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物語の「設定」「あらすじ」「キャラクター」etc. ......何から書く? 人気作家・深見真さん、アサウラさんの「物語のつくりかた」
小説や映像、マンガなどで活躍するクリエイターをお招きし、創作のルーツや執筆スタイルから、個人的な趣味・野望までを深掘りするトーク番組「物語のつくりかたRADIO」。
第4回のゲストは、作家の深見真さんと、同じく作家のアサウラさんです。おふたりとも小説、マンガ原作、アニメ脚本と多彩なジャンルで長年活躍されています。
最近では、深見さんが著書『二世界物語 世界最強の暗殺者と現代の高校生が入れ替わったら』を、アサウラさんが『リコリス・リコイル Ordinary days』を出版し、どちらも話題に。
このnoteでは、おふたりの作家としてのベースになっている作品や、自身のプロットの組み立て方、マンガ原作と小説の書き方の違いなどについておうかがいした内容をまとめました。
※おふたりが番組中とくに熱く語りあったアニメのガンアクション描写については、以下のレポートをご覧ください。
それぞれのルーツ/基礎になった作品
深見 小学生のときは司馬遼太郎先生がすごく好きでした。とくに幕末ものが大好きで。自分でもそのころから、歴史物や時代劇を書いていました。
中学生のときには『スレイヤーズ』(神坂一)を読んだり、ほかにも船戸与一先生や平井和正先生、秋津透先生にもはまったりしましたね。
『スレイヤーズ』はおもしろいと思ったし、船戸先生の『猛き箱舟』にはしびれました。
倉田英之先生もすごく尊敬していて。倉田先生の『バトルアスリーテス大運動会』に出合い、「アニメと小説を同時にやるなんて超最高じゃん!」と思っていました。
アサウラ 僕は子どものころ、小説をそんなに読んでいなかったんです。マンガと映画がほぼメイン。マンガは、『銃夢』(木城ゆきと)に頭がおかしいんじゃないかってほど夢中になって。
アサウラ その後、『BLAME! 』(弐瓶勉)でSFを好きになりました。SF小説『戦闘妖精・雪風』(神林長平)シリーズや『おもいでエマノン』(鶴田謙二)なんかも読んでましたね。
映画もSFが好きで。WOWOWで録画したものをただひたすら観まくっていました。WOWOWは配信番組と違って、自分の観たい番組だけをチョイスして観ることができません。でも、いろんなジャンルの映画を観ることができたので、かえってありがたかったなっていまは思っています。
そのころは、映画監督になりたいと考えていました。
作家になったきっかけ
深見 子どものころから書くことが好きで、小学生のころは学級新聞に連載小説を書いていました。小学生のころ、角川書店(当時)の新人賞に作品を送ったことがあるんですよ。でも落選して、「なんかもういいや」って挫折感を味わったのを覚えています。
もう1度あらためて、本格的に書いてみようと思ったのは大学生のとき。最初はアニメがやりたくて。2000年にファミ通エンタテインメント大賞(のちのエンターブレインえんため大賞、ファミ通文庫大賞)のドラマ企画書部門に応募したんです。
そこで審査員奨励賞をいただいて。審査員だった富野由悠季監督と広井王子先生にめちゃくちゃほめていただきました。プロになることを決めたのはこのときです。
受賞作の『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』がデビュー作となりました。
広井先生からは、「君は日本の※ジョン・ウーみたいになるよ」と言っていただいて。その言葉をいまでも励みにしています。
※ジョン・ウー
中国出身の映画監督。5歳で香港に移住。1986年に制作した『男たちの挽歌』が世界的に大ヒットした。スローモーションを多用し、独特のカット割でみせるアクションシーンや二丁拳銃をつかったガンアクションが特徴。のちのクリエイターたちに、大きな影響を与えた。
アサウラ 僕の場合は、子どものころに親から壊れたワープロをもらったのが文章を書きはじめたきっかけです。二次創作ですが、作品を書きだしたのは1998年ころ。希望者に、メールで物語を配布していました。
作家になるきっかけは、大学生時代に買った『銃夢』の新刊にはさまっていたチラシです。そこに、「第5回スーパーダッシュ小説新人賞、原稿募集」と書いてあって。見た瞬間、耳元で「出せ!」とゴーストのささやきが聞こえた感じがしたんです。そのとき大賞をとった『黄色い花の紅』で2006年に作家デビューしました。
作家としてのターニングポイント
アサウラ いまの作風にめざめたのは、2冊目の『バニラ A sweet partner』を書いたときです。
それまでは、「正義の象徴である警察官を殺してはいけない」という感覚があって。刑事が出てきてよいことをして...って型にはまっておもしろくなくなっていました。
でも、担当編集者が「好きなように書いたらいい」と言ってくれて。それでタガがはずれ、自由に書けるようになりました。警察が悪者でも、めちゃくちゃやらかしてもいいんだと。
次の作品では、当時はやっていたラブコメを書くように編集者から言われたんですが、僕には書けません。そうしたらその編集者が「じゃあ、ラブをとってコメディを」と。そうやってできたのが『ベン・トー サバの味噌煮290円』です。
アサウラ この作品が「平和の温故知新@はてな」というサイトで、ネット批評サイトの管理者のみが投票できるライトノベルランキングの1位をとりました。これを機に本が売れはじめて。
『ベン・トー』は、僕が作家として食べていけるようになるきっかけの作品となりました。
深見 自分のターニングポイントはデビューしたてのころ。そのころは何をやってもうまくいかなくて、小説家を辞めようかと思っていました。
そうしたら、『BLOODLINK』シリーズの山下卓先生が徳間書店の編集者を紹介してくださって。徳間書店から『ヤングガン・カルナバル』を出すことができました。そして、押井守監督にその本のオビを書いていただいたんです。実はこれも、山下先生とのご縁から。『ヤングガン・カルナバル』は重版がかかって、人気シリーズになりました。
物語をつくる手順
企画は自分から
アサウラ 新作を書くときは、自分で思いついたアイデアや、これを書きたいと思うものをまず文章にまとめます。でも、その内容を編集者に話すと、だいたい苦笑いされるんですよね(笑)。
だから最近は、先にどういうものがほしいのか編集者に確認をして。そのうえで、好き勝手に書かせてもらうというのが、理想に近い作品づくりの方法かな?って考えています。
深見 アサウラさんと同じで、アイデアは自分から出します。でも、編集者も当然アイデアを出してくるので、お互いにとっていい落としどころはどこかと探すことになりますよね。
時間ができたら、実写ドラマの脚本を書いてみたいです。いままでやったことがないので。賞に応募して、久々に新人賞をとりたいなって考えています(笑)。
アサウラ 僕も同じことを考えていました(笑)。『リコリス・リコイル(以下、リコリコ)』のアニメができる前に少し時間があったので、その練習がてらシナリオを書いて新人賞でも狙ってみようと準備を進めていたくらいです(笑)。
どこから企画を固めていくか
深見 企画のタネができたあと、キャラクターから考えるか、設定からなのか、あらすじを先にまとめるのかは、作品によって変わります。
たとえば『二世界物語』の場合。これはチャールズ・ディケンズの『二都物語』が元ネタなんですね。
深見 もともと自分はディケンズが好きで。ディケンズの『二都物語』から『二世界物語』の核となるテーマを思いつきました。そのテーマを補強するため、ほかのさまざまな作品から得た着想を用いることにしたんです。そうすればあとは、キャラクターを動かしているうちに何か出てくるだろうと考えて。
『君の名は。』が好きだから入れ替わりものにして、異世界と現代日本を描くことに。異世界はPlayStationの『アサシン クリード』や映画『ジョン・ウィック』、現代日本はマンガ『東京卍リベンジャーズ』や映画『HiGH&LOW』から着想を得ました。どれもみな、自分が好きな作品です。
アサウラ 僕も、作品の詳細を何から決めていくかはケースバイケースです。『リコリコ』は、条件から決めていきました。条件は、制服、女の子、銃(またはガンアクション)です。
その条件は、むかし自分が経験したことから思いつきました。
デビューしたてのころ、立ち入り禁止のテープが貼られているところに出くわしたんです。それを自分が見ていたら、警備員からすごく警戒されました。
でも、制服姿の女子高生が数人、大きな荷物を抱えてそのエリアをかすめながら通り過ぎたときには、警備員はまったく無警戒で。
「あ、(女子高生の)” 制服は都会の迷彩服 ” なんだな」と思いました。このときのことを思いだし、そこから『リコリコ』のコンセプトをつくっていったんです。
プロットは結末まで書く
深見 プロットは、結末までしっかり書きます。半分、試作みたいな感じです。『二世界物語』のときは、40×40の原稿用紙に7〜8枚書きました。
これくらい書いておくと、あとがラクに進められるんです。
実際の執筆で、プロットの結末からずれてしまうことはいっさいありません。
アサウラ 僕の場合、物語は結末からつくります。「1番みせたいのはここ! 」っていうシーンを用意して、そこがもっとも映えるようにつくっていくんです。
だから、僕もプロットはシンプルに、ラストまでがっつり書きますね。執筆を進めていって、プロットの結末からずれることはほぼありません。
プロットづくりにかける時間
アサウラ プロットは、だいたい1日で完成させます。書いてから1晩以上おいて、もう1回見直してから提出しますね。
書くのは1日だけど、プロットについていろいろ考える時間まで含めると、もう少し時間はかかっていると思います。
深見 自分は、プロットが1日でできるときもあれば、何ヶ月も放っておくときもあります。
やっている仕事のなかで、1番時間がかかるのが連続アニメのシリーズ構成。1話から12話まで、各回で何が起きるかを決めていく仕事です。
監督やプロデューサーによってどの程度書きこんでほしいか好みが別れますし、アニメは集団創作なので、意見のすり合わせの難しさもあってたいへんです。
深見さんがこれまでにシリーズ構成・脚本で参加したアニメ作品
『ゆるゆり なちゅやちゅみ!+』、『ベルセルク』、revisions リヴィジョンズ、『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』など
担当編集者との関わり方
アサウラ 担当編集者におもしろいと思ってもらえないプロットは、執筆過程のどこかで絶対につまづくと思います。
『ベン・トー』の担当編集者とは、本当に趣味や興味が噛み合わなくて。でも、「お笑い番組が好き」というたったひとつの共通点がありました。
だから「ラブを抜いてコメディで」という発想が生まれたんだと思います。コメディならお互いに、僕が書いたものがおもしろいかどうか判断できます。
深見 自分と違うタイプの編集者と仕事をするということが、すごく大事ですよね。
自分とアサウラさんは趣味が似すぎているので、もし自分がアサウラさんの担当編集者だったらどんどんマニアックな銃を出したりして、先鋭化していってしまうと思う。(サバゲーは、おふたりの共通の趣味のひとつ)
たぶん、『ベン・トー』みたいなアイデアは出てこなかったでしょうね。
小説、マンガ原作、アニメ脚本で脳をつかいわける
深見 小説、マンガ原作、アニメの脚本といろいろな仕事をしていますが、それぞれ脳のつかい方が違います。
たとえばアニメ脚本なら、コミュニケーション能力がとても必要とされます。監督が何を言いたいのか、いまどんな絵をつくりたいと思っているのかなどを察する能力が求められるんです。
マンガ原作を書く場合は、※ネームを描けるといいですよね。
※ネーム
マンガのページの構成図のこと。マンガはページをコマで割って描いていくが、規定のページ数で納めつつ、印象づけたいシーンやセリフなどをどこにどう入れるかでストーリーの伝わり方が大きく変わる。そのため、ネームはマンガを描くうえで非常に重要とされている。
もしネームが描けないとしても、「このコマはここまで」とかネームを意識しながら本を書くことができないと、マンガ原作者になるのは厳しいと思います。
自分はいま、ネームを描く練習をしています。
小説の書き方は...書くひとの数だけ正解があるので、書き方についてはあんまり考えないようにしています。小説が1番、自分の内面と深く関わってくるんですよね。だから過去の作品をたまに読み返すと、自分がさらけ出されているなと感じて、恥ずかしくなることがあります(笑)。
書けないときの対処法
アサウラ 執筆に煮詰まったときは、映画館や釣り、サバゲなどに行きます。パソコン作業から離れると、頭がリフレッシュされるんです。
行き帰りの電車に揺られているときに、アイデアがふわっと頭の中に浮かんでくることが多いですね。
あと、知り合いとカラオケに行くのもいいなと。
ふだん自分が聞かない曲をみなさんが歌ってくれるので、予期しないメロディーラインを聞いたり雰囲気を感じたりすることで、パッと何かを思いつく瞬間があるんですよ。
「いま頭の中にあるアイデアに、この曲の感じを合わせたらいけるんじゃないか?」とか。
深見 自分は、執筆に詰まったら身体を動かすことが多いですかね。でも結局、机に向かうしかない。
やる気って、仕事をはじめることで出てくるものらしいですよ。仕事をはじめる前から「よし!仕事がしたいぞ」ってなることはないらしいです(笑)。
あと、自分は仕事中に映画やテレビドラマ、最近だとVTuberの配信を流しっぱなしにしているんですが、ふと執筆が止まったときにテレビで銃撃戦をやっていたり、配信者がおもしろいことを言っていたりすると、すごく元気が出てきます。いい気分転換になっていますね。
これから物語づくりに取り組む方々へのメッセージ
うまくいかないときこそ謙虚になる
深見 いま物語を書いているひとも、これからというひとも、うまくいかなかったときはパッと方向性を変えることが必要です。客観性をもって自分を見つめること。
でも、客観性をもつのってすごく難しいですよね。自分もなかなかできません。
だからせめて、自分は謙虚でいようと。どんなことでも、読者のせいにしたら駄目だと思ってて。読者が悪いから駄目なんだって言ってたら、もう本当に駄目になりますからね。
それから、空いた時間は何かを学んでみることをおすすめします。いまはお金をかけずに学べることがたくさんありますから。
自分もさっき話したようにネームの練習をしていますし、最近YouTubeをはじめたので動画編集の練習もしています。
どんな小説を読んできたか、映画を観てきたかもそうですが、これまで経験したことすべてが作品づくりにいつか役立つかもしれません。
それに単純に、何かのスキルを身につけることはたのしいですよ。自分も、たのしみながら作家としての修行をしているような感覚です。
最初の1本を書く
アサウラ 物語を書いてみたいけど、考えすぎちゃって書けてないひとが多いのかなって感じています。
設定やプロットはそこそこにして、まず書いてみることが大事。僕もデビュー作は明確なビジョンをもってつくりはじめたわけではなくて。ゴーストのささやきに従ってつくりはじめたっていうだけ。
まず1本つくってみたら、それを踏まえたうえで、だれかに感想をもらえたら感想も踏まえたうえで、次の作品を書いていく。これを繰りかえしやっていけば、遅かれ早かれ何かしらの結果が出ると思います。
▼イベントのアーカイブ音源は以下のリンク先でお聴きいただけます
「小説家の可能性はどこまで広がるか? ゲスト:深見真さん&アサウラさん」
ゲストプロフィール
深見真(作家)
2002年に『ブロークン・フィスト』(富士見ミステリー文庫)で小説家デビュー。その後も『ヤングガン・カルナバル』シリーズ(トクマ・ノベルズEdge→徳間文庫)、『ゴルゴタ』(徳間文庫)、『GENEZ』(ファンタジア文庫)などを刊行。また漫画原作者としても、『ちょっとかわいいアイアンメイデン』『王様達のバイキング』『魔法少女特殊戦あすか』『サキュバス&ヒットマン』など多数の作品を発表。さらにはアニメでも『PSYCHO-PASS』脚本、『ベルセルク』シリーズ構成・脚本、『ブラックロックシューター DAWN FALL』シリーズ構成・脚本など、数多くの作品に携わっている。
note/Twitter
アサウラ(作家)
大学在籍中に大賞を受賞した『黄色い花の紅』(集英社スーパーダッシュ文庫)で2006年に小説家デビュー。2008年に刊行した『ベン・トー サバの味噌煮290円』がヒットとなり、2011年にTVアニメ化。その後も『デスニードラウンド』(オーバーラップ文庫)、『英雄都市のバカども』(ファンタジア文庫)など多数刊行しつつ、ゲーム『AKIBA'S TRIP -アキバズトリップ-』シナリオ協力など、多媒体でも精力的に活動。ストーリー原案で参加した2022年7月放送開始のTVアニメ『リコリス・リコイル』が爆発的な話題となった。
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text by いとうめぐみ