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番外編:記憶

「うん」
「だって、今日は学校の日だよ。ほら、早く起きなきゃだめでしょ?」

「そうね」
「ご飯は、キッチンにあるから」

「もう食べたよー」

「早いわね!」

「うん!」
「じゃあ、わたし学校にいってくるね。アバランチ姉ぇも、いってらっしゃい!」

「ええ、行ってらっしゃい」
そういって、エブモスは家を出た。
いつもと変わらない日常。

「おはよう!シークレット君!」

「やぁ、エブモス。おはよう」

「昨日の『配信』すごかったね!途中からスパチャが止まらなかったよね」

「あれは、予想外の展開だった」
「って、それは、放課後に話そうか」
「ほら、もう学校だし」

「そうだね!シークレット君のシークレットだものね」

「そうだよ」

エブモスの幼馴染のシークレット
彼は、コスモスのネット配信で、『シルク』という名前で歌を歌ったり実況を行なっているのだ。

男の娘として。

「エブモス」

「なーに?シークレット君」

「君が、最近、なんだかスマートな気がするんだ」

「えっ、スタイルが良くなった!?」
「さっすが、シークレット君。見る目が違う!」
密かに努力して、運動をしている事を褒められて嬉しいエブモス。
だが、シークレットの聞きたいこととは、違った。

「いや、体型の事じゃないんだ」
「何か頭の回転が早くなったな。そう思ったんだ」

「えぇー!!そこじゃなかったの!?」
ぷぅっと頬をふくらせながらも、でもありがとう。と続けるエブモス。

「わたしも、最近。思うんだよね」
「前より、考えるのが得意になったのかな?」
「あたまが、スッキリしてるんだー」

変なのーといいながらも、二パッと微笑むエブモスに、シークレットは、まぁ、いいかと思考しつつ言葉に出来ない違和感を感じていた。

—————
「最近、もの忘れが流行っている?」

「はい。一時的なものだと思われますが」

「大丈夫?」

「はっ!」
「皆業務には、支障は出ておりません」
「それどころか、現場の士気は上がっております」

一見矛盾する報告をJunoより受けるAtom
彼女は、Cosmos宙域の巫女でcosmosより信託を受け宙域の円滑な運営を間接的に行っている。
神託ではなく、信託。
Cosmos宙域の意識体、cosmosからの委託なのだ。
そして、彼女。
cosmosは、Atomの姉でもある。

「不思議な事態ね。でも、よくそんなことがわかったわね?」

「はい。私的な事になるのですが」

「うん。続けて」

「はっ」
「私が統括している部隊で、訓練の休憩時間に流行りの映画をしたときの事でした」
「映画のタイトルは、思い出せたのですが、内容をさっぱり思い出せなかったのです」

「それ、ただのもの忘れじゃない?」

「いえ、それが異なるのです」
「皆、一様に余暇に行った事を語ろうとしたのですが端的に言う事が出来ても、事の仔細を話そうとすると皆、思い出せなかったのです」

「どのくらいの人がそうだったの?」
「貴女の事、きっと、そう言ったこと。調べた上で言ってるのでしょ?」

「はい」
「聞き込んだ範囲では、コスモスの庁舎、研究棟に詰める職員全員が何らかの記憶の欠損がありました」

「でも、業務に影響は出てないのでしょ?」

「はい。記憶が業務に及ぶ場合は、皆、いつも通りに答えられました」

「奇妙なことね」
「まるで、『必要無い』と判断されたものが意識的に取り除かれている」
「そう、表現した方が適切な状況だわ」

「はい」

「ただ。そう仮定すると『必要無い』って、勝手に決められているの。納得がいかないわね」
「引き続き、調査。よろしくね」

「はっ!」

(確かに、そうなのよね。仕事の事は覚えてる)
(でも、ユニとの記憶があやふや)
(ブロックチェーンの本体を探しても、情報が消えていた)
(何かが働きかけているのかも知れないわね)


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