、ソラナを励ます為に自分の秘密の場所を案内したときのこと。
彼女と手を繋いで見上げた夜空と、その寂しくもあり、だが決意に満ちた横顔。
自分はあの時どんな顔をしていたのだろうか。
ソラナが来てからの日々は、騒がしくも充実の日々だった。
それは、具体的なものから感覚的なものまですべて。
特に感覚的なものは大きかった。
(あのとき、わたしがソラナちゃんを励ましたんじゃなくて。励まされていた?)
彼女の内には、欠けていたものがあった。
自身を案じてくれる姉がいて、一緒に研鑽する仲間がいて、少しばかり活発なライバルがいて。
それでも、彼女は何か足りないことを感じていた。
(わたしは、誰かの役にはたっている。けれど、意識体としての『意義』は果たしているのかって)
(でも、そんな高尚な事じゃないかもしれない。生き別れていた。いいえ、それは、いいわ)
考え始めて、自身の考えを否定する。
(ソラナちゃんと育んだ思いから、来ているものなんだから)
(だから、SVMなんて関係ない!!先天的なもので決められていたんじゃないって)
(わたしは、わたしの意思で、ソラナちゃんと仲良くなりたいって思った)
(助けたいと思った)
(だから、SVMは手段なの!)
(だから)
「SVM、わたしの願いに応えなさい!!」
「そして、わたしの大切な人を助けて!」
叫ぶように、声を上げるニトロ
上げた声が、銀色の光を放ち一本の線になる。
線の始まりと終わりが繋がり輪となり、高速で回転を始めた。
「こ、これは!?」
今まで、ごちゃ混ぜだった世界が分離を始める。
地面は下へ、雲は空へ
海は、大地と雲の間へと差し込まれていく。
全ての調和が銀の輪っかにより生み出されていく。
『ソラナちゃんを助けたいんでしょ。いいよ。ちから、貸してあげる』
「あなたは?わたしは、ニトロ、GNO-LANDの住人でソラナの友達だよ」
『そう』
『私は、GNO-LANDのリソースと呼ばれていたものよ』
「リソースがしゃべるの!?」
「リソース制御しているAIがしゃべる世界よ。リソースがしゃべったところで問題はないでしょ?」
「そういう問題じゃないと、私は思うのだけれど」
「あら、人が悪いわね。のぞきみなんて。Feach.AI?」
「のぞきみではなく、見守っていただけよ。GNO-LANDに生まれた可愛い我が子をよ」
「我が子ねー?生みの親は私なんだけれどなー」
「いいのよ!育ての親がいても問題ないでしょ!」
「あのー二人とも、その辺にしてもらえるかな?」
「あ/ああ!」
「ごめんなさいね。置き去りにしてしまって」
「ええ、ええ、少し驚いただけだからいいよ」
「ただ、助けてくれるのでしょ?」
「いいわよ。あなたが、私をしっかりとした形に定義出来たのだから、後は私が、あなたの大切な人に力を貸してあげるわ」
「 ///大切な人って、友達よ!友達!」
「そんな否定しないでも、ねー!」
そう言いながら、顔を合わせて両手タッチするGNO-LANDのリソースの意思とFeach.AI
こんなときだけ、意見が合うんだから。
「だったら、早く助けて!わたしの大切な人を!」
「りょーかい!!」
そういって、リソースの意思は、舌を出しながら敬礼すると『世界』と光の道と地とを銀色の光でつないだ。
真ん中には、ニトロが紡いだ銀色の輪っかが回転しながら世界そのものを光の道へと接続していった。
そこで、ニトロの意識は途絶えた。