辻井伸行さんの演奏を生で聴いた話【失恋から立ち直る方法●】[2024/04/下旬]
ピアノという単語だけでも、その時の私には少し辛い理由があったのだけれど。
しかしながら、生演奏に勝るものはないと思った。
仕事上のつながりで鑑賞する機会を得たのだ。
辻井伸行さんの演奏は、魂に触れるとか、心を揺り動かすといった類の鑑賞経験となった。
セットリストの途中で「ノクターン嬰ハ短調 遺作」、「幻想即興曲」と、ショパンを続けて演奏するシーンがあった。
「ノクターン嬰ハ短調遺作」は、かつて自分がピアノを習わせてもらっていた頃、最後あたりに弾いていた曲で、人前で弾いたこともあり、色々と思い出深い作品だ。
巷では戦場のピアニストで認知度アップした曲ではないだろうか。
ショパンの曲自体がちょっとそんな感じがするのだけれど、自分に酔いながら弾けるうえ、聴きやすい曲なので、ウケも良い。
一方、「幻想即興曲」は憧れの一曲だったので、習い事としてのピアノを辞めた後、少し自分で練習していたが、挫折したままになっている曲。
辻井さんは、あの音符の多い曲をすべて耳コピーで身につけたというのだから、信じられない。
ご本人曰く、辻井さんも、ピアノの先生を驚かせたくて、幻想即興曲は一生懸命耳コピで練習して先生の前で披露されたそうだ。
辻井さんのお父様からのコメントで、
「よく皆様からハンデを克服してと言われるが、彼は決して苦しんで克服したわけではない。
練習は見ていても大変だと思うけれど、いつも楽しんで取り組んできたのです。」
というようなことを仰っておられた。
静寂の中で演奏を聴いていて、私は不覚にも「幻想即興曲」あたりで涙腺が崩壊した。
マスクの中でぶわぁっと水分が溢れてきた。
大人になればなるほど、号泣するのは難しい。
子どもの頃は、わーっと泣いてすっきりすることを繰り返していたように思うけれど、段々と一瞬の泣きたい感情で泣けても、持続しない。
すっきりし切る前に涙が引っ込んでしまうのだ。
この時ばかりは自然と出てきた。
これまで「幻想即興曲」にそのような感想を持ったことはなかったのだけれど、
幻想の中に留まるだけではなく、
中盤からラストにかけて生きる力が迸るような、
生命力を与えてくれるような感覚になった。
こんなに生命力のある曲なんだ!と思わされた。
もう1曲、曲名をそれまで認識していなかった作品でとても印象深かったのが、ラヴェルの「水の戯れ」。
清流の流れる音にはα波やマイナスイオンが含まれているなどとよく言うけれど、この演奏も本当に水の流れに癒されるがごとしだった。
6月になった今でも、脳の疲れを感じるときに、この曲を聴いている。
4月に書いていたメモに追記しながら記事を書いているこの瞬間も聴きながらキーボードを叩いている。
「水の戯れ」は、公式の動画があったので、リンクを貼る。
自由に耳コピしてピアノで演奏したり、ジャズを即興で弾きこなしたりするのに憧れつつも、楽譜通りに練習してようやく弾ける域から出られずにピアノから離れたまま大人になったのだけれど、触れるとまた弾いてみたくなる。
やっぱりピアノっていいな。
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