今まで言えなかったこと。

私が働く前にEVERGROUNDで店長さんをしていたりょーさんがお星様になった。

EVERGROUNDは彼の為に作られたようなものだった。

元々、彼とはお友達だったのでEVERGROUNDがお店として出来上がっていく様子も見ていた。

「俺の誕生日の日にさ、オーナーが物件見つけて契約してくれたんだぜ?こんな奇跡ある?」

そんな風にキラキラ語る彼を羨ましく思っていたことを今でも覚えている。

寂しがり屋で自分勝手でお酒が大好きで。

人に怒られるのが趣味みたいな人だった。

それでも周りに愛されている人で、数々の失敗を取り返すためにスタートしたのがEVERGROUNDだった。

私もオープニングイベントには大きなバルーンギフトを贈って盛大にお祝いした。

EVERGROUNDに顔を出しては、孤独感でいっぱいの彼が間違わないように見守っていた。

彼は楽しそうな日もあったけど、孤独に押し潰されそうだと泣き言を言う日がだんだんと増えていった。

そうやってEVERGROUNDに通ううちに、何度かイベントや大会で物販のお手伝いをすることがあった。

オーナーの「格闘技を頑張る人々に寄り添うお店」という理念に惚れて、お店の雰囲気も可愛いし、取り扱うアパレルもすごく好きになった私はEVERGROUNDで働きたくなった。

小さなお店に2人も店員はいらない。

わかってはいたけど、週一でもいいから働きたいとオーナーに直談判した。

その時に、オーナーから実は彼にもう店長を続けさせられないと思っていることを告げられた。

そして、申し出が受け入れられ、彼の代わりに私が店長になることが決まった。

複雑な気持ちもあったけど、それでも私はEVERGROUNDで働きたかった。

当時は彼も辞めたがっていたし、オーナーの計らいで新しい仕事も決まっていたし、特別に関係がおかしくなることもなかった。

彼がEVERGROUNDを離れるのは私の存在とは別の理由で…だから大丈夫。と自分に言い聞かせた。

それから1年ほどで私はEVERGROUNDを買い取ることになる。

その頃だったか、もう少し早かったかは記憶が定かではないけど、彼はお酒を手離せなくなり、オーナーの元での仕事も辞めた。

その頃から、お店に来ては私への不平不満を言うようになった。

「まりこにEVERGROUNDを取られた。」

「みんななんでお前を選ぶの?」

私もどこか申し訳なさがあったから、そんなことを言われてもニコニコ対応してた。

沖縄は狭い。

「この間、彼がめちゃくちゃにお店とまりこの悪口言ってたよ?大丈夫?」

と聞かれることもしばしばあった。

それでも私が必死にEVERGROUNDを頑張っていれば、いつか認めてくれるんじゃないか。

そんな気持ちから縁を切ることはなかった。

それからしばらくして、どうしても許せないことが起きた。

彼の目の前で泣いて怒ってお店から出て行ってもらった。

泣きながら怒る私を、本当に悲しそうに見ていた。

なんでここまで私が怒っているのかは少しもわからないというような顔もしていた。

その後、私の人生に関わらないでと伝えて全てのSNSをブロックした。

それでも、たまにお酒の勢いに任せてお店にふらっとやってくることがあった。

どうしようもないクズだなと思いながら、やっぱりほっとけなくて目の前に現れた時はこれまでと変わらずお話もした。

それからしばらくして体を壊したことを聞いた。

もう長くはないかもしれない。

そう言われても会いたいとは思えなかった。

ただ、生きろばーかとだけは2か月前くらいにお手紙で伝えていた。

そしてあっという間にお星様になった。

最後の最後までお酒は辞めなかったらしい。

彼らしいなと思った。

大嫌いな人だったけどいなくなると悲しい。

酷いこともいっぱい言ったし、優しくもしてこなかったし、私に悲しむ権利はないのだけど。

私があの時、EVERGROUNDで働きたいと思わなければ彼があそこまで酒に溺れることはなかったのか。

EVERGROUNDがあり続けることが彼を苦しめていたのではないか。

そんな風に自分を責めることもあるけど、それは私がただ悲劇のヒロインになりたいだけなのかもしれない。

全部、私が出した答え。

いなくなった今でも心からは許せていない部分もある。

ただ。

ひとつだけ後悔していることは、あなたのおかげでEVERGROUNDが生まれて、私は人生を救われていることに感謝しているということをちゃんと伝えられないままお別れになったこと。

そんなこと言われても嬉しくないだろうけど。

ありがとね。りょーさん。

いつか再会したらまた懲りずにケンカしよーね。

安らかに。

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