プロ作家が考える「世界設定の作り方・活かし方」――菊池たけしさん×鈴木貴昭さん×矢野俊策さん×丸戸史明さん
最前線で活躍するプロ作家をお招きして、創作に役立つ実践的なお話を伺う「創作ブートキャンプ」。大盛況だった初回に続く第2回が、9月24日(日)にnote placeで開催されました。
テーマは「世界設定の作り方・活かし方」です。作家4名によるクロストークのほか、世界設定を組み上げていく打ち合わせの過程も、特別にお見せします!
ゲスト:菊池たけしさん、鈴木貴昭さん、矢野俊策さん、丸戸史明さん
聞き手:萩原猛さん(編集者・noteディレクター)
世界設定、まずはどこから手をつけますか?
菊池たけしさん(以下、菊池) クライアントさんから「こんな企画をやりたい」と言われたときに、まずは何がやりたいのかを根掘り葉掘り聞きます。方向性を間違えたまま作ると、散々書いてから「違います」と言われるので(笑)。
だからきちんと聞き取りをして、作品の魅力が頭の中で固まってから、魅力を引き出すための構想を始めます。企画の中身が何も決まっていない場合でも、やりたいことは絶対にあるはずなんです。これは作家さんにお任せしますというパターンですが……。
矢野俊策さん(以下、矢野) 一番聞きたくない言葉ですね(笑)。
菊池 まあ何が実現したいのかを、知るところから始めましょうというお話です。
丸戸史明さん(以下、丸戸) 会場にいらしている方々は、自分の作品の世界を作りたい方も多いと思います。菊池さんが自分の作品を作るときには、どこから手をつけますか?
菊池 基本的には「自分が何をやりたいのか」を最初に考えます。自分がやりたいこと、書きたいことを言語化して、30文字や1行にまとめるんです。
そうして書きたいものが決まったら、次は「実現するにはどうしたらいいか」を考えます。「このジャンルを書くならこの仕掛けがほしいな」とか、最初に決めたやりたいことから、四方八方に広げていくのがいつものやり方です。
萩原猛さん(以下、萩原) それは設定でも同じですか?
菊池 私の中では設定とシナリオが同義なんです。世界設定とはあくまで、シナリオに登場するキャラクターを引き立てるための(活躍させるための)舞台であるべき。作品でやりたいこと、キャラクターたちに体験させたいことを世界設定の中に仕込み、広げていく……そういう点では同じですね。
付け加えると、「この世界設定を書きたい」を出発点にするのはいいとしても、「設定」を完成させてから「キャラクターや物語」という要素を足すというのは、順番が違うというかやりにくい。両者は切り離せるものじゃないんです。つまり、設定を作ることを目的に設定を作るのは間違っていると言いますか。
矢野 この3人(菊池、鈴木、矢野)はやり方が全然違うんですが、「世界設定はあくまで舞台でしかない」という部分は共通していると思います。
実際にはどのような作業をしますか?
鈴木貴昭さん(以下、鈴木) 頭の中にやりたいことが渦巻いているので、まずはそれを引っ張り出します。それでやりたいものが決まったら、次に作品の舞台作りです。作るのはファンタジーなのかSFなのか、現代社会なのか異世界なのか。ジャンルは色々とありますが、今回はファンタジー世界を作る場合で考えてみます。
少なくとも主人公たちがいる街が、どんな場所かが分からないと物語は作れないですよね。だから舞台は南国なのか北国なのか、日本的なところなのかヨーロッパなのか。ヨーロッパにしても東欧なのか北欧なのかと、大まかに設定します。
どこにある街かがざっくり決まったら、次に文化を作ります。何を食べていて、どんな建物に住んでいて、どういう服を着ているのか。そういった文化が決まらないと行動が作れないので、大枠を決めてから、少しずつ狭いところを作っていくんです。
そこで「ゲーム的な分かりやすいファンタジー世界」がつまらないなと感じたら、少しだけ変えます。たとえばヨーロッパ風だけど米が主食の世界にしたいのなら、水量が豊富で暖かい気候の土地が必要になるので、そこに適した地形を考えることになります。
菊池 ゲームの企画だと、世界のビジュアルから作りますよね。「この世界はこのゲームのためにある」というのが、一目で分かる必要がありますから。
鈴木 そうですね。街のビジュアルを作ったら、今度は掘り下げていきます。たとえば火山の横に街があるとしたら、食料はどこから調達しているのか、水をどうやって手に入れているのか、どうしてそこに街を作ろうと思ったのかと、順に考えていきます。
萩原 鈴木さんのやり方は大きく舞台を作ってから、主人公の身の回りを円形に作っていくイメージなんですが、それは主人公たちの動きを追いかけたいからですか?
鈴木 そうですね。どういうストーリーで、どういう主人公を置きたいのかが決まったら、主人公が一番映える絵を用意していきます。
たとえば和風の侍が主人公なのに、背景がモンサンミッシェルだったら違和感が出ますよね? 仮にモンサンミッシェルがあるのなら、どうしてそんなところに侍がいるのかを掘り下げていきますけど、基本的には舞台を主人公に合わせます。
矢野 先ほど「米があるなら温暖な気候を」というお話が出ましたが、これは現実に即した作り方ですよね。ファンタジーの世界なら「魔法」で片付くので、川を越えたら炎の国から氷の国に入ることもあるじゃないですか。
創作ですから、「何故そうなったのか」の理由付けができていれば、全て何とかなります。逆にそれをしないと、現実に則ったものしかできないと思うんです。
鈴木 それは大事なことですね。先ほどの火山のフチにある街を作ったときにも、「魔法で水を手に入れています」と書いた瞬間に、考えねばならないことがたくさん出てきます。
「魔法の体系はどうなっているの?」とか、「水を作る魔法使いの地位は、すごく高くなるのでは?」とか。この点では主人公と、水を作る魔法使いとの話にも発展しそうです。
萩原 「何故?」という言葉は、キーワードになりそうですね。
鈴木 基本は「何故?」から様々なものに繋がります。だから設定を基にシナリオを作る人たち、たとえば監督が「この部分はどうなるの?」とか、「何故こうなるの?」と知りたがるフックをたくさん投げておくんですね。
フックに引っ掛かってくれたら、「実はこうなっています」と話を広げていって、そのネタをもっと進めていくようにしています。
世界観と世界設定は別物?
矢野 水野良さん(※作家・ゲームデザイナー。代表作は『ロードス島戦記』)から言われた、「世界観と世界設定の違いって分かる?」という言葉から話を始めようと思います。
「その世界に何があるか」については全て世界設定であり、世界観とは「その世界を一言で表すテーマである」というのが、水野流でした。
先ほど菊池さんが仰っていた、ゲームのイメージボードも世界観に入ります。まずはこれを作らないと始まらないので、クライアントから聞き取って作るか、自分がやりたいことから見つけておかないといけない。
たとえば『ダブルクロス』は現代が舞台ですが、超能力者が人知れず存在しており、力を使いすぎると化け物になってしまいます。テーマは「あなたは化け物か? 人間か?」ですね。
このテーマでは、人間に戻れるか戻れないかの、ギリギリの部分が一番大切になります。あなたは化け物か人間かと尋ねて、「いや人間です」と言い切られてしまうと、話が終わってしまうので(笑)。
そうならないように、だんだん化け物になっていったり、耐えきれない破壊衝動に襲われるようになったりといった、仕掛けをしていきます。それは全部、「化け物か人間か」を問うためのものになっているので、世界設定を考えるにはまずテーマ、世界観が要ります。
だから手をつけるのは世界観からなんですが、自分が一番ショックを受けた世界観は、鈴木さんの『ガールズ&パンツァー』ですね。あの世界観がどこに紐づいているのかというと、「戦車道は乙女の嗜み」ですよ。何を言っているのかが全く分からないですが、乙女の嗜みならやるしかないじゃないですか(笑)。
鈴木 戦車道が茶道華道と並んでいる世界ですからね。ちなみに最後に出てくる学園艦が、乙女の世界に対するアンサーなんです。あれが一つ存在することで、「乙女が戦車から頭を出したりするのは普通ですよ」という、我々の世界とは違うことを示しています。
どういう企画かが一目で分かるものを、3つ提示しなくてはならないのですが、ガルパンの場合だと「実弾を使う」、「戦車が街中を走る」、「学園艦が存在する」を選びました。
矢野 リアリティレベルを調整して、不思議空間にするための学園艦ということですね。
鈴木 実は我々、あれを地球とは言っていませんので、「女の子はあんなに高く跳べない」とか、「あんな大きな戦艦は大陸棚に引っかかるだろう」とかは、「惑星ガルパンなんだ」で全部解決です(笑)。
矢野 自分の家が破壊されて喜ぶシーンとかも、「戦車道は乙女の嗜み」というテーマを挟むと、全部説明がつくんですよ。だからこれが世界観であると思っています。
もう一つ例を挙げると、自分が『Engage kiss』のチームに加入したときには、話の基礎が決まっていたんですよね。記憶を失っていく主人公がいて、三角関係があって、悪魔がいるというものです。
ここで自分が考えたテーマは「欲望と悪魔」でした。主人公には自分の記憶や、魂を削ってでも求めるものがある。ならば悪魔というものは、欲望に反応するものだろうと。それなら欲望が溢れている街が舞台でないと、悪魔がポコポコ出てこないですよね。
それから欲望が溢れた街には怖いイメージがありますが、カジノなどで遊べると考えれば、舞台の街には楽しそうな側面もあると思いました。
丸戸 ラスベガスみたいなものですね。『Engage kiss』の舞台にはラスベガスと御徒町が共存していますが、ガード下の雰囲気は外すまいと思いながら作りました(笑)。
矢野 ともあれ『Engage kiss』の世界では、ものすごく貴重なものが採れる街でゴールドラッシュが起きているので、悲喜こもごもの様々な出来事が起こります。悪魔だけでなく、クセのある人々もたくさんいる中で、「主人公がどう活躍するか」という舞台を作りました。
これは一番やりたいこと、見せたいことは何かという、いわゆるログラインに基づいているんです。企画の一番美味しいところはどこかを一言で説明した、世界の魅力・特徴ですね。
鈴木 クライアントからもらった企画書には、大体書かれていないですけどね(笑)。
菊池 書いていることもありますよ(笑)。
世界観とストーリーの関係は?
萩原 重複する内容もあると思いますが、世界観とストーリーはどう結んでいきますか?
矢野 まずは世界観とストーリーのログラインが、ほぼ同一であるか、密接な関係にあることが重要です。ここが乖離していると変な作品になりますから。
萩原 このストーリーを進めるのに、この世界じゃなくてもいいよね。となりますか。
矢野 そうですね。欲望の街に関係しないストーリーが展開すると、その話のためにこんな込み入った設定は必要なのか、という話になりますから。
菊池 だからストーリーと世界観は同義なんです。どんな課題が待ち受けていて、どんな敵がいるのかは、世界観に定義されるものですから。世界観として世界の真実が用意されていれば、主人公たちは絶対に挑むんですよ。
つまり世界設定とストーリーは、必ず密接に紐づいています。そして世界設定に何が必要かと言えば、主人公たちにどんな試練を与えるか、どう乗り越えていくかなので、世界設定とストーリーはセットで考えるものだと思います。
鈴木 僕の場合はまず、ストーリーとキャラクターありきで、作りたい話を一番引き立てる世界を作ります。主人公の力が一番魅力的になるのか、もしくは一番使えない世界なのか。主人公たちが渡っていくと、波瀾万丈になる世界を作っていきますね。
世界設定作りの実践
世界設定のオーダーを、作家3人が請け負います
萩原 今から菊池さん、鈴木さん、矢野さんに打ち合わせをしていただきますが、このお題は事前にお伝えしておりません。ぶっつけ本番でいいと言われております。
菊池 アドリブの方がエンタメとして面白いと思いましたが、グダることもあるかもしれません。そこはご承知おきください。
丸戸 言い訳は失敗してからでいいですよ?(笑)。
鈴木 先にいくつか言い訳を振っておくのも世界設定ですよ。前に書いた部分から言い訳にできる部分を見つけてきて、「ああ、これを使おう!」というやつです。
菊池 後から言い出したら言い訳ですが、先に言っておけば布石ですからね。「だから失敗したのか、それなら仕方ない」と、みんなが笑顔でいられる優しい世界を作りましょう。
丸戸 なるほど。さてこのお題は、僕と萩原さんで考えてきました。アニメプロデューサーが企画を考えてきたという前提でお考えください。
テーマ「七人の悪役令嬢」
丸戸 悪役令嬢もののヒロインは基本的に1人ですが、1人ではキャラグッズの売り上げが足りないので増やしました。このお題にアイデアを載せていってください。
悪役令嬢7人が仲間になってから、最後に3人だけ生き残る展開でもいいです。悪役令嬢に向かって急に槍を投げて、避けたからこいつは使える。という展開でもいいです。7人全員が活躍する、全員が魅力的な話を作りたいんですが、どんな世界がよろしいでしょうか?
菊池 これはシリアスタッチですか? コメディタッチですか?
丸戸 どちらでも構いませんが、どちらかと言えばコメディで。
鈴木 7人分のお相手を用意すれば、7×7人のキャラクターを作れそうですね。ちなみにこの企画の舞台には、指定はありますか?
丸戸 昔の日本でもいいし、地獄でもいい。宇宙でもいいですよ。監督と脚本家はこちらでご用意しますし、予算も潤沢に使えます。全てお任せください。
矢野 やはり7人の関係性から作りたいので、中核の部分を先に決めましょうか。悪役令嬢たちが互いに、敵なのか味方なのかは決まっていますか?
丸戸 感覚的には、最初は敵対していて、だんだん仲良くなっていく感じですね。
鈴木 であれば月曜の令嬢から日曜の令嬢までいて、7人がかりでヒロインをいじめるとかはどうでしょう。「今日は私の番でございますわよ!」という感じで。
菊池 最初が敵対関係なら、バトルロイヤルものでもよさそうな気がします。
矢野 バトルとなると、現実よりもぶっ飛んだ設定の方が楽ですね。バトルのための下地も必要になりそうですし。
鈴木 地下闘技場とか? 舞台を現実社会にした場合は、家とか会社とかを賭けて戦いそうですが、戦うなら何を賭けましょうか?
菊池 自分のパートナーとか、大事なものですかね。たとえば『舞-HiME』という作品がその構造になっています。
矢野 問題は「それ、悪役令嬢なんですか?」という部分ですが。
鈴木 とりあえず今は設定を考えて、後から悪役令嬢に寄せていきましょうか。
丸戸 その方針なら7人の対立構造と、それぞれが戦う理由や流れが作りやすそうですね。鈴木さんは舞台を現代に持っていこうとしていましたが、その場合はどうなりますか?
鈴木 『刃牙』の世界みたいにしてもいいですよね。悪役令嬢が名乗りを上げて地下闘技場に入ってくるとかでも、いいと思いますよ?
たとえば「こんなに凄いことをやってきた悪役令嬢が、ついに登場した!!」とか、「なんとアメリカから、あの悪役令嬢が参戦!」とか。
菊池 若干『キン肉マン』のようなところはありますが、現代異能ものにするのなら、もう少しカッコいい設定を付けてもよさそう。
矢野 トロフィーが欲しいですよね。どうやったら勝ちなのか。『レビュースターライト』のように、毎回戦って勝ち負けを決めるでもいいですし、一つの都市や学校を舞台にして、支配下地域を増やしていくとかでもいけそうです。
鈴木 ミニマムなところで閃いたんですが、「来週のヒロインをいじめる権利を賭ける!」などであれば、「来週はいじめないとルートに入れない」という話ができそうですよ。
矢野 なるほど。枠組みとして、ゲームの中に落とし込むのも手ですよね。
菊池 もしこれをバトルの構造にするとしたら、シナリオの中にどんな逆転を置きますか? 8人目の悪役令嬢を出してみるとか、7人の悪役令嬢は、最高の悪役令嬢を作るための踏み台だとか。
矢野 悪役令嬢ZEROみたいなやつですね。
菊池 仮に8人目の悪役令嬢がいて、その存在に全ての秘密が集約されるのであれば、そこに至るまでのドラマを決められます。何故8人目が必要なのか、背後に誰がいて、何のためにやっているのかと、世界観も組んでいけますから。
矢野 ゲームだと最後の1人が全部かっさらうことになそうですが、「他の7人は全て生贄なのだ」とかはできそうです。
丸戸 7人全員が主人公というよりも、その1人が主人公になりそうですね。であれば6人が本当の悪役令嬢で、1人は迷い込んだ人という構図にもできそうです。
鈴木 ヒロインが何故か、悪役令嬢の中に入ってしまったパターンとかですか。
矢野 バトルロイヤルものだと、1人くらいは敵対心が薄くて、デスゲームに乗っからない人がいますよね。
菊池 そういう人は苦労しますが、大抵が主人公なので、最後には勝つんですよね。
丸戸 これまでに出てきたアイデアがデスゲーム寄りなので、デスゲームを輝かせる設定の方で考えていただければ。
菊池 基本的には7人のキャラクターを、見ている人に好きになって欲しいですよね。ただの嫌なやつでいさせたくないので、最終的には7人で共闘して戦う敵がほしいです。
鈴木 先ほど出ていた、悪役令嬢ZEROみたいな?
丸戸 そこはヒロインの方がシンプルじゃないですか?
矢野 好きになってほしいという目標を置くなら、背負っているものが欲しいですよね。
鈴木 妹が難病とか、家を背負っているとか。それとも登場人物が7つの童話から集まり、本来の世界でヒロインだった人物が、悪役令嬢となって来ているとか? もし負けたら貴女の世界は無くなりますということで。
丸戸 ある乙女ゲームの会社が、クロスオーバーファンディスクを作りました。という設定を裏に置いておけば成立しそうですね。ゲームをやっていて転生した先が、ファンディスクの世界でしたという形で。
鈴木 その場合だと、それぞれの世界のコスチュームが出てくるので、キャラクターグッズを作りたいというクライアントの目標と合致しますね。フィギュア化がしやすそう。
矢野 そうですね。通常時はみんな共通の制服を着ているけれど、バトルの際は元の世界の衣装っぽくなるとすれば、差別化もしやすそうです。
菊池 衣装をガジェット化できる点でも優れていますね。ここで少し話を戻しますが、鈴木さんの「曜日ごとに分ける」アイデアが好きなんです。日曜日を担当している悪役令嬢が、「自分は学校にいきたくない。永久の日曜日にしてやる」と言ってバトルを始めるとか。
鈴木 負けた曜日が消えていくやつですか。「貴様らはずっと月曜日だ!」とかになりそうですね(笑)。
丸戸 それだと月曜日のフィギュアが売れないのでは?
鈴木 フィギュアを一番可愛くして、バランスを取れば大丈夫ですよ。
矢野 曜日ごとに分ける場合であれば、属性も考えやすいですよね。属性からキャラクター性を想像しやすそうです。
鈴木 まあ曜日は、神話や惑星とも繋がっていますから。
矢野 惑星……。向こうからすごい勢いで、『セーラームーン』が走ってくるんですけど(笑)。
丸戸 『セーラームーン』がそれだけ優秀だったということですよ。
菊池 しかし象徴化は大事ですよね。星とか花とか宝石とか、何かしらのカテゴリで括れて、色が違うとかね。これを決められると覚えやすくて、認知度が断然変わってくる。
矢野 逆にファンタジーやSFといった、違うジャンルから7つ揃えても結構いけそうです。
鈴木 虹の七色とか、「7」が分かりやすい何かを据えたいところですね。
矢野 となると今のところデスゲームで、背負っているものが消える消えないの話。なんとなく現代っぽいが、戦闘時にコスチュームチェンジをする、いわゆる魔法少女もの。この辺りが共通点でしょうか?
菊池 大体この辺りまでくると、「こういうものでどうですか」とプロデューサーに確認を入れるんですよね。
鈴木 そうするとプロデューサーが、「ちょっとそれは……」とか、「それって〇〇っぽいよね」とか言ってくるので、うまいこと調整していかないといけない(笑)。
次のお題へ
丸戸 結構エンタメっぽくやっていますが、打ち合わせの初回は大体こんな感じです。
萩原 どんな意見であっても、一旦全部言いますよね。誰かが拾った意見にどんどん被せていくうちに、山が高くなりますから。まあ途中まで山を登った後で、やっぱりこのルートは違うとなり、引き返すことも結構ありますけど。
丸戸 一人で考えるのもいいですが、バカ話をしながら積み上げていくと、いい化学反応があることもあります。こういうトライもいいと思いますよ。
萩原 では残り時間が少ないので、次の課題は軽く冒頭部分だけでも。
テーマ「終末世界の配信者」
丸戸 世界が滅亡して、数人しか生き残っていません。そんな世界を配信者が進んでいくというお題です。配信者同士が出会ったり、自分の配信を見てくれる、たった5人の人を探す旅だったり、少し退廃的でエモーショナルな世界をやってみたいと思っています。
売ることはあまり考えず、作家目線で話を作ってください。最近では配信者を主人公にする作品が増えてきたので、面白いかと思って振りました。
矢野 まずは、何のために配信をするのかが一番気になりますよね。たとえばですが、未来に対して配信するネタとかもあります。主人公が「何のために配信をするのか」という意味が、最初と最後では変わっていると思うんですよ。
丸戸 前半は生きている人を求めて、後半は自分の生きた証を含めた、レガシーを遺すような形ですか。
矢野 そうですね。今回の舞台は滅んだ世界なので、一番気になるのは「何故滅んだのか」だと思います。生きている人を探す主人公に対して、「こういう理由でお前の世界は滅んだのだ。だから誰もいないのだ」という形で、世界を見せていくことになると思います。
丸戸 世界の滅亡の謎も、配信で調べながら進みますか?
矢野 そうですね、そうなると思います。たとえばエイリアンの襲来で世界が終わったとするならば、エイリアンを相棒にして旅をする過程で、どんでん返しがあるとか。生きている人を探していた主人公が、世界の謎を追う過程で成長していくとか。そんな話がぱっと想像できました。
世界の滅亡に関しては、「表向きの理由」と「本当の理由」が必要になってくるので、その辺りをどう仕立てるかですね。
丸戸 最初はエイリアンと対立しながら進み、最終的には互いに命を張る展開とか。
矢野 大好きですね、そういうの。ともあれ情報を集めて現地に行ってみると、そこには誰もいなくて、また別な情報を見つけて。という進め方になると思います。
丸戸 考察系のユーチューバーであり、廃墟系でもありますが、最終的には迷惑系になってほしいですね。「誰か俺に迷惑をかけさせてくれ!」という感じで。
鈴木 人がいないから、勝手に侵入しても怒られない。
矢野 相手がいなければ、迷惑もかけられないと。切ないですね。
萩原 菊池さんはどうですか?
菊池 藤子不二雄SF短編集の、『カンビュセスの籤』みたいなものをやりたいです。大まかに言うと……古い時代の地球に、宇宙船で不時着した人たちがいた。彼らはSOS信号を発信するけど、その返事がいつくるかなんかわからない。何年、何万年先かもしれない。そして彼らは幾度もコールドスリープして連絡を待とうとするんですけど、そのためには体力をつけねばならず……しかし、備蓄食料なんかろくにない。そこで、彼らはクジをひいて、当たった者が仲間の食料になり、体力を蓄えさせるという……そんな背景設定です。
それを繰り返して物語の開始時、宇宙船には少女1人になっています。そんな中、彼女の元にひとりのペルシア軍兵士がやってくる。これが主人公。彼の所属する軍が食料不足に陥り、クジをひいて、当たった者が仲間の食料になることで急場をしのごうとしてた。主人公はクジに当たり、死ぬのが嫌で逃げ出した末、さっき話した少女と出会うと。
女の子は自分の仲間か、星に向けてなのかは分からないですが、宇宙に発信するんですよ。「助けにきて、私はここにいるよ」と。これを配信に置き換えたら、何かできそうで。
丸戸 なるほど、SFの話ですか。
菊池 そうですね、違った観点から何か作れないかなと思って。たとえば終末世界の定義は、普通に考えれば滅んだあとの世界ですよね。これを現代社会に持ってきて、自分は世界からパージされた人間であり、誰からも認識されない人物であるが、インターネットで見つけた仲間と配信を始める話でも、一応は終末世界にできるはずなんです。
「この言葉はどういう解釈ができるだろう」と考えていけば、色々なバリエーションが作れると思っています。
矢野 配信者の配信が、どちらかと言えばSOSに近い場合のお話ですね。届かないけれど一生懸命やっているのは、すごくエモーショナルじゃないでしょうか。
丸戸 鈴木さんはいかがですか?
鈴木 また違う切り口からにしましょうか。たとえば『小説家になろう』の流行りでいくと、現代、ダンジョン、配信者じゃないですか。つまりはダンジョン配信です。配信者が地上に出てきたら、スタンピードで滅びていたという世界を起点にしてみます。
スタンピードは終わっていたが誰もいない。ダンジョンはまだ生きているし、モンスターを狩ればアイテムをドロップするので、生きていくには困らない。なら主人公は、この世界で何をしなければならないか。
配信していけば、自分と同じ境遇の人間がダンジョンから出てきて、会えるかもしれない。もしくはダンジョン内に生存者がいるかもしれないから、「ダンジョンに潜り続けてみる」というのもアリです。
タイトルをつけるなら、「引きこもりの俺がダンジョンで配信をしていたら、いつの間にか世界が滅んでいて、世界で一番強い配信者になってしまった」とか?
矢野 ウェブトゥーン系の設定だと、結構使えるかもしれません。
萩原 この主人公としては強くなるよりも、視聴者数の方が大事そうですね。
鈴木 視聴者が1になった! と探してみて、実はモンスターが拾ったスマホで「いいね」を押していた。じゃあこの際モンスターでも構わないから、仲間にしようとか。街に残っていたスマホをダンジョン内のエルフに配ってみようとか、色々と考えつきはします。
丸戸 萩原さんと最初に考えた段階では、やはりダンジョン配信は話題に出てきましたね。
萩原 ダンジョン配信×アイドルとかですよね。
鈴木 今のトレンドでいくと、大体こんなところではないでしょうか?
あなたの考える、いい世界設定の条件とは?
矢野 本当にこれは、「他の人が楽しめること」という一言に尽きると思います。小説なら読み手、アニメなら視聴者。エンタメとして楽しんでくれる人がどれだけいるのか。これがいい世界設定の絶対条件です。
エンタメは作り手が面白いと思った段階で面白いのですが、考えを翻訳して表に出した時に伝わらないことがあります。どうやって考えを100%伝えていくかが一番のポイントだと思うので、世界設定を作る時にも忘れずにいてほしいです。
鈴木 僕は監督や脚本家、一緒にやるクリエイターたちと、いいアイデアを生み出せるか。それを見た観客が面白いと思えるか。これらを満たせるのが、いい世界設定だと思います。
菊池 お客さん目線になると、見た瞬間に「これが出てくる世界なんだ」と分かる、象徴となるものが必要だと思います。その世界設定や世界観を表す言葉、もしくはビジュアルや、ガジェットでもいいです。
一方で製作目線になると、その世界観から世界やドラマを想起できて、ライターが描きたいと思えるものを、引き出すためのネタが揃っているものが、いい世界設定なんじゃないかな、と。
萩原 菊池さんが自分で作るときには自問自答をすると伺っていましたが、自分の中のAさんが面白いと思うものを、Bさんが作るという流れになりますか?
菊池 脳内のAさんとBさんでバトルをさせながら作っても、最終的には「どうだ、面白いだろう」と聞く相手が外に必要なんですよ。編集さんだったりプロデューサーだったり、ライター仲間だったりですね。そこでつまらないと言われたら、AさんとBさんには天国に行ってもらい、新しいAさんとBさんを生やして、また議論が始まります。
アイデアを練り込む時には「Aさん」、「Bさん」という雑な存在に相談してもいいですが、それでは独りよがりの考えになりがちなので、周りに意見を聞くことは大事です。
萩原 なるほど、ありがとうございます。それでは丸戸さんから、最後に締めの言葉を。
丸戸 今回は非常にアカデミックな内容だったので、いい勉強になりましたという感想ですね。ではお三方とも、今後ともよろしくお願いします!
萩原 ということで、本日は世界設定についてお話を伺いました。皆さんが自分自身の創作をする中で、何かのお役立てば幸いです。本日はどうもありがとうございました。
▼登壇者プロフィール
菊池たけし
1980年代よりアナログゲーム雑誌のライターとして活躍し、TRPGのゲームデザイナーとしても1990年代から2000年代にかけて『セブン=フォートレス』『ナイトウィザード』(後にアニメ化)『アリアンロッドRPG』『アルシャードガイアRPG』を手掛け、またTRPGリプレイを多数執筆・刊行。
また近年はTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』やバーチャルアイドル企画「ReVdol!」のシリーズ構成・脚本など、TRPG以外にも活躍の幅を広げている。
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鈴木貴昭
数々のゲームやアニメの世界観設定・軍事考証・SF考証・シナリオ執筆などを手掛けており、関わった作品は『LAST EXILE』『ストライクウィッチーズ』『ガールズ&パンツァー』『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』『ハイスクール・フリート』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『戦翼のシグルドリーヴァ』『ゼノブレイド2』『ゼノブレイド3』など多数。
X:@yamibun
矢野俊策
株式会社フラッグノーツ代表。TRPGのゲームデザイナーとして2001年に『ダブルクロス』でデビュー。数々のTRPGリプレイやサプリメントの企画・執筆を手掛けたのち、2013年には水野良氏とともに『グランクレスト』を発表。同作はTVアニメにもなった。
その他、『ラグナドール 妖しき皇帝と終焉の夜叉姫』や『テイルズ オブ ルミナリア』『ENGAGE KISS』など多数作品の世界観設定やシナリオ制作などを手掛けている。
X:@Syano_open
丸戸史明
2002年にゲームシナリオライターとしてデビュー。『パルフェ 〜ショコラ second brew〜』『この青空に約束を―』『WHITE ALBUM2』など数々のヒット作を手がけたのち、2012年に『冴えない彼女の育てかた』で小説家デビュー。全13冊+短編集7冊刊行されるヒットタイトルとして、2回のTVアニメを経て、劇場版アニメにもなった。2022年にはオリジナルTVアニメーション『Engage Kiss』のシリーズ構成と脚本も手がけている。
X:@F_Maruto_staff
萩原猛
ぎょうせい、幻冬舎コミックスを経て、富士見書房(現KADOKAWA)に入社。ドラゴンブック編集部デスク、ファンタジア文庫編集部副編集長、富士見L文庫創刊編集長、カドカワBOOKS創刊編集長、小説サイト「カクヨム」創設編集長を務めたのち退社。現在はnoteでディレクターをするかたわら、多くのクリエイターとともに、映像IPやゲームIPの企画立案に携わっている。
主な立ち上げ担当作品は『冴えない彼女の育てかた』『かくりよの宿飯』『紅霞後宮物語』『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』『蜘蛛ですが、なにか?』など。また、原作担当編集としてTVアニメ『リコリス・リコイル』『Engage Kiss』『LINK!LIKE!ラブライブ!』等にも携わっている。
note :https://note.com/takeshihagiwara
X:@yajin