不定期連載小説『YOU&I』27話
「俺にとってはお前が一番の友達だと思ってるからさ」
市ヶ谷から発せられた何気ないこの一言が、國立の心には大きく響いた。今までそんなことを言われたことはない。今までの人生の中で友人と呼べる人間は何人かいた。しかし、相手はもちろんのこと、國立自身も「一番の友達」なんて思った相手はいない。そんな相手が出来ることに憧れは抱いていたものの、自分とは無縁だとばかり思っていた。
もちろん、市ヶ谷が本気でそう思っているかは定かではない。もしかしたら、独りぼっちでいた自分を気遣ってくれただけかもしれない。それでも嬉しかった。何よりも自分自身が市ヶ谷のことを信頼し尊敬していたので、この言葉を聞けたことが何よりも嬉しかった。
國立が一人で感動していると、
「お、やっとあいつら来たぞ」
と市ヶ谷が中野と神田が到着したことに気づく。
「遅くなってごめんね! せっかくだからって気合い入れてたら準備遅くなっちゃった」
中野と神田は皆に謝りながら駆け足でやってきた。
”気合いを入れて”
という言葉が何を意味するのか、二人の姿を見ただけでその場にいた全員が理解する。そして、先ほどまでの部屋着姿を見ていた國立にとっては、その違いが他の人の何十倍も大きく感じた。
いつもよりもオシャレな服装で現れた中野と神田。
普段もオシャレなのだが、この日の二人はいつにも増してその言葉通り”気合い”が入っているようだった。今日集まっていた男性はもちろん、女性までもがこの二人の姿に一瞬言葉が出てこなくなる。
しかし、
「何々? 何でそんな気合い入れてんの? 今日合コンだっけ?」
と市ヶ谷はいつもと変わらずに二人をいじる。この二人を見て動揺もせずいじれるのは市ヶ谷にしか出来ないことだと周りの全員が思った。
「何言ってんのよ。昨日、亜希と服買いに行ったら二人とも気に入ったものがちょうどあってね。それでせっかくだからって二人して買っちゃっただけだよ。どう? 似合う?」
神田も市ヶ谷に負けじと言い返す。
「ふーん。似合ってるけど、遅刻は遅刻だからな。二人はこの後罰ゲームな」
「ちょっと! 厳しすぎでしょ!」
「ジョークだよジョーク。ほら、もうすぐ予約の時間だから早く行こうぜ」
この二人の掛け合いで、周りの空気は一気に和み、いい雰囲気のまま予約していた居酒屋へと向かう。
(さすが冬真だな)
國立は心の中で、市ヶ谷に対する尊敬の念がまた大きくなっていることに気づいた。しかし厄介なことが一つ。それはやはり中野の存在だ。
市ヶ谷と友人でいるためにも、変な嫉妬心を打ち消すために中野のことは忘れたいと心から思っていたが、今日の中野の存在を意識せずにはいられない。
家にいた時のラフな格好と、今見せているオシャレな服装。この二つを見せられては、國立の情緒は正常ではいられなかった。
(これ絶対ヤバい。やっぱり帰りたいな)
再び國立の心に暗雲が立ち込めるのであった。
▶To be continued
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