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アニメ界のヒットメーカーが語る「企画のつくり方・ひろげ方」〜話題のアニメはどうやってつくられた?

アニメプロデューサーの柏田真一郎さんをお招きしたトークセッションが、10月13日(金)にnote placeで開催されました。

スタジオの現場から叩き上げでキャリアを積み、今はアニプレックスで多数のオリジナルアニメのプロデュースを手掛ける柏田さんが、どのようにアイデアを生み出し、アニメをつくり上げているのか。クリエイターやファンをどう巻き込み、作品をひろげているのか。人気キャラクターの誕生秘話も交えて、実際の作品づくりのプロセスをお話しいただきます。

聞き手は『リコリス・リコイル』、『冴えない彼女ヒロインの育てかた』などの企画制作にも携わった、noteディレクターの萩原猛が務めます。

萩原猛さん(以下、萩原) 本日は「アニメのヒットメーカーが語る企画のつくり方・ひろげ方」と題しまして、アニプレックスで多数のプロデュースを手がけてきた、プロデューサーの柏田真一郎さんにお話を伺っていきたいと思っております。

柏田真一郎さん(以下、柏田) アニプレックスの柏田と申します。よろしくお願いします。

10年前まではアニメーションの制作会社で、現場の制作進行からプロデューサーまで担当しました。そこから縁があってアニプレックスのお世話になり、現在は企画制作第一グループの副本部長と、スクリプトルームの取りまとめをやらせていただいています。

萩原 企画制作第一グループは要するに、アニメのプロデュースをする部署と考えてよろしいですか?

柏田 そうですね。企画制作第一グループではプロデューサーと、アシスタントプロデューサーが合わせて4、50人ほどいて、全員が頑張ってアニメをつくっています。

萩原 柏田さんのプロデュース作品として、『魔法科高校の劣等生』、『ソードアート・オンライン』、『冴えない彼女の育てかた』、『君の膵臓を食べたい』、『リコリス・リコイル』などがありますが、その辺りのお話も、できる範囲でお願いできればと思っております。

柏田 緊張感がある始まり方をしたので、もう少しフランクにいきたいと思っています。ヒットメーカーという呼ばれ方も少し気になりますので(笑)。

萩原 その呼ばれ方は嬉しくありませんか?

柏田 粛々とつくってきたら、結果として売れただけですから。

萩原 俺はただつくってきただけで、結果売れただけだという強者の理論ですね(笑)。それくらいナチュラルな姿勢で取り組みながら、実績を出してきたということなので、その秘密を僕のほうでも掘らせていただければと思います。


プロデューサーとは何か。

萩原 そもそものところで、映像メーカーのプロデューサーとは何をするお仕事なのかを、ご紹介いただいてもよろしいですか?

柏田 映像メーカーであるアニプレックスは、DVDやブルーレイのようなパッケージをつくるのが仕事です。そのために必要になるのが、アニメの企画ですね。

企画立案の際には、誰に対して、どのようなジャンルの作品を、いくらでつくって、いくらで売るのかをプロデューサー陣が検討します。その他にもやることはたくさんありますが、全て説明していくと長くなるので、これを基本とさせてください。

萩原 ありがとうございます。今日は特に、つくり方の話をお聞かせいただければと思います。

原作付きアニメと、オリジナルアニメの違い。
萩原 原作付きはゲームやマンガ、ライトノベルなどをアニメ化するものであり、オリジナルアニメはアニメ独自のIP(Intellectual Property〈知的財産〉の略。著作物やコンテンツのことを指す)をつくるものですが、柏田さんは両方とも担当されています。

柏田さんが企画を立ち上げるときに、原作付きとオリジナルで、考え方や見るべきところの違いはありますか?

柏田 原作付きのほうからお話ししますが、たとえば萩原さんとやった『冴えない彼女の育てかた』については、イラストを書いている深崎暮人みさきくれひとさんから、ぜひアニメにしてほしいと言われていました(笑)。

もともとがいいキャラクターでしたし、丸戸さんの本もおもしろかったので受けさせてもらいましたが、原作付きにはプレッシャーを感じますよ。これで売れなかったらどうしようかと。

萩原 この点について、僕からは原作編集サイドの話をしようと思います。原作が出た段階で既に深崎暮人さんからは、「この作品をアニメにしたいので、そのためのキャラクターデザインをつくります」という、非常に前向きな意見をいただいていました。

本の売れ行きがよく、実際にアニメの検討を始めたときに、「僕が知る中で最高アニメプロデューサーを紹介しますから、ぜひ会ってみてください」と言われて、紹介されたのが柏田さんです。

柏田 そんなことを言われても喜べないですよ。まず、風呂敷を広げすぎですから(笑)。

萩原 これが柏田さんとの初対面でしたが、アニメをつくるために会いに行って、第一声が、「この作品はどこが面白いんですか?」でしたね(笑)。

柏田 少し誤解がありそうなので補足させてください。自分がやるからには、原作の先生に喜んでもらえるようなもの。おもしろいものをつくろうと思っています。しかしおもしろいものをつくれたと思っていても、売れない場合は当然出てくるんです。

『冴えない彼女の育てかた』を読んだときに、「英梨々」、「詩羽」のキャラクターはテンプレート通りで売れると思いました。ですが、それを売りにいったら普通のアニメになってしまうので、「せっかく『冴えない彼女の育てかた』というタイトルなのだから、そこを売りますよね?」という確認をしたかったんですよ。

でもこの風体で「何がおもしろいんだ」と聞いたら、喧嘩を売られたように感じても仕方がないとは思っています。そこは言葉が足りませんでした(笑)。

萩原 でもそこで改めて考えて、「加藤恵」というヒロインが、この作品の売りだという話をしました。このときには既に、柏田さんの中でプロデュースのイメージがあったということですよね?

柏田 小説を読んでいたので、ある程度のイメージは持っていました。イメージを持った上で、どの制作会社さんにお願いしようか、監督は誰にしようか、キャラクターデザインはどなたにお願いしようかと、色々と考えていました。

萩原 本を読んだ段階でもう、イメージを持たれていたんですか?

柏田 渡された部分を全部読んだ上で、「加藤恵を売ったらおもしろいだろうな」とは思っていました。まあエピソードゼロをつくって叩かれたこともありますが、売るための試行錯誤はしましたね。

オリジナルについては、「自分にはつくりたいものがあるんだ!」というピュアな考えをしている時期もありましたが、今は作家さんたちと飲みながら、企画の話をする機会をいただくことも多いです。自分一人でではなく、つくりたいものやつくれるものを、相談をしながらつくっています。

萩原 柏田さんと一緒にオリジナルアニメの企画を立ち上げるときは、僕から作家さんを紹介するわけですが、初対面の方には「どんなことをやりたいですか?」と、インタビューをしている印象がありますね。

柏田 もちろん原作者がどう考えていて、何がつくりたいのかをお聞きした上での話になりますが、たとえば『ソードアート・オンライン』をつくったときには、「ゲームオーバー=死」という状況に置かれたのなら、日本人でも外国の方でも変わらないはずだと考えていました。

世界中のどこの国でも変わらない、普遍的な部分が売れる要素になることも経験しましたので、現在ではそういったところも視野に入れて取り組んでいます。

萩原 実はそのつくり方が、小説のつくり方に似ていると思うんです。作家さんと編集がいて、「どんなことをやりたいですか」とか、「こういうものがいいですね」とか、さまざまな話をしながらも、最終的には作家さんがやりたいものをやらなければ、あまり意味がないので。

柏田 今だとアニメの制作には3年以上かかるので、本づくりが羨ましいと思うところは、アニメよりも短いスパンでつくれるところですね。それから、本づくりに関わるのは作家、編集、絵師の3人と少人数なところもです。

萩原 もちろん営業担当さんなども関わりますが、原稿をつくるまでであればそうですね。

柏田 アニメでは何百人も関わることになるので、よりおもしろくなる可能性はありますが、しんどいと思うことはあります。

萩原 僕らが立ち上げた企画は、最近だと少人数から始めることが多かったですね。

柏田 『リコリス・リコイル』のときは、クレイジーな人と仕事をしたいと言ったらアサウラさんをご紹介いただきましたけども(笑)。

実際のところ『リコリス・リコイル』の制作中は、おもしろいものをつくっているという確信がありました。それでもアニメにするには色々と難関があったので、足立慎吾監督に現場を引っ張っていただきましたが、そのとき監督から「これは本当に売れるのか?」と聞かれることもありました。

売れるか売れないかは分からないけど、絶対におもしろいからと言いながらつくり、売れたら監督からは「どうや?」と言われるわけですよ。

萩原 いいじゃないですか、売れたんですから(笑)。

柏田 ええ、それがプロデューサーの仕事です(笑)。

原作付きをアニメにするときに、大切にしていること。

萩原 「こういう原作をアニメにしたい」と思うポイントですとか、読むときに大切にしている視点・価値観はありますか?

柏田 原作者の方が書かれたものが正解なので、原作を踏襲できず原作者さんが不幸になる可能性があるのなら、やるべきではないと思っています。『冴えない彼女の育てかた』のときも、どういったものをつくりたいのかの確認を大事にしていました。

最近では実写でも、漫画的な演出をしたおもしろい作品が多いですよね。自分が関わっているところでは、『君の膵臓が食べたい』は実写の出来も良かったですし。それならアニメで売りになるポイントはどこかという点は、考えさせられます。

そして原作を読み込む上で最も大事なことは、「文章を読んで絵が浮かぶこと」ですね。絵になった姿がイメージできて、それがおもしろいと思えるのであれば、売れる可能性があると思います。

萩原 柏田さんの言う「絵が浮かぶ」とは、映像が思い浮かぶということですか?

柏田 そうです。

萩原 小説だとそこは挿絵になりますが、柏田さんにはシーンやコンテが思い浮かぶのでしょうか?

柏田 シーンやコンテではなく、自分の想像する映像そのものですね。読む人それぞれが思い浮かべる絵は違うと思うので、色々な映像が想像されて当然だと思っています。

逆に映像が思い浮かばないと、「このシナリオをアニメ化するのはきついな」と思います。だからこそどういったシチュエーションで、何を伝えたいのかが分からない場合は、シナリオづくりの中で常に指摘します。

オリジナルアニメの立ち上げについて。

柏田 新人のプロデューサーは原作付きから入ると思います。だから自分としては、若い子たちに切磋琢磨してもらい、出版社から作品をどんどん預からせてもらうことが必要だと思っています。

自分みたいな年寄りばかりが話を獲ってきている状況だと、会社としてはまずいと思うので、自分ではもうオリジナルしか作らないようにしていますね。

萩原 では柏田さんがオリジナルアニメを立ち上げるときに、どこから手を付けていますか?

柏田 そこはやはり作家さんを探すところです。人伝てでは紹介者の主観が入るので、基本的には本を読みます。

萩原 本を読んで、おもしろかった作品の作者に声をかけると言えば、『リコリス・リコイル』を立ち上げたときもそうでしたよね。

アサウラさんが書いた別の小説を柏田さんが読んで、「この作家さんを紹介してほしいんだけど、知っているか?」と聞かれたとき、ちょうど僕がアサウラさんの担当をしていたので、お二人を引き合わせました。

柏田 『リコリス・リコイル』の企画を立ち上げたのは7、8年ほど前ですが、あのときは「銃もの」のタイトルが大分空いていた時期だったので、そういう意味では運がよかったです。

アサウラさんの本では、キャラクターのセリフ回しや、シチュエーションが絵で思い浮かびました。ただ、テレビには流せない描写が多かったので、「その表現はできないよ」と話をして……その上で全部そのまま上げてきましたけどね、アサウラさんは(笑)。

萩原 最初はそうでしたね(笑)。「この作品を書いた作家さんと仕事をしてみたい」というのは結構な試行錯誤だと思いますが、その点はいかがですか?

柏田 既に書かれた作品を見ているので、試行錯誤はあまりないですが、実際にお仕事をご一緒してみてから、「やっぱりごめんなさい」という場合もあります。アニメとして成功する未来が見えないときにはお断りする可能性もありますので、そういった意味では試行錯誤かもしれません。

萩原 ではお願いする作家さんが決まったとして、次のステップはどういう作業になりますか?

柏田 作家さんやライターさんと一緒に、まずは構成を考えます。構成が見えたら、その後は制作現場のことを考えますね。

萩原 その構成を作るには、どれぐらいの時間をかけるべきだとお考えですか?

柏田 時間をかけるというよりも、かかってしまうんですよ。早くても3年ぐらいはかかります。

萩原 皆さんのイメージよりもかなり長いのではないでしょうか? ここは驚きポイントだと思います。

柏田 というのも、アニメは1クールで12話ですよね。それぞれの話に起承転結があって、ヤマやヒキを作らなければならないので、結構な手間がかかるんです。

その上で序盤の1話から3話をまとめて、中盤の5、6話をまとめて、終盤の10話から最後までを収束させていくとなると、やることがたくさんあります。

一旦最後までつくったとしても、また頭から見直すと「これが足りなかった」とか、「最後をこうするなら、ここに伏線や前振りを入れたいよね」とか、本当にたくさんあります。

萩原 クライマックスまで見えて、初めて気づくことも?

柏田 ええ、結構あります。だから3年で終われば早い方です。

萩原 原作者を始めとしたクリエイターの皆さんにも、それだけの期間入っていただくことになります。だからこそ柏田さんも先ほど、プレッシャーという言い方をしていましたね。

柏田 自分にできるのは本当に、「おもしろいものをつくります」ということだけです。売りますと言えないところが歯がゆいですが、こればかりは仕方がないと思っています。

柏田さんが考える「いいオリジナルアニメ」と、「だめなオリジナルアニメ」とは?

柏田 そんなことを言わせるの? これは無理でしょう(笑)。

萩原 いいほうだけでもいいですよ(笑)。

柏田 では、いいオリジナルアニメのポイントは、1話だけ見て内容が分かるものです。見ても話が分からないアニメや、結局何が言いたいのかが分からないアニメは、よくありますよね。

最低限の終わりの見せ方は、1話目で匂わせておく必要があります。「こういうアニメですよ」という要素を冒頭に散らして、そこに作品の売りをちゃんと入れ込めていれば、流れで3話まで見ていただけたりもします。

今は0話切りもある時代ですが、だからこそ自分は3話までの間で、後々の展開が見えるようにはつくっていますね。

萩原 やはり1話目が最重要ですか?

柏田 作品を見続けようという原動力になりますから、一番頑張ってつくりますね。つくる時間も一番ありますから。

萩原 逆に言うと1話目で、「何のアニメなのかよく分からないもの」が、よくないアニメになりますでしょうか?

柏田 たとえばラブコメならラブコメだと、1話目でしっかりと打ち出す必要があります。ラブコメだと思って見ていたのに最後がサスペンスだったときは、「なんでやねん」となりますよね?(笑)。

仕事を頼みたいと思う、脚本家の条件とは?

萩原 noteでは創作大賞ジャンププラス原作大賞週刊少年マガジン原作大賞などのコンテストも開催しています。エンタメの物語を書いている人がたくさんいて、脚本やストーリーのことを気にしている方も多いと思いますので、こちらのお話もぜひ。

柏田 仕事を頼みたいかどうかで言うと、自分が一番重要視しているのはキャラクターです。もちろん世界観なども重要ではありますが、いいキャラクターがいて、初めて成り立つ物語も結構あるので、やはりキャラクターのセリフに注目しますね。

キャラクターのセリフに色がある人が、一番仕事を頼みたい人だと思います。セリフでキャラクターが思い浮かぶ作家さんが好きです。

萩原 それは小説でも同じですか?

柏田 そうですね。

いい脚本と、そうでない脚本の違いとは?

萩原 いい脚本になるための要素は、キャラクターが一番強いでしょうか?

柏田 もちろんそこだけではないです。先ほどもお話ししましたが、読んだときに絵が浮かび続けることが大事ですから。それに脚本にはセリフだけではなくト書きもありますし、何よりもテンポ感が要ります。

アニメは大体20分ほどですが、頭から読んでいて、ずっと絵が途切れない脚本は、読んでいて楽しいです。逆にもう、本当にだめな脚本は一行目で詰まります。

萩原 一行でですか?

柏田 読んでいて絵が浮かばないときや、説明ゼリフが多いときは詰まりがちですが、自分としては説明ゼリフを極力入れたくないんですよ。大概が長くなりますから。

小説家さんは文章で説明したがる傾向にありますが、つくるものはアニメなので、「わざわざ言葉で説明しなくても絵で表現できるから、この描写は要りません」と、テンポが悪い部分を削ることはよくあります。

だから絵で見る前提で考えて、説明ゼリフをあまり使わず、シナリオの中に上手く組み込んでくれているもの。そういう脚本はすごくいいと思いますし、見ていて楽しいとも思います。

萩原 テンポ感は勉強して身に着くものですか?

柏田 そこは自分にも分からないです。自分はプロデューサーとしてシナリオを読む経験を積んできただけなので、別に読み方は教わっていませんし、制作プロデューサーをしていたときには、正直に言うとカロリーコントロールがメインでしたから。

何故か皆、シナリオを大変にしたがるんですよ。アクションシーンを20分やりたいですとか。そういったものを、「やめてくれ! できないから!」と、止める役割を担っていました(笑)。

あとはプロデューサーでありながら、設定制作のような仕事もしていたので、「この美術設定が必要だな」とか、「キャラクター設定も含めて、こうしないと」という読み方をしていましたが、メーカー側にくると読み方ではなく、「どうやったらおもしろくなるか」という目線で読まざるを得なかったです。

萩原 つまりそこは、自然とできるようになった、ということですか?

柏田 そうですね。最初から自然とできる人もいますが、第一稿の段階で言うことが何もないと思った方は、中島かずきさんと丸戸史明さん。それから長月達平さんくらいですかね。

萩原 このお三方に共通することは、セリフが上手いこととテンポがいいこと、絵が浮かぶことでしょうか。ちなみに柏田さんと脚本会議をしていると、脚本のおもしろさもそうですが、伝わるか伝わらないかを気にされている印象があります。

柏田 難しい言葉を使うときがあるじゃないですか。その言葉にいくつも意味があって、何を表しているか分からないとか、そういったところも気にしますね。

萩原 字面では分かるが、耳で聞いても分からない言葉などですか?

柏田 そうです。

アニメ全体の構成について。

萩原 今までは1話単位のお話でしたが、アニメ全体では映画3本分くらいあります。そこを上手くまとめるための考え方は、何かありますか?

柏田 そこは皆さんプロなので、決まった長さに合わせることに関しては、ある程度の感覚を持っているのではないでしょうか。

萩原 では全12話の構成をどうするか、どうおもしろくするかは、作家さんに委ねますか?

柏田 委ねる方もいれば、こちらから伝える方もいます。そこはケースバイケースになりますが、「この作品が何を売りにしているのか」は本読みを続けるうちにブレていくので、「こういったものをつくりましょう」という打ち合わせは最初にしておきますね。

「何がつくりたいのか」を支柱としてつくっておかないと、新しいアイデアが積み重なったときに、もともとつくりたかったものから外れていきます。なので、いずれ振り返って原点に戻るためにも、最初の段階で目標を明確にしておく必要があると思っています。

萩原 そこを決めるときは、作家さんと一緒につくっていく感覚になりますか?

柏田 もちろん話しながらつくりますが、実際にどういうものが売れるかは時勢もあります。先ほど例に挙げた『リコリス・リコイル』の場合も、前のクールに似た作品があったとしたら、多分ウケてはいなかったですから。

萩原 そこは運ですか?

柏田 もちろん最善を尽くしていい作品をつくりますが、売れるかどうかは運次第です。しかしこれは売りたいというか、多くの人に見てもらいたいだけなんですよ。せっかく何年もかけてつくって無風だと、やはり心が削られるので。

萩原 多くの人に見てもらいたいというお話ですが、最近では海外も含めて、アニメを見る人が増えていませんか?

柏田 増え始めたのは2010年くらいからでしょうか。今では同時視聴もできるので、地球の誰が見ても、おもしろいと思ってもらえる作品ができると嬉しいです。なかなか難しいですが。

それから今は、ブルーレイやDVDがそれほど売れない時代になってきています。だからビジネススキームとしては、海外向けもそうですが、グッズの販売が主ですね。

もちろんアニメの原作が売れても嬉しいですが、オリジナルアニメで色々なタイアップを求められるとなおさら嬉しいですし、おもしろいです。

萩原 アニメと企業のコラボが、増えている印象はありますか?

柏田 増えていると思いますね。お声がけをいただく機会も多いです。

ダメな脚本家、ダメな脚本とは?

萩原 読んでいる段階でダメだった実例や、やってみてダメだった実例をお教えいただけますか? 自分のシナリオがそうなっていないか、チェックしたい方も多いと思いますので。

柏田 読んでいる段階では絵も浮かんだし、おもしろいと思ってもいたのに、最後まで読み終わってから怒りが込み上げてきたシナリオがあったんですよ。メインヒロインを立てなければならないのに、その話数のみのゲストヒロインが立って終わっていたというものです(笑)。

萩原 おもしろかったけど……ですね(笑)。

柏田 おもしろかったけど、です。まあ全部修正させましたが(笑)。そういったこともあるので、オーダーをちゃんと見ていただければなと。

萩原 その話数でやるべきことや、そのシナリオでやるべきことがありますよね。

柏田 もちろんあります。各話で何をやるかのシリーズ構成をつくり、そこからシナリオやプロットという形にしていきますが、現場にシナリオライターが数人入ることが多いので、別な人が書いても書ききれる構成を組んでいます。

萩原 それから外れてしまうと、おもしろかったとしても商品価値がないと。

柏田 そうです。ゲストヒロインだけが立って、もう二度と出てこないとなれば、意味がないですしね(笑)。

脚本仕事をやったことがない人にも、チャンスはある?

萩原 たとえばずっと小説を書いてきた人が、脚本を書くチャンスはありますか?

柏田 あると思いますよ。シナリオが書ける実力はおありだと思うので、経験を積まれれば。最初は「ここでカメラを左から右へ」などと書く方もいましたが、今までにご一緒させていただいた方は、ほぼ全員が書けるようになっています。

萩原 オリジナルアニメの脚本に初挑戦したときには、すぐに慣れる方と、なかなか慣れない方がいます。文字だけで表現しようとする方は、慣れるまでに時間がかかる印象ですね。

オリジナルアニメには挿絵やキャラクターデザインがないので、絵を思い浮かべながら書かなければならないのですが、その絵が脚本会議で僕らに伝わらない時も、結構ありました。

そもそも自分が描きたい映像がないのに、映像として他人に伝えるのは無理だと思っています。自分が描きたい映像が脚本の中にあって、それが聞き手に伝わったとき、おもしろいと思えるかどうかではないでしょうか。伝わっておもしろいと思えればOKになり、おもしろいと思った上で映像にするのが難しいとなれば、また考えることになると。

まずは小説家としてデビューを。

萩原 文字を書く方に、追加でお伝えしたいことがあればお願いします。

柏田 本は売れなかったが、おもしろいものを書けるという方は結構いらっしゃいました。そういった方々と仕事をして、何とかアニメ化に漕ぎつけられそうな作品が何タイトルもあります。

コンテストもありますから、今はまだ「こんなものをつくりたい」と燻っている方とも、どこかの機会でご一緒できれば嬉しいです。

萩原 小説が売れることと、脚本としておもしろいことは、イコールではないですか?

柏田 イコールでなくはないと考えていますし、訴えたいことや、やりたいことは同じだと思います。だからこそ自分の中では、最初から脚本家を目指すよりも、まずは小説家としてデビューする方がいいと思っています。アニメの脚本には毎話数、ヤマや引きをつくったり、尺に縛られることが多いですから

萩原 まずは自由にできるところでやるべき、ということでしょうか。

柏田 自由にできるところで売れたら、ぜひアニメ化をと、話を持っていくだけなので。

萩原 その先でオリジナルもやってみたいとなれば。

柏田 もちろんお話をいただきたいです。

柏田さんより、最後に一言。

柏田 アニメ業界に飛び込みたい方もいると思いますが、自分はこの仕事を20数年やってきて、つらいことばかりでした。しかし何か物ができる喜びを、年に一度くらいは味わえますし、まだ誰も見たことがない映像を、誰よりも先に見られるのは面白くもあります。

たとえばアニメの2期が決定したときに、イベントで続編を発表すると皆が喜んでくれるので、あの場を楽しみにしてやっているところもあります。続編ありきのオリジナルアニメをつくろうとしているので、そういった作品づくりを、今後も続けていきたいと思っています。

本当に、つらく楽しい業界です。楽しいだけではありませんが、この業界でお待ちしておりますので、皆さま奮ってご参加ください。よろしくお願いします。

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