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ストーリーを読みやすくするには? 『薬屋のひとりごと』日向夏さんに聞く「物語のつくりかた」

小説や映像、マンガなどで活躍するクリエイターをお招きし、創作のルーツや執筆スタイルから、個人的な趣味・野望までを深掘りするトーク番組「物語のつくりかたRADIO」。

第3回のゲストは、作家の日向ひゅうがなつさん。2011年から現在まで「小説家になろう」にて『薬屋のひとりごと』を連載されています。書籍版も好評で、2本のコミカライズを合わせてシリーズ累計1,800万部を突破。ほかにも書き下ろし小説や漫画原作などを多数手がけています。

日向夏さんの「原点」となった作品や、Web小説と書き下ろし小説との違い、物語やプロットのつくり方などについてじっくりおうかがいしました。

日向夏さんのルーツ/基礎になった作品

子どものころ好きだったのは、『ぼくは王さま』シリーズ(寺村輝夫)です。あとは『クレヨン王国』シリーズ(福永令三)も好きでした。そういった児童書を読んでいた流れで、図書館でライトノベルを借りて読むようになりました。

まずハマったのは『スレイヤーズ』(神坂一)。当時どこの図書館にも置いてありましたね。あとはコバルト文庫をよく読んでいました。『銀の海 金の大地』(氷室冴子)が好きでした。『魔術士オーフェン』(秋田禎信)もちょこちょこ読んでいました。アニメ化された漫画を図書館で探して読んだりもしましたね。

漫画は、4歳か5歳のころに、いとこの家にあった『大長編ドラえもん』を読んでもらっていました。あとは、うちが自営業をやっていたので、仕事場にあった『少年ジャンプ』や『少年サンデー』を読んで育ちました。でも、子どもが読むものじゃなかったですね(笑)。当時のジャンプは暴力シーンも結構あり、それこそ内臓が飛び出るようなシーンもあって。中学生くらいになると、『ドラゴンマガジン』系の漫画を買って読んだりしていました。

ほかにも広く浅くなんでも読んでいました。伝奇ものも好きでしたね。楠圭先生の伝奇ホラー漫画はトラウマになりました(笑)。『人魚シリーズ』(高橋留美子)も怖かったです。

一番いまの自分の基礎になったなと思う小説は、『勾玉三部作』(荻原規子)と『後宮小説』(酒見賢一)です。かなり影響を受けています。

小説を書きはじめたきっかけ

大学時代に器械体操のサークルに入っていたんです。その合宿で1日10時間くらい運動していて、しんどくて。合宿所にはお風呂がなかったので、お風呂に入るために2時間ほど自宅に帰ってまた合宿所に戻るんですが、その2時間の間に現実逃避として小説を書いていました。

そのとき書き上げた小説を、ゲーム会社が主催しているコンテストに投稿したんです。それが佳作に入り、賞金をいただいて。でも、「小説では食べていけない」というのが私の頭のなかにあったので、佳作に入ったのはビギナーズラックだと思い、普通に就職しました。

『薬屋のひとりごと』連載のきっかけ

東日本大震災が起きて自粛生活になり、時間ができたので、「そうだ、小説を書こう」と思い立ちました。出版社に持ち込むための小説も書いていたのですが、それとは別に練習用として「小説家になろう」というサイトに発表したのが『薬屋のひとりごと』です。

https://ncode.syosetu.com/n9636x/

私はひねくれているので、ほかのひとも書いているようなものは自分が書く必要はないと思っていて。それで、当時あまり書いているひとのいなかった「後宮ミステリー」を題材に選びました。

連載をはじめても最初のうちは読者の反応もなく、黙々と書き続けていました。ところが、最初のクライマックスにあたる部分にさしかかったころ、読んだひとからの感想が一気に来たんです。読者のコメントをいただくとやっぱり元気になりますね。的を射た感想をいただくと「この方は私の気持ちをわかってらっしゃるな」と思ったり。がんばって書こうという気持ちになります。

Web連載小説が書籍に

第1部「後宮編」が2012年に主婦の友社の「Ray Books」レーベルから単行本として発売されました。最初はその1巻を最後まで書いたら終わらせようと思っていたんです。番外編みたいなものをちょこちょこ書いてはいましたが、ストーリーとしてはその先はもう思いつかなくなって。

しばらく連載の更新を止めていたときに、読者の方から「80代の母が続きをたのしみにしています」という感想をいただいたんです。それで「お母様が元気なうちに続きを書かなくては」と思い、ふたたび書きはじめました。その後「ヒーロー文庫」レーベルから新装刊され、以降継続して発行されています。

このように年配の方も読んでくださっていますし、恋愛要素が強くないから男性読者も多いんです。作風としては「オードブル」みたいな感じでいこうかなと思っています。そうすれば「これは嫌いだけどこれは好き」という読者が集まって、読者層が広がっていくと思うので。

書籍化する際には、結構加筆しています。購入していただいた方に対してサービスしたいという気持ちがありますね。

加筆するのは枝葉の部分で、幹は変えないようにしています。ゲームでいう「ルート分岐」のように、物語の道筋をいくつか考えているんです。別の道筋を書き足してかさ増ししても、元のルートに戻れるようにしています。

Web連載と書き下ろしの違い

なろう連載作品以外にも、書き下ろし小説を書くようになりました。

Web連載は書いている間に読者の反応がありますが、書き下ろしは読者の反応がわからないので、これがおもしろいのかどうかわからないというキツさがあります。

連載小説だと、読者の反応を見て途中でルートを変えることができますが、書き下ろしだとそれができず、最初から1本のルートを決めなきゃいけないのも難しいですね。

文字数が決まっているのも難しいと感じます。Webだと1話完結にしたり数話で完結したり、自分で区切りをつけられるんですが、書き下ろしだと10万字を目安に書かなければならなくて。読者がどこで飽きるかわからないから、どこに引きを入れたらいいのかわからなくなったりもします。試行錯誤しながら創作していますね。

新しい物語はどうやってつくりはじめる?

主人公と、その主人公がいる世界の成り立ちを最初に考えます。「これ書きたいな」というキーワードやシーンが浮かんできて、そのキーワードに合う主人公はどんなひとで、どんな職業なんだろう、などと逆算的に考えていきます。

『薬屋のひとりごと』の場合は、「後宮で生まれる乳幼児の連続死」という事件がキーワードとしてまず浮かびました。主人公はその事件を解く人物。後宮が舞台なので主人公は女性にして、事件を解くための専門知識や毒を持っていてもおかしくない職業は何かなと考えて、薬屋にしようと。

プロットはどこまでつくる?

書く前から結末まで考えているわけではなく、中間地点まで思いついたらとりあえず書きはじめます。そして中間地点まで書けたら、また次のゴールを目指す、というやり方です。

連作短編にすると書きやすいんです。長編で10万字をズラッと書き続けるよりも、2万字くらいを区切りにして1つの問題が解決する、という書き方のほうが自分に合っています。

書き下ろしの場合はプロットを編集者に提出するんですが、プロット通りにはならないことが多いです。思いもしない結末になった、ということもありますね。

筆が乗るとき、執筆に詰まるとき

やはり制約が多いと詰まっちゃいます。キャラクターの数や、年齢や性別の設定を自由に決められないと難しいですね。企画の段階でそういう制約がいくつもあると、そのなかでこねくり回してそれに合う主人公を描くことになります。それが自分のなかで落とし込めないと、書けなくなります。

逆に、落とし込めるとスラスラ書けるようになります。筆が乗っているときは1日で2万字ぐらい書けることもあります。エンディングが見えてくると、そこまで突っ走るみたいな感じで、どんどん筆が進みますね。

ストーリーを読みやすくする工夫

キャラクターが多い場合は絞ります。登場人物の名前をたくさん覚えなければならないのは、読者に負担がかかるので。

また、会話のシーンにたくさんのひとが出てくると読みにくいし、キャラクターを書き分けるのも大変です。ですので、私はだいたい3人くらいを目安にしています。

それでもストーリーが読みにくくなってきたかなと感じたら、いったんリセットします。必要なシーンだけ残して、それ以外の部分を読みやすいように書き直したりしますね。

【リスナーからの質問①】
好きな歴史上の人物は?

『後宮小説』の影響で中国の歴史を調べていて、則天武后に興味を持ちました。則天武后や楊貴妃を題材にしたラノベも結構あるんです。則天武后は「世界三大悪女」などと言われていますが、ラノベでは則天武后のキャラクターがすごくよく書かれているんですよ。

歴史のエピソードを調べてみて、どこまでだったら改変して小説に取り入れられるかなと考えたりします。小説はフィクションなので、歴史上の事実に虚構を織り交ぜておもしろくすることができます。ただ、やりすぎてはいけないので、ギリギリどこまでだったらいけるかなと考えますね。

【リスナーからの質問②】
スケジュール管理はどうしていますか?

あまりきちっと管理はしてなくて、家のカレンダーに締切日を書いておくくらいです。スマホで管理している作家さんもいると思いますが、私はスマホに書いても見ないんです。

ネタをメモしたりということもしないですね。創作のアイデアを思いついたら頭のなかに残しておきます。執筆するときは、そうして頭に溜め込んでおいた記憶のなかから一番使えそうなものを取り出します。忘れずに強く残っているということは、それがたぶん一番いいものだと思うので。

これから物語づくりに取り組む方々へのメッセージ

書いている途中で、「こんなのを出したら恥ずかしいかな」と思うことがあっても、みんなで黒歴史をつくってどんどん出しちゃいましょう(笑)。だれかの恥ずかしさは、だれかの「萌え」ですから。ひとに見せて感想をもらうことが、一番の書く原動力になるんじゃないかと思います。

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ゲストプロフィール

日向夏(作家)

小説投稿サイト「小説家になろう」に発表した小説『薬屋のひとりごと』がヒーロー文庫より書籍化。同作はコミカライズが2作展開されており、『薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~』がサンデーGX(小学館)で、『薬屋のひとりごと』がビッグガンガン(スクウェア・エニックス)で連載中。その他著作は『繰り巫女あやかし夜噺』『カロリーは引いてください!~学食ガールと満腹男子~』『なぞとき遺跡発掘部』『迷探偵の条件』など多数。また漫画原作としては『神さま学校の落ちこぼれ』が花とゆめ(白泉社)で連載中。
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text by 渡邊敏恵


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