学び直しの算数:1年:9よりおおきいかずとたしざん・ひきざん
はじめに
9より大きい数の表し方の説明をして,たし算・引き算の計算練習をします。「10よりおおきなかず」ではありません。「9より」です。Web上でのドリルへのリンクは,本稿末尾にあります。
教科書では,学習指導要領に従って,まず0から10までの数についてたし算と引き算を学び,次に10から20までの数について,たし算と引き算を学びます。ここの内容は非常に重要で,10をまたぐたし算・引き算に習熟することは,このあと,たし算の筆算はもちろん,九九にもかかわってきます。正確に素早く結果を求められることが必要なのです。暗記してしまえばよいのですが,必ずしも暗記しなくてもかまいません。実際,筆者は暗記しているというより構造を考えて答えを出しています。
教科書での学習順序を項目順に書くと次のようになっています。
・10より 大きい数を数える
・数の大小と数直線
・繰り上がり・繰り下がりのない,たし算と引き算
・繰り上がり,繰り下がりのある,たし算と引き算
しかし,ここで示す「9よりおおきいかずとたしざん・ひきざん」は,教科書の順序とは異なります。ですから「学び直し」なのですが,学び直しというだけではなく,ここで「9より大きい数について学ぶためのひとつの提案」という意味もあります。教科書とは異なる進め方なのです。次のようになっています。
(1) 9より大きい数を数える。(集合数を10進法で。ただし用語は使いません。)
(2) 0から19まで順に数を並べる。(順序数)
(3) (1)(2) の2つの観点を使って,たし算と引き算を練習する。繰り上がりのある・なしを混ぜて。
(3) が教科書とは異なります。また,教科書にはないことも扱います。ないというより,教科書では不十分なこと,といったほうがいいでしょう。
実際にこれをWeb上のソフトで練習します。「学び直し」なので,教科書の内容をひととおりやってからでよいのですが,10までの数についてたし算と引き算ができればその前に使うこともできます。前提はつぎの2つです。
(1) 1から9までかぞえられて,9の次は10ということを知っている。
(2) たし算と引き算の考え方がわかっており,1から9までの数のたし算,引き算ができる。
教科書の進め方も,この前提で段階を追ってていねいにやっています。ですから,今から紹介するやり方でわからない場合は,きちんと教科書の手順に戻った方がいいかもしれません。しかし,その場合は,教科書の手順に戻ってもできない可能性があります。上の2つの前提ができていないからです。
では,なぜこの提案をするのか。何が違うのか。それを現行の教科書の学習順(学習指導要領による順)を参照しながら説明していきます。
教科書の進め方と学習指導要領
教科書の項目の順序は次のようになっています。(学校図書の教科書の場合)
・10より 大きい数を数える
・数直線と数の並び
・繰り上がり・繰り下がりのない,たし算と引き算
・時計(なんじ,なんじはん)
・かたち
・たしたりひいたり
・繰り上がり,繰り下がりのある,たし算と引き算
・20より大きい数
ここで注意したいのは,たし算と引き算が,繰り上がりのあるものとないもので分断されていることです。間に「時計」と「かたち」「たしたりひいたり」がはさまっているのです。なぜ,続けて学習しないのでしょうか。続けて学習するほうが理解しやすいと思うのですが。
これは,教科書の編集方針というより,学習指導要領に理由がありそうです。学習指導要領解説には,次のように記述されています。「第1学年の内容 A 数と計算」の節です。まず「A(1) 数の構成と表し方」です。なお,太字は筆者が太字にしたもので原文は太字ではありません。
このうち,「(オ) 2位数の表し方」が目下のテーマですが,次のように解説されています。
ここに,「十進位取り記数法」が出てきますが,教科書にはそのような説明はなく図が描かれているだけです。これについては,このあと具体的に示しますが,1年生のこの時点では,説明文を書いても読みとれないということでしょう。
次に,「A2 加法,減法」です。
(ウ)までが,「10までのかず」に該当します。10以上の数(2位数) については,(エ)に書かれていますが,どこまでを「簡単な場合」というかは,このあとに解説されています。「ア 知識および技能」に
と書かれています。「繰り上がりや繰り下がりのない2位数と1位数との加法,減法」です。では,繰り上がりのある計算,6+7 のようなものはどうするのでしょうか。これは「イ 思考力,判断力,表現力等」に「数量の関係に着目し,計算のしかたを考えること」として,次のように書かれています。
繰り上がりのない 13+4 は「知識および技能」で,8+7 は「思考力,判断力,表現力等」というのです。
なにか変だと思いませんか。
「13は10と3,それに4を足して10と7」を知識としてもっていれば,「「10 とあと幾つ」という数の見方や計算の意味に着目し」て思考力を発揮して「8+7」ができる,というのでしょうか。
さらに,ここの「思考力」には,次のことがらが例示されています。
つまり,10を作るのに2通り考えられるね,ということです。方法は一つではないからいろいろ考えましょう(思考力)というわけです。
減法については,「減加法」と「減減法」が登場します。
このように,繰り上がりのある/なしが,「ア 知識および技能」と「思考力,判断力,表現力等」に分断されているので,学習指導要領に準拠した教科書もそのようになっているのです。そして,上のような2つの方法を考えるために,「10を作るために7を2と5にわける」ことや「12を10と2にわける」ことなどをていねいに練習していきます。
しかし,筆者は2つの方法を考えるより,どちらか一方でまずできるようにすることの方が大切ではないかと考えます。計算に習熟してから,こういう考え方もできるよ,というのを示し,自分で考えやすい方を選ばせればよいのです。Web上の練習「9よりおおきいかずとたしざん・ひきざん」では,計算のヒントを出しますが,そこでは,加法は「8+7=(8+2)+5」で,減法は減減法です。また,数を並べておいてたし算、引き算を考えることもします。これは,「数」に,次に述べる集合数と順序数があるからです。
集合数と順序数
「集合数(基数ともいう)」とは,ものの個数を表す数,「順序数(序数ともいう)」とは順番を表す数です。「どうしたら算数ができるようになるか」(銀林浩 編著:日本評論社)で使われている用語です。学習指導要領では基数・序数という用語が使われています。教科書にはこの用語は登場しません。ここでは,集合数・順序数の方が意味がつかみやすいのでこちらを使います。
1年生の教科書でこれらがどのように扱われているかは,次の note で紹介しています。
10進法は集合数での考え方です。教科書のたし算・引き算の節は集合数で考えています。順序数は,「なんばんめかな」で扱っているのですが,「なんばんめかな」では,10までの数の内容で,たし算・引き算はありません。順番をかぞえるだけです。10より大きい数を学んだあとには,「たすのかなひくのかな」があり,次のような問題を,図を描いて答えるようになっています。「しき」という欄があるので,たし算で計算することを想定しているようです。
しかし,この問題を解くときに,はたして順序数の概念を使っているでしょうか。授業をどのようにやっているかがわかりませんが,おそらくそうではないでしょう。ブロックで表して数えているだけではないかと思われます。
というのは,上の図で,ブロックの上に順序を表す数字が書かれていないからです。ブロックの上に 1,2,3,4,5,6,7,8,9 と書かれていれば,これらの数が順序を表していることがわかりますが,書かれていないので,ブロックの個数を数えること,すなわち集合数の計算になってしまっているのではないでしょうか。
筆者の「9よりおおきいかずとたしざん・ひきざん」では,「なんばんめ」は扱いませんが,順序数を用いたたし算と引き算を示しています。(後述)
教科書では,順序数について,「どちらがおおきい」や「かあどならべ」で扱いますが,それをたし算や引き算に利用することはやっていません。数の順序性と,それを利用した計算については教科書では扱っていないのです。しかし,数の順序性を認識することは大切なことで,次の数直線とも関係してきます。
数直線の是非
学習指導要領解説に
との記述があります。ただし,用語としての「数直線」が登場するのは第3学年です。
1年生に数直線が登場したのはいつからでしょうか。以前はなかったように思います。教科書には次の図が載っています。
数字が並んでいるとして簡単に済ますにはよいでしょう。しかし,学習指導要領にあるような,直線上の点の位置と対応させるという考え方は,小学1年生には無理です。「直線上の点の位置」という概念が認識できないからです。「めもり」は,身近なところに定規などがあるからよさそうに思いますが,実はそうでもないのです。2年生になると1000までの数で数直線が登場し,定規のように目盛りが細かくなるのですが,ここで「わかっていない」ことが露呈します。ひと目盛がいくつに対応するのかを図から読み取ることができないのです。次の問題をみてください。
どちらも順序数の問題です。しかし,9はできても10はできないのです。
実は,友人の教師からこの問題10の誤答例を見せられて愕然とした,というのが,この「学び直しの算数」を書き,算数ドリルを作るようになったきっかけです。しかも,それがごく最近のことなのです。それで,「小学2年生に数直線の概念は難しい」と考えたわけです。「直線上の点」と「長さで数を表す(目盛)」いう認識が難しいのです。
また,順序数の扱いが不十分です。たし算や引き算を集合数でしか行っていません。次のように数を並べておいて「これを見ながら 7+4を求めよう」と問うたとき,はたしてできるでしょうか。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,
「7+4=11」は答えられるでしょう。しかし,その答えを出したとき,理由を説明させたらどうでしょうか。その理由が,集合数を用いたものになっていないでしょうか。「7+4=7+(3+1)=(7+3)+1 だから 11 と答えたならば,それは集合数で十進法を使っているのです。数の並びを見ながら,「7から4つ行ったところが11だから」と答えたならば,順序数を使っていることになります。数の並びさえわかっていれば「10を作る」といった作業は不要です。このくらいの数であれば単に「右にいくつ」と数えればすむのです。
数の並び方を利用すること。前掲の数直線では,数の並びを考えて、560から570までには,561,562,563・・・ があるから,ひと目盛は1だ,とわかればいいのです。
なぜ「10よりおおきなかず」ではなく「9より」なのか
冒頭に書いた通り,ここで紹介する算数ドリルは「10よりおおきなかず」でなく「9よりおおきなかず」です。「10いじょう」でもよかったのですが,「いじょう」という用語が小学校1年生でわかるかどうかという懸念があります。「10より」でない理由は,10進法を使っているからです。漢数字を使って十進法と書いたほうがいいかもしれませんね。数を表すのに使う文字(数字)は,0,1,2,3,4,5,6,7,8,9 の9文字。9よりおおきくなると使える文字がなくなります。そこで,十になったらこれをひとまとめにして,まとめた1つとあと0で,10と表すわけです。さらに2つ増えれば,十(10)と2で12です。教科書にブロックを使って表されている通りです。
しかし,この説明はちょっとやっかいな事柄を含んでいます。というのは,「10までのかず」で10までかぞえることをすでにやっているので,「10」は「1と0」という認識がされていない可能性が大きいのと、「10進法」の「10」がすでに位が上がった表記になっていることです。すでに位が上がった表記を用いて,位をあげる説明をするというのは変ですね。ですから,先ほど漢数字を使って「十進法」と書きました。これが「8進法」なら,このようなことは起こりません。「8進法では,7の次は10と表す」と表記できるからです。「10進法では9の次は10と表す」との違いを考えてください。
この「n進法の表記」は高校1年生の数学で学びますし,「情報」では2進法,16進法を学ぶのですが,これを苦手とする生徒はかなりいるのが現状です。「10進法では9の次は10と表す」といえば,え?あたりまえでしょ,と思うでしょう。「8進法では,7の次は10と表す」というと,なぜ 7の次が10(じゅう)になるの?と思うのです。
ですから,学習指導要領に「1位数」「2位数」とあるとおり,はじめは0から9まで(1位数),次に10から99まで(2位数)と学習していこうというのが筆者の提案です。こちらの方が学習指導要領に合っているのではないでしょうか。
5・2進法
和が5以上となる1桁の数のたし算をするときに,「まず5のかたまりを作る」とする方法を遠山啓氏は「5・2進法」と呼んでいます。(「親と子で学ぶ算数入門」32ページ)「6は5と1」「7は5と2」・・と考えるのです。これは,片手の指が5本であることや,そろばんの構造を考えると意味がわかります。
そこで,4+3 は 3を1と2に分解して,(4+1)+2=5+2=7 とします。分解と合成を5以下の数だけにしようという考え方です。「5以上の数は大きすぎて,頭の中で合成・分解を自由に行うことは無理であったからです」(36ページ)と書いています。
ただし,この「5・2進法」について 学習指導要領解説編には当然ながらまったく記載がありません。
では,教科書はどうでしょうか。
現行の教科書と,一つ前の版の教科書を比べてみます。
旧版には,明確な区切り線があります。現行の教科書にもよく見ると区切りがありますが,気がつかないかもしれません。
「認知心理学からみた数の理解」(吉田・多鹿 編著:北大路書房)には次のようなことが書かれています。
たとえば,7+8の計算をするときに,
7+8=(5+2)+(5+3)=(5+5)+(2+3)=10+5=15
とする手順を「5を基数とする方法」とし,
7+8=7+3+(8-3)=10+5=15
とする手順を「10を基数とする方法」とします。前者が「5・2進法」,後者が「10進法」ですね。
これを,幼児に対し,グループを2つにわけて練習させてみると,5を基数とした方が平均正答率が高いことが示されました。
さらに,公教育で10進法を学習することにより,こうした5の表層構造の影響はなくなっていくのかどうかを,小学1年生と4年生に対して調べました。その結果,「低学年の子どものたし算における5の表層構造が果たす役割は強いといえよう」というのです。しかし,残念ながら,それは合計が10以下になるたし算問題の結果で,10をまたぐ計算については書かれていません。つまり,調査条件が不十分なのです。
では,5・2進法で教えるのはよいことでしょうか。遠山啓氏は勧めていますが,筆者は否定的立場です。その理由は,10進法の理解につながらないからです。小学生であれば,あくまでも9までは分けずに数えるべきなのです。「9を越えたときにひとまとめにする」という考え方をしっかりと身に付けるべきです。
ただし,その方法にあまりこだわるのもいけません。「認知心理学からみた数の理解」には,さまざまな調査の結果,「子どもはわれわれが考えた以上のさまざまな方略を用いて,効率的なたし算を行っている」と書かれているのです。小学校入学時点ですでにたし算ができる子は多いでしょう。教科書は,まったくできないことを前提に書かれていますし,実際にできない子もいるでしょう。児童の状況に応じて柔軟に対応すべきなのです。
さくらんぼ計算の是非
10をまたぐ計算のときに,次のような図を描く方法が教科書に載っています。
これを,巷では「さくらんぼ計算」と呼んでいるようです。(教科書にそう書いてあるわけではありません)
これ自体は,「考え方を図にする」という点ではよいでしょう。しかし,現場では,この図を描かないとバツにする,ということが行われています。もちろん全員ではありません。そういう教師がいるということです。先ほど書いたように,子どもはいろいろな方略を用いて計算しているものです。図を描かなくても計算できるのならいらないでしょう。筆者は,さくらんぼ計算こそが,わからなくなる原因ではないかとさえ思っています。この図の意味がわかる子は図を描かなくてもできるでしょう。しかし,答えはわかってもこの図の意味がわからないという子がいるかもしれません。その子が使っている方略と同じでなければ,何をやっているのかわからないでしょう。実は,筆者自身,この図を見て「なんだこれは?」と思いました。筆者は「9+4=9+1+3」と考えるのでおなじことをしているのですが,図の9の下の□の意味がわからなかったのです。(もちろん左の手順を読めばわかります)
「9よりおおきいかずとたしざん・ひきざん」の内容
次のリンクでWeb上の練習ページにいけます。
この内容を説明しておきましょう。リンク先を開くと2つのメニューボタンがあります。表示されない場合は再読み込みしてください。
「せつめい」は位取り記数法の「10」についての説明です。教科書では20までの数ですが,20を越えた数まで進んでいます。「10になったらまとめる」ということをわかってもらうには,「また10になったからまとめる」という操作を行う必要があるからです。教科書ではこれを,しばらくあとの単元でやっていますが,ここで20に続いてやっています。
また,最後に,0から20までの数を並べて見せます。順序数です。
ここまで説明したら,たしざん,ひきざんの練習に入ります。問題は次の4パターンが繰り返し出てきます。
(1) 集合数を使ったたし算
(2) 集合数を使った引き算
(3) 順序数を使ったたし算
(4) 順序数を使った引き算
たし算の方法:集合数を使って
ガイド図として緑の●が問題の数だけ表示されます。たし算ですから合計した個数を数えます。このとき,「10でまとめる」ことをおこないます。ヒントボタンを押すとその説明が出ます。
ひき算の方法:集合数を使って
ガイド図として緑の●がひかれる数だけ表示されます。ここから引く数の分だけ取り除きます。ヒントボタンを押すとその説明が出ます。減減法です。
順序数を使った方法
教科書にはない方法です。ガイド図として0から20までの数を並べます.たし算は右の方に,引き算では左の方に進めばよいのです。ヒントボタンを押すとそのガイドが出ます。
ひき算の図が見出し画像です。
この方法では,10進法を意識する必要はありません。したがって,繰り上がりや繰り下がりの考え方もいりません。ただ,数がどのように並んでいるかさえわかっていればよいのです。
これを前述の方略でいうと,加法は「8+7=(8+2)+5=10+5」で,減法は「15-8=15-(5+3)=15-5-3」としていることになりますが,繰り上がりがあろうがなかろうが,数えて進めばよいという考え方です。10をまたぐときの進み方がわかれば,次に20をまたぐときも,30をまたぐときも同じようにすればよいのです。
この,順序数を使ったたし算ができるようになると,九九を暗記しなくてもすみますし,ましてや「九九の表」で覚えるという必要もなくなります。これについては,次のページで説明しています。