最強の入浴施設を考えた話
架空のサウナの夢を見るのはなかなか稀有だと思う。おそらく現在関西に自分が心の底から満足のできるサウナがないからなのだろう。
サウナに行く理由は人それぞれだ。汗を流すのが気持ちいいからだろうか。あるいは裸の付き合い?もしかしたらサ道でみたからかもしれない。僕の場合、主に足などの末端冷え性からくる自律神経失調症が持病であるので、交感神経系の安定に入浴が非常に役に立つ。
最近あまりにも架空の入浴施設の夢を見るので、今回ちょっと鉛筆を噛んだり頭を捻ったりして自分が思う最強の入浴施設を考えてみた。なおこれから書く話を真に受けてクソリプとかしてこないでほしい。あくまで検討しただけであって一切作る予定はない。2019年の春先にこの世から消えてしまったニュージャパンなんばビル*1 と同じように、ただ記憶の中の幻でしかないことに留意してほしい。
コンセプト
コンセプトは「天国にもっとも近い都市生活者のオアシス」とすることにする。温浴施設は善人であっても悪人であっても、一糸まとわぬ姿で唯一素直になれる場所だと思う*2 。まるで俗世での業の裁きに通過した者たちが行く天上のようだ。したがって「天国にもっとも近い」と表現した。また僕は生まれてこの方ずっと都市生活者で、郊外には住みたくないと思っているのであるが、大阪の都市部には一点だけ不便なことがある。それは、満足にいく入浴施設がないことである*3 。設備は良くても地域性による利用客のマナーや柄の悪さに辟易したり、逆に利用客はよくても設備がまるでダメということがしばしば。日々の仕事の疲れで神経を磨り減らしている都市生活者にとって癒やしの場所となる入浴施設は必要不可欠だ。東京砂漠、ではないがそういうわけでオアシスと表現した。
建設予定地
建設予定地は夢で見たとおり、JR大阪駅の上空である。巨大な入浴施設を検討する場合、すべてのサービスを提供するに足る十分な土地を確保しなければならない。したがって現実的に確保できる土地は必然的に郊外になるが、しかしそれでは都市部からのアクセスが悪く、都市生活者にとってのオアシスを提供するというコンセプトを満足することができない。また市街地にあってもニュージャパンビルのような複雑なアップダウンはユニバーサルデザインの観点からも良いとは言えない。つまるところは、膨大な面積が必要となり、大阪市の市街地に膨大な平面の展開が許された区域は3次元空間の利活用が可能なその上空のみである。JR大阪駅(大阪ステーションシティ)の主たるビルはルクア大阪などが入居するノースゲートビルディングおよび大丸梅田店が入居するサウスゲートビルディング[1]である。これら2つのビルは他のビルの群を抜いてその標高が高く、この範囲内に敷地を確保すべきだろう。またこれら2棟の間にはJR線が走っているが、駅のプラットフォームを覆うようにして設置された屋根はその勾配を矯正さえすれば活用可能であると考える。なお、僕に建築の知識はないので、この発想をどのようにして着地させるかは専門家の皆様方におまかせすることとする。
機能要件
さて、コンセプトと建設予定地が決まったところで、どのようなサービスを提供しうる施設であるかを検討しなければならない。僕がこれまでに利用した様々な入浴施設の考察を反映して、以下にこの入浴施設が提供したい機能要件をまとめたいと思う。
高温サウナ
一般的にはサウナ内の温度が高く(80度以上)に設定されたサウナのことを指すが、実際には80度以下に設定し、定期的にロウリュウによる温度上昇を行うべきである。設備は円形に設計し出入口を複数設けることでサービス受容のばらつきを抑え、混雑の解消を行う。この設備がサービスの主軸となることが期待されるため、施設内に3つは必要といえる。
ミストサウナ
ミストを浴室内に充満させるサウナ。温度は40度程度に設定すれば良い。入浴後も保温効果、保湿効果がある。
低温サウナ
岩盤浴に近い設備。岩盤浴着は着用しない。高温サウナ好きにはあまり好まれないが、連れの人と会話しながらじっくり汗を流すのも楽しいものである。イメージは牧草に寝そべる牛や羊たち。
水風呂
サウナに入る前あるいは後に入水する設備。サウナで極限まで上げた体温を一気に冷ましていく。一般的な定義では16-24度の水温の風呂を指すという。冷たい温度ものだけでなく、駒込ロスコにある水風呂のように決してぬるくはないがずっと浸かっておける温度のものが必要である。今回は水風呂を拡大解釈してプールとしたい。ニュージャパンなんばビルのカバーナでは、入っていいのかわからない巨大な怪しいプールがあり、高温サウナに入ったあとにそこに飛び込む(プールは飛び込んではいけないので比喩である)のが僕の入浴スタイルだった。
外気浴
サウナに入った後に必要となる設備。サウナで極限まで上げた体温を外気に放熱させて徐々に冷ましていく。サウナに比べて外気にさらされる時間は15-30分程度と比較的長くなるため、外気浴にかかる設備面積の割合を大きく取る必要がある。季節による気温の変動も鑑みて、外気は人工的に造成し、23-25度程度に留めることが望ましい。また湿度も浴槽から排出されるものにとどめ、不快指数を低く設定することも重要である。外気浴には歩行によるものと、着座によるもの(寝そべるもの)がある。タナカカツキが言ったように「ととのい椅子」はとりわけ重要な役割をもつ。
露天風呂
よくある湯が張られた入浴設備。比較的高温(40度以上)であることが望ましい。しかし一般的に人はあまり熱い湯に長時間浸かっていることができないことが知られており、内湯よりは露天風呂が望ましい。またスーパー銭湯に見られるように、微妙な水温の違いで複数の設備を作る必要もない。露天風呂では体内の熱が頭から冷めていく。荒俣宏の本[2] に書いてあったが、お風呂に入る時頭にタオルを載せるのは昔お湯の温度が冷めないように低い屋根が設置してあり、その頃の名残だそうだ。
ジェット風呂
浴槽内に湯水のジェット噴流が吹き出しており、それを肩や腰などに当てることによって刺激を与える設備。健康施設では手すりに掴まったりして立って入浴できる設備があるが、あろうことか自身の肛門にジェット噴流を当てる者がいるため、ジェット風呂は寝風呂なおかつ位置設計が適切に行われていることが望ましいとされている。
炭酸泉
これも露天風呂の一種であるが、炭酸成分を含む湯が張られた入浴設備。炭酸成分は血行の促進に作用し、身体の芯まで温める効果がある。また神経痛の緩和などにも有効である。炭酸泉は37度程度のぬるめの温度設定でなければ効果が出ない。40度の炭酸泉のある入浴施設もあるがあれは完全なる擬物でしかないので注意が必要である。ちなみにこれまで入った炭酸泉で一番よかったのは和歌山南紀白浜「とれとれの湯」の炭酸泉だ。
マッサージ
全身マッサージの施術が受けられるサービス。入浴施設に筋肉緊張緩和や血液循環促進の効果があるとはいえ、マッサージに期待されるほどの効果は望めないため必要であると言える。リンパマッサージや足つぼマッサージのサービスも含まれているとよりよいかもしれない。
アカスリ
全身アカスリの施術が受けられるサービス。入浴前に身体を洗うのはエチケットであり、絶対清潔のための洗浄行為ではない。したがってアカスリによって日常の汚れを落とすことも必要であるといえる。アカスリは韓国式ではなくトルコ式(ハンマーム)[3] が望ましい。
休憩ルーム
寝そべったり、本を読んだり、テレビを見たりできる設備。サウナは入浴後の熱が冷める時間がもっとも重要と言っても過言ではない。その時間をどのように使うか、それこそが人生である。
カプセル
RPGなどでよく見かける回復装置であり、生きたまま棺桶に入ることができる珍しい設備。永遠の眠りにはつかないもののかなり近いところまでは行くことができる。サウナで疲れをとったあとは、ビールを飲んで、このカプセルで数時間眠ることで回復する。酸素カプセルの機能はない。
デトックスウォーター
入浴中に水分補給のために飲む水分。随所にウォーターサーバーが設置され提供されている。水分補給は基本的に喉が乾いていなくても行うべきであり、おすすめはサウナルーティーンと水分補給のコースを組むこと。
ビール
ビールが飲み放題である設備。入浴後は子供は牛乳、大人はビールである。水分補給は決してできないはずなのになぜ入浴後はあんなにビールが美味しいか知っているだろうか。それは血液中に急激にアルコール成分が吸収されるからだ。是非ともマリハナは飲み放題にしてほしいものだ。当然だが入浴中に飲酒することはできない。
中華料理
入浴前あるいは後に食事を取ることができる中華料理のレストラン。中華鍋一筋50年のシェフによる絶品中華料理を堪能することができる。関西なら味付けは広東風で然るべきだ。よく中華料理とサウナはセットにされているがなぜだろうか。汗を流すという意味でたぶん共通点があるのだろう。館内ガウンのまま入店可。
喫煙所
喫煙が行えるスペース。僕は喫煙者ではないが、多くのサウナで喫煙が可能であることが必要十分であることは理解できる。ニュージャパンなんばのスパプラザでは休憩所に無料のタバコがたくさん置いてあり、吸い放題であった。やはり入浴施設側がタバコくらい用意しておくべきである。
音楽
入浴施設中に流れる音楽。その音楽は落ち着いた曲調を持ち、音数が洗練されていてヒーリング効果がある。またサウナ内の環境音を邪魔のしない音楽でなければならない。基本的に自律神経系にはアナログシンセサイザーを中心としたサウンドが望ましいとされている。
おわりに
最後にこれらをどのようなレイアウト、デザインで建設予定地に展開するのかを検討する。こういう感じ。
これは文字通りこの世でもっとも天国に近い場所である。名称はいろいろ考えられようが、ここではシンプルに
としておこう。サウナが健康に悪いかどうかなんて気持ちよければどうでもいい。好きなサウナに好きなだけ入り、好きなビールを好きなだけ飲んで、好きな中華を好きなだけ食べて、好きなタバコを好きなだけ吸って、気持ちよく死んでいけばよくないだろうか。それが人生だと思う。
イラスト: にとろむ (https://www.instagram.com/nitrom4745)
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*1 道頓堀2丁目(旧九郎右衛門町)からニュージャパンビルがなくなってから満足のゆくサウナ生活を送ることが出来なくなっているのは皆様周知の事実でしょうか。ちなみに素晴らしい有志の方がニュージャパンなんばビルの歴史や写真がまとめてくださっているので要必見。九郎右衛門町の話はかなり面白いので今度CITY DIVERでも取り扱おうと思っている。
*2 無防備を強制されるからだろうか。とはいえ許せない客もいる。氷を舐めながらカバーナの低温サウナに入ってくるおっさんはろくでもなかった。
*3 そういうわけで勤めている会社の福利厚生として無料で利用できるスポーツジムのサウナに仕方なく通っている。実際には高額な入会金と利用料を払わなければそのジムに来ることはできないので、治安が安定しているだろうとの魂胆だ。
参考文献
[1] OSAKA STATION CITY イベント広場|交通媒体社|事業紹介|株式会社JR西日本コミュニケーションズ - Jコミ (最終アクセス日: 2020年5月19日)
[2] 荒俣宏, 安井仁『アラマタ版 妖しの秘湯案内』, 小学館, 1996年
[3] 八尾師誠, 銭湯へ行こう・イスラム編―お風呂のルーツを求めて, TOTO出版, 1993年
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