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モンゴル乗馬でケツ肉がもげたのでケツ骨だけで走りました

いずれ絶対行きたい国。だれでも1つや2つ、そんな国があるだろうと勝手に思っている。

やんどころない事情で今は行けないが、たとえば一週間後に地球が滅びることを予知できたのなら。今すぐスカイスキャナーを開いて、たとえ最高値でも、たとえ他に魅力的な国があっても、いの一番にその地へのフライトを予約することを辞さない国のことだ。

僕にとってそんな国はモンゴルだった。“だった”と言うことは“もう行った”ということ。てことは今回は恋焦がれてようやく行けた夢の大地・モンゴルでの出来事について話すつもりだ。

そして僕の「死ぬまでに行きたい国No.1」の話をするわけだから少々、壮大なストーリーになることを冒頭で伝えたい。僕の想定通りなら、きっとあなたはエンディングで雄大豪壮な大地の伊吹を少しは感じられるかもしれない。

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モンゴルに行きたかった理由はただひとつ。

だだっ広い草の上で馬に乗りたい

たったそれだけだ。だけど乗馬をする人間はだれしもが「一度はモンゴルの大草原を駆け抜けてみたい!」と思うもの。例に漏れず僕も夢見ていた。

実際は日本でも大草原を馬で駆けることは可能。たとえば大分県の久住高原や熊本県の阿蘇は、広々とした草原地帯を有しているため日本の乗馬のメッカになっている。もちろん草原の面積はどちらも日本屈指。

しかしだ。でもやはり、モンゴルには負ける。シンプルに草原の規模が桁違いなのだ。

久住高原にて。見ての通り草原は限定的

モンゴルの広さは日本の4倍。そして、モンゴルの国土の70〜80%は草原が占めている。ということはだ。モンゴルは日本の国土の3倍もの草原を有していることになる。そして馬もわんさかいる。乗馬するには十分すぎる条件が揃っているのだ。

どこまでもグリーンなモンゴルの景色。政治はクリーンじゃないけど

関西国際空港からチンギスハーン国際空港まで直行便で4時間40分。しかし僕は共産党の本場をゴニョゴニョうろつきたかったので北京でストップオーバーした。

中国での出来事はこちら。特に盛り上がるシーンはないので読まなくていい。

チンギスハーン国際空港には夕方ごろ到着した。到着ロビーで僕の名前が記載されたプラカードを持ったあんちゃんを発見。彼は乗馬ツアー会社のモンゴル人スタッフ。普段は貧乏旅をしているので、自分の名のプラカードがとても新鮮に見えた。

なので。なんか妙に嬉しくなり。元気ハツラツなトーンで。ちょっと小慣れた感じを醸し出し「ハーイ! アイム エヴァン! ハウ アー ユー?」と呼びかけてみた。そしたら超絶低いトーンの「あ、こんばんは…」が返ってきた。兄ちゃんは日本語ペラペラモンゴル人だった。

とりあえず送迎車でツーリストキャンプへ向かうことに。そこはいわゆるゲストが宿泊するゲルや乗馬会社の事務所がある場所だ。

車内で兄ちゃんに、どこで日本語習ったのか訊いてみた。2年ほど日本に留学したことがあるとのこと。道理でうまいわけ。

途中から留学中に日本人彼女がいたとか。超ラブラブだったとか。今も彼女が夢に出るとか。ノロケ話をぶっこんできたので、ムリくり車内でかかっていたHip Hopに話題をシフト。モンゴルに来てまで俗っぽい話は聞きたくない気分だった。

兄ちゃん曰く「今モンゴル人のワカモノはみ〜んなHip Hopキクヨ」とのこと。さまざまなモンゴル人ラッパーの音楽を聴かせてくれた。普通に完成度高いし、思った以上に盛んなのかもしれない。しかしだ。車外の雄大な景色と重低音リリックがどうしてもミスマッチすぎて笑えてきた。

「草原Hip Hop」発祥の地

1時間ばかり走ってツーリストキャンプに到着。夕食をとり、この日は翌日に備えて早めに寝た。ちなみにシャワー時間は過ぎていたのでシャワーは浴びれず。というかここから3日間風呂に入ってないんだけど。

朝のツーリストキャンプにて。このときはウッキウキ

翌朝、朝食をとり、AM10時ごろ馬がいるキャンプ地へ向かった。そこにはたくさんの馬がいた。おそらく遊牧民の馬を借りている。

僕にあてがわれた馬は白馬。ボルテージはこの上なく上がっていった。

相棒ちゃん

しかし白馬のもとへ向かう途中、他の馬が前触れもなくジョボジョボジョボと。横を通り過ぎようとした僕の足下に飛んできた。いい感じだったボルテージは急降下。まぁしかしここはモンゴル。しょうがない。

時に自然は私たちに猛威を振るうことがあります

ちなみに僕が申し込んだコースは、中上級者向きの遊牧民とマンツーマンで100km走るコース。ぶっちゃけ自信はなかった。だって乗馬は2年ぶりで、かつ今まで1日5kmまでしか走った経験がなかったので。でもとにかく乗ってしまえば、あとはなるようになるだろう精神で気持ちを奮い立たせた。

んで乗馬。今回案内してくれる遊牧民のAさんが、とりあえず馬を慣らすため、昼食の時間まで引き馬をしながら走るとのこと。

引き馬?

なにそれと思った。なすがままにしてると、Aさんが僕の馬の手綱を持って、そのまま走った。え、そんなこと日本でされたことない。当初は、勝手に引いてくれるので僕は操作せずに楽なのかなと思った。が、走り出して30分もしないうちに悶え苦しむことに。

形としては、引き馬をしているのでAさんの馬は常に僕のすぐ半歩横にいる状態。なので僕の足にAさんのあぶみ(足をのせるところ)が当たって恐ろしく痛い。馬が跳ねるたび、鉄をすねにガンガン当てられている感じ。ついでに僕は馬を操作していないので馬の動きにうまくフィットさせることができず、ポンポン跳ねてケツが痛くなる。

なんだこれは?という乗馬を約2時間。ようやくこの辺で昼食取ろうと立ち止まった。

昼食会場

馬から降りた。そして気づいた。全身がクソいてぇ〜ことに。痛すぎて下馬した瞬間、思わずよろけた。

いや。まさかな。こんなに早く?

すでに一日走り終えたかのような疲労感が、たった2時間で全身を襲ってきた。

おい。まてまて早い、早いって。今たぶん10kmくらいだろ。まだ1/10だぜ?

非常に焦った。ぶっちゃけ「ふぅ〜モンゴルを疾走しているぜ〜♪」という爽快感は初めの15分で無惨に消え去り。残りの時間は、引き馬しながら駈歩かけあしという不慣れなことをやったせいで、ムダな体力を消耗していくだけだった。

衝動が理性を超えるなら「もう乗馬いいや」と大草原に向かって叫び散らかしているレベル。けど自分の意思でツアーに参加したのだ。やし、「それはないな」と自己納得させ、昼食後すぐさま仮眠し、できるだけ体力を回復させることに努めた。

草原ベッド。たまに家畜のうんこの上で寝てることもある

実は昼の乗馬開始後から夕方までの記憶があまり残っていない。人が記憶を失くすという状態は、きっと尋常ではない精神的ストレスか外傷性ショックに晒されていたということ。僕の場合どちらも当てはまる状態であった。

当初の目的だったスペクタクルな乗馬エクスペリエンスは見事に草原の彼方へ消え去り、残ったのは現実から逃れようと記憶喪失状態で走り切ったという事実のみ。

気づいたとき僕はテントの中でうつ伏せで寝そべっていた。

起き上がれない。でも夕飯を食べなければ。そして着替えなければ。

ようやく膝で立ち、着替えるためにズボンを下ろそうとしたら。あれ、下ろせない?

いやいやいや、指のピンチ力はなくなっていないはず。何度も脱ごうと試してるうちに、ようやく恐ろしい事態になっていることに気づいた。

ケツの皮がめくれ、そこから体液が噴出してパンツを通り越してズボンまで浸透し、そのまま体液が固まってケツ、パンツ、ズボンがピタッと引っ付いている。

間違いない。信じたくはなかったけど残酷な真実だった。テントの入口から夕焼けが僕のケツを照らす。呆然と立ちすくむしかなかった。

人間は本当に逃れきれない深刻な事態に陥ったとき、パニックにはならない。現実逃避するのだ。パニックとは突発的な事態に取るべき手段が思いつかず「どうしよどうしよ」と焦った状態である。ようするに考えれば、“やりよう”はあるということ。

実は僕はこの真実に薄っすら気づいていた。昼食の時点で…たぶん液漏れしてるなと。だからパニックすることもなく、ゆっくり思案できた。

そうなれば選択肢は一択。脱ぐのを諦めた。とりあえず夕食を食べてから考えようと。

夕食を食べ……

うまい

星空を撮影して……

きれい


そして意を決してテントの中へ…


ついにその時はきた…


運命の鐘は鳴らされた…



ベリッ!!


ぐっはッ!!


ぐっいぶにィンーーMrペイィンー!!!!


脳天を突き刺す痛み。僕はもう今日死ぬんだろう。命の危機さえ感じるほどだった。

でも本当に死ぬはずもなく、四つん這いになってケツの液体をティッシュでせっせと拭き取る。強く触れると激痛が走るのでそ〜と。

そしてケツのダメージをなるべく抜くため、うつ伏せで就寝。



翌朝、起床するとちょっと回復してるように思えた。

うんまい朝食をいただき…

さいこう


ラジオ体操をしていると…

放牧から解き放たれた地獄の使者がこちらへやって来た…

ごめん、おまえのツラちょっと見たくない…

でもAさんは「乗って」と急かす。あぶみに足を掛け、一気にくらにまたがった。

え…


いや

これ

もしか…



ケツ肉もげてる?


いやいやいや。ケツ肉なんてちょっとやそっとじゃもげないのは僕でもわかる。けど、どうケツを動かしても、どう定位置を探っても、尾てい骨が剥き出しで鞍に触れている感覚なんだが。

普通に座り切らん。これマズイやつかも…と思いながら馬をちょびっとだけ動かしてみた…



That's バイオレンスーーー!!!!


まるで人智を超越してきた禍々しい暴力の化身がケツをぶっ壊しにきてる。

聞こえる。「破壊王ハシモトシンヤァー!」と叫ぶリングアナウンス。今まさにシンヤがリングインしてやる気まんまんで僕のケツを睨みつけている。

あぁ無情…無慈悲すぎて、いち早く馬から降りたい。破壊王との対決なんてだれも望まない。そして僕の乗馬人生で初めての感情がふつふつと湧いてきた。



とりあえず病院行きたい


「できることなら病院でケツ肉を包帯ぐるぐるにして、うつ伏せで爆睡こきたぃ。むしろケツとりたぃ。お山が二つとかいらなぃ。モルヒネ打ちたぃ…」

あふれる煩悩を抑えきれない。

あぁ…

あぁ!!

シンヤの溢れんばかりの猛ラッシュに、ついに…



「ギ…ギブ…」


前方をいくAさんにはどうやら聞こえていない。再度

「ギブーーー!!!!」



Aさんはビクっとし、「え?」という顔でこちらに振り向く。

いったん馬の歩を止め、事情を懸命に伝えた。

「シンヤが…シンヤが僕のケツを…」

は?

その後ちゃんと事情を伝えたけど「え、でも…」って感じ。そりゃそうだ。ここはモンゴルの果ての果て。すぐ近くにホテルもないし病院もない。360度、THE 大草原。

さんずのかわ

しょうがないから20km先を走っている初心者チームと合流することになった。「え、ここから20km走るんかよ」とぶっちゃけ思った。けどそれしか選択肢はなかった。

ここからはもうケツ肉はない状態。尾てい骨が剥き出しで硬い鞍の上でポンポンと跳ねるたび、奥歯をつよく噛み締めた。まるで肉がもげ、HONEとANAだけで走ってるみたい。ついでに…中央部“ANA”付近も痛い。

シンヤはあいかわず暴君ってる。あとたぶんナオヤもいる。まさに因縁のライバルが長い時を超えて僕の“ANA”の中や外で死闘を繰り広げている。

蘇った世紀の一戦!

そして永遠に続くかのような虚無 of 虚無の中、意識は途絶え途絶えに。途中から廃人化したが、ようやく20km走り切った。

馬から降りたとき、満身創痍なんてもんじゃなかった。無理やり四文字熟語作るなら全尻崩落ぜんけつほうらく。間違いない。

その後。翌日も乗馬を重ね(かなりゆっくり)、翌々日ツーリストキャンプになんとか戻れたわけ。

帰宅するとすぐにスタッフから手持ちミラーを借りた。そして四つん這いになり、“ANA”方面をかざしてみる。そしたら“ANA”の両端から何本か斜め上方向にスーと線を描くようにざっくり皮が無くなっていた。

ふと思った



あ、なんかダイの大冒険の紋章みたいでかっこええな


ANAから

クレームくるわ

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