世界一ラッキーなモラハラ男の話
オットは結婚前…確かにおとなしい人だった。
女性とあまり付き合ったことがなかったのだろう、最初に待ち合わせをした時に、遠くから様子を伺っているだけでなかなか声をかけてくれなかった。
そのあと喫茶店で向かい合って座っていても、ソワソワしていて、まともに目を合わせようとすらしない。
おとなしすぎて、話もはずまない。
素朴でシャイと言えばそうとも言えるが。
私が一方的に話すのを、少しひきつったような笑顔で聞いていた。
そのくせ、映画でも観ようか!ということになり「観たいものある?」と聞かれて、無難なSFを提案したところスルーされ、「これはどうかなぁ?」と言ってゴリ推ししてきたのはなぜか、任侠映画だった。
接客業が天職だと思っている、根っからの世話好きな私じゃなければ、もう二度と会うこともなかっただろう。
いや、だが、しかし!普通の生活では縁があろうはずのないこの人と会う羽目になったのは、彼の義理の姉と私の従姉妹が親友同士という、かなり強力なタッグを組まれていたからである。
「一度会ってみて。友達になってあげて。」
と言われて、そこそこ恋愛経験のある私としては、ボーイフレンドならいいかぐらいの軽い気持ちでいたし、遠距離なのであまり乗り気ではなかったのだが。
月1ぐらいで会っていた半年ぐらい経ったある日、その従姉妹の旦那から私に怒りの電話がかかってきた。
「お前ら何をダラダラやってるんだ⁉️さっさと結婚決めんか‼️お前らが結婚したら親戚同士になれると大喜びして、今か今かと楽しみに待ってる二人の身にもなってみろ‼️」
と激しく怒鳴られた。
「え⁉️話が違うんですけど。あなたの奥さまたちを喜ばせるために私たちは結婚しなければいけないんですか?」
と反論する間もなく
「こんないい話はそうそうないぞ❗身元がはっきりしているうえに、近くで見てきた◯◯ちゃんが、義弟は思いやりのある優しい人!って太鼓判押してるんだから間違いない❗」
と。
そんなこんなで気がつけば、結婚話が周りからどんどん固められ…
結婚という大切な決断でさえも、親戚のパワハラとも言える圧力に逆らえなかったのです。
たぶん今でも「いい人を紹介してやった!」とドヤ顔の親戚よ…
「あなたたちが太鼓判を押して結婚させたアイツは、究極のモラハラ男でしたよ!」
そして、オットよ…
「たいした苦労もせず、モラハラの生け贄を目の前に差し出されたあなたは、世界一ラッキーでしたね!」
結婚前に見抜けなかったのかと聞かれるが、普段はおとなしい彼が何度か店員さんにキレそうになったことはある。
それでもぐっと堪えていたのを見て、「我慢強い人」と都合のいい勘違いをしてしまった。
本当に優しい人は、例えばラーメンと炒飯のセットが時間差で出されても、いちいちキレたりしないもんね。
随分あとから知ったのだが、店員さんに対して冷たい態度をとるというのは、ハラスメントあるあるらしい。
オットも、私以外には店員さんや業者さんにしかキレない。
客という立場を利用した、完全なイジメだね。
そんなオットは一人暮らしが長かったけれど、実家に帰るたびにお義姉さん(オットの歳の離れた兄のお嫁さん)に大事に扱われ、義姉が理想のタイプになっていたことを私は知らなかった。
そのお義姉さんが勧めた結婚だもんね。
そりゃあ喜ぶ顔が見たかったよね。
そして、オットの中で、理想の義姉さんのような嫁さん像はどんどん膨らみ…
結婚してから、やることなすこと全て比べられ、「ねえさんならこうするのに!」とダメ出しをされることになったのです。
今の私はもう…実際のお義姉さんを、はるかに超えているよ。
父親のDVで耐性がついていなければ、とうの昔にギブアップしていたし、家出をするたびに母に「でも、暴力はふるわないし、生活費入れてくれてるんでしょ?」と笑顔で諭されることがなければ、間違いなく離婚していただろう。
平和な結婚生活を送るのには、あまりにも比べる対象が悪すぎた。
私は結婚前に苦労したから、結婚したら絶対に幸せになれると、母も親戚も言っていた。
「若い時の苦労は買ってでもしろ」と言うでしょ?だから、私は子供たちに今苦労をさせているの。私みたいに若い時にいい思いをしてしまうと、人生の後半で苦労をすることになるから。というのが母の持論だった。
だから余計に、私が幸せじゃないなんてことは受け入れられなかったのだろう。
私の知り合いにも、旦那がDVやモラハラの人たちがいる。「子供には可哀想な思いをさせたけれど、おかげで娘は絶対にああいう人を選ばないと思う。」と言っているのを聞くとついつい言いたくなってしまう。
私のように下手に耐性ができてしまうと、「こんなもんだ」とか、「これぐらいなら」と余計な我慢をしてしまうことになるよ、と。
だからぜひ
世の中には、暴力も暴言もなく、まじめに働き、子供も可愛がってくれる素敵な旦那さんがたっくさんいるよ!
ということを知っておいてほしい。
私ももっと早く気づくべきだった。
あんなにボロボロになる前に…。
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