不定期連載小説『YOU&I』28話
そして、中野の引っ越し祝いを称した飲み会がスタートした。
ここは駅近くの居酒屋。もちろん全員未成年飲酒なのでお酒は提供されないが、その雰囲気だけでも飲み会という何相応しいものがあった。
國立は、こういった居酒屋に大人数で来るという経験はなく、少しだけでワクワクしていた。しかし、そうも浮かれてはいられない。
何とか中野のことは意識しないようにしなければならないからだ。
何とか席は中野たちと離れて座ることが出来た。市ヶ谷とも離れてしまったが、それはしょうがない。また市ヶ谷の近くで二人が仲良くしている姿を見る訳にはいかなかった。それなら一人座っている方がまだマシである。
國立が離れたところに座っていることに気づいた市ヶ谷が隣に来るようにと誘ってくれたが、みんな着席したことを理由に断ることも出来た。
(……よし、これであとは何となく周りと空気を合わせておけば何とかやり過ごせる)
心の中で安堵のため息をついた。
そうして、いよいよ飲み会がスタートする。國立は何とか周りの人たちと馴染めるように必死に笑顔を作った。もちろん、初対面の人達ばかりなので会話に入り込むまではいかない。何となく周りの会話を聞き、うんうんと頷きながら”会話に入っている風”を装った。
(何か懐かしい感じがするな。昔はよくこうして周りに合わせてたっけ。いつしか一人でいる方が楽になってたけどな)
作り笑顔を浮かべながら、國立はそんなことを考えていた。國立は、ずーっと一人でいたわけではない。最初は周りに馴染もうと、今日と同じように作り笑顔を見せる日々を送っていた。しかし、自分がいてもいなくても何も変わらないことに気づき、いつしか一人でいることを選ぶようになっていた。
(……あー、やっぱり帰ればよかったな。人と関わるより、一人でいる方が断然楽だよ。……それもこれも、俺が中野さんのことを好きになったのが間違いだったんだよなぁ)
そんなことを思い、横目で中野の方をチラッと見てみる。そこには、神田らと楽しそうに話している中野の姿が映った。
(……あっちも俺がいてもいなくても関係ないか。そりゃそうだよな。元々俺は一人だったし。何か色々なことを期待しすぎていたのかも)
自分がいなくても楽しそうにしている中野らの姿を見て、だんだんと昔の自分に戻っていくこと感じた。ネガティブで卑屈な自分に。
(そうだよ、元々住む世界が違うんだ。あっちは明るくて友達もたくさんいる。対する俺は人見知りだし暗いし友達もいない)
周りが楽しそうに話している中、國立は一人でどんどんとネガティブになっていた。
(でも今日来て良かったかも。このまま冬真とかと一緒にいて変な勘違いするより、今日でハッキリと自分には合っていないことが分かったし。また明日からは一人でいればいいし、そっちの方が気が楽だ)
そうやってネガティブなことばかりを考えていたとき、
「ねえ、君名前は何て言うの?」
と急に話しかけられた。ふと顔を上げると、自分の前に座っていた女性が、じーっとこちらを見ていたのだった。
▶To be continued
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