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「教師崩壊」妹尾昌俊:PHP新書 を読む

今年3月の刊。後書きにこんな一節があります。

今回の全国的な休校(臨時休業)のなかで,保護者や社会,そして子どもたちが実感したのは,「学校があることのありがたさ」ではないでしょうか。〜中略〜 
同時に,休校で実感した学校の大きさと裏表のことですが,それだけ「保護者をはじめ,我々社会が,学校にあれもこれもお願いしてきた」ということでもあります。

 学校が「ブラック」と認識されるようになってだいぶ経ちます。そのあたりから,大学卒の教員志望者が減る,しかも有能な人材が教員から背を向けるという事態になってきています。当然のことでしょう。私も,教員になるのはやめた方がいい,といいます。教育に対してよほど正しい理念を持っていれば別ですが。
 しかし,そういう理念と希望を持って教員になった人が,現場で悩み,時には自殺してしまっているのです。教員の不祥事も増えました。しょうもない教員が増え,使命感に燃える教員は疲弊しているのです。学校が責任を持つ必要のない,校外でのこと,万引きをした,交通違反をした,そんなことまで学校に電話が来て教員が対応しているのです。部活の過熱化も教員の多忙化の一因になっています。
 そういった,多すぎる教員の仕事を減らしましょう,というのが,この本の趣旨だといっていいでしょう。

目次で内容を概観しましょう。

第1章 教師が足りない
第2章 教育の質が危ない
第3章 失われる先生の命
第4章 学びを放棄する教師たち
第5章 信頼されない教師たち
第6章 教師崩壊を食い止めろ

第1章から第5章までの現状分析は,統計データや取材の結果をもとにしていますが,現場感覚に近いものになっています。同意できることが多いのです。

 たとえば小学校。小学校の先生は朝から夕方まで休みなく働いています。空き時間はないし,昼食時も給食指導です。仕事を家に持ち帰らなければ終わらないのです。教材研究をする時間はなく,本を読む時間もない。こんな状況で,いい教育ができるでしょうか。さらに,英語,プログラミング。現場を知らず,責任も取らない「委員」たちが「答申」した内容にしたがって,小学校の指導内容は膨らむばかり。この「責任もとらない委員」については,中教審の委員を務めたことのある著者がこう書いています。

文科省も有識者,専門家も,「集団無責任体制」のまま教育政策は決められてきました。 (太字は原文のまま)

 第2章の「教育の質」についても,私は現場の教員として非常に危惧しています。読解力が落ちていて,自分で教科書を読んで理解する,ということができない生徒が増えているのです。小中学校でまともに育てていないと思わざるを得ません。
 なお,本書では学習塾の問題については触れていません。統計資料がないからでしょうか。今,Twitterなどでは,小学校でのかけ算順序の問題,「みはじ」の問題など,引きも切らず話題になっていますが,これらについても触れられてはいません。テーマが「教師の労働環境」だからでしょう。しかし,もしそれらに触れたなら,闇はさらに深いことに気がつくでしょう。

 第6章で,いろいろ出ている問題点に対する対策も提案しています。
簡単にいえば,小学校での詰め込みをやめること,仕事を減らすこと,教員を増やすことです。
 本書では,やめるべきこととして,教員免許更新制度,全国学力テストなどを挙げていますがまったくその通りだと思います。教員免許更新制度は不適格な教員の再教育を目指したのでしょうが,なにが「不適格」かを正確に捉えているとは言い難く,こんなものやってもしょうがない,という内容のものです。全国学力テストについてはいろいろ報道されていますから一般の方もわかることでしょう。
 個人的には,第6章で提案されていることには賛同することが多くあります。教員を学習指導に専念できるようにすること,小学校での学習内容を減らす(増やさない)こと,教員を増やすこと。

 本書は教員や教育行政に携わる人だけではなく,子どもを持つ親たちが読むべきでしょう。こんな状況の学校に期待してはいけません。要求するのもやめましょう。もし要求するのであれば,「授業以外のことはしなくていいですから,授業に専念してください」でしょう。登下校の安全は地域で責任を持ちます。学校外でのことは学校には相談しません,と。学童保育は? 今の時代,それは要求してもいいでしょう。でも教員でなく専門のスタッフにやってほしいですね。それは政治への要求ですね。そうなっていかなければ学校はどんどんだめになって,割を食うのは子どもたちなのですから。
 もし教員が読んだなら,自分がまともな教師であるといえるかを自問自答してください。子どもの人権を考えていますか。テストの点をあげることではなく,教科の内容を理解させることを考えていますか。「それは教員の仕事ではない」とはっきり言えますか。
 教師を目指す学生が読んだなら,君はこれでも教師になりますか,と問いたいですね。覚悟して教員になってください。そして,本当に子どもから感謝される教員になってください。(ますます志望者がいなくなりそう・・・)