延命地蔵とDr.イエロー
田園地帯に東西に延びる道の際に,小さな地蔵が祀られていた。
色あせた赤い烏帽子とよだれかけ。
まさに,野辺の地蔵さんだった。
ただ,まわりの草はいつもきちんと刈られていた。
ほんの十数年前のことである。
近くに住むおばあさんが亡くなった。
長寿をまっとうし,こっくり,こっくりと眠るように。
おばあさんがこの地蔵さんの世話をしていたことから,「こっくり地蔵」と呼ばれるようになり,また延命地蔵と言われるようになった。
何もなかった地蔵の周りに,いろいろな仏具が置かれるようになり,「こっくり地蔵」の由緒書きも書かれた。
仏具は日に日に増え,地蔵はごてごてと飾られることになった。(次のページ)
その道は,私の通勤路である。時折,車を停めて地蔵さんに聞いてみた。
「ねえ、お地蔵さん。こんなにごてごてといろんなものがあって,かえって迷惑でしょう」
地蔵は黙ってほほえむだけだった。
ある日,ごてごてと飾られた仏具が一切撤去され,花器が2つだけと,「延命地蔵」の碑だけが残った。
誰かの夢枕に地蔵さんが立って,煩わしいからどかしてくれ,と言ったのだろうか。
地蔵さんは,もとの,野辺の地蔵さんに戻った。昔よりちょっとだけ整備された形で。
道と並行するように新幹線が通っていて,2、3分おきに列車が通りすぎていく。
延命地蔵とDr.イエローの写真を撮ることができて,それを部屋に飾っておくと,いつまでも健康でいられるという。