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映画と現実はシームレスに繋がっていく/『15時17分、パリ行き』レビュー

実話ベースの映画作品を観ていて、違和感を感じる事ありませんか?
そう、“本人の写真”“実際の映像”。
もちろんそれが上手く機能している事もあるけれど、この瞬間、それまで映画を観ていた2時間が突然ばっさり切られて無に帰されるように感じてしまい、私はあまり好きではありません。

映画という虚構と現実、そんな二項対立を鮮やかに飛び越え、混ぜ合わせて新しい感覚と感動をもたらしてくれるのがこの作品。
イーストウッド、最近はあまりピンとくる作品が無かったのだけど、これは大好き!!
『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』から続く実話シリーズが、こんな形に昇華されていくとは、という監督のあくなき意欲に脱帽する、実験的最新作のレビュー(ネタバレあります)。

『15時17分、パリ行き』ーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ:幼馴染三人が列車無差別テロを阻止する。

この作品の白眉は、とにかく「実際に事件を阻止した三人を本人役でキャスティング」した点と、それが好奇心でも売り文句でもなく、映画としての根幹に基づいている点。
『ハドソン川の奇跡』でも、救出にかけつけた船の船長などは本人が演じていましたが、さらに踏み込んで“主人公”三人、スペンサー、アンソニー、アレクをそのまま本人が“演じて”います。

だいぶ思い切ったなあと思いましたが、そこはさすがイーストウッド、三人ともに凄く自然な演技を引き出していて、監督としての力量を感じます(いつも通りの早撮りのようですが!)。

本作は本編の7割ぐらいを、三人の幼少期から、学生時代、そして事件の日に向かうまでの旅行、と断続的にエピソードを切り取りながら描く事に時間を割いていて、予告の影響もあり「テロ事件の映画を見に来たのに、なんでこんなずっと旅行してるの?」と思う人もいるでしょう。

そして起きる事件についての描写も、本当にあっけない。

ただそこに至って初めて、それまで見てきたエピソードが効いてくる。
もし、3人が幼少期に出会っていなかったら?
3人がサバゲー少年じゃなかったら?
3人が別離後も連絡を取り合っていなかったら?
スペンサーが空軍試験を受けていなかったら?落選していなかったら?
ヨーロッパ旅行を計画していなかったら?
アムステルダムに行こうとしなかったら?
Wi-Fiが繋がらないからと1等車に移動していなかったら?

すべてが小さな分岐点であり、彼らはあの列車に居合わせる運命だった。

スペンサーが「俺、これなら得意かも!」と話していた柔道の技で犯人を確保する。
空軍になれなかったからこそ学び、そして間違えたからこそ覚えていた救急救命術で負傷者の一命を救う。
そんな、事件の最中にとっさにとった行動のさりげない描写で、本編で描かれてきたエピソードが全てこの瞬間に繋がっていた事に押し寄せる洪水のように気付くと、もう涙が止まらなくなっていました。

何より、「スペンサー、行け!」とスペンサーを犯人に向かわせるアンソニーのセリフ。
これ、普通言えないよね?言われても、普通行けないよね?
それは、三人の幼少期からの長い信頼関係があってこそ。
そして、スペンサーが行動できたのは、幼少期から一貫して「人を救いたい」と思い続けてきたからこそ。
そこに、イーストウッドが彼らの中に見出した「ヒーロー性」の本質や「運命」、英雄は一日にしてならず、そして運命に導かれるがままに、というメッセージが現れているのではないかと思います。

そうして本人を起用する事で本質に迫った本作は、三人がオランド大統領に表彰を受ける“実際の映像”でラストを迎えます。
それは、私が好きではなかった“映画の中で使われる実際の映像”が、“映画と現実を繋ぐ1シーン”として素晴らしく溶け合った瞬間。

本物の英雄の誕生の瞬間に立ち会ったかのような、知り合いの子が大きな事を成し遂げた瞬間を目撃したような感動。
ARやテクノロジーで映画は現実と繋がり始めているけれど、それとは異なるアプローチで二つが地続きになった瞬間でした。

いくつになっても映画の可能性を追い続けるイーストウッド、尊敬します。
全国公開中。

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