
EVMOS_物語を語り始める→第一話:航海の始まり
朝日が水平線を染める中、軍艦「フォックスバイト」は静かな海を進んでいた。広大なデッキの上、白と金の軍服を身にまとったナギサが、風を受けながら腕を組んで立っている。その狐耳がぴんと立ち、周囲の物音を聞き逃さないと言わんばかりの威厳を放っていた。
「今日も絶好の航海日和ね!」
ナギサは笑顔で両手を広げ、振り返る。背後には艦の乗組員たちが忙しなく動き回り、その指揮を執るのが新たに着任したシェラだった。
シェラはナギサの無邪気な笑顔に少し驚きながらも、冷静に仕事を進めていた。銀髪が朝日を反射してきらめき、青い衣装が彼女の動きに合わせて揺れる。彼女の目は柔らかな紫色だが、その中に強い決意が宿っている。
「艦長、もう少し仕事に集中してください。乗組員が混乱しています。」
シェラがきっぱりと言うと、ナギサは軽く片目をつぶり、肩をすくめた。
「私が笑顔でいるほうが士気が上がるって聞いたんだけどなぁ。違う?」
からかうような口調に、シェラは眉をひそめた。
「確かに、笑顔は大事です。でも、それが“艦長がただ遊んでいるように見える”のは問題です。」
シェラはナギサをまっすぐ見つめた。その真剣な表情に、ナギサは少しだけたじろいだ。
「ふむ、君って真面目だねぇ。まぁ、それも悪くないか。」
ナギサは口元に浮かぶ笑みを抑えようともせず、シェラをじっと見た。その黄金の瞳がまるでシェラの心の奥を覗き込むようで、彼女は一瞬視線をそらした。
その時、甲板から怒号が聞こえた。
「艦長!メインマストが揺れています!」
若い乗組員が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「なんだって?」
ナギサはすぐにその方向に走り出し、シェラも後を追った。風が一瞬だけ強まり、帆が大きく揺れる音が響く。
「こういう時こそ冷静に行動しなきゃダメよ!」
ナギサは落ち着いた声で指示を出し始めた。
「帆を固定する人を増やして。君たち二人は右舷側の補強ロープを確認して。」
ナギサの指示を聞いた乗組員たちはすぐに動き出したが、いまだ混乱は収まらない。
「艦長、それでは時間がかかりすぎます。私が動きます。」
シェラはナギサに断りを入れると、軽やかに甲板を駆け出し、滑らかな動きでロープを結び直していく。その動作は舞踊のように優雅で、一瞬の間に状況を収めてしまった。
「ほう……君、意外とやるじゃない。」
ナギサが感心したように呟くと、シェラは息を整えながら振り返った。
「意外と、という言葉にはお礼を期待していいんでしょうか?」
シェラの軽口にナギサは笑い声を上げた。
「もちろん、ありがとう。助かったよ。」
ナギサは彼女の肩に手を置く。その手が温かく、シェラは少しだけ頬を赤くした。
「……あなたには本当に気を使わせられます。」
小さくため息をつくシェラを見て、ナギサはニヤリと笑った。
「じゃあ、これからはもっと君に頼ろうかな?ずっとそばにいてくれたらね。」
冗談混じりの声に、シェラの胸が不思議な高鳴りを覚えた。それがなんなのか、彼女にはまだわからなかった。
太陽がさらに高く昇り、船は静かな海を進んでいく。彼女たちの冒険と、揺れる心の航海が、今まさに始まろうとしていた。