R-TYPE / ZERO: 天使の軌跡:6
火星の情報戦基地「プロメテウス」は、漆黒の宇宙空間に浮かぶ鋭利な刃物のような構造物だった。その表面は多数のアンテナやセンサーで覆われ、どんな些細な異常も見逃さないよう設計されている。人類にとって、この基地は情報戦の最前線であり、バイドの動きを監視し、解析する拠点であった。
その日、プロメテウスの管制室はいつも通り忙しなく動いていた。モニターには無数のデータが流れ、オペレーターたちはそれを分析していた。だが、その平穏は突然のアラートによって破られた。
「異常信号を捕捉!座標は火星の外縁部、第7セクター!」
若い女性オペレーターが声を上げる。管制室全体がその言葉に一瞬静まり返り、その後、急激に活気づいた。
「詳細を表示しろ!」
指揮官の命令でモニターに信号の解析結果が映し出された。そのデータは、通常のバイドの動きやエネルギー放出パターンとは明らかに異なるものだった。
「信号の性質は未知のものです。一部は既存のバイド波長と一致しますが、他の部分は観測したことのない異常なデータ構造を含んでいます。」
「これは……概念空間への接続を示唆しているのか?」
フリーマン博士がその場に呼び出され、解析結果を見つめながら低く呟いた。
「概念空間だと?」
指揮官が困惑の表情を浮かべる。フリーマン博士はスクリーンを指差しながら説明を続けた。
「バイドはこれまで物理空間と情報空間の干渉を試みてきた。しかし、概念空間とは、それを超えた存在だ。人間の精神や認識そのものに干渉し、現実世界に直接影響を及ぼすことが可能になる。」
「もしバイドが概念空間を完全に制圧したら、どうなる?」
指揮官の問いに、博士は重々しく答えた。
「地球への即時攻撃が可能になる。それだけでなく、精神的な支配を通じて、全人類を奴らの一部として取り込む危険すらある。」
その言葉に、管制室全体が戦慄した。
異常信号の発生源を特定するため、プロメテウスの全てのセンサーが稼働し始めた。周辺の宇宙空間をスキャンし、信号の発生源を追跡する。モニターには奇妙な数値が次々と現れ、解析チームがそれに追われていた。
「信号源を捕捉しました。第7セクター、座標X-32、Y-15付近です!」
オペレーターの声に全員が注目する。スクリーンに映し出されたのは、虚空にぽっかりと開いた黒い穴だった。
「なんだ、あれは……。」
その穴は形を持たず、見る者によってその印象が異なるような不気味な存在感を放っていた。解析データによれば、その内部は異常なエネルギーで満たされており、通常の物理法則が通用しない空間であることが示されていた。
「おそらくこれが概念空間への入り口だ。しかし、問題はこれだけではない。」
フリーマン博士が新たなデータをスクリーンに表示する。そのデータには、信号源から放射されたエネルギーが、現実空間の物質やシステムに影響を与えている様子が記録されていた。
「このエネルギーは、すでに現実世界に干渉を始めている。通信設備が故障し、一部の基地設備が制御不能に陥っている。」
「これは攻撃だ……!」
指揮官が断言する。
その時、外部センサーが新たな異常を検知した。
「第7セクターにバイド艦隊が出現!規模は通常の3倍、複数の大型個体を含む!」
モニターに映し出された映像には、無数のバイド艦が空間に漂いながら徐々に侵攻してくる様子が映し出されていた。その中には、これまで確認されたことのない異形の艦も混ざっていた。
「奴らは概念空間を制圧するためにこちらの防衛ラインを突破しようとしている。基地の防御網を最大限活用し、侵攻を阻止する必要がある。」
指揮官の命令でプロメテウスの防衛システムがフル稼働を開始した。無数の砲台が自動で照準を合わせ、バイド艦隊に向けて一斉に攻撃を開始する。
宇宙空間はまるで嵐が吹き荒れるかのような光景に変わった。プロメテウスから発射された砲弾とレーザーがバイド艦隊を貫き、爆発が次々と起きる。その破片が光の粒となり、虚空に散っていく。
しかし、バイド艦隊の反撃も激しいものだった。艦から放たれるエネルギー波が基地の防御フィールドを直撃し、揺れが管制室にまで伝わってくる。
「防御フィールドの耐久値が低下しています!45%、いや、30%に!」
「負けるわけにはいかない!火力を集中しろ!」
指揮官の怒声が響く中、オペレーターたちが必死にシステムを操作し、防衛システムを強化する。
戦況が悪化する中、フリーマン博士が通信回線を通じてTeam / ゼロに緊急招集をかけた。
「Team / ゼロ、至急プロメテウスに集結せよ。君たちの力が必要だ。」
和也がコックピットで通信を受け取り、すぐにリオに声をかける。
「リオ、行くぞ。次の戦いは今まで以上に厳しいものになる。」
リオが静かに応じる。
「お父さん、私、頑張るよ。絶対に負けない。」
他のパイロットたちも次々と機体に乗り込み、エンジェルパックとの神経接続を完了させる。
「全機準備完了!プロメテウスへの突入を開始する!」
基地の防衛ラインを突破しつつあるバイド艦隊に向けて、Team / ゼロの機体が加速を始めた。その先には、概念空間への戦いが待ち受けていた。
プロメテウス基地の会議室は、緊張感に包まれていた。長方形のテーブルを囲む形で、Team / ゼロのパイロットたち、整備班のリーダーであるジョン・カーター、そして研究班のフリーマン博士が席についている。壁一面に設置されたスクリーンには、概念空間の入り口とされる異常信号源の映像が映し出されていた。
フリーマン博士がテーブルの端に立ち、指揮官から与えられたデータをもとにプレゼンテーションを開始した。
「皆さん、これが現在、我々が直面している脅威です。」
スクリーンに映る黒い穴のような存在は、見る者の視界を歪ませるかのような錯覚を引き起こしていた。その中心部は螺旋を描きながら動き続けており、不気味なエネルギーの波動が伝わってくる。
「これが、バイドが現実空間と精神空間の境界を越えて、概念空間への接続を試みている証拠です。この空間が完全に制圧されれば、地球へのダイレクトアタックが可能になります。これは情報戦ではなく、現実そのものを侵略する試みです。」
その言葉にパイロットたちは一斉にざわめいた。和也が真剣な表情で問いかける。
「博士、具体的にはどうやって戦えばいい?この空間に入る方法はあるのか?」
フリーマン博士はスクリーンを切り替え、作戦概要を示した。
「現実空間から概念空間への侵入は、エンジェルパックの能力を最大限に活用することで可能になります。彼らの神経接続を介して、あなたたちパイロットの意識を概念空間に送り込む形になります。」
ナオミが不安げに呟く。
「でも、それって私たちの精神に負担がかかるってことじゃ……?」
フリーマン博士は頷きながらも、冷静に答えた。
「その通りです。負荷は非常に大きく、危険が伴います。しかし、このミッションは人類存続のための最後の防衛線です。我々に選択肢はありません。」
スクリーンにはさらに詳細な戦術が映し出された。概念空間内の構造、敵の配置、そして到達すべきバイドコアの位置が示されている。
「概念空間内では、物理的な法則が一部適用されません。エンジェルパックが持つ波動砲や特殊兵装が、ここでは我々の主な武器となります。特に波動砲は、バイドコアを破壊する唯一の手段です。」
リチャードが腕を組みながら尋ねる。
「敵の戦力はどの程度だ?単にデータ上の存在だけなのか、それとも物理的な敵が現れるのか?」
「敵は両方です。」
フリーマン博士が指し示したスクリーンには、バイドのデジタル生命体と、それに対応する現実空間の物理的な侵略者の映像が映し出されていた。
「概念空間内では、敵は人類の精神や記憶を利用して攻撃してきます。それだけでなく、現実空間においても、基地を直接攻撃するための物理的なバイド艦隊が控えています。」
ジョン・カーターが苦々しい表情で言葉を挟む。
「要するに、現実と概念の両方で戦わなきゃならないってことだな。基地の防衛は俺たちに任せろ。お前たちはその空間の中で奴らを叩け。」
作戦が進む中で、エンジェルパックたちがどれだけの負担を受けるのかが議題に上がった。
「エンジェルパックたちの精神負荷は限界値に達する可能性があります。」
フリーマン博士がそう警告を発すると、リオが通信を通じて声を上げた。
「私は大丈夫です。お父さんと一緒なら、どんな負担だって乗り越えられます。」
和也が微笑みながら答える。
「頼もしいな、リオ。でも無理はするな。お前の命は俺たちにとって何より大切なんだからな。」
ナオミも美咲に向かって語りかける。
「お母さん、私も頑張る。怖いけど、みんなと一緒に戦いたい。」
美咲はナオミを抱きしめながら力強く言った。
「ナオミ、大丈夫よ。私たちは一緒よ。」
作戦の最終確認が行われた。フリーマン博士がスクリーンを消し、全員を見渡して静かに語りかけた。
「これは人類存亡をかけた戦いです。皆さんの力を信じています。そして、エンジェルパックたちも同じ気持ちでこのミッションに臨んでいます。どうか無事に帰還してください。」
リチャードが全員を見渡しながら言った。
「俺たちはチームだ。全員で帰還する。それが俺たちのルールだ。」
ルイスが肩をすくめながら冗談めかして言う。
「俺たちが戻らなきゃ、地球の連中が困るからな。しっかりやろうぜ。」
カルロスも静かに頷いた。
「そうだ。俺たちにしかできない戦いだ。」
会議が終わり、パイロットたちはそれぞれの機体に向かった。格納庫では整備班が最終点検を行っており、エンジェルパックたちが静かに光を放ちながら待機していた。
ジョン・カーターが和也に声をかける。
「お前たちの機体は完璧に仕上げてある。だが、戻ってくるときには無傷で帰ってきてくれよ。」
和也が軽く手を上げて答える。
「分かってるさ。俺たちは全員で帰る。」
全機が準備を整え、通信回線に指揮官の声が響いた。
「全機、出撃準備完了!これより概念空間への突入を開始する!」
エンジンの轟音と共に、Team / ゼロの機体が次々と発進していった。その先に待つのは未知の戦場だったが、彼らは恐れることなく突き進んだ。
暗黒の宇宙空間を切り裂くように、Team / ゼロの機体が一列に並び、概念空間の入り口へ向かって加速していった。無数の星々が背景に輝く中、その中心にある黒い渦は不気味な存在感を放っていた。渦の中心部はまるで異次元への扉のように、すべての光を吸い込むかのように蠢いている。
「全機、これより概念空間に突入する。」
和也の声が通信回線を通じて全員に届く。リオが静かに応じた。
「お父さん、怖いけど、一緒なら大丈夫だよね。」
「もちろんだ、リオ。俺たちは一緒だ。」
ナオミも不安げな声で美咲に語りかける。
「お母さん、これ、本当に戻ってこられるのかな……?」
美咲はナオミに向かって優しく微笑みながら答えた。
「大丈夫よ、ナオミ。あなたは私の大切な存在。絶対に守るわ。」
リチャードが全体に呼びかけた。
「全員、気を引き締めろ。これは未知の領域だが、俺たちならやれる。」
機体が渦の中に突入すると、世界は一変した。目の前には無限の虚空が広がり、物理的な構造の一切が存在しない抽象的な空間だった。視界には無数の幾何学模様や光の帯が浮かび、それらが絶えず形を変えていく。
「ここが……概念空間か。」
和也が呟いた。その声には驚きと警戒が入り混じっていた。リオが静かに答える。
「お父さん、ここ、なんだか怖い。何かが私たちを見てるみたい……。」
リチャードが警告を発する。
「全員、警戒を怠るな。敵がどこに潜んでいるか分からない。」
突然、空間が歪み、目の前に無数の敵影が出現した。それはバイドのデジタル生命体で、まるで狂気を具現化したような形状をしている。
「来たぞ!全機、戦闘準備!」
敵は次々と現れ、チームに向かって攻撃を仕掛けてきた。バイドのエネルギー波が空間を裂き、Team / ゼロの機体に迫る。
「リオ、波動砲をチャージしろ!」
和也の指示に応じて、リオが波動砲をチャージし、敵に向かって発射する。巨大なエネルギーの奔流がバイドの群れを貫き、光の破片が周囲に散った。
「ナイスショット、リオ!」
「ありがとう、お父さん!」
しかし、敵は数を減らすどころか、次々と再生していく。その異常な特性にパイロットたちは焦りを隠せない。
「こいつら、再生してるぞ!どうなってるんだ!」
リチャードが冷静に分析し、指示を出した。
「コアを狙え!再生を防ぐには、奴らのエネルギー源を断つしかない!」
敵の攻撃は物理的なものだけに留まらなかった。パイロットたちの意識に直接干渉するような幻覚が現れ始める。
和也の視界に過去の記憶がフラッシュバックする。
「これは……リオが生まれる前の記憶……?」
一瞬の隙を突かれて、敵の攻撃が機体に直撃する。しかし、リオがすぐに和也を呼び戻した。
「お父さん!しっかりして!」
「すまない、リオ。ありがとう、助かった。」
美咲もナオミの声を聞きながら必死に精神攻撃に耐えていた。
「お母さん、幻覚に惑わされちゃダメ!」
「分かってる、ナオミ。一緒に乗り越えましょう。」
激しい戦闘を乗り越え、チームはようやくバイドコアの存在する中心部にたどり着いた。そこには、巨大で異様な構造体が浮かび上がっていた。それはまるで現実と虚構が融合したような形状で、常に形を変えながら脈動している。
「これが……バイドコアか。」
リチャードが呟く。その声には戦慄が混じっていた。
「全機、集中攻撃を開始する!波動砲を一斉発射だ!」
和也の指示で、Team / ゼロの全機がコアに向かって波動砲を発射した。光の奔流がコアを貫き、空間が激しく揺れ始める。
「効いてるぞ!もう一撃だ!」
コアが破壊されると同時に、概念空間全体が崩壊を始めた。空間が歪み、周囲の光景が次々と消えていく。
「全機、急いで脱出しろ!」
和也の声に従い、チームは渦の中へと戻るために全力で機体を加速させた。崩壊する空間の中を駆け抜けるその様子は、まるで世界そのものから逃れるような感覚だった。
最後の瞬間、全機が無事に現実空間へと帰還した。プロメテウス基地のスタッフが彼らを迎え、歓声を上げる。
「よくやった、Team / ゼロ!」
概念空間における戦いは次第に激しさを増していた。Team / ゼロのパイロットたちは、バイドの終わりなき波状攻撃に対応しながら、同時に精神的な干渉にも直面していた。この戦場では、肉体的な強靭さだけでなく、精神の安定が何よりも重要だった。
「リオ、何かおかしい……視界が歪んでいる。」
和也が操縦席から声を上げると、リオが警戒した声で応じた。
「お父さん、気を付けて!何かが私たちの意識に入り込もうとしてる!」
その瞬間、和也の視界が白く染まり、かつて家族と過ごした懐かしい風景が広がった。だが、その風景は徐々に歪み、バイドの形状が侵入してくる。
「これは……幻覚か?」
和也は深呼吸をし、冷静さを取り戻そうとする。リオの声が彼の耳元で響いた。
「お父さん、これは敵の罠だよ!しっかりして!」
一方、美咲も同じように幻覚を見ていた。目の前に現れたのは、幼い頃のナオミともう一人の子ども。
「ナオミ、どうして……あなたがそこにいるの?」
美咲は動揺しそうになるが、ナオミの声が通信から響く。
「お母さん、それは私じゃない!目を覚まして!」
その言葉で、美咲は現実を取り戻し、目の前の幻影に向かって波動砲を発射した。光が幻覚を消し去り、敵の正体を暴いた。
幻覚による精神攻撃が収まらない中、バイドの実体がチームに向かって物理的な攻撃を開始した。歪んだ形の敵が空間を滑るように移動し、エネルギー波を放つ。
「和也、右だ!」
リオが警告を発すると、和也は咄嗟に操縦桿を引き、攻撃をかわす。その直後、反撃として波動砲を発射し、敵を撃破した。
「ありがとう、リオ。助かった!」
一方、リチャードとアレックスは複数の敵に囲まれていた。
「アレックス、左を頼む!」
「了解!」
二人は連携し、互いの死角を補いながら敵を撃破していく。だが、敵の攻撃はさらに激しくなり、エネルギー波が機体をかすめるたびに緊張が高まる。
敵の攻撃は次第に進化し、精神的な干渉と物理的な攻撃を同時に行うようになった。リオが不安げな声で言った。
「お父さん、敵が私たちの意識にもっと深く入り込もうとしてる……!」
和也の視界に再び幻覚が現れる。それはかつて失った仲間たちの姿だった。彼らが責めるような視線を向けてくる。
「お前のせいで……俺たちは死んだ……。」
「そんなことない!」
和也は叫びながら幻覚を振り払い、敵に向けて攻撃を繰り出した。
一方、美咲もナオミの助けを借りながら幻覚と戦っていた。
「お母さん、負けないで!私たちは現実にいるんだから!」
その声に力を得て、美咲は敵を撃破し、再び精神の安定を取り戻した。
バイドの攻撃が激しさを増す中、Team / ゼロのメンバーは互いの連携を強化し始めた。リチャードが指揮を執り、全員に指示を出す。
「全員、フォーメーションBに移行しろ!互いを守りながら進むんだ!」
和也、リチャード、美咲、ルイス、カルロスがそれぞれのエンジェルパックと連携し、フォーメーションを整える。
「リオ、波動砲をチャージ!リチャードの機体とタイミングを合わせる!」
「分かった!」
リチャードと和也が同時に波動砲を発射し、敵の中心部を直撃する。爆発が起こり、空間が揺れる。
「やったぞ!」
だが、喜ぶ間もなく、新たな敵が現れる。バイドは無限に湧き出るように次々と襲いかかる。
激闘が続く中、パイロットたちの精神と肉体は限界に近づいていた。だが、彼らは諦めなかった。
「リオ、もう一度波動砲をチャージできるか?」
「うん、やってみる!」
リオが全力で波動砲をチャージし、最後の一撃を準備する。一方で、ナオミも美咲に力を貸しながら敵を牽制していた。
「お母さん、もう少し頑張ろう!」
「そうね、ナオミ。一緒にやり遂げましょう!」
全員が力を合わせ、最後の反撃を仕掛ける。波動砲の光が敵を貫き、概念空間に一瞬の静寂が訪れる。
「全員、よくやった!」
リチャードが声を上げ、全員が無事を確認し合った。だが、戦いはまだ終わっていない。彼らはさらに深い領域へと進む覚悟を決めていた。
プロメテウス基地の管制室は、激しいアラート音とともに緊張の極みに達していた。モニターには次々と異常が表示され、スタッフたちがそれに対応するために慌ただしく動いている。
「概念空間の干渉が現実空間に波及しています!」
オペレーターの声に、指揮官は眉をひそめ、モニターを凝視した。そこには、火星基地の周囲に形成された奇妙なエネルギーフィールドが映し出されていた。そのフィールドは脈動するように広がり、周囲の物理構造に影響を与えていた。
「基地の通信システムが次々とダウンしています!一部の制御系統も応答なし!」
技術班のリーダーであるジョン・カーターが苛立ちを隠さず叫んだ。
「くそっ、これは普通のエラーじゃない!バイドのエネルギーが直接システムに侵食している!」
フリーマン博士がデータを分析しながら冷静に説明する。
「概念空間内のバイドの活動が、現実空間の物質に影響を及ぼしています。このままでは、基地全体が彼らに飲み込まれる可能性があります。」
指揮官が即座に命令を下した。
「全力で防御システムを稼働させろ!整備班、基地の維持に全力を注げ!」
基地の外壁に取り付けられたセンサーが異常な反応を示し始めた。その結果、モニターに映し出されたのは、基地周辺の地表が奇妙に歪む様子だった。地形が波のように揺れ、現実の法則が崩壊し始めている。
「既存波形に無いエネルギーが周囲の空間に影響を与えています!質量が変動し、物理法則が破壊されています!」
科学班の若い研究者が震える声で報告する。
「これがバイドの概念空間の影響だとすれば、現実空間そのものが奴らに飲み込まれる可能性があります!」
外壁のカメラが捕らえた映像には、無数の異形のバイドが次々と出現している様子が映っていた。その形状は物理的に説明のつかないものばかりで、基地を包囲しながらゆっくりと迫っていた。
突然、警報がさらに高い音を立てて鳴り響いた。
「バイドが基地の外壁に直接攻撃を開始!エネルギー障壁の耐久値が急速に低下しています!」
モニターには、異形のバイドがエネルギー波を放ちながら障壁を攻撃する様子が映し出されていた。その波動が触れるたびに障壁が歪み、ひび割れが広がっていく。
「障壁の耐久値、60%!いや、50%に低下!」
ジョンが管制室の通信を使って整備班全員に指示を出した。
「障壁発生装置の出力を最大化しろ!非常用エネルギーを全て回せ!」
整備班のメンバーが汗だくになりながら機器を調整していく。
「ジョン、これ以上の出力は装置そのものが持ちません!」
「分かってる!だが、持たせるんだ!」
一方、概念空間で戦闘を続けるTeam / ゼロにも、現実空間での異常が報告された。和也がフリーマン博士からの通信を受け取る。
「和也、現実空間が危機的な状況にある。君たちが早急にコアを破壊しない限り、基地そのものが持たない。」
和也が歯を食いしばりながら答える。
「分かった。全力でやる。リオ、もう少し頑張れるか?」
リオが静かに答える。
「大丈夫、お父さん。一緒にやろう!」
他のパイロットたちも、それぞれのエンジェルパックとの連携を強化し、最後の攻撃準備に取りかかっていた。
基地内では、整備班と研究班が全力で設備の維持に取り組んでいた。ジョンがエネルギー配分を調整しながら叫ぶ。
「研究班、未知のエネルギーについて、解析はどうなってる!何か手がかりはないのか!」
フリーマン博士が分析結果を見ながら答える。
「このエネルギーは、バイドのコアが発する波動によるものです。もしコアを破壊できれば、現実空間への影響は収まるはずです!」
「それまでの間、基地を守り抜かなきゃならないってことか。全員、気を抜くな!」
バイドの攻撃がさらに激化する中、基地の防衛システムが限界に近づいていた。
「障壁の耐久値、20%以下です!これ以上は持ちません!」
ジョンが拳を握りしめ、必死に考える。
「全エネルギーを一点に集中しろ!奴らの攻撃の中心部を防ぐんだ!」
一方、エンジェルパックと共にコア破壊を目指すTeam / ゼロがついに成功し、概念空間からの帰還が始まる。
「全機、帰還準備完了!」
和也が指揮を執り、全機が渦を抜けて現実空間へと帰還する。その瞬間、バイドの攻撃が止み、エネルギー波が消滅していく。
「やった……概念空間の干渉が収まったぞ!」
基地内に安堵の空気が流れる中、Team / ゼロが格納庫に戻ってくる。ジョンがパイロットたちを迎えながら言った。
「全員、よくやった。本当によく持ちこたえたな。」
概念空間の中心部に、チームの目指す最終地点が現れた。それは巨大な構造物で、幾何学的な形状を絶えず変化させながら脈動していた。黒と赤を基調としたその存在は、見る者に圧倒的な威圧感を与えた。
「これがバイドコアか……。」
和也の声が通信越しに響く。その声には驚きと緊張が入り混じっていた。リオが静かに応じる。
「お父さん、怖い……でも、頑張るよ。」
「そうだ、リオ。一緒にやり遂げよう。」
他のパイロットたちもそれぞれのエンジェルパックとの連携を確認し、準備を整えた。
「リチャード、指示を頼む。」
和也がリーダーであるリチャードに声をかける。リチャードは冷静な声で全体に指示を出した。
「全機、フォーメーションCを維持しながら接近する。周囲の微小な波動に注意しろ。敵の防衛機構を無力化するまではコアに近づきすぎるな!」
コアの周囲には、無数のバイド防衛機構が展開していた。それらは人型から動物型、そして抽象的な形状まで様々で、どれも異常な速度と力を持っていた。
「敵が接近してくる!全員、迎撃態勢を取れ!」
和也の叫びとともに、チーム全員が一斉に攻撃を開始する。波動砲が次々と発射され、敵を貫いた。そのエネルギーが光の破片となって空間に散らばる。
「リオ、次の敵をロックオンしろ!」
「分かった、お父さん!」
リオが冷静に次のターゲットを指定し、和也が正確に波動砲を撃ち込む。だが、敵は無限に湧き出るかのように次々と現れる。
「こいつら、キリがないぞ!」
ルイスが苛立ちを隠せず叫ぶ。その声にリチャードが即座に応じた。
「動揺するな!目の前の敵を確実に撃破するんだ!」
防衛機構が一部破壊されると、コアそのものが反撃を開始した。無数の光線が空間を切り裂くように発射され、チームを狙う。
「くそっ、なんて量だ!」
カルロスがエネルギー波をかわしながら叫ぶ。その直後、彼の機体が軽く被弾し、警告音が鳴り響いた。
「カルロス、大丈夫か?」
「なんとか持ってる!だが、油断できない!」
和也もまた、激しい光線をかわしながらリオに声をかける。
「リオ、耐えられるか?」
「うん、大丈夫。お父さん、私を信じて!」
リチャードが全体の態勢を整えながら、最終攻撃の指示を出した。
「全機、コアに向けて波動砲を最大出力でチャージ!タイミングを合わせて一斉に撃つ!」
「了解!」
パイロットたちはそれぞれ波動砲をチャージし、コアを狙う。エンジェルパックたちも全力でパイロットを支え、そのエネルギーを増幅する。
「準備完了だ!和也、リオ、行け!」
リチャードの合図で、全機が一斉に波動砲を発射した。巨大な光の奔流がコアを直撃し、空間全体が揺れた。
「やったか……?」
ルイスが呟く。しかし、その直後、コアが再び脈動し始めた。
「まだ終わってない!もう一度だ!」
和也がリオに向かって語りかけた。
「リオ、もう一度いけるか?」
「うん、やるよ!お父さんと一緒ならできる!」
リオの声には決意が満ちていた。和也はリチャードに呼びかける。
「リチャード、俺たちが先に行く!最後の一撃を任せてくれ!」
「分かった。お前たちを援護する!」
和也とリオはコアに向かって突進し、最後の波動砲を発射した。その光がコアの中心部を貫き、ついにその脈動が止まる。
「やった……!」
コアが崩壊し始め、空間全体が光に包まれる。リチャードが即座に脱出の指示を出した。
「全機、急いで離脱しろ!」
Team / ゼロの機体が現実空間に帰還すると、プロメテウス基地では歓声が上がった。ジョン・カーターがパイロットたちを迎えながら声をかけた。
「全員、よくやった!本当にお前たちは最高だ!」
和也がリオに微笑みながら語りかけた。
「リオ、ありがとう。お前のおかげだ。」
「お父さん、私も一緒に戦えてよかった!」
ナオミと美咲、他のパイロットたちもそれぞれのエンジェルパックと喜びを分かち合い、戦いの勝利を噛み締めた。
プロメテウス基地の格納庫に、Team / ゼロの機体が次々と帰還した。周囲には疲労と安堵が入り混じる空気が漂い、整備班と研究班のスタッフたちがそれぞれの持ち場で機体の状態を確認し始めた。
和也の機体がゆっくりと着地すると、リオの柔らかな光がコックピット内を包んだ。
「お父さん、私たち……勝ったんだよね?」
和也はコックピットから降り立ちながら、リオに微笑みかけた。
「ああ、リオ。お前のおかげだ。よく頑張ったな。」
他のパイロットたちも次々と機体から降り、エンジェルパックたちと感謝の言葉を交わしていた。美咲はナオミを抱きしめるように語りかけた。
「ナオミ、本当にありがとう。あなたがいなければ、私はきっとここまで来られなかった。」
ナオミの光が少し強くなり、小さな声で答えた。
「お母さん、私も……一緒に戦えてよかった。」
パイロットたちが格納庫に集合し、全員が無事であることを確認すると、リチャードが静かに口を開いた。
「全員、生きて帰れた。それが何よりだ。」
ルイスが少し疲れた笑顔を浮かべながら肩をすくめた。
「俺たち、結構ギリギリだったけどな。それでも、全員で帰れたのは奇跡だ。」
カルロスが真面目な表情で付け加える。
「奇跡じゃないさ。俺たちが一緒に戦ったからだ。」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
その後、パイロットたちはエンジェルパックと向き合い、それぞれの気持ちを伝え合った。リオが和也に問いかける。
「お父さん、私……ちゃんと役に立てた?」
和也はリオを優しく撫でるように、機体のコア部分に手を当てた。
「もちろんだよ。お前がいたから、俺は戦えたんだ。ありがとう、リオ。」
ナオミも美咲に問いかける。
「お母さん、私たち……これからどうなるのかな?」
美咲は少し考え込んだ後、しっかりと答えた。
「未来を作るのよ、ナオミ。あなたたちと一緒に、これからも戦い続ける。平和を守るために。」
アレックスとルイス、レイとカルロスも、それぞれのエンジェルパックと感謝と喜びを分かち合い、チームの絆をさらに深めた。
格納庫から出ると、プロメテウス基地のスタッフたちがチームを迎え入れた。歓声が上がり、パイロットたちは英雄のように称えられた。
ジョン・カーターが駆け寄り、和也の肩を叩いた。
「お前たち、本当によくやった!こんなギリギリの戦いを制するなんて、さすがだ!」
和也は苦笑いを浮かべながら答えた。
「いや、俺たちだけじゃない。みんなが支えてくれたからだ。」
フリーマン博士も近づいてきて、静かに語りかけた。
「君たちは人類の希望だ。これからもよろしく頼む。」
祝賀がひと段落すると、パイロットたちはそれぞれ静かな時間を過ごすために散った。和也はリオと共に格納庫の片隅で星空を眺めていた。
「お父さん、星がすごくきれい……。」
「ああ、リオ。この空を守るために、俺たちは戦ったんだ。」
ナオミと美咲も同じように穏やかな時間を過ごしていた。
「お母さん、この戦いが終わっても、私たちの役割は続くんだよね?」
「そうよ、ナオミ。でも、今は少しだけ休みましょう。」
戦闘の疲れが癒え、チームの絆がさらに強まる中、リチャードが静かに全員に呼びかけた。
「これで終わりじゃない。バイドとの戦いはまだ続く。だが、俺たちなら乗り越えられる。」
和也が深く頷き、リオを見つめながら言った。
「次も一緒に戦おう。お前がいる限り、俺は絶対に負けない。」
ナオミも決意を新たにする。
「お母さん、私ももっと強くなる。みんなを守れるように。」
美咲は優しく微笑みながら答えた。
「大丈夫よ、ナオミ。あなたならきっとできるわ。」